アリスのおもちゃ箱   作:ノスタルジー

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お久しぶりです。
ノスタルジーです。

活動報告にも書きましたが、八月から更新再開します。
どれだけのペースでいけるかは不明ですが。
ボチボチやっていきます。


災難裁判

 状況。十一人。飛行船の中はこれ以上ないくらいの緊迫。緊張。ピリピリとした雰囲気が辺りを包んでいた。

「お前が鎖野郎だな」

 クラピカを睨みつけ、フィンクスは言う。彼の隣にはフェイタンとシャルナーク。離れた位置にパクノダとヒソカが立っている。

「……そうだ」

 対するクラピカ。彼の頭にはこの状況をどう打開すればいいか、という問いがグルグルと回っている。答えは出ない。周りにいるアリスやゴンらは黙ったまま。

「とっととお前を殺して終わりにしようや」

 フィンクスは両の拳を突き合わせる。戦闘準備。万端。フェイタンとシャルナークも。

「ま、待って!!」

 その様子を見て焦ったように声を上げるパクノダ。クロロの救出を最優先にしていた彼女。このままではクロロがどうなるかがわからない。いや、きっと死ぬ。そう判断したのだろう。

「うるせぇよ、パクノダ。ノブナガたちもそうだが、お前らは蜘蛛を殺す気か? あ?」

 仲間であるはずのパクノダを敵を見る目で睨むフィンクス。

「くっ」

 蜘蛛を殺す――その言葉の意味はパクノダもわかっている。選択を間違えれば、蜘蛛が瓦解するほどの損害を被るかもしれない。クロロの命が失われることより、それは避けなければならない。

 だが、パクノダはクロロの命を捨てるほど非情にはなれない。理性と感情がせめぎ合う。

「はいはい。お取込み中のところ申し訳ないですが、少しよろしいですか?」

 そんなパクノダの葛藤を知ってか知らずか、アリスの軽い声を発した。

 

「あ? なんだよ? テメェも後でぶっ殺すから覚悟しとけ」

「くすくす…そんなことはどうでもいいではないですか。今はこの状況をどう動かすか。それが問題でしょう?」

「お前らを皆殺しにして終わりね」

「ほうほう、あなた方は団長さんが死んでも構わない。そう仰るんですね?」

「蜘蛛のためだ。最後に団長が生きてたら儲け。死んでても構わねぇよ」

「ふふ……そうですか、そうですか」

「何がおかしいね?」

「私はまだ死にたくありませんし、目的も果たしたい。ですので、この場は私たちが頂ます」

 

 

 

 アリスの言葉が皆の耳に入った瞬間。動き出した人間が二人――アリス。そして、ヒソカ。

「――ぐぁっ!?」

 アリスが近くにいたキルアを蹴り飛ばした。あまりに急な、予想外の事態。自身より技量が上の人間からの奇襲にまともな防御など出来るはずもなく、キルアの身体が宙を舞った。

「なっ!?」

 誰の言葉か。驚きを表す。

 宙に舞うキルアは場の真ん中、そこから飛行船の中心に近い場所に飛んでいく。何とか受け身を取ろうと身を捩ったキルアだったが、その目に映ったのは――自身に迫ってくるヒソカの姿だった。

「ナイスパス」

「ナイスキャッチです。ヒソカさん」

 そして。ヒソカは飛んでくるキルアをキャッチし、いつの間にか隣に移動していたアリスはそれを褒め称える。

 こうして。場は動き、三つ巴。

 

 

 

「どういうつもりだ! アリス!!」

「ヒソカ……お前何をするつもりだ?」

 クラピカとシャルナークが驚きと疑問。それぞれ配分が違う。他の面々も声にはしないが、同じような心。皆の視線が笑い顔を携える二人に注がれる。

「くすくす…言ったでしょう? 私は生きたいし、目的も果たしたい、と。そのために行動しているに過ぎません」

「ボクも似たようなものだね」

 アリスはクラピカへ、ヒソカはシャルナークへ。返答を返す。

「……お前の目的は何だ?」

「ここで話すようなことではありませんよ。それより、ほら、皆さん。楽しい楽しいお喋りを始めましょう?」

 笑う少女。笑うピエロ。

 

 

 

「まず、それぞれの希望を発表しましょう。はい、ではクラピカさん」

 急に場をしきりだすアリス。手のひらをクラピカの方に向け、発言促す。展開の速さについて行けない面々。アリスとヒソカ。二人がどういう関係か、いつから繋がっていたのか。疑問は尽きない。

「……ふざけるな。早くキルアを放せ」

「そうだ!! キルアを放せ!!」

 それでもかろうじて冷静さを見失わずにいるクラピカ。いや、すでに激昂していてそれを何とか抑えている。ゴンに関しては何が何だかわかってはいないが、とりあえず友人がピンチというくらいしか認識していないだろう。

「あらあら…困りましたね。会話のキャッチボールをしていただかないことには話が進まないのですが……仕方ありません。先に私たちの希望を発表することにしましょうか。ね? ヒソカさん」

「そうだね。どうも彼は頭に血が上っているようだし、落ち着くための時間が必要だろう」

 アリスとヒソカの悠長な会話がクラピカの怒りが加速させる。それでも仲間が人質に捕られては迂闊に動けない。キルアはヒソカの拘束に逆らうことなく、顔を青くしたまま黙っている。

 

「私の希望は私とゴン君が無事に生き残ること。それ以外の方はどうなっても構いません」

「ボクは自分とクロロ、そして出来ればゴンたちにも生き残っていてほしいね」

 希望。それを聞けば、察しが良い者には彼らがこれからどうするつもりかわかったようだ。

「なるほど。お前たちはこの場をお前たちに都合のいいような形で治めようとしているわけだね?」

 シャルナークがその解答を発表する。

「あ? そんなうまくいくと思ってんのか? 少なくとも俺たちは今、この場でお前たちを殺せるぜ?」

 キルアはクラピカたちに対する人質だ。フィンクスらには何の効果もないどころか、足手まといが増えただけだろう。

「ふふ、きっとあなた方にも利がある話だと思いますが?」

「…なに?」

「誰も欠けることなく、団長を救出できるかもしれない、か?」

「ええ」

 シャルナークがアリスの含みを掬い取る。

「ここで戦闘をすれば、団長さんとキルア君は確実に死にます。おそらく生き残るのは旅団の方が…二名といったところでしょうか」

 アリスの予想。シャルナークとクラピカは正しい、と感じた。

 

 今、戦闘を行えばアリス&ヒソカ組のキルアは彼らにとって邪魔だ。キルアを捕えたままでは旅団員との戦闘は不可能。ならば即座に殺すだろう。パクノダとシャルナークは旅団といえども直接戦闘を得意とするタイプではない。アリスとヒソカには負けるだろう。とは言っても、四対二ならばアリスたちに勝ち目はない。だが、クラピカがいる。クロロはパクノダ以外には人質として成立していないのだから不要。殺して戦闘に参加するだろう。仲間を殺したアリスとヒソカを狙うか戦力差と復讐を考えて旅団を狙うかは彼次第だが、乱戦を生き残れるのはおそらく旅団員四人のうちの二人ほどだろう。

 

「では、旅団の方々の希望を聞きましょうか」

 アリスがシャルナークを見て、言う。今までの会話から彼らの頭は彼だとわかっているのだろう。

「そうだね……団長の解放、鎖野郎の抹殺、俺たちの安全。一通り並べるとこんな感じかな」

 少し考え込む素振りを見せた後。シャルナークは答えた。

「しかし、その三つが全て十全に叶えられなくてもいいのでしょう?」

「う~ん……最優先は蜘蛛が生き残ることだからね。そこが守られれば」

 蜘蛛を優先するということはクラピカを殺せなくても、許容できる範囲があるということ。

「おい、シャル……テメェはこいつの妄言を聞くつもりか?」

 今まで黙っていたフィンクスが口を開いた。彼にはどうしてもアリスが信用できないのだろう。同じ旅団の仲間であるはずのヒソカもだろうが。

「蜘蛛のことを一番に考えるなら戦闘は賢い選択とは言えない。妥協案を考えるべきだろう」

「そう言えば、団長さんはどう思われますか?何かご希望があればお聞きしますが?」

 アリスがクラピカの鎖に囚われたまま、言葉を発しないクロロに尋ねる。皆の視線が彼に集う。

「……」

 だが、クロロは何も言わない。特にない、という意志表示だろうか。それともシャルナークと同じだ、ということか。

「団長さんは黙秘権を行使されました。では、クラピカさん。あとはあなただけですよ?」

 

「……私の希望は我々の安全の保障。そして……蜘蛛の頭と手足を全てもぐことだ」

 クラピカが答える。しっかりとアリスと旅団の面々を見て。紅い瞳が彼らを打つ。

「あぁ? テメェ……やってみろよ」

 それに恐れることなどなく、フィンクスが威嚇。フェイタンも殺気を発する。

 その時。パン、と空気を入れ替えるように乾いた音が鳴った。発信源はアリス。その手。

「はい! 全員の希望が出たところで、私から一つ案を」

 ニコッと笑って、アリスは話し始めた。

 

 

 

「旅団の皆さんの希望は蜘蛛全体を守ること。ですので、団長さんの解放、皆さんの安全を保障します。その代わりに私とヒソカさん、およびクラピカさんたちに今後一切手を出さないでください」

「そんなもん俺たちが守るとは限らないだろうが」

「それは大丈夫ですよ。ねぇ、クラピカさん」

 話を振られたクラピカはヒソカの方をちらと見て、小さく頷いた。

「なるほど…そういえば相手の言動を縛る能力があるんだったね」

 得心がいったという風なシャルナーク。

 

「私たちはキルア君を解放します。気になるようでしたら私にもクラピカさんたちへの攻撃を禁止する鎖を刺していただいても構いません」

 そう言ったアリスは隣に立つヒソカのほうをちら、と見た。ヒソカは将来、より強くなるであろうゴンとキルアと戦うという目的がある。ここで鎖で縛られてしまうと彼としては非常に困るはずなのだが、ヒソカは何も言わない。

「クラピカさんたちは旅団のみなさんへの攻撃を禁止していただきたいのですが……」

 おそらく無理だろうな、という顔でクラピカを見るアリス。クラピカは紅い目でアリスを睨み、重々しく口を開いた。

 

「それはできない。私の目的は旅団の抹殺だ」

 空気が一気に冷えた。

「……ゴンたちへの攻撃は禁止してもらう。私は含めなくていい。その代わり、パクノダに私に関する記憶を他人に話すことを禁じてもらう」

「ふむふむ」

 クラピカは旅団との抗争を止める気はない。その意思が表れている。パクノダを縛る程度の代替案しか出さなかったのは、それ以上は無理だろうという予想が立ったからか。

「私としてはどちらでも構いませんが?」

 完全に他人事のアリス。確かに彼女には関係のない話だが、そこまでストレートに言うと反感を買う。主にジャージ姿の男から。どれほど睨まれてもアリスは全く反応を示さないが。

「まぁいいんじゃないか? 鎖野郎を殺すチャンスがこちらにもあるということだし」

 とシャルナークは言った。クラピカとの戦いは彼らにとってメリットなどないが、単純にそういう問題ではないのだろう。

 

「クラピカさんと旅団のみなさんが殺し合いをするのはご勝手に」

 アリスはニコリと笑って、話は終わりだとばかりに手を叩いた。

「ではクラピカさん、お願いしますね」

「……ああ」

 

 

 

「ご苦労様でしたヒソカさん」

 ヒソカとアリスは二人で飛行場を離れていた。アリスは「クラピカたちに攻撃すると死ぬ」という制約を受けている。アリスからすれば、彼らに危害を加えるつもりはこれっぽっちもないので、全く気にはならない。

「いやいや、僕も無事に目的が果たせそうだしね。お互い様だよ」

 ヒソカもアリスと同じ内容の制約を受けている。アリスがそれでいいのかと聞くと、ヒソカはいいと答えた。

 今のゴンたちと戦うつもりはヒソカにはないのだから。彼らの成長を見届け、ゆっくりと除念をすればいいという考えらしい。

「それより、僕は君とも戦ってみたいね」

 少女に向けるにはおぞまし過ぎる目で隣を歩くアリスを見るヒソカ。だが、アリスは普段のようにくすりと楽しげに笑うだけ。

「私は遠慮しておきます。そもそも戦うのはそんなに好きではないので。それにヒソカさんには先客がいるでしょう?」

「ふふ、つれないね。まぁ、先客がいるというのは本当だし、今は我慢しておくとするよ」

「では、私はこれで。まだやることがあるので」

「そうかい? 残念だね。じゃあね」

「はい、ではまた」

 

「さてさて、あとはゴン君ですか」

 ヒソカと別れ、泊まっていたホテルに帰ってきたアリス。高級ホテルのスイートルーム。部屋のフカフカのソファーに勢いよく腰を下ろし、ゴンのことを考えていた。

「お金はないんでしょうから、やはりバッテラさんの審査ですかね」

 アリスは自身の荷物から一冊の書きかけの原稿を取り出した。ペンを手に取り、続きをスラスラと書いていく。

「ふふ」

 その表情は実に楽しげだった。

 




交渉とか私の頭ではやはり不可能。

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