相変わらず暖房器具が手放せない寒さですが、皆さん如何お過ごしでしょうか。
まあ、この挨拶を読んでいるくらいに時間が有り余っているのなら、それはそれは良いことでしょう。
今後とも、暇つぶしとも言えない程の駄作ですが、ご贔屓にお願いします!(?)
01
暗い暗い海の底。
光は一切届かず、地に足がつかない。
その暗闇と、普段は味わい得ない不思議な浮遊感が、イタズラに不安と恐怖を掻き立てる。
―そんな場所に俺は居た。
目を開くと真っ暗だった訳ではない。
寝床について、瞼を閉じたすぐ後だったか数時間後だったか、兎に角いつの間にか目を開いていて、暗闇をぼんやりと眺めていた。
ハッ…!として辺りを見回し初めてからが、俺の記憶にくっきりと残っている。
しかしこの気味が悪い浮遊感と、胃袋からせり上がって来るような気持ちの悪さは、「初体験」ではないようだ。
数週間前か…確か。
「やぁ。」
「久しぶり、元気にしてた?」
何処からとも無く発せられた、聞き覚えのある声が暗闇の中を響き回る。
俺の声と、その幼馴染みである碧海の声を足して二で割ったような、絶妙な声だ。
俺の声と碧海の声が混ざっていることがハッキリと分かり、尚且つ俺達二人の声のどちらとも違う声色のような聞こえ方だった。
どちらに似ているという訳でもなく、どちらに似ていないという訳でもなく。
中途半端なようで完成されているようでもある。
そんな感じだ。
「………………」
「なんだよ。また挨拶スルーかい。」
「こちとら、ファストフード店になった覚えは無いよ。」
あからさまに不機嫌そうな声で、なかなかユーモラスなことを言う声。
ファストフード店とはこれ如何に。
「『如何に』、じゃないよ。」
「そろそろ本気で怒るよ…?」
勝手に心を読むな。
…和真じゃあるまいし。
「エマ…じゃなかった…。」
「…和真とは、俺のやってることは違うんだけどね。」
「和真は
……いや、別に任意だろうが自動だろうが読んでることには変わりない。
そんなことには、全く興味なんて無かったのだ。
勝手にペラペラと喋られてもどう反応すれば良いか分からない。
それに俺には「和真」なんていう親しげな呼称の方がよっぽど引っ掛かった。
「君がそう呼んでるから、俺もそう呼ぶんだよ?」
「なんたって、
俺がアイツで、アイツが俺…か…。
前にもそんなことを言われたな。
しかし、それなら…
「ん?」
「ああそれはね…。」
「
「……俺の中に…?」
「うん。」
「まあ、自分でも分かってると思うけど、
「つまり碧海は、
碧海が…俺の中に…か…。
……VSハンターのハプルポッカみたいな気分だな…。
「俺の声は、君の意識によって変わる。」
「君がいつか、碧海と生活を切り離して、離れて生きるようになれば、この声は君の声と同じになるだろうね。」
「まあ、君が俺っていうのはそういうことだよ。」
そういうこと……
――アイツは、俺の意識によって変わる。
だから、アイツは俺で俺はアイツ。
ああ…!
さっきっからアイツアイツって、何が言いたいのか全然訳分からん!
アイツの呼び名は何なんだ!
「んぇ?僕の呼び名?」
「ああ…うん、そうだな……。」
暫くの沈黙。
その後、唐突にパチン!と指を鳴らすと、
「『フェイ』……なんてどうだろう?」
と言う。
「フェイ…?それがお前の名前なのか?」
「渾名みたいなもんさ。」
渾名…。
こんな所に居て、渾名なんて付けてくれる人になんて会わないだろうに…。
まさか自分で考えたって訳じゃあ……。
「……君の言うことは尤もだけどね……。」
そうか……自分で…
「そっちじゃないよ……。」
「確かにここでは人に会わないってこと。」
「君以外にはね。」
俺以外の人間とは会わない……?
こんな暗闇の中で……?
ずっと…一人か…?
アイツ…フェイが、いつからここに居るのかは知らないけれど、少なくとも二週間前からは居た。
俺は知っている。
こんな真っ暗な中、一人で居るなんて…俺ならきっと、一日ですら耐えられないだろう。
何たって、数時間後ここにいるだけで気分が悪くなってしまう程に、この空間と俺の相性は悪いのだから。
それに…独りぼっちは寂しいだろう…。
「でも」
「君が見ている世界は同時に、俺が見ている世界でもあるからね。」
「君が幸せなら、俺も同じ様に幸せさ。」
「俺は君で、君は俺だからね。」
「そんなに同情しなくたって、君が誰かといる限り、俺はそんなに孤独でもないんだよ。」
「相変わらず優しいねぇ、君は。」
俺に言い聞かせるように、
「ま、優しいついでにスカート捲りの方もさっさとやって欲しいんだけどね。」
「はぁ?!」
今回初の発言が「はぁ?!」という異常事態は一旦置いておこう。
「いや『はぁ?!』じゃなくてさ。」
「君も男だから、そういうの興味あるでしょ?」
「もういいから腹括っちゃえばいいんじゃないかなぁ、と思うよ俺は。」
「ほら、碧海なら結婚で妥協してくれるかも知れないよ?」
「他の女子なら制裁確定だろうけど。」
結婚を妥協とは言わない。
これっぽっちも譲歩した形跡がない結論だけど、碧海ならやりかねなくて鳥肌が立つ。
「『結婚で許す』って言われても、自分が悪い手前『それ許されてねぇだろ!』って突っ込めなくて、なし崩し的に入籍してる未来が見えるね。」
「リアルだからやめろ。」
「リアルもなにも…………まあいいや。」
「兎に角、しないと情報は教えられないよ?」
「残念だったね、案外俺は快楽主義なんだ。」
今、何か言いかけたな。
……でも自分から言わないってことは、俺が追求してもきっとはぐらかされてしまって、結局教えてはもらえまい。
俺は大人しく、次の話題を待つことにした。
「次の話題…?」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「無いから帰れ。」
「どの位置からもの言ってんのか分かんない。」
勝手に連れて来ておいて、しかも喋るだけ喋ったら帰れとか、どんな王族だよ。
こちとら「はぁ?!」と「リアルだからやめろ」の二言しか発してねぇんだぞ。
「なんだよ、そんなに俺と会話がしたいのかい。」
「そーでもないっす。」
「うん分かってた。」
俺が即答で、フェイの言葉を否定すると、フェイもまた間髪入れずに返事を返す。
「……まあ確かに、ここは気味が悪いっちゃ悪いからね。」
「長居したくないのは分かる。」
「違ぇよお前だよ。」
「段々遠慮無くなってきてない?!」
「元からだ。」
「ドヤ顔の使い所がおかしい!」
02
「はっ…!」
気が付いたら、そこはいつも通りの自分のベッドで、上半身を起こしたまま、目を開いていた。
特に深い意味は無いが、取り敢えず時計を見る。
大体六時過ぎのようだ。
前回の様に深夜に目覚めてしまって、押すも引くもできない状態にならなくて良かった。
その前回は、次の日が休みだったから良かったものの、今回は、
呼び出すのは、休日前夜にして欲しいものだ。
根本的に、呼ばれたくないのだけど。
そういえば、碧海のやつはもう起きているのだろうか。
毎朝六時に起きて、何かをしているらしいから、いつも通りの生活ならばもう起きている筈だが。
碧海に限って、寝坊とか夜更かしなんか、有り得ない話だからな。
取り敢えずやることも無いので、カーテンを引いて窓の向かい側を覗いた。
が、碧海の部屋の窓には俺のものと同色のカーテンが掛かっており、中は見えない。
ちなみに、このカーテンが同じ色なのは、碧海がわざと俺同じ物を買った訳ではない。
俺とお揃いの家具に囲まれていたいとか、そういう変態的なものではない。
お互い、部屋を与えられた小学校入学前に、折角だからお揃いの物を買おうと二人で選んだ物である。
だからといってどうと言うことはないのだが、兎に角碧海はまだ、その域には達していないということを分かって欲しい。
…カーテンが引いてあるってことは、碧海は寝ているのかな?
不思議なこともあるもんだ。
まあでも心配しなくても、七時にはいつも通り侵入してくるだろうから大丈夫か。
…それなら、それまで何をしていようか。
今は特に眠くはないし、だからと言ってやることも無い。
ゲーム機なんかは、碧海に構っていたら、やる時間なんか無いので、持っていない。
持っていてもやる暇が無い。
不本意だけど。
漫画はあるにはあるけれど、勿論既読である。
流石にもう一度読もうとは思わない。
……さて、何をしようか。
……そうだ、たまには外に散歩に出るのもいいかも知れない。
思えばこんな朝早く起きることもなかったので、朝の散歩と言うものをしたことが無い。
一人でいる時間も少ないことだし、今はあの天変地異のことは忘れてゆったりと過ごすのも良いだろう。
朝の散歩は気持ちが良いとも言うし。
よし、そうと決まれば善は急げだ。
俺は自分のクローゼットを開いて中を覗く。
どうせ今日は登校日で、制服に着替えていなければいけないので、取り敢えず制服を取り出す。
着替えを済ませ、脱いだ服を丸めて抱えながら、階段を
「あら?直人、今日は早いのね?」
リビングを通り過ぎる時に、エプロン姿の母さんに鉢合わせた。
「ああ、なんか変に目が覚めちゃったから、散歩に行こうかと。」
嘘を吐いても仕方無いので正直に話す。
「ふぅん……、そう……。」
「別に母さんは構わないけど、七時には帰ってくるのよ?碧海ちゃん来るから。」
「分かってるよ。」
俺は母さんの言葉を軽く聞き流しながら、玄関に向かう。
「いってらっしゃい。」
「気を付けてね?」
「はいはい。」
「いってきます。」
03
外は、薄暗い靄がかったような霞んだ風景だった。
空気は刺すように冷たく、手や頬を赤くする。
口からは白く霧が出る。
典型的な冬模様。
見るからに寒いと分かる。
見馴れた風景の筈なのに、昼とこんなにも様相が違うものかと、感慨深い思いだ。
寒いけど……楽しいな……。
視界の中の全てが新鮮な景色で、心は躍るばかりである。
このまま一人で、ずっと歩いて行きたいとさえ思えてくる。
そんな、ワクワクドキドキとした少年のような心持ちで歩いていると、Y字路に差し掛かった。
えっと……確か右が住宅街で、左から少し行けば公園の周辺に出る筈だ。
うぅむ………。
どちらに行こうか……?
冬の寒空の下。
凍るY字路を、直人君はどちらに進むのでしょうか。
皆さんは、どっちにしますか?
次の「十一話」は、「右」と「左」の二つを書こうかなと思っております。
当然ですが、どちらかしか正規ルートには出来ないので、片方は本編には登場しないかも…。
その時は、番外編の方にすればいいかな?
まあ、「右」だ「左」だっつっても、そんなに長くはならないんですけどね。