01
「倉庫ですね。」
「倉庫だな。」
「倉庫だね。」
俺達は今、「栄吉記憶喪失事件」を解決し、能力者との接触を図る為、何か手掛かりがあるかもと、事件のあった体育倉庫へ来ていた。
しかし、外見は予想以上に何の変哲もない体育倉庫の為、俺達は皆拍子抜けしていたところである。
「……まあそりゃそうだな。」
「倉庫だし。」
この学校にはこの体育倉庫以外にももう一つ、一回りも大きい体育倉庫が、グラウンドの北の方にある。
こっちが「第二倉庫」。
あっちが「第一倉庫」。
第一倉庫には、部活動で使う道具――例えば、野球部のグラブやバット、ボール。サッカー部のサッカーボールとコーン。陸上部のハードルなど――が置かれており、こっちの第二倉庫には、体育の授業でしか使わないマイナーな道具――野球のティー(野球ボールを上に置いて使う。動くボールが打てない女子や、運動オンチの為の道具。)や、ハンドボールのボール。――ばかりが置い
てあるのだ。
栄吉によると、彼は間違いなくこったの倉庫に来たと言う。
因みにその時に運んでいたのはバドミントンのシャトルとラケット。
うちにはバドミントン部は無いので、授業でしか道具を使うタイミングが無い為、第二倉庫でお留守番している毎日である。
「うーん。」
「ここに来れば、何か分かるかと思ったんだけど…。」
「いやいや!」
「ほらまだ中見てないからさ!」
「中には何か手掛かりあるかも知れないしさ!」
「でも鍵掛かってる筈ですけど…。」
『…………。』
俺達ぎ沈黙していると。
はぁ……。
と、溜め息を吐いた碧海が一言。
「
ジャラン、と――。
空だった筈の手の中から、「体育倉庫(小)」とタグの付いた鍵を出した。
「……っおお…!」
「便利ですね…。」
「いや…言う程でもないでしょ…。」
取りに行けば済む話なんだから…と、呆れたように呟く。
「ま、兎に角これで入れるな。」
「入ったところでどうなるのって話だけどね。」
「何かあるかもしれないだろ?」
「……まあ、いいけどね。」
「でも、それなら早くやらなくちゃ。」
「誰かに見られたらまずいからね。」
「それこそ、記憶消さなきゃいけなくなりますね。」
「そりゃまずい。」
「……じゃあ、さっさとやろうか。」
「じゃあはい、鍵。」
と、鍵を手渡す。
「え、俺が開けるの?」
「え?」
「開けないの?」
「え、いやほら、別に俺が開けなくてもいいんじゃないかなって。」
「え?いやまぁ…それはそうだけどさ……。」
「でも…別に渋ることでもないでしょ?」
「いや、それはそうなんだけどさ。」
「…………。」
「…………。」
確かにそうだ。
確かに。
別に躊躇うところでも、躊躇うべきところでもない。
それは分かってるんだけど。
身体も心も、重々承知しているんだけど。
――でも…。
「あ、成る程分かった。」
「直人。」
「
「っ……!」
「え?怖い?」
「怖いんですか?先輩。」
「何だよ和真まで!」
「しかもお前なら分かるだろ聞き返すなよ!」
何だか最近、和真が意地悪になってきているような気がする…。
でも…かっこ悪いよなぁ…。
こんなことを怖がってるなんて…。
碧海だけじゃなく、和真にだって馬鹿にされても文句は言えないじゃないか…こんなんじゃ…。
「あ、いえ…馬鹿にしたつもりはないんですけど…。」
「あ、そう……。」
「直人は幽霊とか妖怪とかは、苦手なんだよねぇ。」
「ちげーよ!」
「いきなり驚かされるのが嫌いなの!」
「ってかんなもん信じる訳ねぇだろ?!」
「僕達みたいなのがいるんですから、妖怪がいてもおかしくないと思いますけど…。」
「言うなよ…。」
自分の中でどんどん信憑性が上がっていくじゃねぇか、お前の所為で。
「大体俺…暗いのも苦手なんだよな…。」
「苦手…って言う程でもないかもしれんが。」
「不安になるんだよな、なんか。」
「まぁでも、直人は私の旦那兼、切り込み隊長だから。」
「どっちもお断りします。」
最近押しが弱いなと思ったら、急にまた再開しだした。
しかも和真の前で。
和真、若干引いてるぞ…?
「大体言い出しっぺなんだから、ほら。」
「頑張って…?」
「いや…でもさ…。」
「直人が良いと思う人ーー。」
「はーい。」
と言って、突然右手を挙げた碧海。
すると、和真も
「はい。」
と、左手を挙げる。
「ちょっ…!お前ら…!」
「さあ、二対一だよ!」
「諦めて行ってきなよ!」
生き生きと言いながら俺の背中をグイグイと押す。
「なんでお前はそんなに悪戯好きなんだよぉ!!」
「正確には『直人に悪戯するのが好き』なんだけどね!」
「どっちでもいいわ!!」
「ちょっ……!分かった行くから押すの止めて!?」
「…………。」
「しょうがないな……。」
俺の必至の懇願(泣)に、碧海はつまらなさそうにそう言うと、素直に力を緩めてくれた。
「っ…ふぅ……。」
落ち着け…。
落ち着け俺…。
ただ鍵を開けて扉を開いて中を隅々まで確認するだけ…。
いや、全然「だけ」じゃねぇな…。
まぁでも、やると言ってしまった以上、途中下車は、碧海が認めてくれないだろうし、俺もそれはしたくない。
投げ出したくない。
ああ…やるっきゃねぇか……。
べ、別に怖いことはなんにもないのだけど、慎重を期すことは、何事にも重要なことだと思うので、俺は恐る恐る…じゃねぇや……ゆっくりゆっくり慎重に、鍵穴に碧海から貰った鍵を差し込む。
残念ながら…じゃねぇ…なんでもない…。
鍵は鍵穴にぴったりとハマって、しっかりと入っていった。
「天医先輩…流石にそれはちょっと…。」
「え!?ちょっと読まないでよ!?」
「いや…ごめんなさい…。」
「忘れます……。」
一体何を聞いたんだ和真ッ……!
鍵穴と鍵で一体何を想像したんだ碧海ッ……!
くっそ……!
他人事だからって、後ろで五月蝿くしやがって……!
恐怖…いや…怒りで震える手を必至に抑え、鍵を捻る。
――カチャッ……。
小さな音を立てる扉。
どうやら鍵は、問題無く開いたようだ。
「ちょっ…だから天医先輩、抑えてくださいよ…。」
「相賀先輩への愛は痛い程分かりましたから…。」
「だから読まないでって!!」
手がカタカタと震える…。
開けたらいきなり『ワッ!』とかないよな…。
――それが怖いから嫌なんだよ…。
「なんで読むの!」
「プライバシーの侵害だよ!」
「人は誰しも知られたくない秘密の一つや二つある――」
『っるせぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!』
「人が膝ガクガクさせて一生懸命やってるってのにオメーらいつまで五月蝿くしてるつもりだボケェ!!」
「ホンットふざけんなよ!」
「耳障りにも程があるわボケェ!!」
「お前ら二人組ませるとろくな事ねぇな!!」
「少しは静かに出来ねぇのか!!」
「和真!」
「お前は読むの禁止な!」
「碧海も!」
「変態的な妄想すんな!」
「よりによってこんなとこで騒ぐんじゃねぇよ!!」
「騒ぐなら教室とかで騒げリア充共が!!」
思いの丈を全て吐き出す。
叩き付ける。
喉が潰れる程。
怒りに任せて。
自分が真面目にやっているときに騒がれること程、腹の立つことは無い。
自分だけ頑張って、二人は見もせず遊んでいるだなんて。
完全に他人事じゃないか。
そんなのって。
――酷すぎるだろう。
「直人……。」
「先輩……。」
二人は目を丸くし、唖然としている。
……ちょっと、怒鳴り過ぎたか…。
自分で言うのもなんだけど、人前で起こることなんて滅多に無いので、いつも一緒にいる碧海なら尚更余計に驚くのだろう。
と、思っていると、二人は突然、俺に人差し指を向ける。
「ん…?」
「なんだよ。」
「……まあ確かに叫び過ぎたかもしれないけどな、あくまでお前らが悪いんだからな。」
「……いや、そうじゃ…なくて。」
「後ろ…です。」
「あ?」
「後ろ?」
と、後ろを振り向くと。
体育倉庫の扉が開いていて――。
そこから。
そこから。
――頭が覗いていた。
02
「うわぁぁぁぁぉぁあ!!??」
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!??」
その頭は、俺が叫ぶと同時に叫んだ。
頭を引っ込めようとしたようだが、頭を扉にぶつけて、首を引っ掛けている。
「……………。」
「……大丈夫ですか…。」
あまりにも苦しそうだったので、扉を開けてやる。
「あ、はい…ありがとうございます。」
頭は控え気味にそういうと、シュッと頭を扉の中へ引っ込めた。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
俺達が唖然としていると、暫くして。
ゆっくりと、扉から不快な不協和音が鳴り響く。
――キィィ…と。
音を立てて。
中から、うちの学校の制服を着た髪の短い女の子が出て来た。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「っるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
『えぇ!?』
「ホンットふざけんなよ!!」
「耳障りにも程があるわボケェ!!」
「いやいや待て待て。」
流石にこっから仕切り直しはないだろ。
幾ら何でも無理がある。
てか恥ずかしいだろ、このタイミングでやり直しなんて。
「…………。」
「うるせぇ、忘れろ!」
「インパクト強過ぎて無理です!」
「いいから忘れろ!」
と、少女は俺に触れた。
「いやいやだから無理だって――。」
「…………。」
「あれ?俺……
『!?』
お久しぶりです。
バレンタインの投稿から、もう二週間近く経ってしまいました。
遅くてすいません…。
しかも分量も少ないというね。
……さて、バレンタインの番外編の時にもう出ていますので、知っている人は知っていること。
まぁ、碧海さんの苗字ですね。
『
詳しいことは、番外編の後書き――当然バレンタインのもの――に載せていますから、気になる方は読んでみて下さい。
……読んでみて下さい。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
では、また次回で……。