Don't be saying   作:ショート

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しまった!
前回の投稿から三週間も空いてる!?



十五話

01

「…………。」

「本題…?」

 

「ああ…本題だ。」

「俺は――。」

 

引杜は、そこで突然言葉を切ると、静かに深く息を吸った。

 

「記憶を消した。」

「同級生全員のな。」

「勿論教師にもやったし、」

「クラス名簿からも消した。」

「手動でだけど。」

 

「それと、お母さんに怒られたのは全く関係ないよね?」

 

「いや、それがあるんだよ。」

「母さんの話だと、学校から連絡があったんだと。」

「『陽さん来てませんよ』って。」

 

やっとのことで引いた涙が、再びじわじわと溢れ出て来るようで、頻繁に目を擦っている。

声も、心做しか潤んで来ているような気がする。

 

「へぇ?」

「それは不思議だね。」

「――忘れてる筈なのに、連絡が来るなんて…。」

 

碧海は、努めてわざとらしく、そう言った。

 

その物言いに、引杜はキッと目を吊り上げる。

 

「あぁごめんなさいごめんなさい。」

 

そんな引杜に、苦笑いを浮かべて謝罪する。

流石におちょくり過ぎたと、罪悪感を感じている頃であろう碧海は、割と真面目なトーンで謝罪していた。

 

「碧海が…元に戻したんだろ…。」

 

このままでは話が進まない。

仕方が無いから、俺が助け舟を出そう。

 

「ああうんそうそう。」

「榎本君のは戻してないけど。」

 

ついでのようにそう言う碧海。

それを聞いてしまうと、榎本を蔑ろにされているようで悲しい。

 

「ああ、別に榎本君がどうでもいいって訳じゃないんだよ?」

 

「お前まで『読む』のか…?」

 

コイツのとんでも属性には慣れっこだが、流石にこの読心は突飛かつ予想外であった。

その為か、俺の声は予想以上に暗く、呆れ声になっていたように思う。

 

「なんか、寂しそうな顔してたから。」

 

そう言うと、碧海は柔らかく微笑んだ。

 

「そうか…?」

 

友達思いと思われるのには、なんだか恥ずかしいものがある。

だから、碧海に表情を指摘された時少し顔が赤くなり、そしてそれを碧海は見逃さなかったのだろう。

にやにやとおちょくるようにこちらに顔を向けている。

 

悪戯精神旺盛なことで…。

 

「なんで、戻さなかったんですか…?」

 

心底不思議そうに、和真が言った。

 

そんな和真に、碧海は努めて説明口調でこう言う。

 

「榎本君は、記憶の違和感に気付いていたでしょ?」

「それで記憶を戻したりしたら、引杜ちゃんのことも、勿論能力のことも知っちゃうかもしれないでしょ?」

 

「それは…榎本さん以外にも言えるんじゃないですか…?」

「記憶を消す光景を、誰かに見られてるかもしれないじゃないですか…。」

「『どうせ消すから』って、大して気にしてなかったと思うんですが…。」

 

「ほら…そこは…私の能力でちょちょっ…と改変してさ…。」

 

そう言う碧海は、気持ち申し訳なさそうだった。

まぁ、能力をあまり使いたくない碧海にとっては、「記憶を改変する」というのは歓迎できないことらしいから、その表情には納得がいった。

 

「ま、要するに『なんの問題もない』…ってことだろ?」

「碧海が後始末やったんだから、それに関しては心配は要らないと思うぞ。」

 

難しいことは嫌いだ。

そういうものを考えるのは、まるっきり俺の役割ではないのだ。

碧海がもう既に手を打っていて、こうやって呑気に駄弁っているということはもうそれだけで、俺にとっては「完了」だ。

勿論根拠は無く、ただ俺がアイツを信用しているだけなのだが、多分碧海のことを知っている人間なら、誰だってそう考える。

 

それだけ、碧海の才能というのは大きくて、確実なものなのである。

 

「っ…!でもでも!」

「そしたら俺は学校に行かなきゃいけなくなるじゃねぇか!」

 

目を腫らしている引杜が、駄々をこねる子供のようにズイと顔を寄せてくる。

 

「いやそこは行けよ。」

 

「行かなきゃダメだよ。」

 

「そうですよ。」

 

「お前ら…!」

「絶対に来ねぇからな!学校なんて!」

 

じゃあ何故今日来たのかと、全力で問いたかったけれど。

流石に涙目の、それも女に追い打ちを掛けるような行動はどうかと思うので、その疑問はそっと心の中に仕舞った。

 

その代わりと言っちゃあ何だが、ずっと不思議に感じていたこと…というか、引杜の矛盾を問い質そうと思う。

 

「じゃあ引杜は、なんで体育倉庫になんて居たんだよ。」

 

「!?」

「…………。」

「それは…。」

 

引杜は、バツが悪そうに俺から視線を逸らす。

 

学校にも行かない、授業にも出ない。

自分の存在すら皆の記憶から抹消する。

 

そんなヤツが、わざわざ学校に来る意味は無い。

 

母親に、対面だけでも通ってるように見せたいだけなら尚更だ。

 

「見付けて欲しかったのか、それとも一緒に学校生活したかったのか…。」

「俺には分かんねぇけど…。」

 

自分の能力を覆して欲しかったのか。

普通に皆と暮らしたかったのか。

 

もしかしたら、そのどちらもかもしれない。

 

でもそんなこと、普通言えないんだ。

 

友達が欲しい、とか。

皆と遊びたい、とか。

見つけて欲しい、とか。

 

言えないんだ。

 

欲せないんだ。

 

「食わず嫌いは、勿体ないぞ。」

 

意地を張るのは、仕方が無い。

それが、引杜陽という人間なのだろう。

 

誰よりも体面を気にして、格好を付けたがる。

それ故に、弱い自分を晒すことができないのだ…と思う。

 

だからといって、俺はそれを否定する訳でも認めない訳でもなく。

 

ただ、俺は引杜に学校へ来て欲しいだけなのだ。

少なくとも、引杜もそれを望んでいるのではないかと思うのだ。

意識的にかはさておき。

 

「ッ……!」

「…っさい。」

「…………。」

「お前に何が分かんだ!」

 

引杜はそう叫び、俺達が呼び止める間もなく飛び出して行った。

 

俺達は、暫く唖然としていた。

しかし、

 

「何があったんだ…?」

 

という、不思議そうな声にハッとし、叩きつけるように勢いよく開かれた扉の方を見る。

 

反動で半開きになった扉から、恐る恐るといったような、半ば怯えたような見覚えのある目と、視線があった。

 

「榎本…。」

 

榎本は中の様子を念入りに伺い、おもむろに中に入ってきた。

 

「いやさ、さっき凄い勢いで出てきたからさ…何かあったのかなぁ…って。」

 

「いや…なんでもないよ。」

 

「ならいーんだけどさ。」

 

榎本は、いつも通りの軽薄な笑みを浮かべ、手をひらひらさせる。

 

「ところで、今日はお前ら二人っきりじゃないんだな。」

 

「え、ああ…。」

「そうだな。」

 

「一年だろ?」

「俺、榎本栄吉っつーの。」

「よろしく。」

 

真っ直ぐ伸びてきた左手を、和真は躊躇いがちに掴んだ。

 

「羽月…和真です。」

「宜しくお願いします…。」

 

「おう。」

「よろしく!」

 

ハツラツとした声でそう言うと、榎本はUターンして教室から出ていった。

 

「…………。」

「……何しに来たんだろうね…あの人…。」

 

若干呆れたように、碧海がそう呟いた。

 

「……さぁな。」

 

アイツの行動原理は時々意味不明で、動きが予想できないことも多々ある。

彼の行動を完全に予測するなど、不可能である。

 

まぁ、会って友達やってまだ一年経ってるか経ってないかという仲の俺が、アイツの何を分かってやれるんだってのはあるが。

 

「…引杜さんは…もう帰っちゃったんでしょうか…。」

 

和真は、俯きながらそう呟いた。

 

「まぁ、そうなんじゃないかなぁ。」

 

「…………。」

「……ですよね。」

 

和真は、そんな残念そうな声を上げた。

 

「何か、聞こえたのか?」

 

「いえ…何も…。」

 

和真は、そう静かに答えた。

 

…何だか、昨日から和真の様子がおかしいようだ。

 

どうやら昨日は、俺達が事務室から生徒名簿を拝借している時、ちょうど屋上で引杜と密会していたようだが。

 

その時、引杜に何か言われたのだろうか。

 

和真に直接問い質してやりたい。

 

しかし、「何か悩みがあったら言え」と、あれだけ口を酸っぱくして言ったのだ。

それでも相談しないということは、俺にも言えないようなことなのだろう。

 

そんなことを俺が追求してしまうのは、あまり好ましくない。

そんなことを、俺はしたくないのだ。

 

「もう帰らない?」

「もう引杜ちゃん…戻ってこなさそうだし。」

 

「あ、…そう…だな。」

「仕方無い、帰るか。」

「な!和真!」

 

「えっ!あ、…はい。」

 

和真は何か考え事をしていたのか、意表を突かれたように軽く飛び上がった。

 

「今日は一緒にベッドだね。」

 

「まだ忘れてなかったのかよ…。」

 

02

 

「お前は頭おかしい。」

「今から帰るってのに上靴を出した俺くらい頭おかしい。」

 

「それは頭がおかしいですね。」

 

「そうだろう。」

 

「何この納得がいかない感じ。」

 

碧海は釈然としないようで、唇を尖らせながら首を捻っている。

 

「で、何があったんですか?」

 

と、和真は呆れ気味に問う。

 

そんな事しなくても能力で『読め』ばいいのにと、少し不思議に思いながらも、今回の経緯を話す。

 

ああ、そう言えば、俺が使うのを控えろと、和真に言ったんだっけか。

苛立ちを交えながら、和真に愚痴を垂れ流すうちに、ふとそんなことを思い出した。

 

ときは昨日の晩まで遡る。

その日は丁度、引杜とまともに会話した日だった。

 

和真も知っての通り、その日は、俺が碧海の罠にまんまと引っ掛かって、添い寝を強要されていた。

 

「いや罠じゃないでしょ。」

「明らかに私被害者。」

 

そして碧海は予告通り、うちにやって来たのだった。

 

「ああ、無視の方向ね。」

「冷たくされるの嫌いじゃないから構わないけど!」

 

「知らねぇよそしてその腹立つドヤ顔やめろ。」

 

それからは、帰りの遅い父を待たず三人で食事をして。

危うく混浴にされそうになりながらも一人で風呂に入って。

そして憂鬱なまま二人で布団に入ったんだ。

 

「今のところは…別におかしくはないですけどね…。」

 

「ここからなんだって聞いてくれよ。」

 

「はぁ…。」

 

そこで、布団に入ったまでは良かったんだ。

いや、全然良くはないんだけど、まだマシだったんだ。

 

布団に入って「さぁ寝よう」と、碧海の悪戯を覚悟して目を瞑ったその時だった。

 

瞼の先に、なんだか不気味な音楽を聞いたんだ。

 

俺が恐る恐る瞼を開くとそこには――。

 

真新しいDVDデッキと、その画面に映された禍々しい手形の数々だったんだ……。

 

「コイツ俺がホラー嫌いってのを知っててわざわざ真夜中につけやがったんだぜ!?」

「ふざけてない!?」

 

「まだ治ってなかったんですか…。」

 

「ええ!?」

「何その顔!?」

「俺が悪いの!?」

 

「ぎゃあぎゃあやかましいよ直人…。」

 

そういう碧海はトロンと顔を蕩けさせている。

 

「ナイス抱擁だったよ!」

 

勢い良く親指を立てて嬉しそうにする碧海。

 

「うるせぇ!」

「何味しめてんだコラァ!」

 

「いいんだよ?」

「怖いなら抱きついても。」

 

「だあぁぁぁぁ!!」

 

「……………。」

「はぁ……。」

「もう…相変わらずですねぇ…。」

 

そうやって叫び倒す俺達――主に俺――を、冬の夕日は程よい暖かさで包み込んだ。

 

碧海に抱かれるより、よっぽど暖かいなと、俺は冗談目化してそう思ったのだった。





どうも、お久しぶりです。
私です。

もう早いもので、初投稿から八ヶ月経とうとしています。
小説の中で榎本達が、「後数週間でクリスマス」と言っていたのは、一体何か月前なのでしょうか。

さて、今回は約三週間も投稿が遅れてしまいました。
ホンットに!
申し訳ございません…。
言い訳がましいですが、リアルが忙しくて…。

文章力も無いし投稿も遅いしって、取り柄ねぇじゃん!
なんてこったい!

本当に、こんな作品を読んで下さる方には、感謝感謝です。
頭が上がりませんね。

取り敢えず、何が言いたいかと言えば、
謝罪と感謝です。

本当にすいませんでした。
そしてありがとうございます。

そして、これからも宜しくお願いします。

ではでは、また次回。
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