01
俺達が通っている高校というのは、如何せん規模が大き過ぎる、所謂「マンモス校」だ。
俺達が住んでいるここら一帯の地域には、高校がこの一校しかない。
だから、地元の高校生は大抵この学校を受験する。
偏差値もそこそこで、人並みに勉強していれば入れるような場所なので、よっぽど高い志がない限り、志望校は必然ここに絞られる訳だ。
だから、今俺達二人を囲んでいる
「ここで会ったが百年目…!」
「だな、
「全然百年目じゃないし、会ったのは朝だ…!」
そんな群衆の輪の中心にいるのは、俺とクラスのエロ大臣こと、
お互いがお互いを親の仇か何かのように睨んでいる現状は、正に「決闘」。
…そう、俺達はお互い譲れない何かの為に、こうやって相対しているのだ。
「退くなら今のうちだぜ栄吉…!」
「冗談だろ?」
「今更尻尾巻いて逃げろってのかよ。」
「俺はそんな腰抜けじゃねぇよ。」
「お前こそ、碧海ちゃんとじゃなくて大丈夫か?」
「碧海はお前の手に余るぞ。」
「お前じゃ役不足だ。」
「『アイツに釣り合うのは俺だけ』ってか!」
「やっぱリア充の言うことは違うわ!」
「突然空気感ぶち壊すなや。」
「今何かそれっぽかったろーが。」
仁義無き戦いみたいで。
「だが!」
「例えお前がリア充でも!」
「これだけは譲れねえ!」
栄吉が吼える。
それに呼応し、俺も見栄を切る。
「それはこっちも同じだ栄吉!」
「友達だろうが渡す訳にはいかない!」
「お互い退けねぇってか…。」
「なら…『これ』で決着をつけるしかねぇな。」
栄吉が、ゆっくりと固く握った自分の右手を差し出す。
「らしいな…。」
「手加減しねぇぞ…?」
「こっちの台詞だ!」
「ビビんじゃねぇぞ!?」
そう言い終わると、お互い肩を落として静かに黙り込む。
そして、照らし合わせたかのようにピッタリのタイミングでお互いが駆け出し、お互いとの距離を詰めていく。
振りかぶった拳は、数秒後お互いの顔面が到達するであろう空中を見据えている。
餓狼のような激しい咆哮がこだました。
二人のその叫びは、誓いや祈りのようなものが篭った、熱い咆哮だった。
「「メロンパンは、この俺んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
02
私こと
しかし、ショッピングモールだとか、繁華街とか地域特有の
そして普通に、沢山の学友に囲まれていることになる。
いや、囲まれているのは私ではなく別の人物なのだが、四方八方に人がいるという意味ではあながち間違ってはいないと思うので、敢えて改めることはしない。
私を含めたざっと千五百人程度のこの群衆は、とある二人を見物しようと集まって来ている。
その二人が、あるものを巡って決闘をする。
そのことを聞きつけたこの高校の生徒が、ことを面白がって、二人を囲んで群がっているのだ。
今のご時世に決闘などという珍妙な出来事を、皆は見逃せる筈がないらしい。
しかし、決闘というのは、当人達が言った訳ではなく、ただ風体が
ただ、人前で喧嘩を大っぴらにやるというのは、あまり感心はできないけれど。
私は、群衆の輪の真ん中辺りで、辛うじて中央の会話が聞き取れると言うようなポイントにいる。
たまに沸き立つ群衆のざわめきで、聞き取れないことがあるのだが、今回は特にそれが酷く「碧海ちゃん」と、私の名前が出てきたことしか分からなかった。
「『アイツに釣り合うのは俺だけ』ってか!」
「やっぱリア充の言うことは違うわ!」
聞き覚えがある声色の、悲痛な叫びが聞こえてきた。
断じて私はリア充なので、彼の気持ちは分からない。
不思議と心が哀しくなってきた…。
ので、気を紛らわす為にさっき買ってきたパンにかぶりつく。
甘くてふわふわな食感が何とも言えず、哀しさなんて吹き飛んでしまった。
いつもは弁当を作って来てそれを食べるのだが、なんの気まぐれか、母が料理を試みてしまい、冷蔵庫を空にしてしまったので、今日は購買のパンを昼ご飯にすることにしたのだった。
…今日から、冷蔵庫には鍵を付けておかなきゃなぁ。
と、そんな他愛もないことを考えていると、何やら巨大な咆哮が辺りに響き渡った。
帰宅ルートについて思案していた私にとって、その突然の咆哮は、私を精神的に飛び上がらせるには十分だった。
しかも、その精神的な衝撃で、上手く内容を聞き取れないというオマケまで付いてきて、私は若干腹が立った。
今までは、静かにムシャついていようかとも思っていたのだが、、この行き場のない微妙な憤りのことを思えば、この位のことはしていい筈だと、人混みを押し退け前に進み始めた。
誰一人として嫌な顔一つせず私に前を譲ってくれた結果、大した苦労もなく最前列に出ることができた。
丸く円を描く民衆は、さながらコロシアムの様で、西洋の剣闘試合を彷彿とさせた。
剣闘と言うより拳闘の方が、素手で殴り合う彼らにとっては正しいのだろうけれど。
これまで、なんにも関係ないかのような独白だったが、完全に他人事ではないのだ。
何しろ、その拳闘士の一人は、私の最愛の人、直人であり、もう片方は、その直人の友人なのだから。
それに、大体この決闘モドキは、元はと言えば私が原因で起こったようなものなのだ。
私が弁当を作り損ねたことで、直人は昼休みに購買にメロンパンを買いに行ったのだが、最後の一個を榎本君と同じタイミングで掴んでしまったたらしい。
友達だからだろう、こんな風にお互い引くに引けなくなってしまい、今に至る。
どちらかが別のパンにするか、半分に分け合えばいい話なのだけど、直人は言わずもがな、似た者同士の榎本君もまた、頑固らしかった。
私が朝の時点で能力を使ったり、
それも、原因と言えば原因である。
まぁ、だからと言ってこの現状に責任を感じるのはお門違いだと思うので、こうやって平常心でいるのだが。
兎に角、彼等は最後の一つのメロンパンを巡って、こんな死闘を演じている。
何だか滑稽な話だと、私はまた一口パンを齧った。
直人のことだから、「『こんなこと』に全力を掛けらんねぇことほど格好悪いことはない。」なんて言い訳じみたことを言うに違いない。
幾ら恋は盲目と言ったって、無条件でキュンキュンする程私も節穴ではないので、ここは素直に呆れることになるが。
例え全力を尽くせなくとも、どこかで折れてしまっても。
私にとっては否が応でも、紛れもなく「格好いい男」なのだから、気にしなくてもいいのに。
メロンパンが欲しいだけなら、別に榎本君と争う必要は全くない。
だって私があげるから。
メロンパンだろうが、金だろうが宝石だろうが家だろうが世界の半分だろうが。
私に頼めば何だって手に入るのに。
まぁ確かにメロンパンと、その他の物では思い切り価値は違うけれど、メロンパン程度を
私だって、きっと直人だって。
なのに、それをしないまま、こんな馬鹿みたいに殴り合っている。
直人は、私の躊躇いを知っている。
能力を使うことに対する引け目を。
直人は、そんな私の思いを知っていて、だから私に能力を使わせまいとしているのだろう。
メロンパンを出すくらい、なんてことないのに。
過剰な程に、彼は優しい。
だから私は、直人を優しいと言う。
私にとって、優しいとは格好いいことと同義で。
優しい直人は要するに、私にとっては格好いい男の子だ。
03
俺は、身体が他人より大きくて、よく人から避けられる。
身長は百八十ちょい。
ガタイがかなり良く、特に女子には、かなりの威圧感を与えているようだ。
この体格が原因で、高校では、何もしていないのに女子に怖がられ、生徒指導室行きになったこともある。
碧海が一緒にいることで、辛うじて皆の恐怖メーターは上がることなく踏みとどまっているけれど、それでもまだ、俺の悪印象は拭えていないようだ。
勉強に不真面目な訳でもなく、極端に暴力的でもない俺が、どうしてこんなに怖がられなきゃならんのだと、自分の身体の発育の良さを呪ったことは幾度となくある。
多分皆は、俺を不良かなんかと勘違いしているんじゃないか?
なんて、冗談半分に考えていたけれど、碧海の話によると、どうやらそれは当たっていたようで。
相賀直人は不良である、と、不名誉なレッテルを貼られている。
喧嘩なんて、今のこれが初めてだ。
殴り殴られなんて、全くもって経験したことがない。
だからなのか。
俺はどうやら、栄吉に押し負けているようだ。
体格でも、拳の勢いでも、確実にこちらが上回っている筈なのに。
その筈なのに、栄吉は全く疲弊する様子がない。
いつものように、軽薄な笑顔を浮かべている。
普段掛けてる丸メガネを外しているからなのか、鋭いアイツの視線が俺を指す。
「どうした直人。」
「お前がそんな調子なら…。」
「メロンパンは持っちまうぜッ!」
癇に障る物言いで、栄吉が俺に殴り掛かる。
アイツの拳には重みが全くない。
避けるより、受けてカウンターを狙った方が有効な筈だ。
そう判断した俺は、衝撃に備え身体を固めて身構えた。
「…ッ!?」
しかしやって来たのは想定外の鈍痛。
カウンターに振りかぶった腕のことも忘れて、俺は数歩、後ずさる。
そして更に、奇妙な倦怠感が俺を襲う。
全身から力が抜けていくのが分かる。
今すぐ握った拳を解いて、地面に突っ伏したくなる衝動。
だが俺は、必死に歯を食いしばって、よろめく足と意識を立て直した。
コイツに負けるのだけは癪だと、変な意地が、俺をそうさせたのだ。
メロンパンなんて、今の俺にはどうだっていい。
と言うかそんなに好きな訳じゃないメロンパン。
どっちかっていうとコロッケパン派。
俺を駆るのは「闘志」!
コイツにだけは負けたくないという闘志だけが、今の俺の原動力!
だからこそ、今ここで倒れ込む訳にはいかない。
しかし、栄吉は間髪を入れずに俺に拳を振りかぶる。
「っ…と。」
「グッ…!」
力ない足取りでは躱すことなど出来はせず、栄吉の拳は、狙い済ましたように鳩尾に吸い込まれる。
悪戯っ子のような笑みを浮かべる栄吉は、まるで今の俺を嘲笑っているかのようだった。
不思議なことに、回数を重ねる毎に威力が増す栄吉の拳は今回も例に漏れず、かつて味わったことのない一撃だった。
しかし、やられっぱなしは悔しい。
無我夢中で俺は、栄吉の顔面を目掛けて、全身全霊のカウンターパンチを食らわす。
不意を突かれたのか、反応しなかった栄吉。
お陰ですんなりと狙いの部分へ拳は届く。
かんばしい音は、しなかった。
皮膚と皮膚のぶつかる音。
そんな軽い音しか、しなかった。
拳に力が、全く入っていなかったのだ。
ニヤリと笑う、栄吉。
本日十発目の右ストレートで、遂に俺は膝を折った。
案の定その拳からは、感じたことのない痛みが伝った。
お久しぶりです。
私です。
週一投稿と銘打って始めたこの小説ですが、月にを経て、遂に月一へランクダウン。
やるやる詐欺とはこのことです。
本当に申し訳ございません…。
この程度の短い文にも関わらず、こんな亀更新だなんて本当に文才が皆無だなぁと、軽いショックを受けているところです。
それと、無謀にも同時進行として始めた「ヒロアカ」と「メダ箱」のクロスオーバーとこれとでは、同じ奴が書いているのに、どうしてこうも閲覧数に差があるのかと。
要するに人の作品で釣ってるんだなとか思うと、なんか悲しくなります。
深夜テンションで書いているため、これ以上書くと何を口走るか分かったもんじゃありません。
そういうことで、この位でお別れを。
ではでは、ここまで読んで下さってありがとうございます。
また次回でお会いしましょう!