前回のクリスマスとは違い、今回は
因みに視点者は羽月君。
勿論番外編なので、本編には一切関係してきません。
ので、読んで頂かなくても…結構です!(泣)
圧倒的短文だから、5分で読めます。
――読んでねっ!?
01
……今日はなんだか教室が騒がしい…。
いや、うちのクラスが騒がしいのはいつものことなのだが、何だかそういう類いの騒がしさではないようだ。
普段は何でもないように、男子と女子が性別の垣根を越えて喧しく笑いあっているけれど(人見知りの僕としては、異性と進んで話すなんて気が気でない。)、放課後までわざわざ残って姦しくしているけれど、しかし今日はそんな様子は全く見られない。
そして男子は心做しかソワソワしている。
…………。
特に興味は無かったのだけど、取り敢えず今はやることも無いので、クラスのムードメーカーである「香取君」の思考を読むことにした。
『今日は二月十三日…。明日誰かから貰えねぇかなぁ……。』
ああ、そうかそう言えば、明日はバレンタインデーだった。
毎度毎度僕には全く関わりの無い行事だったので、すっかり忘れていた。
中学時代も小学生の時も、二月十四日当日に、手元にチョコレートがあった試しは1度も無い。
そりゃ小学生の頃位は期待してはいたけれど、何せこの性格だから――『え……っと、内気君…だったけ…?』
というように名字すら覚えてもらえないので、僕は、義理でもチョコをあげる対象にならないらしい。
……なんだか胸が苦しいな…。
ああ、早くこの時間が終わってくれないかな。
なんたって殆どの男子がチョコレートを期待してソワソワしているのだ。
こっちまで釣られて落ち着かない。
――……能力者特有の悩みなんだろうな。これって。
人の思考を読める為の、言わば副作用。
そうでなければ、僕の感受性が特別豊かなのか。
――自然と分かってしまうのだ。何となく。
流石に全てお見通しと言う訳では無いのだが、大雑把な感情――嬉しいとか困っているとか、それこそ期待している、とか――が。
……外れることも、あるのだけど。
いや、割合的に言えば、
まあでも能力使ってるし、今回は間違いはないだろう。
皆がバレンタインデーを意識しているということは。
……まぁ僕には関係無いか。
チョコレートを貰う当ても、笑い話にする相手もいないし。
相賀先輩に話したら本気で慰められそうだし。
それに先輩はバレンタインに興味無さそうだし。
――相賀先輩は、きっと天医先輩に貰うだろうし。
まあ詰まるところ、今年のバレンタインも、「へぇー、今日そう言えばバレンタインだったねぇー。」みたいなノリで過ごすことになる訳だ。
ノリと言っても話す相手は皆目いないので、常に俯いて生活するのだけど。
だからつまりは、いつもと変わらないのだ。
僕みたいなモブの――クラスのはみ出し者の僕には。
行事を皆で楽しむ機会なんて、来るはずがないのだった。
そりゃそうだ。
「来る」だなんて、他人行儀な表現してるんだから。
自分から歩み寄らない奴が、何不幸気取ってんだって。
――僕もそう思うよ。
02
そんなこんなで、本日も何事も無く終わる。
いつも通りのごく普通の、当たり前の日常。
不満だけど、不安は無いし。
特に可もなく不可もなく。
悪くないけど良くもない。
そんな、有りきたりな日常。
僕が日々過ごしている日常は、案外僕にとって住みやすい物なのかもしれないと、冗談半分に考えたのだった。
我ながら珍しいことも考えるものだと、クスリと、自分で自分を笑った帰り道だった。
03
「……………」
「……ん!?」
下駄箱。
流れ作業のように靴を脱ぎ、入れようとした時。
――ついつい中身を二度見した。
二度見した上に変な声まで出してしまって、周りの視線を若干秒集めてしまった。
――赤い、箱。
靴箱の中にあった異物。
殺風景な僕の景色に入ってきた、異色の物。
断じてこれは、僕のじゃない。
全くもって、見覚えがない。
僕が間違って他人の靴箱を開けてしまったのではないかと、ネームプレートをこれでもかと。
穴が開くほど凝視したが、間違いなくこれは僕の靴箱である。
大体…靴箱に靴以外の物を入れるなよと、心踊らせながら箱を手に取る。
『羽月 和真くんへ』
白いレースのようなリボンで飾り付けられた赤い箱。
そのリボンの隙間に差し込まれる形で添えられたお洒落可愛いメッセージカードには、同じく可愛らしい丸文字で、そう書かれていた。
僕宛……?
「えー……。」
情報の処理が追い付かない。
えっと…?
二月十四日に?
綺麗に包装された?
僕宛の?
何か?
「いやいやまてまて。」
有り得ないって…。
うん。
有り得ないって…。
きっと誰かの悪戯だよ。
うん、きっとそうだ。
だって、僕なんかに……って、ねぇ。
これまで幾度となく、こういう類いのイベントを過ごしてきたけれど、一度たりともこんなことはなかったのだ。
大方性格の悪い誰かが「ちょっとあのナメクジからかってやろーぜー」みたいなノリで余り物置いただけに違いない。
――なんて恐ろしいリア充。
僕は君たちの浅はかな罠になんてハマらないからな!
と、包装を解く。
手に取ってカードをよく見ると、二枚に折られていて、中に宛名と同じ文字でメッセージが書かれてあった。
『放課後、校舎裏で待ってます。』
と、宛名よりも濃い字で。
っ……!
なんて奴らだ…!
きっとコイツら、校舎裏でネタばらしするつもりだ。
「ドッキリ大せーこー!!」
みたいなノリで僕を嘲笑いに来るんだ…!
僕は君たちの浅はかな罠になんてハマらないからな!
と、包装を解く。
赤い包装紙を、綺麗に剥がすと、白いプレーンな箱が出て来る。
その箱を僕は慎重に開ける。
――もしかしたら、ここで何か飛び出してくるという可能性も無きにしもあらず…。
恐る恐る開ける。
が、中身は残n…いや、予想通りチョコじゃあなかった。
かと言って、僕の予想は全くもって当たりではなかった。
「チョコレートケーキ……だと…?」
通りで箱が大きい訳だ。
……しかしこれは。
……しかしこれは。
本気で本気で、本命なのでは…?
何故なら僕は、チョコレートのあの「ねちゃ」っとした食感が大の苦手なのだ。
わざわざバレンタインデーに、チョコではなくチョコレートケーキを渡してくるなんて。
僕の好みを考えてくれたとしか思えないではないか。
それに、僕がチョコレートが苦手ってことを知ってる人は少ないし。
それを知っているのは、恐らく小学校の同級生くらい。
そんな希少な情報を手に入れているなんて、僕の為に好みを調べてくれたとしか考えられないじゃないか。
っち……!
僕は……。
僕は……!
君たちの浅はかな(ry
04
罠にハマって数分。
まだ誰も来ない。
やっぱり誰も来ないか。
きっと誰か物陰から僕を窺いながら、嘲笑っているのだろう。
もうだいぶ日も暮れてきた。
オレンジに染まる空に、雲がさらさらと流れていく。
ああ――広いなぁ、空。
ああ――大きいなぁ、空。
ああ――綺麗だなぁ、空。
何だか心が表れていくようだ。
――洗われていくようだ。
知らない赤の他人の嘲笑なんて。
気にしなくてもいい。
笑われてもいい。
見下されたって。
気味悪がられたって。
別に構わないじゃないか。
この大空に比べれば。
そんないざこざちっぽけなもんだ。
――と、まで思ってしまった。
このままあの大空に吸い込まれて、雲と同じに流れていけたらどれだけ――
「っ……あのっ…!」
「!?」
前方から声。
僕は驚いて肩を震わす。
「あ……えと……。」
声の主は、茶色がかったポニーテールを小さく揺らしながら、肩を上下に動かしている。
――急いで来たのだろうか。
呼吸は乱れているし、口から白い息が出ている。
頬は若干赤らんでいるし。
時々僕に視線を合わせるも、目が合うと、同時に逸らす。
息が整っても、話を切り出す様子が全くない。
――このまま、この冷たい沈黙の中居るのは厳しい。
そう判断した僕は、ありったけの勇気を振り絞って、控え気味に問うた。
「えっと…僕を呼んだのは君っ…かな……?」
「えっ……!あっ……!」
「ち、……」
「違いますっ!」
白く戻った顔を真っ赤に変えて、女の子は唐突に走り去って行った。
「あっ……!」
「……………」
「……違うのか。」
…そりゃそうだ。
あんな可愛い娘が、僕なんかに気がある訳が無いし。
まだ相手が来ないあたり、きっと予想通り悪戯だったのだろう。
――チョコレートケーキだったのも、ただの偶然。
僕が深読みし過ぎただけだったのだ。
……ちくしょう……。
……でも――
「美味しかったな。」
「チョコレートケーキ。」
僕はそう、吐き捨てた。
この恥ずかしい思い違いが、どうか誰の目にも触れず耳にも触れず。
あの大空に吸い込まれてしまいますように。
柄にもなくそんな、シニカルなことを考えながら。
僕はいつも通りの日常に帰った。
ここまで読んで頂いて有難うございます!
さり気なく出てきた碧海ちゃんの苗字「
なんでも風水の世界で「健康」や「長寿」「勉学・財産」を司る大吉方位なんだとか。
最初は「天衣無縫」の「天衣」にしようかとも思ったけど流石に痛いなぁと考え直してこうなりました。
地道な努力が結ばれるみたいなことが書いてあったので、碧海ちゃんとは正反対な単語ですが、まぁよしとしましょう。
苗字ですしね。
私はあまり風水とかは信じない質なのですが。
これを切っ掛けに、ちょっと模様替えしてみようかな。
――と思ったけど面倒だし、やめた。
…………。
季節の変わり目です。
皆さんはどうか、体調を崩されませんように。
ではでは。
また来月とか。