Don't be saying   作:ショート

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予想外に皆に読んでもらえていて感動しました。
こんな駄作でも読んでくれる人っているのね…!

本当にありがとうございます!



三話

01

「おはよう。」

 

何処からともなく声を掛けられた。

周りを見渡しても声の主はいない。

 

声の主どころか、自分以外の人間はいない。

 

辺り一面真っ暗で、距離感が掴めない。

床の感触は無く、まるで浮いているようだ。

暑さも寒さも、重力すら感じない。

 

全体的にふわふわしていて、意識もはっきりしない。

 

――夢の中ではないか?

 

不意にそんな考えが頭を()ぎった。

 

「そうそうそうそう!」

「だーいせーかーい!」

 

愉快そうに言うその声は、何処か碧海に似ていたし、同時に、俺の声ではないかとも思った。

なんだか、二人の声を混ぜて絶妙なバランスでチューニングしたような、ちゃんとした一人の人の声のようだった。

 

「挨拶を無視したことは減点対象だが…」

「君はなかなか勘が良いね。」

 

挨拶……ああ、挨拶か。

確かそんなことも言われた気がする。

先に、今のこの空間のほうに気を向けてしまっていたから、終ぞ忘れていた。

 

いや待て…。

挨拶なんて言われても、こんなファンタスティックな現状でしろなんて無理な話だ。

 

これだけ鮮明な夢は明晰夢と言うのだろうが、鮮明なだけ、思考もクリアだ。

良く考えられ、良く感じられ、良く混乱出来る。

 

クリアな思考が漏れなく悪い方に作用して、もう俺は混乱を通り越して半分トランス状態である。

 

――直人は考えるのを止めた…ってやつだ。

 

まあ考えるのを止めたところで

 

――そういうものだ。

 

と割り切りだしたところで、急繕いの貼って付けたような考え方では、湧いて出た疑問は消えてはくれない。

 

なんとか完全に思考停止してしまう前に何か一つでも疑問を解消しよう。

糊代(のりしろ)のごみを一つでも取り払って仕舞おうと、一番の疑問を声に投げかける。

 

「お前は誰だ?」

 

「お前は誰だ」なんて、なんだか哲学的ではあるけれど、そういうことではない。

俺には「日本の〇〇県〇〇市〇〇町の〇〇高校二年三組出席番号一番の直人だ。」としか答えようがない。

俺の質問の意味は、つまりはそういうことだ。

 

「ん?俺は俺だよ?」

 

返答は、案外あっけらかんと帰ってきた。

返答の奇怪さと、声に対するむず痒さが、ますます状況を判りづらくする。

 

声の返答はまるで答えになっていないが、その台詞が絶対の真実だと、言っているような気がした。

俺の質問への模範解答かのように、それ以外に言い様のない事実のように、耳にすんなりと馴染んだ。

 

「そして、俺は君だよ?」

 

「………」

「は?」

 

また訳の分からないことを言っている。

相手の表情が見えないので、余計に何を考えているか分からない。

何を言っているか分からない。

 

「そのままの意味だよ?」

()が、なんだか悩んでいるようだったから」

「ちょいと手助けに来たんだ。」

 

俺の言いたいことを先読みして、声は言う。

頭蓋骨をぱっかり開けられて、脳味噌の隅々を覗かれているような気がした。

 

…そんな想像をすると、鳥肌が立った。

 

辺り一面真っ暗なこの不可解な場所も相俟(あいま)って、余計に薄気味悪く感じた。

 

この考えも、この声に覗かれているんだと考えると、なんだかやるせない気分になった。

 

「………」

「これは夢だけど、君だけの夢じゃないからね。」

「俺は君だけど、俺は君じゃない。」

 

ますます分からなくなった。

 

俺の夢じゃないなら誰の夢だ?

今までの人生が誰かの夢なのかも、なんていう名言を聞いたことがあるが、そういう話か?

 

この俺の意識はあくまで作り物で、作り物の俺はそれに気付かなかった。

ってことか?

 

しかもアイツは俺だけど俺じゃないなんて、矛盾以前の話だ。

馬鹿の俺にはよー分からん。

 

「おいおい。」

「あんまり自分を卑下するなよ。」

「ま」

「そのことはあんまり考えなくていいんじゃないかな。」

「君がゲームの中のキャラクターだとするなら」

「俺はプレイヤーみたいなものだって解釈してくれ。」

「ただし俺は攻略本持ちだが。」

 

まあ俺が君を操ってる訳じゃないけどね?と、お茶目に付け加える。

「俺は君だけど、俺は君じゃない」という台詞の意味は、まあ大体は分かったが、「君だけの夢じゃない」ってのの説明がまだされていない。

 

「ちょっと待ってくれ、そんなに急かすなよ。」

「君は姑かい?」

「大丈夫、ちゃんと話すからさ。」

 

コイツの一々腹が立つ物言いはさておき、下らない冗談言ってないで、早く話を進めてほしい。

 

言っておくが、辺り一面真っ暗で、誰とも分からない相手と話すというのは恐怖以外の何物でもない。

こんなことなら、クラス中の女子のスカートめくりをする(変態認定される)方がましだ。

 

「はあ?!」

「君そういうこと言う?!」

 

何も言ってない。

 

「そんなこと言うならあれだぞ……!」

「そう……えっと……酷いからな!」

「あれだかんな!」

 

これは酷い。

 

「もういい!」

「君の()()()()()のヒントをやろうと思ったのに!」

 

「!!」

 

ヒント?!

えマジ?!

 

ヒントくれんの?!

ヒントってあれだよね。

道標的なあれだよね。

 

それに俺の一番の疑問ってーと……。

 

「そうだよ。」

「どうして君が碧海を好きになれないか」

「ってことだよ。」

 

「マジでか!」

 

流石攻略本持ち!

長年の、このもやもやに終止符を打つ時が来たのか!

遂に!

 

「でも」

「俺と会話するより」

スカートめくり(変態認定)の方が良いらしいしなぁ。」

 

「え、あ……いや違います!」

「言葉の綾と言うか!」

「俺が言ったんじゃなくて言葉が勝手に出たと言うか!」

「操られてたと言うか!」

 

「いやいや」

「大丈夫気にしてないから。」

「まあでも?」

「君が嫌と言うなら仕方無いね。」

「ヒントは無しにしよう。」

 

「ちょ…!」

「待ってくださいお願いします!」

「聞きたいです全く嫌じゃないです!」

 

お願い!本当お願い!

こんな状態で生殺しはヤメテ!

 

「大丈夫だって。」

「俺の為に気を遣わなくてもさ。」

 

「気なんて遣ってないです本心ですから!」

 

心読め!

読んで!

分かるから!そしたら分かるから!

 

「でもなぁ……信じられないなぁ。」

「証明してくれないと…。」

 

「し、証明……?」

 

「そう…証明…。」

 

低いトーンで言いやられたその台詞の向こうの、俺をおちょくるような妖しい笑顔が容易に想像出来た。

その声に軽く身震いをした俺の顔は、確実に青冷めるているだろう。

 

「変態認定の方がいいんでしょ?」

「それならめくってきてよ。」

「――碧海のスカート」

 

02

「うわぁぁぁぁ!!」

 

………。

嫌な……嫌な夢を見た。

 

「…………。」

 

未だ暗い室内を眺める。

まだ頭が寝起きでぐらぐらして、何も考えられない。

 

…………。

今何時だ……?

 

いくらカーテン越しとは言え、日光が全く差してきていないということは、三時過ぎ以前だろうか。

目覚まし時計を確認してみると、案の定三時二十分。

なんて中途半端な時間に起きたんだ……。

 

夢のお蔭でまた寝る気しねぇし…。

 

やることも無いし…。

 

幸いにも今日は土曜日で、夜更かししても二度寝しても構わないのだけど、碧海が起こしに来る可能性が大だ。

なるべくアイツには、みっともない姿は見せたくない。

碧海にっつーか他人に見せたくないだけだが。

 

でもだからと言ってこのまま起きている訳にもいかない。

睡眠時間三時間ちょいなんてそんな修行僧のような生活はしていないし、するつもりもない。

第一出来ない。

 

元に今も頭はぐらぐらで気持ちが悪くて、今すぐにでも枕に顔を(うず)めたい。

……どうしたもんか。

もういっそ、碧海の部屋に行くか(殺られる前に殺るか)とも思ったが、住居侵入および強姦未遂(冤罪)で制裁されかねない。

 

そんなことをするくらいなら、寝顔を見られた方がマシ。みっともない醜態を晒した方がマジというものだ。

俺は(おもむ)ろにベッドに横倒しになり、天井を眺める。

 

うん。いつも通り何の変哲も無い普通の板材だ。

……どうせ俺のただでさえ足りない頭で考えても、意味は無いのだろう。

 

だったら諦めて、楽な方に行くのが人間として正常な考え方ではないのか。

 

天井の黒い影に意識を吸い取られるのを感じながら、俺はそんなことを考えた。

――それが間違いだとは思わなかった。

 

03

「御早う♡」

 

目を開けると、屈んで視線を俺に合わせたの碧海が居た。

うん。いつも通りだ。

いつも通りの定位置で、いつも通りの姿勢で、いつも通りに幸せそうに頬を(ゆる)めている。

 

いつも通りではない点と言ったら服装位か。

碧海が屈んでいるので下半身はどうだか知らないが、上半身は寝起きに優しい吸い込まれるような黒色である。

生地の質感からして、何か薄い上着でも羽織っているのだろうか。

 

まあ俺は優しいか優しくないかなんて関係なく、いつも通り碧海に背を向けるのだが。

 

「……………」

 

おや?

いつもならキャンキャン何やら、後ろで喚くのだが、今回は嫌に静かである。

 

――何か思うところがあったのだろうか?

 

いくらコイツが俺を振り向かせようとなりふり構わずアピールしているアホだと言っても、コイツは一応優等生であり模範生であり、所謂(いわゆる)天才なのだ。

物が分からない餓鬼でもない。

 

今までの自分の行動を振り返って、「このやりかたでは駄目だ」と学習したのだろうか。

それとも俺が碧海を本気で嫌がっているのではと、不安がっているのではないだろうか。

 

――いや、後者は無いな。

 

コイツは、俺が鬱陶しがっていないことを理解した上でちょっかいを掛けてきている節があるから。

 

だとしたらあれか。

猪突猛進はもう止めて、知的に俺を籠絡するつもりになったのだろうか。

コイツが頭を使うとなると、俺の心労は余計に募るばかりになってしまう。

 

それだけは勘弁して欲しいなと、冴えない頭で妄想していると、背中の方から冷たい風が吹き込んでくる。

 

…!

寒っ……!

おかしいな…布団があるから風なんて入って来る筈が…。

 

疑問はそのままに、今度はなんだか背中に柔らかい感触が。

俺がその感覚に驚くが早いか、俺の身体の脇からぬっと、白く、酷く脆そうな腕が生え出てくる。

 

「あ♡(あった)かい…。」

 

遠近感がおかしくなったのか、耳元から碧海の声がした。

 

何かに抱きつかれているような感触がするけれど、背中というか背面全体に広がる、暖かく柔らかい、人肌のような感触がするけれど、俺はそれを考えないようにしながら、碧海がいる筈のドアの方を確認するべく、首を回す。

 

やはり遠近感が狂ったか。

 

1メートル程離れている筈の碧海の顔が、今にも唇が触れ合いそうな程に近距離にあるかのように見える。

 

幻覚もいい所だ。

 

特におかしなキノコを食べたという訳でもないのに。

強いて原因をこじつけるなら、碧海の知的誘惑(新戦略)予想によるストレスだろうか。

 

この程度で幻覚を見るなんて、どれだけ若輩者(スペランカーメンタル)なのだろうか。

悟れ悟れ。

 

「ん……。」

 

碧海の呟き声が風と共に、直接耳に入って来る。

こそばゆい感覚に少し悶えながら、身じろきをしようとすると、動きを拒むかのように、ほんのり温かい細い脚が蟹バサミのように、俺の脚をがっちりホールドする。

同時に背後から伸びていたスラリと伸びた綺麗な腕が、俺の腕ごと身体に抱き着くようにして、固定する。

俺がまるで抱き枕状態である。

 

――最近の幻覚は凄いな、触覚まで麻痺させるとは。

 

――って……。

 

「んな訳ねぇだろーが!!」

 

と勢いに任せて怒鳴る。

力尽くで碧海を引き剥がそうともがくも、ガッシリと関節を固められているのでイマイチ力が入らない。

 

「んもぅ…。」

「そんなに怒鳴らないでよぉ。」

 

「怒鳴るわ!そりゃ他人の布団に入ったら怒鳴るわ!」

 

「冷たいこと言わないで。」

「昔は一緒にお風呂にも入ってたじゃん。」

 

「冷たくねぇわ!寧ろ暖かいわ物理的に!」

 

「興奮する?」

 

「訳ねぇだろ?!」

「しばき倒すぞ!」

 

関節極まってる状態で興奮とか、並みの人間じゃねぇ。

それこそ悟っているか、ただのドM紳士かのどちらかだろうよ。

 

「しばき倒す……?!」

()んず(ほぐ)れつ…?!」

「ベッドの上で…押し倒す?!」

 

「どうしてそうなったぁ!!」

 

コイツの思考回路はどうなってやがる?!

馬鹿と天才は紙一重と言うけれど、ここまで身に染みて思い知らせるとは思わなかったわ!

紙一重っつーかただの馬鹿だろコイツ!

天才でも何でもねぇわ!

 

「……うん。」

「そうだよね。直人も…男の子なんだから…。」

「いいよ。全部…受け止めてあげる…。」

 

「受け止める前に話を聞いて?!」

「と言うか俺の言い分を受け止めて?!」

 

今は残念ながらお前に欲情なんてしてねぇんだよ!

理性の方が勝ってんの!

お前の馬鹿さ加減に呆れてるの!

 

「やめろ……!離せぇ……!」

 

「もう…直人ったらツンデレなんだから…♡」

「別に恥ずかしがらなくてもいいんだよ?」

 

「その台詞が既に恥ずかしいんだよ!分かれ!」

 

言いながら、力任せに腕を動かそうとするも、一向に身体から離れる気配が無い。

 

っちっきしょお……!

 

力が強いんじゃなくて、コイツはどうやったら力を入れられないかを知ってるんだ……!

 

だからこそ力比べでは、男というハンデを存分に使い勝って来たのに、そもそも使えないんじゃ話にならない。

 

もどかしい……!

 

「既成事実さえ作れば…直人優しいから」

「きっと一緒になってくれる…よね?」

 

確かに……!

確かにそんなことになれば、捨てるなんてしないけれど……!

出来るほど良心は腐っていないけれど……!

 

「今は駄目だ…今は……!」

「こういうのはちゃんと……好き同士でやんねぇと…!」

 

「直人は…私のこと…嫌いなの…――?」

 

碧海の不安そうな、力無い今にも泣きそうな声に、俺は必死に反論の言葉を探す。

自分も他人も悲しい思いはして欲しくない。

 

それが人情というものだろう。

 

「いや……嫌いじゃない……!」

「じゃないっていうか、多分好きだ…女として…!」

「でも…なんか違うんだよ……!」

 

「違う……?」

 

さっきとは幾分明るい、不思議そうな声で尋ねる。

 

「ああ。」

「なんて言うか…」

「好きなのに好きじゃない…みたいな…」

 

寝起きの他人の布団に入って、関節を固定して身動きをとれなくするような奇行種なんて、好きになれる訳ねぇだろと言えばそれまでだが、だが違う。

 

そんな理由じゃない。このもやもやは。

 

ああ、もどかしい。

自分のこのもやもやをちゃんと碧海に伝えたい。

分かって欲しい。

 

自分の感覚を、碧海にも理解して欲しい。

理解した上で、待っていて欲しい。

ちゃんと、()()()()()()()

――まで?

 

「――()()()()()()()()()。」

「そうだ――まだだ。」

「俺は碧海のことをきっと好きになるって分かったんだ。」

「でもそれは今じゃない。」

 

俺は、なんとなく気付いていたのだろう。

このもやもやが、謎が、好きになれない理由が、解けたら、分かったら、きっとコイツが好きになると。

 

碧海を好きになれない原因は、碧海を好きになれない理由にあるのだ。

当たり前だよそんなこと。

 

「だから…待ってて欲しい…。」

「ちゃんと分かるまで。」

「ちゃんと――好きになれるまで。」

 

「……………」

「うん。分かった。」

 

ゆっくりと言うその声には、碧海のめいっぱいの優しさが込められていたのだろうと思う。

 

「なんて……」

 

「へ?」

 

「言うと思ったかぁ!」

 

「痛いたイタいたい!!」

 

碧海の腕に力が込められ、華奢な腕が関節に()り込む。

 

「折角…直人を襲うチャンスなのに…」

「不意にする訳ないじゃん!」

 

清々しい程に明るく言い放つ。

 

「ふざけんな!」

「今良い話風だったろーが!」

 

「大丈夫!」

「新婚生活の方が良い話になるから!」

 

「大丈夫じゃねぇ!」

 

コイツ全く人の話を聞いてない!

 

「さぁ直人…覚悟を決めなさい…!」

 

「覚悟どころか関節も極まってるから!」

 

痛いって!

叫んでないとホントにキツイから!

ヤメテ!本当にヤメテ!

 

「あ!ちょ!お前顔近づけんな!」

「あ、ああ、あああ――」

「ああああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

そう都合良く、ハッピーエンドにはならないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――追伸

悲鳴を聞きつけた母さんにより、貞操は守られました。





「ちなみに、直人はタイムトラベラーではありません。
紛らわしい描写をしてすいません。」
って、昔は書いてたんですけど、タイムトラベラーと勘違いする部分は一体何処にあったのやらって感じです。

これ読み返して「何がちなみにだよ」ってイライラしながら突っ込んでしまいました。

混乱させてしまったかもしれませんね(遠い目)――。
ホント、失礼しました。
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