四話です!
どうぞ!
01
今日は土曜日。
悪夢&碧海による物理、精神的攻撃により、疲労困憊の今日この頃。
皆様如何お過ごしでしょうか。
元気?何それ美味しいの?人名なの地名なの?
うちのクラス、引いては知り合いにはそんなどストレートな名前(貶してる訳ではない。)の人は残念ながらいない。
いるのなら来てほしい。
俺に元気を分けてくれ…。
ただ、ただただただ、目の前にいるこの女は疲れを知らないらしく、元気なんて分けてもらう意味も無いらしく、いつも通りテンションマックスである。
分けてくれよ…。
「さあ直人!」
「ハイ。」
「さあさあ直人!」
「ハイ。」
「今日は土曜日です!」
「ハイ。」
「何処かに遊びに行きましょう!」
「気を付けてな。」
そうかまあ土曜日だし、碧海も遊びに行くのか。
そこら辺は普通なんだな。
学校の友達も多いみたいだし、その友達とでも行くのだろう。
碧海に限って事故に巻き込まれるなんて(起こすなんてもっと)有り得ないけれど、一応は心配なので、その意を示そうかと思ったのだ。
声に出すことは大切である。
「うん!ありがとう!」
「ところで、何処に行きましょうか!」
「うーん……。どこが良いかな?」
それをどうして俺に聞くのか分からなかった。
一緒に行く筈の女友達とでも相談すればいいだろう。
と、思いもしたけれど、俺はコイツに敵意を持っている訳でも、嫌っている訳でもないので、考えてみることにした。
女友達と行く訳だから……いや、男と一緒にデートかも知れない。
どうして俺は女だと確信したのだろうか。
無意識に碧海が男と会って欲しくなかったと思った、なんて理由なら大歓迎なんだが、よく考えれば、学校で高嶺の花と化している碧海と話している男子なんて俺以外存在しなかったぜテヘペロという理由だろーな、と一人で納得した。
こんな美人なのに嫉妬しないなんて、俺は男として終わっているのかもしれない。
俺のストライクゾーンは少女、熟女。
もっと酷いなら男、なのかもしれない。
……怖。
……止めよう、これ以上俺の闇を探る必要は無い。
俺は、この言い知れない不安をこれ以上大きくしないように、思考を本題へ移す。
さて、女友達か彼氏(?)か、どちらと行くかはさておき、碧海が好きそうなところを選べば、まあなんとかなるだろう。
遊びに行くのなら遊園地がベターだな。
遊園地と言えば、昔碧海の家族と俺の家族と皆で行った時には、碧海はお化け屋敷で有り得ない位、はしゃいでいた思い出がある。
俺は行くのを渋ったけれど、そんな俺を引き摺ってまで、意気揚々と、あからさまに何か出そうな建物に駆け寄っていた。
それからも度々家族ぐるみで遊んだことはあったが、遊園地に行った時は毎回、お化け屋敷に繰り出していた。
最近はもう家族同士で遊びに行くなんて、そんなことは無いけれど、多分、碧海の趣味は変わってないんじゃないかな?
俺がホラーが苦手なのを知ってて、「怪物レストラン」やら「着信来る」やら「隣の怪物君」(あれ?)やらを、見よう!と勧めてくるのだから。
その度俺は相変わらず、画面の死角から異物が飛び出して来る度に肩を震わせ、碧海に笑われるという二重苦を味わっている。
「いつ、何処で来るか分からない」と言うことが、ホラーの最も怖いところだ。
アイツがホラーを怖がらないのは、その怖いところが、アイツの頭脳では既に予想出来ているからではないか。
それならば俺みたいな凡人が怖がるのは仕方が無いと、一人脳内で言い訳をしている毎日だ。
しかし、今回は俺と行く訳ではない筈なので、何の遠慮も無く薦めさせてもらおう。
「お化け屋敷ってのはどうだ?」
「お前、前は凄ぇ好きだったろ?」
「え……?」
「…………」
「直人…覚えててくれたんだ…!」
「え?」
「あ、うんまあ。」
覚えててくれたんだ…!って言われてもなあ…。
それに俺はどう返せばいいんだ。
取り敢えず反射的に返事をしてしまったけれど、なんだか、感無量、と言った風に口元を押さえている碧海にそれは不要だったかのように思う。
「そうか…お化け屋敷…。」
「ふふ…。」
そうやって小さく、独り言のように笑って見せると、
「じゃあ、ちょっと着替えて来るね!」
と言って、嵐の如く去って行った。
別に着替えに行くことも言う必要は無いし、「来る」必要も無いんだけど…。
なんだか碧海には、変に律儀なところがあるから、まあ気にしないでおいたほうが賢明だろうな。
俺は嵐がいなくなった静かな居間で、大きく欠伸をする。
そのままゆったりとのっそりと立ち上がり、その場を後にする。
フローリングを小さくギシギシと鳴らしながら、二度寝をするべく、二階の自分の部屋へ向かう。
碧海ももう高校生なのだから、五時以前に帰って来るなんてことはしないだろうから、きっとゆっくり寝て居られるな。
ちょっぴり、不謹慎な安堵感を抱えながら、俺は階段を一段一段、登っていく。
――カチャン……。
不意に、そんな音が聞こえた。
聞き慣れた音だった。
その音は単に、俺の家のドアの開閉音だ。
――誰か来たのか…?
不思議に思って俺は、恐る恐る、後ろを振り向く。
……すると…そこには……
「あれ?まだ直人着替えてないの?」
碧海がいた。
「なんだ、お前か。」
着替えるの早くね?
そんなに楽しみなの?
…そう言えば、「来る」って言っていたな。
正直、俺の所にくる意味は全く無いんだけど。
いや?母さんに用があるのかな?
……まあ知らん。
碧海が母さんに用があるなら勝手に済ますだろう。
今更喋りにくいなんて間柄じゃないからな。
「なんだって何ぃ?」
若干ふざけた様子で怒りを
ここで頬を膨らませでもすれば、完全なるぶりっ子だなと、どうでも良いことを考えるのは俺だけだろうか。
ああそうだよ俺だけだよ。
「ま、いいや。」
「ほら、早く行こう?」
言うが早いか俺に詰め寄り、引き合うように、碧海は俺の右手首を掴む。
「え?」
うん?
状況が理解出来ていない俺は、碧海のその行動に、素っ頓狂な声を上げる。
「え?じゃなくて、」
「行くんでしょ?
「は?」
「え?」
「いやー直人が自分から行く、なんて言うとは思ってなかったよ。」
「私に気を遣ってくれたんだよね。」
「ありがとう♡」
と、満面の笑みを浮べながら、強引に腕を組む碧海。
俺はその、清々しい笑顔に、人間として力尽くでは抵抗できなかった。
しようとは思わなかった。
「え!」
「ちょっと待って勘弁!」
「ほ、他の場所に!」
「待って!」
「頼むから!」
ただし、俺はひたすらに碧海に言葉を尽くした。
――まあ、結果は分かっているだろうけど。
02
「……………。」
「直人…泣かないで。」
「泣いてねぇわ!」
口では
まだお化け屋敷を、俺が克服出来ていないと分かってコイツは俺を引っ張って来たのだ。
俺が一歩歩く
いや分かるよ?
確かに行けばって言ったのは俺だよ?
他人と行くなんて安心して勘違いしていたのは確かに俺だよ?
でもね?
コイツは俺の勘違いに気付いて連れてきたんだよ?
分かってたんだよ?
鬼じゃない?
お化け屋敷よりよっぽど怖かったよ?
コイツの笑顔のバックに狂気を感じたよ?
「なんだ、泣いてないのか。」
「泣き顔を見たかった気もしなくもなかったのに。」
「てめぇを泣かせてやろうか……!」
「徳川宣言だね!」
「殺してやろうか!?」
俺は織田派だよ馬鹿野郎。
それに、お前はホトトギスってぇより、怪鳥ロプロスだろうが。
こっちが取って喰われるわ。
「駄目、それじゃあ直人との新婚生活が…。」
「まだ言ってんの!?」
「ビッグドリームだよ!」
「果てしなくちっせぇよ!」
果てしなく小さいと言う文に些か矛盾を感じる気がしなくもなくもなくもないけど、それは碧海も同じだろう。
俺のことを想ってくれている(筈…勘違いでなければ)のに、わざわざお化け屋敷に引き摺って行くこととかな。
お蔭で散々な目に遭ったが。
きっとコイツは俺が怯えている表情を見て、面白可笑しく思っているに違いない。
「ハァ……。」
「どうしたの直人?」
「溜め息なんかついて。」
「分かんねぇのか?」
「いや、分かるけど」
「聞くのが礼儀かなと。」
どんな礼儀だよ。
「そんなに嫌なんなら言わなければ良かったのに。」
「俺が行くとは思わなかったんだよ。」
「私が直人以外とお出掛けなんて機会無いと思うよ。」
「いやんなことはねぇだろ」
「あるよ。」
突然、寂しげな表情に変わる。
「だって私友達いないし。」
「は?」
「毎日女子とキャッキャしてるじゃねぇか。」
それももう五月蝿いくらいに。
教室の真ん中で固まりやがるので、迷惑ったらありゃしない。
休み時間毎そうなのだから、仲が悪い訳はないと思うんだが。
「いつもろくな会話してないもん。」
「誰も
拗ねたような物言いの碧海。
私を見てくれないとは、どういう意味だろうか。
「皆私の才能とか風体しか見てくれないんだよ。」
「
「……はぁ…。」
意味は全く理解出来ない。
いや、意味が分からないのではなく、どうしてそこまで深刻になるのかが理解出来ないのだ。
辛そうに呟く碧海が不快にならないよう、気の無い返事を返すことしかできない。
「でも、」
「直人はちゃんと私と喋ってくれるから。」
「…私の意地悪な所を知っても、どっかに行かないから…。」
「だから――好き。」
「よくそんな恥ずかしいこと言えるな。」
「あれっ?」
「そこは『そんなに俺の事を…』ってなるとこじゃない?」
「『結婚しよう!』ってなるとこじゃない?」
「お花畑かお前の頭の中は。」
なるか。
そんな都合良く。
お前が俺を好きな理由なんて聞かされても、恥ずかしいだけだ。
俺の人見知り力を舐めんなよ。
それにお前はともかく、俺はまだ結婚できないだろうが。
「むぅ……。」
「勇気出したのに…。」
「間違ってる。勇気の出し方絶対間違ってる。」
「知らないからね。」
「私を好きになった時はもう、別の人の女になってる、なんてオチになっても。」
「と、言われてもなぁ…。」
別の人の女…か。
……想像できんな。
「『女心と山の空』と言うしね。」
「わざと間違えたろ。」
正しくは『女心と秋の空』だ。
いくら俺が馬鹿だとは言え、それは下を見過ぎというものだ。
まあ確かに山の天気は変わりやすいと言うから、意味的には間違えてはいないのかもしれないけど。
「後悔しないためにも、取り敢えず籍を入れて――」
「歳を考えろ。」
俺まだ十六だってばよ。
「…分かったよ。」
「お化け屋敷にも付き合ってもらったし。」
「取り敢えず今日は帰ろっか。」
「ん?…ああ。」
よっぽど一緒にお化け屋敷に行ったことが嬉しかったのだろうか。
いつもよりも数段上機嫌で言う。
拍子抜けした俺は、間抜けな返事を返してしまう。
碧海が嬉しいなら、まあ来た甲斐があったというものだ。
俺は嬉しそうにスキップして歩く碧海の後ろ姿を追うように、椅子から立ち上がった。