Don't be saying   作:ショート

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ナンバリングは間違えではありません。



五話:碧海

01

 

「御早う♡」

 

私は直人の耳元で、小さく囁いた。

いつも通りに。

 

いつも通りに朝起きて、いつも通り直人の部屋に侵nゲフンゲフン、あくまで許可を取って入らせて貰って、いつも通りに直人の寝顔を眺めて。

 

それからいつも通りにモーニングコール。

自分の耳元でそんな声がすれば、私は鳥肌モノだけれど、直人は馴れっこなようで、特にリアクションすることも無く、瞼をのっそりと開いた。

 

寝起きの直人はいつもちょっと機嫌が悪い。

その不機嫌さは、直人の鋭い視線に表れている。

いつも通り。

 

どうやら直人は、いつも通りお眠なようだ。

 

半開きの瞼をゆっくりと閉じた。

 

……………………。

分かってたけれど、起こしに来てその反応だと、いつも通り腹が立つ。

 

直人が眠いのなら、そのまま寝かせておいてあげたいけれど、(悪戯もしたいが…)今日は平日。

うちの学校(どころか全ての学校の)登校日である。

このまま二度寝してしまったら、直人は遅刻してしまうに違いない。

 

それだけは避けなくては…!

と、思いいつ起こしに来るのだ。

 

お世辞にも賢いとは言えない直人は、テストでは評価があまり貰えないのだから、遅刻や無断欠席なんてもってのほかなのである。

 

留年したところで、私が養っていくので何の問題も無いけれど、(いくら心中のことでも、流石にこの発言は恥ずかしい…。)卒業が遠ざかるのは勿論、恥を掻いて欲しくない。

 

だから私は、心を鬼にして、直人を起こさなければならないのだ。

 

私は、この葛藤が、直人に少しでも伝わるように、若干威圧気味に、

 

「御早う。」

 

と、言った。

勿論、「♡」は無い。

そして、直人の閉じた瞼を無理矢理開かせる。

 

「起きなさい。」

 

「おはようそしておやすみ。」

 

そう言うと直人は私の腕を払い、背を向ける。

うん。まあいつも通りだけど。

 

それなら私もいつも通り対応するだけである。

単純な作業。

布団を捲って?

入るだけ!

 

「って布団に入ってくんな!!」

 

直人は叫びながら、私を布団から蹴り出そうとしてくる。

蹴り出す、なんて言い方をしたら、何だか乱暴だ。

足で押し出すようにしている、と言った方が正しい。

ほら、手は布団を押さえているから使えないし。

 

しかし、直人は男の子。

当然、私より力持ちである。

今もそれは例外ではなく、手加減をしてくれているのだろうが、それでも私は押し負けている。

全力で抵抗しているにも関わらず。

「流石私の直人!」と言いたいところだが、今はそんな場合ではない。

 

私は…直人をからかうのには全力だ!

と、言う訳で、最終兵器。

 

「起きないと、お義母さんに『襲われた』って言うから。」

 

「いやーよく寝たわ!」

「うんもうバッチリ目が覚めた!!」

 

最終兵器を使った途端、直人はは勢い良く布団から飛び起きた。

 

既成事実を作ろうとしなければ起きないのだ、直人は。

例え嘘でも、法螺でも。

直人が起きないのは「既成事実を作って」と言うダチョウ倶楽部的なフリかとも思ったけれど、やっぱりそう言う訳ではないらしい。

うーん…直人心は複雑である。

 

まあ、取り敢えず今は折角直人の布団の中に居るのだ、存分に満喫しよう。

 

「………何やってんだ。」

 

私が枕に顔を埋めていると、直人の呆れ声が聞こえて来た。

 

「ふふふぉふぁふぇっふぇふぁふぅふぉふぉふぃふふぁふぃっふぇふふふぁん。」

 

「いや分からん。」

 

「ふぁふぁふぁ――」

 

「顔上げろ!」

 

「だから!」

 

私はガバッと上体反らしのように顔を体ごと上げて、一気に捲し立てた。

 

「冬の汗って夏のよりも臭いって言うじゃん!」

 

「………?」

 

「冬の汗って夏のよりも臭いって言うじゃん!」

 

「何で二回言った!?」

 

大事なことなので。

 

「……お前が変態と言うことが分かったよ。」

 

直人は呆れ気味で言う。

 

「今更?」

 

「開き直るな!」

 

「直人と会った時からもう直人フェチさ!」

 

「殴っていい!?」

 

直人はほんのりと頬を染めながら、握り拳を見せつける。

何故直人が恥ずかしがっているんだ。

一番恥ずかしいのはこっちだよ。

 

「まぁもういいや……。」

「ほら、部屋から出なさい。」

 

部屋つうか布団から出ろと言わんばかりに、私を外へ促す。

 

「?」

「どうして?」

 

まあ、理由は分かり切っているけれど。

 

「着替えるからだよ。」

 

「?」

「どうして?」

 

「着替えるからだよ!?」

 

「?」

「どうして?」

 

「……………」

 

わざとらしく首を捻る私に、直人はいい加減腹が立ってきているようだ。

直人をからかうのは、これだから止められない。

 

それに、直人は今まで何をしても私から離れないでいてくれたから。

と、数々の嫌がらせを、しみじみと想起していると、いきなり視界が暗くなった。

 

このモフモフ感は……布団か。

あ――暖かいなぁ……。

 

と、直人の暖かみを噛み締めていると、腹の辺りにものすごい衝撃が走る。

何か重いものがのしかかってきた。

私は肺中の空気を全部吐き出すと同時に、蛙を潰した時のような声を出した。

 

「ぐぇっ…。」

 

それから衝撃は来なかったけれど、ダメージは深刻で、暫く動く気になれず布団にくるまったままでいた。

 

少し固まっていると痛みは少しずつ治まってきた。

 

私は布団を剥ぎ取る。

 

直人は、下半身と腕を制服に通した状態になっていた。

 

「ちょっ……着替えるの早すぎる…。」

 

「残念そうな顔してんじゃねぇ。」

 

直人はボタンを掛けながら溜め息を吐く。

 

「ほら早く布団から出ろ。」

 

「おかしい…!」

「私が起こしに来た筈なのに…。」

「いやでもそれはそれで…。」

 

私は直人の台詞を無視して、「直人に起こされるシチュエーション」を想像する。

 

あぁ――良い……。

 

直人の私を見る目は、どうしようもなく乾いていたけれど、そんなことは関係ない。

私は今、直人に御早うと囁かれているのだから。

 

――流石にこれはイタイな。

 

自分でも引いてしまう程に気持ちが悪い。

しかし、想像してみればやはり幸せな風景である。

 

窓から射し込む温かい朝日。

半身を起こした私の隣には、もう着替え終わった直人が、素っ気なく布団から出るように促してくれる。

幸せだ。

うん大丈夫。

――私は今日も直人が大好きだ。

 

02

時は流れて昼休み。

私はいつも通り、直人と机合わせで昼飯を食べている。

お手製の弁当だ。

 

「どう?美味しい?」

 

「ああ。この前の生ゴミ味に比べれば、死ぬ程美味い。」

 

「うぅ……。だからそれはごめんて……。」

 

生ゴミ味とは、私が「私の料理は不味い」と言った時、漏れなく能力が発動してしまって、言葉通り不味くなった時の弁当の(中身の)味である。

 

そんなつもりは無かったとはいえ、最愛の人に生ゴミを食べさせたなんて、私史上最高の汚点である。

 

「冗談だよ。んなそんなに気にすんな。」

 

直人は、文字通り冗談めいた笑みを浮かべる。

 

「うん……。」

 

「ま、俺は料理全然できないから、凄いとは思う。」

 

と、しみじみと呟いた直人は、次の卵焼きの側面を覗いた途端、目を丸くして、

 

「神かお前……!」

「卵の神か……!」

 

と、言う。

 

やっと見たか、卵焼きの白身で作った「I LOVE YOU」。

まぁ、作るのに十分程度しか掛からなかったけれど。

それこそ能力を使えば秒単位どころか、刹那で終わってしまうけれど、これはちゃんとこの手で作った。

 

こう…好きって言うのは…自分の手で伝えなきゃね?

 

「ドヤァ……。」

 

私は恥ずかしさを紛らわす為に、取り敢えずドヤ顔。

 

「うぜぇ……。」

 

「『これは俺も受けざるを得ない!結婚しよう!』」

 

「とはなりません。」

 

「ちぇっ…。」

 

相変わらず直人は素っ気なかったです。

 

しかしそれでも、直人は美味しそうに弁当を食べてくれている。

私の悪戯にもちゃんと反応してくれる。

私に優しくしてくれる。

私といてくれる。

基本的に、これは私だけ特別な待遇な訳じゃないけど。

 

直人は皆に優しくて、しかも本人はそれを自覚していない。

「人の嫌な事を言ってはいけません。」とか、

「相手の気持ちを考えて行動しなさい。」とか、

そんな道徳的な考え方が、行動が、当たり前だと思っているのだ。

 

だから、直人が理由も無く他人を嫌うことは無い。

今までも無かった。

 

私が直人を好きな理由は、まあそういうことだろう。

そういう理由()あるのだろう。

 

確かに考えてみれば、直人が血も涙もない極悪人だったならば、好きになんてなる筈がないだろう。

だったら尚更、直人が優しくて良かった。

優しい直人を好きになれる人間で――良かった。

 

03

今日は以上のこと以外、特別なことは何も無かった。

平凡だった。

 

しかし、つまらないということは無かった。

日常が平凡でつまらないと、小説やドラマのフレーズで見たこと、聞いたことはあるけれど、実際はそんなことはない。

 

少なくとも私は。

 

平凡な生活が、全てつまらないなんてことは無いのだ。

全てがいつも通りだったとしても。

 

――放課後、榎本君が体育の石塚先生に、荷物運びとしてこき使われていること以外、いつも通りだったとしても。

全てがつまらないなんてことは、有り得ないと思う。

 

04

「なあ直人。」

 

次の日の昼休み、いつも通り、机を向かい合わせて飯を食べていると、クラスの人気者(?)の榎本君が直人に話し掛けてきた。

 

名前を呼び捨てなんて、もし榎本君が榎本ちゃんだったら拳を御見舞することだろう。

 

「ん?なんだ?」

 

「俺って昨日放課後…何やってたっけ…?」

 

「は?石っちに頭でも打たれたか?」

「お前石っちの荷物運びやってたろ、体育倉庫まで。」

 

――噴いた。

 

石っちって…。

 

体育の石塚先生は筋骨隆々の体育会系熱血な男性である。

「~っち」なんて、可愛い渾名はギャップがあるのだ。

噴くのは仕方が無い。

 

「んーー…。」

「分からん思い出せん。」

 

本当に分からないようで、不思議そうに首を捻っている。

 

「それ大丈夫…?榎本君…?」

 

「いや、俺も本気で心配になってきたわ。」

「大丈夫かな俺…。」

 

「いやもう既に大丈夫じゃないだろ。」

 

――噴いた。

 

「若年性…ってこともある()()()()()()()()()……。」

 

若干むせ気味になりながら、私は呟いた。

若年性とは、アルツハイマーのことだ。

かもしれないからね、なんて遠回しに言ったのは、能力が発動しないように。

本当にアルツハイマーになんてなってしまったら大変だ。

 

「え」

「嘘マジかよ…。」

「余計怖くなってきた…。」

 

榎本君は青い顔になり、少し身震いする。

 

「今まではこんなことあったのか?」

 

「いや、寧ろ物覚えはいい方だぜ?俺。」

「URLとか一発で覚えられるし」

 

「嘘!?」

「凄いね…榎本君。」

 

私も暗記は得意な方だけれど、あの長い文を一発とは凄いな。

 

こう言っては悪いが、何だか意外だ。

私はあまり接点が無いので、榎本君のことは良く知らなかったのだ。

顔と名前が一致する程度でしか。

 

「じゃあ…昨日突然ってことか…。」

 

直人が悩ましげに首を傾げる。

 

「うーん…やっぱり思い出せんなぁー。」

 

榎本君は腕を組み、唸りながら首を捻っている。

 

「まあ、今後同じようなことがあったら病院に行く、でいいんじゃないかな。」

 

私は、軽いトーンを意識してそう言った。

私達に専門的な知識は無いし、一度や二度の物忘れなどよくあることだ。

急いで病院に行く必要もあるまい。

 

「まあそうだな。」

 

直人は少し悩んだ後、私に同調した。

 

「うーん…まあそうなるよな。」

「……………」

「よしっ!考えないことにしよう!」

「ありがとな二人共。」

 

来た時とは裏腹に、榎本君はペカッと明るく笑い、軽く手を挙げて去っていこうとする。

 

「「どういたしまして」」

 

私達は実質彼に何もして挙げられていないのだけど、お礼をされたら返すのが礼儀だろう。

と、思い声を出すと、偶然にも直人と声が被ってしまった。

 

……何だか照れるなこういうの…。

 

私は照れ隠しなのか、ただ何となくなのか分からないが、直人にドヤ顔をして見せた。

 

「じゃあな新婚共。」

 

「違うわ!」

 

「違うの!?」

 

「違うわ!」

 

「ずっと嫁だと思ってたのに…。」

 

「まず空気を読もうな。」

 

「読んだら結婚?」

 

「しません。」

 

「ちぇっ…。」

 

こんな問答を、いつかした気がする…。

 

「幼稚園の頃は……!」

 

「昔は昔、今は今。」

 

今日の昼休みも、いつも通りこんな感じで、二人平行線の会話をずっとしていた。

 

飽きもせず。

 

ただ俺はその間中、榎本君の物忘れのことが引っ掛かっていた。

数時間の記憶を忘れるなんて、普通では有り得ないのではないか?

それこそ病気でない限り。

 

――嫌な予感がするのは、私だけだろうか…。

 

私は言い知れない不安を抱えながら、いつも通りの一日を過ごした。

 




受験の関係で、投稿が不安定になります。
いつもろくに期限どおり投稿出来ていない上に何ですが、ご了承ください。
書き始めたばっかなのにな……。
とにかく、すいません。

追伸
脳噛ネウロを読み返したら「刹那」って単語を使いたくなりました。
春川さんに同情。
(れい)の世界では、ほのぼのと生活していて欲しいです。

更に追伸
「六話がない」というコメントを頂いて、分かりやすくサブタイトルを変えました。
だからどうしたって訳ではないですが、一応報告させていただきます。
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