ねぇねぇ、遅れると思った?
ざんねん。
時間通りだ。
01
今日は平日。
いつも通りの放課後。
俺は案の定、碧海と並んで下駄箱まで歩いていた。
ここらには窓が無く、外は伺い知れないけれど、天気は清々しい程の快晴。
いくら夕方とは言え、冬とは思えない程に暖かい。
お蔭で俺は、上着を脱いでワイシャツ姿である。
しかしこの学校の女子の制服は、重ね着するタイプのものではなく、碧海は薄着が出来ないでいる。
碧海は公衆の面前で半裸にはならない。
流石に。
まあコイツが脱いだら、男子にとってはご褒美だろうけれども。
「お前ってさ、碧海。」
「ん?何?」
「告白とか、無いの?」
何を脈絡の無い話をしているんだと言いたい気持ちは分かるけれど仕方が無い。
今まで碧海が呼び出されたり、
悪戯好きという点を差し引いても、(周知であるかは定かではない。)モテてモテて仕方が無いと思うのだけど。
「?…コクハク…?」
「ああ!告白ね告白。」
一瞬、意味が理解出来ていないようで固まっていたが、直ぐに分かったようで、「分かった!」と言うように表情を明るくした。
「あるよ。」
「現に今日呼び出されてるし。」
「マジか。」
と、俺が見えない右手から、封筒を渡す。
取り敢えず俺はそれを受け取り、開封済みの封筒から、手紙を一枚取り出した。
封筒は有り得ないくらいにピンクピンクしていて、女子の物の様だった。
「えっとなになに…『放課後校舎裏に来てください。』?」
可愛い丸文字で書かれたそれは、どう考えても女の物としか思えなかった。
「これ…本当にお前宛か…?」
「うん。封筒に宛名書いてあるでしょ?」
碧海が封筒を指しながら言う。
促されるままに封筒を裏返すと、手紙の本文と同じ文字で、「碧海さんへ」と、書かれていた。
見間違えようもない程に丁寧に。
「もう…そういう性癖の女としか…。」
「だよね…。」
碧海は苦笑いを浮かべる。
最近、同性愛者が増えているらしいけれど、手紙の相手には残念な話だが、碧海にその毛は無い。と、思う。
「でも…行ってあげなきゃ可哀想だからさ。」
「暫く直人は待っててくれないかな?」
「覗いても?」
「私に言ったら覗く意味無いでしょ。」
「…覗くなら、直人の責任でやってね?」
碧海は、呆れ顔でそう言った。
でも、律儀に会いに行く辺り、碧海は相変わらず優しいな、と思う。
俺に対しては疎かになっているけれど、(悪戯)頼まれ事は(納得できる理由があれば)確実にやるし、他人を嫌うことは、今まで無かった。
結構ノリも良いし。
その事を思えば、何で俺がコイツを好きにならないかということが、一層分からなくなってくる。
けれど今は、碧海が告白されるというのだ。
こんな疑問は後でいい。
今に始まった疑問でもないし。
雰囲気からして、碧海は断るつもりだろうけれど、まあそれでも行く先が気になってしまうのが、男という生き物だろう。
他人の色恋を、こんな風に見てしまうのはいけないだろうけれど、ワクワクが止まらないのも確かだった。
02
俺は今、校舎裏の植木(歩道と車道の境にある、あの低木)に紛れていた。
勿論、碧海への告白を覗く為だ。
相手は俺達が来る前に、既に待っていたので、校庭の方から隠れながら低木を伝って、ここまで来た。
音を立てては気付かれてしまうので、なかなかの重労働だった。
まあでも、その苦労を吹き飛ばすぐらいの衝撃を、手紙の主を見た時に受けてしまったので、重労働をした意味はあった、と言えるが。
衝撃というのが、単に手紙の主が男だった、というだけなのだけれど。
しかも、ゴリゴリに筋肉質なゴリラ野郎――ではなく、内気で、制服の肩パットで広がった肩が、全く似合っていない、中性的な少年。
なんだよ。
そこは筋骨隆々の野郎じゃないのかよ。
強面なんだけど、案外字は可愛いという、ギャップ萌えが成立する場面じゃないのかよ。
もし、こんな話が小説や漫画だったら意外性が皆無で、糞つまらないだろう。
と、少年に理不尽な八つ当たりをしていると、俯いてモジモジしていた少年が
「あの……」
と、そのまま声を出す。
間髪入れずにがばっと顔を上げ、言う。
「いつから…気付いてたんですか…?」
と。
―――は?
碧海も同じことを思っているようで、ポカンとしている。
「……何の話…?」
「しらばっくれないで下さい…!」
「『聞いているんでしょ?』って…言ってたじゃないですか…」
「『出てきなさい』って…。」
「?……。」
碧海は未だにピンと来ていないのか、首を捻っている。
かと思えば、度々チラチラとこちらを見てくる。
助け?知らん。
「あ!……そう言えば…。」
何か思い出したようで、碧海が声を上げる。
その次の瞬間、少年は驚いたように、
「え!当てずっぽう?!」
と、叫ぶ。
と同時にしまったと言うように、いそいで口を、両手で塞いだ。
「ふぅん…成程…。」
碧海は不敵な笑みを浮かべる。
「君は…心が…読めるんだね…。」
03
碧海へのあの手紙は、告白の物ではなかったらしい。
少年は同性愛者でも、ないらしい。
少年にとって碧海は、確かに恋愛対象ではあったらしいが、それ以上に、自分の秘密を知った、危険人物だったと言う。
碧海の「心が読める。」という発言は、文字通りの意味だ。
つまり、少年が
少年の能力は、「任意の対象の思考を読む」こと。
悟り妖怪のような能力だ。
まあその能力の発動にも条件があって、ある程度近付いてないといけない上に、対象を視界に捉えないといけないらしい。
そんな能力、鎌でも掛けない限り見付けられないだろう。
それでも、それを見付けた碧海は、やっぱり天才だなと思った。
それで俺は碧海に、どうやって見付けたのかを聞いてみた。
人間として、知りたいと思うのは当然のことだろうと思うんだ。
すると碧海はあっけらかんとして「冗談半分で『聞いているのは分かってるんだから、出てきな。』って思ったら、偶然釣れた。」
と言った。
――感心して損した。
しかも、話す代償として、添い寝するという条件を嫌々呑んだというのに、あまりに割に合わない。
俺の貞操の危機が迫っただけである。
碧海に釣られたのは、少年だけじゃなかったらしい。
だとしたら俺は、どんだけ安い餌に引っ掛かってんだよって話だけど。
わざわざ勘違いするようなフレーズの時の思考を読んだ少年も、好奇心で釣られた俺も、何て不幸なんだ。
嘆くしかない。
っくっそ…。
添い寝とか色々駄目だろ。
恋愛感情は相変わらず生まれないけれど、エロい思考は生まれる訳で、添い寝なんてしたら、もう一人の俺が耐えられないかもしれない。
俺の俺が暴走してしまうかもしれない。
もしそうなったら、碧海は抵抗せず受け入れやがるだろうから、それだけは絶対に避けなければならない。
頭痛の種が増えた…。
折角碧海以外の能力者が見付かって、能力について何か手掛かりが見付かるかも、と期待していたのに…。
そんなに都合良く話が進むかって話なんだけど。
少年も碧海と同じように、「能力がいつからあったか分からない。生まれた時からあったような気もする。」らしい。
少年の能力も、あくまで
初めは、「どんなこと考えているんだろう」的な軽いノリだったらしい。
――その時はさぞ驚いただろう。
一番の驚きは、コイツに見付けられたことだろうけど。
しかも当てずっぽうと来たもんだ。
勿論能力は使っていないから、碧海の運は凄い。
少年だけでなく、俺も釣ったんだから。
――少年と言えば、まだ名前を聞いていなかったな。
確か一年生らしいから、今度聞きに行こうか。
04
夜の九時。
住宅街のこの場所も、昼間より静かになっていた。
日はもうとっくに落ちて、家屋からの明かりが点々と、街灯のない冷たい道を照らしていた。
流石に冬だ。
寝間着だけだと結構寒い。
白い息を吐きながら、儚く消えるそれを眺める。
カラカラと草履を鳴らしながら、ある家の前で立ち止まった。
迷うことも、躊躇うこともなく、インターホンを押す。
すると、家の中から、足跡が近付いて来る。
カチャっとドアの開く音が聞こえ、視線をそちらへ向ける。
「まあ碧海ちゃん♡」
「こんばんは。」
顔を出したのは直人のお母さん。
お義母さんは嬉しそうにニッコリと笑っている。
「こんばんは。」
「お邪魔します。」
「はいどうぞ。」
「寒かったでしょう?飲み物は何がいいかしら?」
「大丈夫です。」
「直人に暖めて貰いますから!」
「まあ…!」
「うふふ…。おアツイわねぇ。」
頬に手を当てて、笑みを零す。
「というか、直人に暖めてもらう為にわざわざ寒い思いをしたと言っても過言ではありません。」
私は得意げに立てた親指を、お義母さんに向けた。
するとお義母さんは、暫くそれを眺めて言った。
「そんなに恥ずかしいなら…言わなければいいんじゃないかしら…。」
「ふぇっ!?」
「顔、真っ赤よ?」
うふふと、悪戯っこのような笑みを浮かべるお義母さん。
くっそ…この妖艶女が…!
その乳を半分寄越せ!
お義母さんに恨みはないが、乳にはあるのだ。
「違いますよ!…これは寒かったから…」
「ハイハイ。」
「相変わらず可愛いわねぇ碧海ちゃん。」
ぐうぅ…。
「直人は鈍感だから、恥ずかしがり屋ってことは気付いてないんじゃない?」
「みたいです。」
「良いの?」
「それ位、直人が好きなんですよ。」
「勿論、お義母さんも世界で二番目に好きですけど…。」
「まあ嬉しい♡」
「それに…直人は私を嫌わないから…。」
恥ずかしいっていうのには多分、嫌われるかもって感情も入っているのだと思う。
内弁慶とかがいい例だろう。
嫌われるかも、とか、笑われるかも、とか。
そういうマイナスのイメージが固まったのが恥ずかしいってことなんだろう。
だから家族には言えて、他人には言えない、なんてことがあるんだ。
恥ずかしいの全部がこれって言ってる訳ではないけれど、少なくとも私は、そうだと思う。
私は、直人がどんな恥ずかしいことをしても嫌ってくれないって分かっているから、わざわざあんなに積極的になっているのだ。
その原動力が「好き」ってことなんだろうけど。
「だから…えっと…その…。」
お義母さんも好きだし、お義父さんも好きだ。
そう言いたいけれど、頬が熱くなって、頭が真っ白になって、上手く言えない。
「ええ。分かってるわ。」
と、優しく微笑む。
その笑顔を見ると、熱くなっていた顔も頭も落ち着いてきた。
安心できる笑みだ。
流石お義母さん。
私のことなんてなんでもお見通し――
「――婚姻届よね。」
「へ?」
「大丈夫。来年の誕生日に出せるようにしておくから。」
「えいや確かにそれは有難いんですけど…」
「だから取り敢えずそれまでに、既成事実を作っておきなさいな。」
…………。
私が言うのもなんだけど、
――鬼だなこの人。
自分で読んでも、なんか内容がとっちらかってるなぁと思いました。
すいません。