学校、昼休みにて。
クラスのエロ大臣、エロ本こと榎本栄吉と、その幼馴染みである
「蕎麦だろ。」
「いやうどんだろ。」
「いやいや蕎麦以外有り得ねぇって。」
「いやいやいやんな訳ねぇだろうどん一択だわ。」
「いやいやいやいや蕎麦じゃないなんて人間としてどうかと思うレベルだぞ。」
「いやいやいやいやいや――」
「いやうるせぇよ黙れよ。」
「もうお前らいっそ年越すなよ。」
いやいやいやいや――。
それはこっちの台詞だと、声を大にして言いたい。
「お前…!そんな言い方無いだろ!?」
「そうだぞ直人!俺達にとってこれは由々しき事態なんだぞ!」
「だから言ってんだろ
「「鬼か!?」」
何が鬼なものか。
寧ろ無関係な俺を「年越しは蕎麦かうどんか」、なんていう下らない論争に巻き込んでいるお前らの方が鬼だ。
「ってか、なんで唐突にそんな話になんだよ。」
「確かにもう二学期終わるけど…。」
二学期が終わると言っても、後二週間程度あるし、それよりも先にクリスマスがあるではないか。
このお祭り馬鹿共が、それを忘れる訳がない。
幾ら何でもこの年でサンタクロースを信じているとは思わないけれど、騒げるときにはとことん騒ぐのがこいつらだ。
恋人の祭典と言っても過言ではないクリスマスでも、それは変わらない。
「え?だってさ、大きい行事ってそれ位しか無くない?」
「ああ、そうだよな?」
「は?クリスマスは?」
「え…?…くりすます…?」
「なんだそれ…?もっちー、知ってるか?」
「は?くり…なんだって?知らんな。」
抹消しやがった。
「…まあいいや。で…話戻すけど――」
「は?『まあいいや』?」
と、栄吉が目を血走らせながら、俺の台詞を反芻する。
それに呼応して、盛貴が
「まあそーだよなぁ!二月二十四日五日が何の日かは知らないけど!?キャワイイ女の子と過ごせるような奴はな!?」
と、続ける。
「なんだよお前ら僻んでんのか?」
「あいつはただの幼馴染みだって。」
「あ"?だからなんだよ!」
「それを言うなら俺らだって幼馴染みだわ!」
「んなら付き合えば?」
「吐き気が」
「おうっぷ…」
想像したのか、顔を蒼くしながら口を押さえる二人。
なんで考えるかな…。
「まあ、とにかくだ。」
「俺が言いたいのはつまり末永くお幸せにってことだけなんだよ。」
「だな。」
「お前らもな。」
「おうっぷ…」
「吐き気が」
想像したのか、顔を蒼くしながら口を押さえる二人。
何なの?馬鹿なの?
それともわざとなの?
「………で?結局年越しは…?」
このままこいつらに主導権を握らせていたら、終わる話も終わらない。
こいつらに縛られるのは面倒なので、半ば強引だが、軌道修正することにした。
「別々にカップ麺食おうぜ。」
「そうだな。」
「おい屑共。」
「なんだよ直人。」
「藪から棒に屑だなんて。」
「そうだぞ直人。」
「流石にそれは酷いぞ。」
「その台詞をそっくりそのまま返してやるよお前ら。」
「ありがとう。」
「返してくれるなんて優しいなお前。」
「…………………」
「お前ら二人…もう無敵なんじゃないのか…?」
煮えたぎっていた怒りも、間のぬけた二人の返答によって呆れに変わり、強ばらせていた表情も、自然と弛んでいく。
こいつらを相手にするには、些か精神レベルが低過ぎた。
怒りによる疲れがどっと出て、もう何も考えたくなく、強引にそう結論を出した。
無敵なんじゃないのか――その言葉に二人は、向かい合いながら楽しそうに笑っていた。
「あ、そう言えば栄吉。」
「物忘れの件、どうなったんだ?」
「んぇ?ああ…。」
「いや、もうあれからは無いかな。」
「そうか、なら良かった。」
「え?物忘れって『石っち事件』か?」
と、ケラケラ軽薄な笑顔を浮かべながら話に入ってくる盛貴。
石っち事件とはこれまた、訳の分からない名称を…。
「ああ、そうだよ。」
「あの時のことは…俺全っ然!覚えてなくてさ…。」
「どんな過酷な労働させられたんだって話だな。」
と、盛貴はケタケタと笑う。
「いやホンット全然思い出せねぇんだよな…。」
「石っちが超能力者だったりしてな。」
……!
能力者…か…!
「笑えねぇ。」
言葉とは裏腹に、盛貴のものが伝染ったのかと思う程にケラケラケタケタ笑っていた。
が、しかし俺にとっては笑い事では無かった。
そうか、その可能性があったか。
普通、物忘れって言えば、ぼんやりと思い出せないのが一般的だろう。
しかし、栄吉は、ぼんやり思い出せないのではなく、はっきりと思い出せないのだ。
まるで切り取られたかのように。
それこそ病気ではないかと言えばそれまでだが、盛貴が言うところの「石っち事件」前後には、そんなことは全く無かったと言う。
それならば。
それならば、
…今の一瞬で、なんだか腑に落ちた。
栄吉の物忘れのことは、特に気に留めていた訳ではないのだけど、なんだか嫌な予感がしたのは確かだったのだ。
その嫌な予感の原因が能力者についてだったのかは定かではないが、結果オーライだ。
この際どっちでもいい。
石っちが能力者であろうとそうでなかろうと、栄吉の物忘れに、能力が関わっている可能性は十分にある。
「ナイス!盛貴!」
「え?そう?俺今の上手かった?」
ヘラヘラしている盛貴。
俺はそいつを他所に、これからどうするか、取り敢えず二人に相談しようかと結論付け、面倒な思考を一辺にシャットアウトした。
02
「ふぅん…成る程…能力…ねぇ…?」
その日の放課後。
俺達の教室にて、昼に降って湧いた奇跡的な考察を、碧海とに意気揚々と話した。
すると碧海は、なんだかつまらなそうにこちらを見る。
「なんだよその顔。」
俺の考えには何か穴があったのか。
それとも、俺が答えたことが気に食わないのか。
「なんだよって…ねぇ羽月君?」
「えぇ!?ぼ、僕ですか!?」
唐突に和真に話を放り投げる碧海。
ねぇ…?って言われたって、どう答えりゃあ良いんだよそれは。
「なんで和真に振った。」
「逆になんで羽月君に振らないと思った。」
そりゃ思わんだろうよ。
まあ、これは能力者についての話であって、関係者である彼に話を振るのは、なんらおかしなことではないのだけれど、如何せん適当過ぎだ。
「振り方が雑なんだよ。」
「そこは羽月君のセンスでどうにか。」
「えぇ!?」
「丸投げし過ぎだろ…。」
和真がどれだけのセンスを発揮すれば、この振りを上手く返せるのだろうか…。
「それに和真和真って呼び捨てで…。」
「男同志なんだから良いだろーよそれぐらい。」
和真はまだ一度も名前で呼んではくれないのだけど。
「むぅ……でもさ……。」
「…妬いちゃう…。」
「へぇ。」
「だから薄いって!反応が!」
「だからと言ってどうしようもないしな。」
「苗字で呼び合えば!?」
「それは酷いよ?!」
「あの…先輩…?僕は…構いませんから…」
おずおずと伏し目がちに言う和真。
「いーや構うね!」
「幾ら幼馴染みだからって、そこまで強制される言われはねぇ!」
「幼馴染みじゃないし嫁だし!」
「違うわ!」
「嫁だから強制される言われはあるでしょ!」
「嫁じゃねぇつってんだろ?!」
「ゴリ押しすんな!」
「私はゴリ押しされるの嫌いじゃない!」
「聞いてない!」
「そんなこと微塵も聞いてない!」
そしてなんでそんな誇らしげなんだ。
もうなんか吹っ切れた様な表情してるんだが。
「てゆうかよくそんな恥ずかしいこと他人前で言えるな!」
「直人相手なら別に!…直人相手なら………」
と言うと暫く硬直する。
段々と、碧海の頬が赤く、火達磨の様になっていく。
そして、その熱が最高潮に達したとき、思い切り屈み込み、昂揚した顔を隠すように頭を抱える。
「羽月君が……羽月君がぁ………!」
「……言わんこっちゃない。」
「……すいません。」
「和真、お前は悪くない。」
「僕は…何も聞いてませんから…。」
「………寝てましたから…。」
「…と言うか、そんなに聞かれたくなかったなら、僕の記憶を消せば…」
「いや…私、そんな非人道的なことはしないから…。」
頭を抱えたまま、震える声で答える。
「……はぁ…そうですか…。」
苦笑いで返す和真。
話が完全に脱線していることには誰も気付いていないようで、勿論俺もそんなこと微塵も気にしておらず、そのまま数十分、下らない雑談に興じていたのだった。
雑談その一
「大体もうクリスマスだっていうのに学校が終わらないとは何事だ。」
「知らねぇよ。」
「いつものことだろ。」
そして、毎年のように同じ愚痴を零している。
雑談その二
「小説とか漫画は面白い部分だけ抜粋してんの!」
「だから少女漫画みたいな桃色の青春なんて送れないんだよ!」
「ねぇ直人!」
「こっち見んな!」
お前が桃色の青春とやらを送れないのは、俺の所為じゃないからな。言っとくけど。
雑談その三
「あ、そうだ知ってた?」
「エアコンって、暖房より電気代安いんだって。」
「へぇ、そうなんだ。」
夏にはエアコン使うなって、散々言われたけどな。
扇風機<エアコン<暖房器具
ってことか。
雑談その四
「能力名とか付けたいよね!」
「そうか。」
「私の能力名はそうだなぁ……『ゼウス』!」
「痛い!」
鳥肌が立って、寒気がした。
雑談その五
「……私達って、なんで集まったんだっけ…。」
「そう言えばなんでだったっけな…。」
和真が、何か言いたげな表情をしていたが、結局何も言わなかった。
クリスマス終わってたけどな!