とある科学の能力模倣   作:Isaac 1,92

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能力に関して自己解釈が含まれます。ご了承の上、お読み下さい。


3話

 学園都市の路地はかなり複雑な構造になっている。

 

 

 ゆえに、土地勘がない場所で安易に裏路地を使って近道しようと思うと、迷ってしまうことが多々ある。櫻井結も、そんな失態をやらかしてしまったうちの一人であった。休日という事もあって浮かれたテンションで街を歩いたが最後、こうなってしまったら気分はダダ下がり。しかも、頼みの綱の携帯は充電切れ。今はもう歩くことすら億劫になりかけている少女がここにいる。

 

(ほんっと、最悪だわ・・・昨日のうちに充電くらいしときなさいっての・・・)

 

 と、心の中で昨日の自分を責めても事態が好転することは決してない。結はいま、あてもなく人気の無い裏通りをフラフラさまよい歩き、何とか人通りのある大通りに出ないかと願っている。

 しかし、彼女の運は今日、ピカイチで悪かったと言えるのだろう。突如、コンクリートが強くたたかれる音があたりに響いた。

 

「ああ?今なんつった?」

 

 音のした結の前方、人通りのない裏通りではいかにもな男が一人の少女に向けてガンを飛ばす。少女のすぐに脇には男の足が伸びており先程の音は男が脅しの為にコンクリートの壁を蹴った音だろう。

つまりそういう(・・・・)現場に運悪く結は出くわしてしまったのだ。

 

「ああ?んだてめぇ?」

 

 女の子にガンを飛ばしていた金髪の男がこちらにも気が付いた。面倒事になりそうだと身構えた結は静かに相手を観察する。

 

(ランニングシャツ・・・狙う部分は結構多い恰好ね)

 

「まさかてめぇもこのガキみてぇに生意気言うんじゃねぇだろうなぁ?あぁ?」

 

 両手を開きながらこちらに挑戦的な口調で話しながら近づいてくる男は、日ごろから鍛えているらしい。その手が少し動くたびに腕のこぶが出たり引っ込んだりをしていた。

 

「わ、私はただ道に迷ってただけですよ?あはは」

 

 結は無抵抗を装った。手を体の前でヒラヒラさせ、敵意がないことを表す。

 

「は~ん。道に迷ったねぇ・・・それじゃあ後でおにぃさんが道案内してあげるから少し待っときなぁ」

 

 言葉自体は親切だが、男の表情には意地汚い、卑猥な感情が含まれていた。男は結が自分の所有下にあると表現するように結の頭を軽く素手で(・・・)叩いた。

 

「あ~、でも私、あなたたちみたいなのタイプじゃないから遠慮しとくわ。ねぇ、あなたが案内してよ」

 

 そう言って結は男の脇をするりと抜けて絡まれていた女の子に近づき、手を取った。

 

「・・・あぁ?」

 

 もちろん、そんな事されては男も黙っていない。男は額に青筋を走らせて、ズン、ズンと地面を踏み鳴らして、そして肩を怒りに震わせて結に近づいた。

 

「無能力が・・・ふざけたこと抜かしてんじゃねェぞ、ゴラァ!」

 

 男の怒りのこもった蹴りが結に迫る。男は自らの鍛えた脚力には自信があった。当たればただでは済まないだろう。腕で受けたとしても骨の一本はへし折る勢いだ。

 

 しかし、すべて当たれば(・・・・)の話である。

 

「なぁ!?」

 

 男の脚は結に当たる直前、不自然な角度に軌道を変化させ結の体の少し手前の空を切った。

 

「何してるの?おにぃさん。脅しのつもり」

 

 結は余裕のある目で男に言った。

 

「それに、そろそろ潮時なんじゃないかしら?」

 

 結が視線を横にそらす。そこにいたのは。

 

「貰い物の力を自分の実力だと勘違いしているあなたたちに、彼女たちをとやかく言う権利はありませんわ」

 

 少し小ばかにしたようにピンクのツインテールを揺らしてこの子はゆっくりと歩いて来て、男たちと対峙した。

 

「ジャッジメントですの!暴行障害の現行犯で、拘束します」

 

 白井が右腕につけた盾の腕章を見せつけながらそこに立っていた。佐天は味方の登場に安心した表情をみせ、目元にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 実は、佐天は暴行に合っていたほかの男性を助けようと勇気を振り絞って男たちを止め入ったのだ。佐天はレベル0(無能力者)だが、そういった勇気を出会ってから日の浅い白井も、口にこそ出さないが、一種の尊敬を抱いき、認めていた。

 だからこそ、自分の勇気ある友人が理不尽な暴行を遭っているというこの状況に白井はかなり腹を立てていた。

 

「今日の黒子は、危ないですのよ?」

 

 最初に向かってきた下っ端の男をテレポートで投げ飛ばした白井は、静かに、怒気をはらませてそういった。

 

「ッ!」

 

 仲間を攻撃されたのに反応した黒髪をオールバックにした男が、そばがの工事現場に置かれていた足場や鉄パイプと飛ばして白井に襲い掛かる。物体浮遊(テレキネシス)の、恐らくレベル3(大能力者)程度か。しかし、その標的になった白井は瞬間、テレポートで男の懐まで一気に距離を詰める。

 

「っ!?がぁ!?」

 

 白井が振り回したカバンの側面が男の顔面に吸い込まれていった。男は振りぬかれたカバンの軌道に沿って横に体勢を大きく崩してその場にうずくまる。

 

「面白れぇ能力だな。瞬間移動(テレポート)ってやつか?初めてみたぜ」

 

 金髪の男は仲間がのされたにも関わらず、品定めでもしているかのように余裕を持って話す。

 

「他人事のように仰いますけど、次はあなたの番ですのよ?」

 

 白糸と男の間に火花が走る。

 

「俺達はよぉ、レベルアッパーを手にするまでお前たちジャッジメントにビクビクしてたんだぁ」

 

 男は両腕を開いて逃げ場を封じるように白井に駆けだす。

 

「だけどよぉ、デケェ力が手に入ったらよぉ。お前たちをギタギタにしたくてうずうずしてたんだよぉ!」

 

 男が白井を捉えようと両手をふるう。しかし、白井は瞬間移動(テレポート)によって男の背後に回り・・・

 

「えっ!」

 

 予想外の出来事に白井は思わず声を漏らした。そこにいたはずの男が消えたのだ。と、

 

 トントントン!

 

 白井の背後に足音!

 

「っ!がぁ!」

 

 寸でのところでカバンを盾に直撃こそ免れたが、背後から迫った男の必殺の蹴りは小柄な白井の体を地面から数十センチ持ち上げた。ただの不良、と相手を侮っていた白井だったが予定外の苦戦を強いられる気配を察知した。何らかの能力を持っている可能性が高い。多少、相手が怪我を負うことは仕方ないと判断し、太もものベルトに収納した釘の内一本を取り出す。それを瞬間移動(テレポート)によって相手の体内に転移させることによって行動不能に追い込む算段だった。男が再び白井に接近を始めたタイミングで、白井はその釘に能力を発動した。

 

 だが、

 

「!?外した!?」

 

 釘は男の少し手前に出現した。11次元空間を通して物体を移動させる瞬間移動(テレポート)では物体に運動量は乗らない。よって、そのまま釘は男にダメージを与えることなく地面に落下する。

 

 今度は男が攻勢に転じた。懐から取り出した、刃渡りの長いナイフを振り回し、白井に迫る。一撃、二撃、と大ぶりな男の攻撃を、能力を使うまでもなく躱した白井はバックステップで距離を取る。男はユラリと体勢を立て直し、再び白井に突撃した。

右足の蹴り!

男の必殺のそれを、白井は能力ではなく、カバンを緩衝材として受ける構え取った。自分の能力が通じない原因を探ろうとしたのだろう。しかし、それは失敗だった。

 

 ゴキィ!!

 

 鈍い音が走る。男の蹴りは白井がガードした位置からずれて脇腹に当たり、そしてそのまま体をなぞって胸のあたりを強烈に振りぬいた。白井の体は勢いに任されて吹っ飛び、近くの廃ビルに突っ込んで行った。

 

「白井さん!」

 

 佐天が悲痛な声をあげた。自分を救いに来た友人が、蹴り飛ばされたのだ。もしかしたらけがをしているかもしれない。佐天の声に気が付いた金髪の男は振り向き、意地の悪い顔でこちらに歯を見せてニヤリと笑ってから白井を追って廃ビルの中に姿を消した。

 

「白井さん!」

 

「人の心配よりも、自分の心配たほうがいいわよ!あなた!」

 

 佐天が再び友人の名を叫んだとき、鋭くそれをとがめる声が結から発せられた。佐天が驚いて振り向くと、先程白井にのされたはずの男たちが起き上がっていた。白井の攻撃だけでは、完全に無力化は出来ていなかったのだ。

 

「くそっ!あのガキ!・・・おいてめぇら!ちょっとこっちこい!ジャッジメントも人質がいりゃ手を出せないだろ」

 

 ずるがしこい手だが効果的な一手だ。もちろん、佐天も結もそんなものに応じる気は全くないが

 

「ねぇ、あなた?あいつらは私が何とかするけれど、あなたを守りながらなんて器用な真似は出来ないから。せめて巻き込まれないようにして。いいわね?」

 

 男と対峙しながら結は佐天にそう語りかけた。佐天は自分よりも年上の結の言葉に素直にこくりとうなずき、そして、初めて彼女のそのインナーを着ているために黒い手足に気が付いた。

 

(スポーツインナーと革の手袋で真っ黒な手足・・・まさかこの人が!?)

 

「さっさと来いって言ってんだよ!ほら!」

 

 男が結の胸倉を掴もうと手を伸ばす。しかしそれは結の手前の空間を握っただけだった。

 

「何やってるの?おにぃさん」

 

 結は手袋を外して素手(・・)でその手を握る。

 

「さ、触ってんじゃねぇ!」

 

 男は慌ててその手を引いた。結はその場に立ったまま男をじっと見つめている。その姿が状況とあまりに合わずに男は不気味さを感じ始めた。

 

「先に手を伸ばしてきたのはおにぃさんよ?まぁ、触っちゃダメなら、触らないけど・・・」

 

 そういうと結は唇をかわいらしく曲げた。まるで勝利を確信したかのように、そして傍にころっがっていた。工事用の鉄パイプを数本、手に触れずに浮かせて、男に向かって飛ばした。

 

「っ!お前も念動力(テレキネシス)を!」

 

 男は自身の能力を使ってその鉄パイプを空中で停止させた。そして視線を戻すと。

 

「っ!消えた!?」

 

「はぁ~いお兄さん?頭上に注もーく!」

 

 結の声に反応して男が上を見ると、もうひとりの仲間の男が頭を下にして自分の方に落下してきていた。

 

「・・・は、」

 

 がん!

 

 男たちは互いの額を衝突させ、そのまま白目をむいてその場に倒れた。

 

「よし!一丁上がり!」

 

 気絶した男の背後で結は明るく、軽い様子でそういうと、男たちがしっかり気絶していることを確認する。そして目線を先程白井が放りこまれた廃ビルに向けた。

 

(さっきのジャッジメントの子。能力さえ見破れば勝てるとは思うんだけどな・・・)

 

「ねぇきみ!」

 

 結は振り返り、茫然と立っている佐天に声を掛けた。

 

「私さ、これからあの廃ビルに入るけど。君も来る?」

 

「わ、私は・・・」

 

 佐天は迷った挙句にこう、答えた。

 

「ここに残ります。・・・レベル0(無能力者)、ですから・・・」

 

「ん。そっか。んじゃ、行ってくるわね」

 

 結は佐天からすぐに視線を外すと廃ビルの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱ、すごいな、、、)

 

 一人残った佐天は白井と結によってのされた男たちを見てそう思う。

 

(同じ私と同じ女の子で、私と同じ中学生なのに、私は白井さんに助けてもらう事しかできない。あのひとみたいに、力を貸してあげようにも、足を引っ張ることしかできない・・・)

 

 

 

(能力者と無能力者(レベル0)じゃあ、住む世界が違う・・・)

 

 佐天は自分のポケットに入っている音楽プレーヤーを握りしめると、その場から駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 廃ビルの中はひどく複雑な構造をしていて、気を抜けばすぐにでも迷ってしまうと思われた。

 

(あの子・・・白井って言ったっけ、どこに行ったんだろう。上の階とかに行ってると探すのが大変だなぁ)

 

 バリィッ!

 

 突然、ガラスが割るような音があたりに響いた。何の音か確認ししたくても、音が反響して発生源を捉えることが難しい。と、

 

 バリバリバリ!

 

 そこらじゅうからガラスの割れる音が響く

 

(何!?何が起きてるの!?)

 

 金髪の能力ではこんな現象を起こすのは不可能のため、おそらく白井が何かしらの方法でこの音を出しているのだろうけれど、結には検討もつかない。

 

 と、結のすぐ近くの巨大な柱に突然板ガラスが突き刺さり、割れた。柱はその衝撃でズレ落ち、その機能を失ったように見える。

 

(っ!?まさか)

 

 ビルがガタガタの揺れ始める。が、地震ではない。結は慌てて窓からビルの外に飛び出した。

 

 その数秒後にビルは轟音を立てて崩れ去った。

 

 

 

 

 

「少々やりすぎてしまった感はありますが、ま、元々取り壊す予定だったようですし」

 

 白井が崩れ去った廃ビルの前で呟く。彼女の足元にはビルの倒壊に巻き込まれてすっかり戦意喪失して、震えるだけの金髪の男が転がっている。

 

「さ、レベルアッパーを頂きますの」

 

 男は震える手で自分のポケットの中を探りを、ミュージックプレーヤーを1セット取り出した。

 

「ただの音楽プレーヤーではありませんの。ふざけないで下さいな」

 

 白井が凄むと、男はビクッ肩を震わせて言った。

 

「レ、レベルアッパーは、、、曲なんだよ」

 

「な、なんですって?」

 

 と、遠くからサイレンの音が近づいてきた。ここからはアンチスキルの仕事のようだ。

 

 

 

 

 

 

「プハッ!酷い目にあった!」

 

 倒壊した廃ビル裏手、埃まみれになった結がそこにいた。

 

「たっくもー、道に迷うし、変なのに絡まれるし、ビルは崩れるし。何なの!?厄日!?」

 

 今日はとことんついてない結だった。

 

「もう!今日は帰ってねる!・・・で、帰り道はどっち?」

 

 ふらふらとした足取りで宛もなく歩き出した結。今日は夕方から仕事がある。それまでに携帯の充電だけは済まさなければ、と考えながら見覚えのある道を探す。

 

 

 

 

 

 

 

 今日の実験は少し遅れて開始されたそうだ。

 

 

 

 

 

 

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