学園都市では最近やたらと暴力事件が増えてきているようだった。
しかし、結は学校での注意喚起を無視して今日こそは!とセブンスミストを目指して居た。先日、ようやく復旧作業が終わり、営業を再開したとメールマガジンが送られてきたのだ
バスから降りた結はデニム生地のスカートにマリンのノースリーブ、その上に薄手の上着を羽織っていた。しかし、やはり手足はスポーツインナーのため真っ黒。頭部以外の露出は一切ない。
セブンスミストへの道すがら、コンビニにより飲み物を調達しようとした結だったが、そこには見知った顔がいた。
「あ、白井さん」
コンビニの中には結と同様に飲み物を買いに来た白井が居た。腕にはジャッジメントの腕章をつけていることから、今もパトロール中なのだとわかる。
「お仕事お疲れ様です」
「あなた・・・」
結の言葉を無視して、ペットボトルを掴んだままの姿で固まり、信じられない物を見たかのように白井はじっと結を見つめた。
「あ、あの?何か?」
「ちょっと支部までご同行願いますわ」
「へ?」
言うやいなや、白井は結の腕をつかんでコンビニを出るとテレポートであっという間にジャッジメント第177支部まで移動した。結が何かを言うヒマすらなかった。
「ちょっと、いきなりなんですか!?」
結は白井の手を振り払ったが場所は既に支部の正面。ここからセブンスミストまでは距離があるように思われた。
「少々お話をお聞きしたいのですわ。あなたの能力について」
そう話す白井の目は明らかに断れない気迫があった。
(ジャッジメントだもんな。逆らったら面倒くさそう)
結は仕方なく、今日も買い物を断念せざるを得なくなったことに肩を落としながら、白井の言う事を聞くことにした。
「それでは・・・初春!連れてきましたわよ!」
白井は支部の扉を開け放つと同時に中にいるのだろう初春を呼んだ。が、先に出てきたのは別人だった。
「んー?黒子、その人誰?事件の関係者?」
常盤台制服を着た茶髪の女子中学生が部屋の奥からキャスター付きの椅子を滑らせながら出てきた。茶髪を肩のあたりまで伸ばしたその少女は御坂美琴。意外すぎる人物の登場に結は目を丸くする。常盤台の
「お姉さま。いらしてたのですか?」
「うん。何か手伝えることないかなぁって」
白井はその御坂と姉妹なのか?苗字が違うし顔や背格好、髪の色などなども違うけど・・・と結は一人で突然降ってわいた素朴な疑問に内心で首をかしげる。
「はーい、白井さん呼びましたか?」
遅れて、白井に呼ばれた初春がやってくる。
「あ、初春さん。この間はどうもありがとうね」
「あ!櫻井さん。こちらこそお世話になりました」
数日ぶりの再会に結と初春は一通り挨拶を交わす。その隣で初春が発した結の「櫻井」という苗字に目の色を変えた人物がいた。
「『櫻井』ってまさか!
ガタン!と御坂が椅子を鳴らして立ち上がる。
「はい?私が
まさか自分がそんなふうに思われているなどと想像もしていなかった結は御坂にオウム返しする。
「お姉様落ち着いて下さいませ。今日、櫻井さんに来てもらいましたのは、ズバリ、あなたのその能力のことについてお尋ねしたいことがあるからですわ。初春から聞きました。あなた、
「佐天さんはレベルアッパーによる能力強化で複数の能力が開花したんじゃないかって言ってたけど」
「お、お姉様!それはあくまで推測ですわ!」
あくまで事実関係を確認したかった白井だが、それは好奇心旺盛の御坂によって台無しにされてしまう。白井としてもその線は疑っていた。先日、白井自身がレベルアッパーを所持していた不良集団を拘束した時に現場には結の姿もあったのを記憶していたからだ。しかし、もし、本当に結がレベルアッパー使用者ならばここでそのことには触れると嘘をつかれる可能性があったからそれを隠して話を進める、はずだったのだ。
「レベルアッパー?」
「どうやら、能力強化の説はないみたいですね」
しかし、結が聞きなれない単語に首を傾げたのを見て、初春はその説を否定する。
「と、言う事は!本物の
「有り得ませんわ!人間一人が扱える能力は一つが限界!それ以上は脳の負担が大きくなって扱えないと聞きましたわ!」
御坂と黒子がいよいよヒートアップする。高レベル能力者の集う常盤台中学に在籍している二人だからなのだろうか、この手の話にはやはり興味があるようだ。
「あの、えーっと何か勘違いしているんじゃないかと、私はそんな大層な能力を持ってる訳じゃないですし」
「「じゃあ!あなたの能力は何!?」ですの!?」
白井、御坂の両名が結に詰め寄る。その気迫に結は後ずさりする。
「わ、私はただの
「なぁんだ」
と、つまらなそうな御坂。
「私の思った通りでしたわ」
と、白井。前代未聞の
「あの、それじゃあバンクにデータがないのは?」
初春が落ち着いた白井と御坂の間を縫って質問を飛ばした。
「え?あ、あぁぁ・・・その、私しばらくの間、身体検査を欠席し続けてきたからさ。昔のままなんじゃないかな。この能力が発現したのって最近だから」
「そうなんですか?身体検査はちゃんと受けないとダメですよ!」
初春が結に人差し指を突き出して子供に言い聞かせるように注意する。実際は結の方が年上なのだが結の性格も相まってかその様子に違和感は感じられない。
「分かった分かった、初春さん。来年はちゃんと受けるようにするから」
「櫻井さん、最近能力のレベルが上がったとおっしゃいましたが、本当にレベルアッパーは使ってないのですよね?」
「白井さん、えっと、その、レベルアッパー?って何?いや、名前からなんとなく想像は着くけど。そんな胡散臭い物があるの?」
巻き込んだ以上説明責任はありますわね、と前置きをして白井は結に向き直った。
「ええ、名前の通り、能力のレベルが上がる、というシロモノですわ。ただ、その使用者が次々と意識不明になっているので、もし、レベルアッパーを所有していた場合、保護するようにしていますの」
「え、なにそれ。こわっ」
素直な感想が結の口から洩れる。
「・・・本当に違うみたいですわね。わかりました、ご協力ありがとうございました。よろしければ、先ほどのコンビニまでお送り致しましょうか?」
「ほんと!?お願いします。今日こそはセブンスミストに行くって決めてたんだ!」
断念していた買い物に復活の見込みができ、結は喜色満面に白井の手を取った。
「わかりました、それじゃあ初春、留守番頼みますよ」
「了解です!」
そういうと、白井は結を伴って支部を出ていった。残ったのは御坂と初春だが、御坂は結が出ていくとすぐにだらしなく椅子にもたれかかった。
「あーあー、せっかく面白そうな能力者を見つけたと思ったのにー!」
「御坂さん、残念でしたね。櫻井さんが
「もー、期待させといてただの
学園都市第三位の能力者という立場からか、それとも単に個人的な好奇心からか御坂は特に珍しい能力の噂に関して寄せる期待が大きかったのだろう。がっかりしたとため息をこぼした。
「そうですよねー。でも、
「・・・え?石を飛ばす?何か金属片とかじゃなくて?」
「はい。櫻井さん、この前は石を持ち上げて不良達に投げつけてましたよ」
「初春さん、それ、
「え?」
御坂と初春は互いの顔を見合わせた。
「「じゃあもしかして・・・」」
結局、何も解決しない二人であった。
一方、白井に送ってもらった結は久しぶりのセブンスミストを満喫していた。
(いやー、でもさっきは危なかったなー。なんとかうまく誤魔化せたけど
そう。彼女の能力は
彼女の能力の名前は
自分と零距離で接触した能力者の能力を記憶し、自分がその能力を使用することができるようになる能力だ。
ただし、その零距離というのがネックで、衣服の布1枚が間に入るだけで能力を相手の能力をコピーすることが出来ない。また、能力をコピーした対象が死亡、または自分から約半径300メートル以上遠ざかった場合、対象の持っていた能力が使用できなくなる。この場合、対象が再び結から300メートル以内に入った時、結は対象の能力を再使用できるようになる。コピーすることができる能力の種類や数に制限はない。つまり、結の近くに能力者が二人以上存在し、結がその両方の能力をコピーした場合。結は一時的に
以上が結の能力の大まかな説明になる。以上の特徴から、結自身に何らかの能力がある訳では無いが、結の周囲にいる能力者の能力が強く、また、人数が多いほど、結の能力は強化される。単体での能力強度の測定不能の能力。レベルxと、いうわけである。
結はスポーツ用品の売り場にやって来た。普段から着用しているスポーツインナーを買い替えようと考えたのだ。
彼女が普段からスポーツインナーを着用する理由も、彼女の能力が起因している。
結の能力は他人と接触した場合に結の意思に関わらず、半強制的に発動する。そのため、薄着をして肌の露出が高くなると、道を歩くだけで能力が発動し続け、過剰な疲労を招く恐れがある。そのため、全身を覆い、かつ熱のこもらないスポーツインナーが必要になるのだ
(うーん。あんまりいいものはないかなぁ。なるべく目立たないものを、とは思うんだけど、なかなかなぁ)
スポーツインナーを結のように利用する客などいないため、そのようなデザインのものなどとあるはずもない。オーダーメイドなんてした日には、一人暮らし仕送りなしの結は、その月の生活を一日一食白米一杯で乗り切らなければならなくなる。結局、結は自分の財政状況を加味すると何も購入することができなかった。
(くっそー。何か新しいバイトでも探すかなぁ・・・)
自分の懐の寒さを痛感しつつ、結は時計を確認する。間もなく仕事が開始される時刻だ。結は集合場所に急いだ。
今日もまた、実験は行われるのだろう。