一連の知らせは瞬く間に広まった。
まるで『早すぎる』位に。
ある種不気味なまでの速さだった。
マフィアたちの見識はこうだった。
伝統のある息の長いファミリーと、『あのボンゴレ』に監視されていたという謎の男とその実力派集団たちが組んだ武力同盟がボンゴレに喧嘩をふっかける――という事実。
あるものは恐怖におびえ、またあるものは自衛のために緊張を孕んだ唾をのみこみ、またある者はどうするべきか、と幹部を集めて緊急会議を開く……
状況は一瞬でも気を緩めたら爆発しそうな火薬庫さながら。
触れたら切れそうなほど張り詰めた空気がイタリア中を駆け巡るのだった――――。
『祝! ミルフィオーレ、再結成!』
『チェデフのザル監視なんか今に始まったことじゃないよな』
『沢田家光www無能www』
『ロリコンを一匹残らず駆逐してイタリア国民を守るのがマフィアの義務だわこんなん』
だが恐怖におののき、震えている暇はない。
己の掲げる『大義』と『誇り』のために命を懸けて戦ってこそ男。そしてマフィオーソと言えば男の中の男たちだ。つまるところ誇りのためには死線上に喜んで立ちにいく。
だからこそ『彼』が立ち上がるのは至極当然のことのように思えたのだ。
イタリア最強のヒットマン――リボーンである。
「ってなことになってるんだよ!! リボーン!」
「やべぇな。想像以上だ。面白すぎる」
「本当だよ誰が想像したよこんなカオス展開……ってオイ!! 何面白がってんだよ!! そうじゃないだろ! そりゃ傍から見てれば楽しいかもだけどさぁ!!」
ネオ・プリーモなドン・ボンゴレは頭を抱えていた。
だめだ。頼みの綱、元家庭教師はもう完全に面白がっている。
綱吉は考えていた。
クッッッッッッッソくだらない、本当心底下らない理由でまさかの復活を遂げたミルフィオーレファミリーはもうブラックスペルとホワイトスペルに組織を分割しているらしい。
リーダーはもちろん、ブラックスペルのロリコン、ガンマとホワイトスペルのロリコン白蘭という二大頭領体制だ。それも綱吉たちが圧殺した未来とは違い全員が
「ザンザス死すべし、慈悲はない」
「ユニ様の結婚断固阻止」
「結婚式を血で染めろ!!」
……という崇高な志の元。内部にどのような構想があろうと、外部のドカスが求婚しやがった非常時においてはミルフィオーレは常に一つ!!!と言った感じで結婚式をそのまま血痕式にしかねない勢いだ。
ぶっちゃけもう全部まとめて焼き払いてぇ……と十代目は薄っすら思ってはいるが、良心がギリギリのところでその考えを止めている。
とはいえ腐ってもミルフィオーレだ。
白蘭やガンマは半端じゃなく強い。特に無駄に3期ボスな白蘭と真六弔花はバカにできない。
ので、対抗勢力として警備にあたろうと緊急会議中だ。
「ハハッ、ザンザスも災難だなーー」
「他人事みたいに言わないでよディーノさん!!」
「は? アイツ他人じゃん」
「(この駄馬が……)……でも一応ザンザスも結婚したいって言うんだから、ちゃんと式を挙げさせてやらないと……こんなん俺が言うのもアレだけど、一応身内だし……」
「あぁ、リング取り合って死ぬ気でころしあった仲だナ」
「だ、だからそのーー、義理の兄?? っていうか身内だし!!」
「本音を言え、ツナ」
「……」
元家庭教師にはいまだに頭が上がらない綱吉だった。
「ユニはジッジョネロファミリーの後継者だし、ジッジョネロがボンゴレと正式に同盟を組むのはボンゴレにとって悪いことじゃない……それに、たぶんコレが一番いい方法なんだ。……ザンザスもその辺よくわかってると思うし、むしろそっちが狙いなんじゃないかって思ってる……。ボンゴレのためにならないことはしない、結構合理的な人だから」
「……」
「……」
「それに、ジッジョネロは野放しにはできない。……もし……もし、これが、ジッジョネロを監視できる最善の方法なら……って」
「……綱……」
「話は分かった」
まっすぐ見つめる瞳には、あの日14歳だった少年のものではない。
すでにそれは、手を汚すことを覚えたドン・ボンゴレのものだった。
「……だから、リボーン。ディーノさん。二人には『こっち側』についてほしいんだ」
「分かった。そうゆう事情なら仕方ねぇ。キャッバローネはボンゴレに力を貸すぜ」
「ありがとうディーノさん。リボーンは……」
「あぁ、仕方ねぇな。オレは」
あぁ、良かった。と思った。
イキナリ「結婚する」とかザンザスがトチ狂ったこと言い出した時には本当どうしようかと思っていた。
それで相手が相手だからびっくりしていたら、ユニ様至上主義なファンクラブ……もとい死すべきロリコン共が同盟を結成して立ち向かってきやがった。
しかも無駄に戦闘力高い奴らだ。
守護者たちだけで本当に捌けるのか不安だった。
だがキャッバローネがついてくれるというのなら心強い。
それにアルコバレーノ勢力が味方になってくれるのなら――――……。
「俺たちは白蘭の味方につくぞ」
「え?」
「は?」
綱吉はアッレー? これ幻聴かなー? 骸のヤツ何さらしてくれてんのかなー? あとでボコっとこーーと一瞬思考が現実エスケープを起こす。
「図に乗るなよ、ザンザス。てめーが誰でどんな状況だろうと。
アルコバレーノのボスに手を出すんならオレが黙っちゃいねーぞ」
「今の話聞いてた!? ねぇ聞いてたリボーーーン!?!?」
「ちょwww我が師wwwwww」
「オレはユニが赤ん坊のころから知ってんだ。だからオレにとっちゃあユニは娘も同然だ。それを奪おうっていうんだから筋は通さなきゃな。ザンザスも男なら俺に『説得』しに来るべきじゃねーのか?」
「超理論だよ!! アイツがそんなことする訳ないだろ!!」
綱吉の脳内に和室が浮かぶ。
ちゃぶ台を挟んで座るリボーン。反対側にはザンザスとユニがいる。もちろん全員正座で。
「娘さんを俺によこせドカス」「却下だな」「おじさまやめて!」
返されるちゃぶ台……飛び散る緑茶……。
「やるわけないだろぉおおおおおおお!!」
「おい綱……今何想像してた……?」
「ディーノさんは黙ってて下さい!!」
「あ、はい」
弟弟子に黙れ言われた駄馬は口を閉ざす。
「アルコバレーノを招集するぞ。ヴァイパー……いや、マーモンは来るかどうかわかんねぇけどな。お前らも付き合え」
「えぇ!? 何言ってんだよ!!??」
「おい、リボーン……ちゃおっすちゃおっす言いすぎて頭の中までカオスになっちまったのか……?」
「けすぞへなちょこ」
「冗談だよ」
「え、エェー……エェーーーー!?」
◇◇◇
「納得いかない」
スクアーロが出て行った。
何も言わずに、書置きも残さずに。
剣だけ持って、身一つで出て行った。
溜まってた仕事や任務だけは全部終わらせて、出て行った。
「裏切り者は探し出してでも処分すんのがヴァリアーじゃねーの? ボス」
「……」
「それとも先輩だけはトクベツとか? 王子納得できないんだけど」
「……」
「何とか言ってよ、ボス」
なのに、ボスは黙ったままだ。
「……ボスが結婚したい、っていうなら止めない。それがヴァリアーのためで、ボンゴレのためになるっていうんだから。そんなの王子にはどーでもいい話だけど。
けどスクアーロ馬鹿だから、アイツ本当にバカだから消えちゃったじゃん。
アイツ馬鹿だから、自分はボスにとって不都合になる―――とか考えて出てっちゃったじゃん。
なぁ、ボス。……ボスがそんなことわかんない訳ないんだよ」
ボスは長い間ずっと『ボンゴレの御曹司』だった。
『次期当主』だった。次の十代目として振る舞うことをやってきた。
その性質はボスを雁字搦めにする。たとえ逃れようとしても、どこまででも追ってきて、考え方や生き方の後ろにいつも佇んでる。
オレなら分かる。
だって結局、オレも同じだったから。
『王子』だったことから逃げられなかった。
だから分かる。
ボスはボンゴレのためにしか動けない。
たとえどんなにボンゴレが嫌いでも、たとえ憎んでても、何度も裏切られても、それでも手放すことができない。
結局生涯尽くすしかない――――ヴァリアーの長として。
自由なき玉座で誇り高く生きるしかないってことを王子はよく知ってる。
でも、それならスクアーロだってそうだ。
あの鮫だってもう、ボスのためにしか生きていけない。
あの鮫はもう、ボスの傍でしか息ができない。
ボスにとってボンゴレがそうである様に、スクアーロにとってはボスのためにしか動けないんだ。
そんな簡単なことを、ボスが分からないわけがないのに。
なのに。
「追えって言ってよ。探せって、探し出せってさ! じゃなきゃ先輩勝手に死ぬよ!!」
「ベル! 貴様ボスに向かってなんという無礼な口の――」
「ムッツリ変態隠れスケベ不細工童貞は黙ってろよ!!」
「ベル! さすがにひどすぎるよ! レヴィにそんな現実つきつけたって……受け入れられないよ!!」
「マーモン貴様ぁ!!」
「なんで……なんで止めなかったんだよ!! ボス!!」
「オレ達、家族じゃなかったのかよ……!!」
今度はレヴィは止めてくれなかった。
マーモンも茶化してくれなかった、ルッスーリアもはぐらかしてくれなかった。
ボスは……何も言ってくれなかった。
そんな時ふと思った。
あの大声が聞きたい。
喧しいあの声が聴きたいな、と思った。
アイツならこんな空気も雰囲気も全部全部ブチ壊してくれるんだろう。
銀髪を靡かせながら大股で部屋に入ってくるんだろう。
う゛ぉおおおおおい!って鳴いてしみったれてんじゃねぇぞぉ!とか吠えるんだろう。
……なのに、来ないんだ。
待っても待っても、スクアーロが居ないんだ。
居てほしかった。
ただ、スクアーロが恋しかった。
アンタが居ないと調子狂うんだよね、皆駄目になっちゃうんだ。
スクアーロに会いたかった。
何もしなくていいから、傍に居てほしかった。
ってな具合に守備の要のヴァリアーは全くやる気ナシであった。
◇◇◇
マレ・ディアボラ。
かつてイタリア軍が海上防衛のために設けた人工島。
それは時代の流れと共に民間組織に売却され、ボンゴレファミリーの手によりリゾート地へと生まれ変わるハズだった。
だが、今から十年余前、ボンゴレの同盟ファミリーの有力者を集めた懇親パーティーのさなか、謎の武装集団によって占拠されるという事件が発生した。
武装集団の要求は現金2000万ユーロ。
だが、この件はボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーの暗躍により一晩で解決する。
それは8年の沈黙を経てヴァリアーが復活した、ということを世界に告げる布告であった――――。
という経緯でスッカリ放置されていたマーレ・ディアボラ島は中途半端にリゾート化するために豪勢なホテルやらチャペルやらプールやらをぶっ建てていたので、結婚式を挙げるにはうってつけの場所だ。
元々無人島だし、ボンゴレ所有だし、ちょうどいい都合がいい! ということで。
ヴァリアーがこれでもかって位フルボッコに惨殺しまくった元軍人たちの亡霊が「オッタビオゆ゛る゛さ゛ん゛!」と安らかに眠る場所で、ボンゴレ関係者、同盟ファミリー、の構成員、傘下企業の重役たち、そしてその家族たちが集まる中ド派手に結婚式があげられようとしていた。
その中でもひときわ目立つのは、結婚式参列のためにマフィオーソの正装に身を包んだジッジョネロ……もとい、復活の『ミルフィオーレ・ファミリー』たちである。
右手にはそれぞれ果たし状……別名、招待状を握りつぶしている。
彼らを出迎えたのは、今回の主役である花嫁――
「姫!!」
「それは残像です」
の、ホログラムであった。
「やぁユニちゃん、キレイだね。とっても可愛いよ」
「白蘭……」
「そんな可愛いユニちゃんが帰ってきてくれるんならマレ・ディアボラはつぶさないでおいてあげるよ」
「白蘭、なぜあなたが私を欲しているのかわかっています」
「……」
「分かっているからこそ、あなたの元へ帰るわけにはいきません」
「ふぅん、じゃあやっぱり……」
「どうやら交渉は決裂したようだな……」
「かくなる上は仕方ねぇな」
「「「花婿をブチ殺して結婚式を中止させるしかねぇ」」」
(逃げてザンザス超逃げてーーーーーーーーーー!!)
沢田綱吉は心の中で叫んだ。
無理だ、流石に無理だ……と思った。
白蘭、真六弔花だけでも厄介なのにそこに更にアルコバレーノまで襲ってくる!
いくらヴァリアーでも無理だ……!と綱吉は思った。
各自殺る気満々で死ぬ気の炎をソレゾレのリングに灯していた。
「天馬超翔!!!!」
「!?」
「なっ!?」
背後からの強襲。
突然の炎――それも大空属性の攻撃により前衛が総崩れになる。
式場の客誘導にあたっていた並盛中学風紀委員OB代表草壁が「ほ…炎の翼!!」と叫んだ。
「翼に触れた物はみな切り裂かれ調和によりて炎となり灰と化す」
「ぼば!!」
炎の翼が何の罪もないデイジーに直撃!!
デイジーの上半身が切り裂かれる! が! しなない!! デイジーはしなない!
死ねないデイジーは「あ゛ぁあああああああ! や゛け゛る゛ぅううううううううう!!」とすげー絶叫を挙げながらのたうちまわるのだった。
「あ、アレは……スクーデリア!?」
「ディーノのボックスじゃねーか」
「……ってコトは」
(嫌な予感マックス……!?)
ツナの得意の超直感がガンガン警報を鳴らしている。
「悪いなミルフィオーレ、俺は……これよりキャッバローネ・ファミリーはボンゴレ暗殺部隊ヴァリアーを掩護する!!」
「駄馬ぁああああああああああああああああああ!!」
ツナはもう、同盟ファミリーのボスとか兄弟子とかどうでもよくなっていた。
「色々あったがアイツとは長い付き合いだ……友達の一世一代の晴れ舞台を邪魔させるかよ!!」
「へぇ~~裏切るんだディーノクンーーまぁ最初から信用もしてなかったケド!」
「跳ね馬如きが……俺たちを止められる訳ねぇだろーーーがァ!!」
「来い! へなちょこ。どんだけ成長したか見てやろーじゃねーか」
「安心しろザンザス! 誓いのキスが終わるまで――――こいつらを教会には入れさせねぇ!!」
そう言い切るディーノの姿は友情の名のもとに友を守ろうとするマフィアの鏡であった。
……あった、が。
「ん? どうしたのなー? ツナ?」
「おかしい……何かひっかかる……ディーノさんがザンザスを好きなわけがない……! むしろどっちかっていうとブチ殺したい側のはずだ、なんだ、何が狙いだ……?」
「改心したんじゃねーの?」
「それで晴れてフリーになったスクアーロは俺が貰う!!!!」
「てめぇえええええええええええええええ!!」
ディーノの下半身は馬並みであった。
ついでに頭の中も馬並みであった。
■■■
「……始まったか」
「ころしあえ!! 血を見せろ!!」
本日の主賓、新郎新婦は白タキシードとウェディングドレスを着たまま、優雅に椅子に座ってモニターで下界の争いを悠々と見物していた。
一見ゴシック調の教会……なのだが、あちこちにかなり趣味の悪い、いやむしろ最低最悪なゴミ飾りつけがされている。
それはパイナッポーだった。
説教台にはパイナッポー。
後ろのパイプオルガンにもパイナポー。
そして高い天井、天窓にもパイナップル。
極め付けにはそこいらじゅう南国のような爽やかなパイナップルの香りが充満している、迷惑だ、くさい。少量なら快いはずのその香りは、大量ならばただの悪臭。もとい臭害。深刻なスメルハラスメントだ。
「クフフ……さぁザンザス! 誓いのキスをするのです!!」
「るせぇぞドカス!!」
「黙ってろ喋んなくせぇんだよ!!」
二人が揃ってリボンが巻かれたナタをパイナポーという名の六道骸へと叩き付けた。
「グハっ! それが結婚式のデコレーション兼演出家にすることですか……! クフ……そうですか……これが……はじめての共同作業ですかクフフ!」
わざわざ来たのに到着するなりイキナリ縛り上げられて吊し上げられたカトリックの司祭はパイナップルを頭に乗せながら神へと祈った。
あぁ神よ……このゴミクズ共の穢れ切った魂をお救い下さい……と。
かくしてボンゴレ式結婚式――――ロリコンvsホモの不毛な争いが幕を挙げたのであった……。
次回
『裏切りのワゴンセール』
お楽しみに~~
ただいまの状況
結婚反対派 (攻撃) vs 賛成派(守備)
白蘭 ヴァリアー(やる気ない)
ガンマ ディーノ(裏切った)
真六弔花
アルコバレーノ
十代目守護者