リボーン短編集   作:ウンバボ族の強襲

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Amazing Grace 2

 まだ若い娘が少し遅めの初恋に浮かれて、夢中になっている頃、男として成熟期を迎えていただろうドン・ヴァリアーは婚姻へと踏み切ろうとしていた。

 老齢になっていた義父は『息子』に優しかった。

 また、九代目ドン・ボンゴレだったティモッティオは結婚と政治を結びつけて考える人間ではなかった。

 優秀だがひどく気難しい息子が血筋は確かな分家の、若く、賢く、気立ての良い娘を気に入ったと考えて、口を出すことはなかっただろう。

 

 その一方でドン・ヴァリアーの狙いは的確だった。

 この時期、イタリアの裏社会界は戦国時代ともいうべき状態だった。

 旧いファミリーは没落し、新しく台頭してくる組織が多く、いわば下剋上も珍しいことではなくなっていた。ゆえに、自衛のためかもしくは侵略の為か目的は違えどもボンゴレと同盟を結びたがる組織は少なくない状況にあった。

 そして、同盟のうち最も早く確実なのは血による同盟である。

 未だ独身であるXANXUSの手にも多くの縁談が舞い降りたことだろう。

 

 しかし、XANXUSは全く意に介さなかった。むしろ、若い頃から過激だったボンゴレ第一主義とでもいうべき苛烈さは全く失速していなかった。欲しかったのは自らの思想と位置を大々的に公表するための『場所』と『機会』、そしてボンゴレに仇なす全ての者への布告である。

 年頃の良血統の女を迎えるのには最適だ、と判断したのだろう。

 

 

 

 純真無垢で恋に盲目になっている若い娘と、幾百もの修羅場に血の雨を降らせて来た男との交際期間がどのようなものだったのか、手記には書かれていない。おそらくは、書かなかったのだろう。ただ血なまぐさい話は一切なく、凡庸な女の心を満たすには十分な交際だったとは思える。

 だが、温度差は確かにあっただろう。

 

 

 ボンゴレに連なる者は最良の決断を下すことがある。

 

 まるで、『そうなること』を初めから分かっていたかのような。

 

 

 

 

 

 

 ===

 

 

 

 

 

 

 期待と不安なら、後者の方が大きかった。

 何か自分は夢を見ているのではないか、と思った。

 だとしたら、これから覚める現実こそが悪夢なのではないか……と。

 

 ずっと暗い世界なんて知らない世界で生きてきた。

 それも、マフィアの中でも影と言われる組織の長など映画や小説の中だけの話だと思っていた。

 与えられた血に沿わず、随分と呑気に生きていたものだ。

 

 

 そんな何も知らないで生きてきた小娘だった私を、屋敷に居た人殺し集団、ことボンゴレ暗部ヴァリアーはまるで受け入れるつもりはない様だった。

 獲物を観察する前の蛇のようなおおよそ人の温かさを感じさせない視線はあまり心地の良いものではなかった。

 歓迎されていないことは明確だった。

 ……約1名を除いては。

 

「う゛ぉおおおい! アンタがボスの奥さんかぁ!!」

 

 忘れもしない。

 銀色の髪のおおよそ人間とは思えない美貌の持ち主が非常に耳障りなダミ声を響かせてきたのだ。

 思わず、慎みを忘れて自衛に出た。

 私はダミ声に負けない位、品のない悲鳴を上げて美貌の男の顔面に肘鉄を叩き込んでいた。

 横で夫となったXANXUS様が大爆笑していた。

 全く、屈託なく笑う人だった。

 

 

 

 名実共にマダーマとなってからは、とにかく必死だった。

 

 散々勉強してきたハズの語学は、婉曲な言い回しを好む狸爺たち相手に全く役に立たなかった。机上で簡素な言葉で書かれた論文を読み解くほうが私には余程簡単だった。

 それまで積み重ねた教養や知識は実用できず、それどころか本に書いてあることは実は周回遅れであることを思い知らされた。

 礼儀作法などなにひとつ知らなかった。

 何度も何度も失敗を繰り返し「ドン・ヴァリアーは随分と若い奥方を貰われた様だ」と何度も皮肉を浴びせられた。

 そして、まるで人を使ったことが無かった私は、使用人たちを満足に捌けなかった。

 

 何度も落ち込んだ。自慢ではないが、幼い頃から何事も『そつなくこなす』ことができていた私にとっては、ここでの日々が人生初めての挫折だった。

 あまりにも、違いすぎた。

 私がそれまで所属していた世界との常識とは。

 マダーマとしては勿論、おそらくは同年代の女と較べても、私は無様だっただろう。

 とにかく不安で、すっかり自信を無くしてしまった。

 急にのしかかってきた血が重かった。大ボンゴレの一角のマダーマ、いう立場に押しつぶされそうだった。何より、失望されることが怖かった。

 そんな私の子供じみた恐怖など見通していたのだろう。

「気にするな」とXANXUS様は言った。「お前が初めから上手くやれるなんざ思ってねぇよ」

 じゃあ、どうすればいいのか、と半ば自棄になっていた私は詰問した。

 女としても、ボンゴレのマダーマとしても、残念ながら私は4流です。

 このままではあなたのお役に立つことは到底適いません、と。

 

「上品な女が欲しいなら他を当たっている。見た目が良くて育ちが良いのはいくらでも居る」

 

 

 思わず愕然とした。

 

 

「何にも惑わされず、ボンゴレに相応しい責務を果たせればそれでいい」

 

 

 ……何という野郎に嫁いでしまったのか、と思わず後悔を禁じえなかった。

 

 

 

 

 しかし、思えばXANXUS様は常にこのような人だったのだ。

 

 ヴァリアーという組織を俯瞰してみれば分かることだが、その出自の問わなさは、10代目の守護者、ひいては初代ボンゴレの守護者勢似ている節もある。義父だった九代目は全ての守護者や幹部をイタリア系のマフィアから選ぶと言う血による忠誠を基盤とした堅実さを好んだが、XANXUS様は徹底実力主義を拘り抜いた。

 

「ボスはアンタのことけっこー大事にしてるよね」

 

 幹部ベルフェゴールはこの時期の私によくそんなことを言った。

 

「俺達があんなミスぶっこいたらさ……とっくに、首、飛んでる」

「でも、ボスは責めようともしないじゃん? つーことは、アンタ結構愛されてんのかもよ」

「まぁ、頑張ってよ。『マダーマ』。けど、あんまり醜態さらすとそのうち王子が寝首かくから」

 

 どうかプレッシャーを理解してほしい。

 幹部は全員、そんな感じだった……あのスクアーロ以外は。

 

 

 それでも、時間さえ積めば人間なんとかなるものだ。

 1年経つころには何とかしてヴァリアーの女主人としての役割を果たすことができるようになっていたと思う。

 

 





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