リボーン短編集   作:ウンバボ族の強襲

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Amazing Grace 3

 

 ボンゴレ10代目は言った。

 

「アイツは最初から、常に仕掛ける人間だった。罠を仕掛けるのが上手かった」と。

 

 

 

 

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 物理的に、血は怖かった。

 

 これは生物としての純粋な恐怖感だった。

 他人のものだろうが、自分のものだろうが生暖かいし、鉄臭いし、なかなか落ちてはくれない。

 ましてや、大量に流れている場面など想像するだけでも鳥肌が立つ。

 ……という、境遇で生きてきた人間にとってヴァリアーはあまりいい場所とは言えなかった。

 設備はいい。料理もおいしい。籠城だってできる警備体制。どんな災害が来ても大丈夫そうな安全設計。そしてついでに空気は綺麗だ。

 

 

 だが、帰ってくる者たちを迎えなければならない身としては、血はあまり見てて嬉しいものではない。

 初めは、卒倒していた。

 恐ろしいことに、ここに居る人間たちはたとえメイドであろうと、血など少しも恐くないらしい。

 

「あら、嫌ですわ。ヴァリアーのマダーマともあろう人が」

「たったこれだけの血なんかでそんな真っ青になるなんて」

「この先、慣れていただかなければ旦那様が困りますわよ」

 

 

 幹部ルッスーリアはそんなことを言って一笑にしやがった。

 だが、こればかりは彼……女が正しかったと言える。

 何せ、彼らは血だけではなく、時には臓物までぶら下げて帰ってくるのだから。

 初見でそれを見たときは、トイレへ駈け込んで吐いたものだ。

 もうすっかりいい思い出になっている。

 

 人の慣れとは怖いもので、そんな血も臓物も平気になってしまった頃の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に来るか?」

 

「は?」

 

 

 ……と、XANXUS様はのたまいやがった。

 

「よろしいのですか……?」

 

 正直たじろいでいた。

 夫の仕事は知っている。それがかなりアレだということも十分に理解している。

 

「別に構わねぇ」

 

 それでも、私は、好奇心に負けた。

 外行き服を着てついていく。いかにもソレだと分かる黒塗りの車に乗って着いた場所は、屋敷だった。

 後続車から黒服の部下たちがいくつもスーツケースを降ろしていく。

 ……確実に妙なものだとはおもうけど。

 

 屋敷の主は、報道で見たことがある様なとある政治家だった。

「ようこそ」と老人は快く出迎えてくれ、思いのほかもてなしてくれることに少し驚いた。

 どうやら、こいつら、顔見知りらしい。

 子供の頃や、昔の話などをして盛り上がっている……政界とマフィアの穏やかな真っ黒なつながりを目の当たりにして私はだた大人しく置物と化していることしかできなかった。

 

「美しいマダーマ、あなたは素晴らしい人を夫に迎えられた。日頃から、貴女のことを自慢していますよ」

 

 仲良くコーヒーなど啜りながら爆弾発言を繰り返す老人と談笑するXANXUS様……という光景をみながら私は、かなり、ひやひやとしていた。

 ……この人がいつ銃を出すか、炎を出すか、それとも狙撃させるのか、と思い込んでいたのだ。

 

 わざわざ黒塗りの、高級車を家の前に停めているということは『そうゆうこと』なのではないか……。

 

 

 ……と、思ったが、何もなかった。

 ただ1時間ほど、お茶を飲んで菓子をつまんで、話をして終わってしまった。

 最後の方は老政治家に夫婦とは何か、男女とは何か、そして愛とは……というご高説を賜り、これは何かの拷問ではないか……と私は思った。

 九代目に孫の顔を見せてやれ……と。

 

 ひょっとしてこの人このエロ爺の話を一人で聞くのが嫌だから私を連れてきたんじゃなかろうか……と。

 

 不意に車に乗り込む前に何か視線を感じた。

 ……だが、私でも気づく程度のものを、暗殺者集団の首長たる人が気づかないことがあるだろうか、と思い直した。おそらくは気づいている、そのうえで無視している。

 

 XANXUS様は口数の多い人ではない。

 部外者には特にそうなる。だから滅多に喋らないが、常に行動しているとまで言われている。

 だが、この日は饒舌だった。

 

「どうだった?」

 

 老いても尚盛んな人だったと答えた。

 

「……正直いつ殺るのかと……。……気が気じゃなかったです……はい……」

「あ? ……殺すとおもったのか?」

「……違うんですか……?」

 

 ぶはーーーーっ!とXANXUS様は笑った。

 ……本当に、本当に、屈託なく笑う。

 

「随分と血の気が荒くなったもんだな。……それとも、そっちが本性か?」

 

 

 断じて違う、と明記しておく。

 

 

「アイツは殺さねぇ」

「……あー……ソーデスカー」

「お前ならどう見る? この状況を」

「……はい?」

「お前がもし一般人だった場合。この訪問をどう見る?」

「……はい??」

 

 何言ってんだコイツ、と思いながらも答えることにした。

 安易なことを言ったら怒られる……と頑張って黙考を重ねた。

 

 結論から言ってしまうと、そんなことは杞憂だった。XANXUS様は、部下には怒鳴るわ殴るわ当たり散らすわで凄まじかったが、私には手を上げたことも、それどころか、声を荒げたこともなかった。怒ると言うより、常に教え諭すような口調だった。全てにおいて愛されていたと言うより、甘やかされていた、と思う。

 

 

「お偉い政治屋の家に、それっぽいマフィアが訪ねてきた……でしょうか……?」

 

 ……そのまんまだが。これが精いっぱいだったのだ。

 

 

「に、見えるな」

「ですねぇ……」

「スーツケースは全部運ばせた」

「……」

「中に、何が入ってたと思う?」

「ま、まさか……爆弾……?」

「だから殺さねぇよ、今回は」

 

 今回は、というところが怖い。

 

「……金塊とかですか?」

「麻薬」

「ご、ご冗談ですよね!?」

「ああ嘘だ。中に入ってんのはガラクタだ。あとホットケーキミックス」

 

 嘘だと言ってほしかった。何て恐ろしいものをスーツケースの中に入れてるのだろうこの人。

 

「だが、ほとんどの奴は『そう』見える。お前の言った金塊か、俺の言った薬か、と」

「……」

「スキャンダルだ」

「……あぁ……やっぱり……」

 

 こんな時代だから、一度の落ち度が致命的な傷になりかねない。と横の人は得意顔で言っている。

 やはり物理的に殺しはしなかっただけで、政治家生命を断ちに来たんじゃないか……と思った。なるほど、これも立派な『暗殺』だ。しかも、本人も知らないうちに命を取るという鮮やかな手口だ。あの人はきっと、若い頃遊んであげた可愛かった九代目のお坊ちゃんが訪ねてきたとしか思ってないだろうに……。と。

 

「親仏姿勢を取ってるから仕方ねぇ」

 

 どうやら丁寧に解説までしてくれるらしい。彼にはこんな癖があった。ヴァリアーの関わった事業や『仕事』の目的から背景、そして狙いまで懇切丁寧に解説すると言う癖が。

 自信家特有の自慢の延長か、それとも一度吐き出して喋ることで自分の思考を整理したいのだろう、と私は思っていたし、実際、そんな話はどれも面白かった。

 本当は癖でも何でもなかった。後から分かった。

 

 

「フランスが最近うるせぇ……しかも、フランス側の勢力を使ってる新興組織も五月蠅くなってきやがった」

「アイツは親仏姿勢を取っているボンゴレ側だった」

「評判さえ落とせば奴は失脚する」

「『政治家がマフィアと繋がっている』のは最悪の汚点になる」

 

 

 ……というのが今回の工作の裏側だそうだ。

 

「あの……コレひょっとして、あの人を守るためですか?」

「……」

 

「……出過ぎたことを申しました」

「外れてねぇ、続けろ」

 

 当たってんなら早く言え。

 

「あの人は元々ボンゴレ側の政治屋さんなんですよね。だけど最近は主張が合わなくなった。から失脚。……って言いますけどこのやり方少し変だと思ったんです。……もし、あの人が対ボンゴレの為に『わざと』反対側の主張をしたんだったら……やっちゃいますよね?」

「……」

 

 この沈黙は肯定だ。なぜなら、笑っているからだ。それも最高の笑顔で。

 この赤い目には悪い笑顔が良く似合う。

 

「なのに、『失脚』させようとした……と、いうことは。コレ実は、あの人のせいではない……んじゃないですか?」

「……あぁ」

「ひょっとして、あの政治屋さんが唱えていた親仏姿勢はボンゴレの指示ですか」

「……」

「……だとしたら、今回間違ったのはボンゴレ……ではありませんか?」

「……そうだ」

 

 あの老人に思わず同情を禁じえない。

 

「あの爺には使い道がある。今回の仕事はボンゴレのケツ拭きだ。アイツを殺す必要はねぇ」

「……アイツを……ですか……」

「……どうした」

「……その言い方が気になってしまって」

「…………だから?」

「いえ……なんか、そんな言い方だと……まるで……」

 

 

「まるで、ほかのヤツは殺すみたいだ――――と?」

 

 

 おっしゃる通りだ。

 もうこの言葉でわかった。

 今回はボンゴレの尻拭いをする。そして、近いうちに今度こそ『対仏派』を一斉に狩る何か……もしくは脅しをかけるための殺しをする。この老人はあくまでボンゴレの駒であり、後ろ盾になる、だから殺さず生かしておく……。という話だ。

 

「やはり、俺の目に狂いはなかった」

「……は、はぁ……」

「お前を選んで正解だった」

「……」

 

 とても、一人で、嬉しそうで、満足そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。王子様が大笑いしていた。

 

「見て! スゲェ! やばい、王子腹痛いんだけど!! 酸欠で死にそう!!」

「それもー死ねばいいと思います~~駄王子」

「あらぁ……ちょっとマダーマー? やだ素敵、ツーショットじゃない!」

 

「……は?」

 

 何言ってんだこいつら……。だが今呼ばれたのは確かだ。

 

「……何です? 騒々しい」

 

 持っていたソレを見て思わず目を見開いた。

 

「なにこれ……??」

 

 所謂ダブロイド紙という奴だ。政治家のスキャンダルに関する記事がそこに載っていた。

 どうやら大物政治家のスキャンダルがリークしたとのことだ。

 マフィアとつながりがあるんじゃないか………………とか…………。

 

 

 

「祝! マダーマ顔出し記念!!」

「やってしまいましたねー。これは大変なことだと思うよー」

「……」

「う゛ぉおおおおい! 心配すんよぉ! マダーマ! アンタの身は俺が、何に替えようと必ず守り通してやるぜぇ!!」

「…………」

「今日お赤飯じゃね!?」

「お赤飯です~~」

「赤飯だぁ!? なんだそりゃぁ゛!?!?」

「………………」

 

 野郎、ハメやがった。

 

 

 やはり、私の勘は間違っていなかった……が……甘かった……。

 XANXUS様の野郎はバッチリ気づいていたのだろう。絶妙な角度で見えない風に映っている。

 美女マフィアだとか、愛人か、だとか恐ろしい文字が紙面には踊っている……。

 

 

「……御冗談でしょ……??」

 

 

 

 あぁ、ハメられた。と思った。

 十代目からアレほど注意しろと言われたのに。

 ともあれ、もう、逃げられなかった。

 

 よくも悪くも、私は次世代の『顔』になってしまった……というわけだ……。

 






おいこれ長ぇぞ……。思ったより……。
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