コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
――――私は何をしているのだ?
眼球と繋げられたケーブルを通して外の後継がダイレクトに見せつけられる。
記憶に残っている黒の騎士団が使用していたナイトメア月下―――それの改修機らしきナイトメアが羽虫のように周りを飛び回っている。
彼らは銃口を向けて発砲してくる。
――――憎い!。
叫び声を挙げながら銃撃を集中してくる八機のナイトメアに対し小型ミサイルを発射。
迎撃しようと銃口をミサイルに変更するが撃ち落せずに直撃を受け吹き飛ぶ。追尾から逃れるように飛行する機体も同様に直撃し爆発の中に消えていった。
――――憎い!憎い!憎い――。
先ほどの八機は囮で本命であろう六機のナイトメアが六方から突撃を仕掛けてきた。
速度が落ちる為か銃撃をすることなくただひたすらに突っ込んで来る。
正面の二機は頭胸部前方の三連装大型ガトリング砲により蜂の巣となり、左右と斜め後方より接近してくるものには各足関節部の機銃で対応。二機撃破して一機がフロートユニットを破損して不時着した。
一気に仲間がやられた事で動きを止めた一機を触肢型メーザーバイブレーションソードで切り裂く。
――――
不時着して辛うじて動ける機体が銃口だけ向けて撃ってくる。が、アラクネの装甲にはダメージは通らない。
しっかりとメインモニターで捉え、コクピットを踏み潰した。
――――ニクイ!!
戦列から離れる機体をレーダーがはっきりと映し、正面を向ける。
両肩上部を支えとして使う高出力超電磁砲で二機を貫き落す。
逃げ出した残りの数機は高度を低くしてミサイルの射程外へと逃げ延びた。
ならばと前方のメガハドロンランチャーを放って機体を飲み込み消滅させた。
――――ニクイ……。
周りを飛び回っている敵機にメガハドロンランチャーを拡散して放つ。
一発一発の威力こそ落ちるもののナイトメアを屠るには充分すぎた。
放った方向で複数の爆発が起こっては消えていった。
―――ナゼ?ワタシハニクイノダ?
コクピットに納められた箱の中で液体に付けられ、幾つものケーブルと接続されたポッシは思う。
私はなにをしているのだろうかと。
答えは出ない。
記憶はぼやけ、意識は追及することなくリピートだけを繰り返す。
ただ敵を殺す事だけは止めはしない。
私はフクシュウヲシナケレバナラナイノダ。
ソウシナケレバワタシハ…。
意識が朦朧とする中、一機の攻撃が直撃した。
初めて装甲に傷がついた。
と言っても大きな損傷ではない。かすり傷程度のもの……。
攻撃したのはズィー・ディエンの月下紫電。
月下をベースにズィー専用にカスタマイズされた機体で膝に一刀ずつ、左腰に二刀、右腰にヌンチャク、脇に斧一本ずつ、腕に一刀ずつ、背に二刀と剣だらけで如何にも近接戦闘機と主張しているものである。
傷をつけたのは中距離辺りから投げてきた斧。
投擲してきただけでもこの機体に傷をつけたのだから接近されるとまずいのは理解した。
ただ理解したがアレがここまで辿り着けるとは到底思えない。
―――タオサナキャ…フクシュウシナケレバ…。
残っている羽虫が射撃して来るがもう無視だ。
まずあの刀だらけを倒さないといけない。
狙いを定めていると月下紫電は側面より突っ込んで来る。
正面はメガハドロンランチャーに三連装大型ガトリング砲、高出力超電磁砲。
上空には小型ミサイルに各足関節部の機銃。
後方には複数のスラッシュハーケン。
側面だけは手薄…。
アラクネを設計・
それをギアス饗団が勝手気ままに改造したものだから今も尚弱点が残されているのだ。
側面より突っ込んで来るのはズィーだけではない。
ズィーとは離れてマオの灰色の暁、ズィーに隠れるようにロロの金色のヴィンセントの三機。
四基の機銃で攻撃を開始するも灰色の暁がまるで
勿論技量によるものではなく、相手の心を読み取るギアスだからこそ出来得る芸当。
なんたってマオはギアスを使えばグラスゴーでガヴェインに対し圧倒的に戦う事だって出来るのだから。
―――ドウシテオレハフクシュウヲ…。
マオに射撃を集中するが一向に当たらず、ズィーはその隙を突いて機銃の射程が届かない懐へと飛び込んだ。
神経接続により素早い反応で触肢型メーザーバイブレーションソードで斬りかかる。
青龍刀のような背の紫竜雷月刀をクロスさせるようにして構え、上からの振り下ろした一撃を受け止めた。
触肢型メーザーバイブレーションソードは諸刃の剣。
機体の重量を支える為に架設した脚部である筈の足を斬る為に動きまわすという事は他の足に負担をかけてしまうという事。
八本で支える事が前提である筈なのにそれを七本で無理やり支えるのだ。
それを防がれては他の触肢型メーザーバイブレーションソードでの攻撃は難しい。
月下紫電の背を跳び越えて目前まで迫るヴィンセント。
アフラマズダが持つアサルトライフルで迎撃するが、もう眼前にはヴィンセントの肘が迫る。
打突武装ニードルブレイザーが正面装甲よりコクピットを貫く。
痛みはない。
もう肉体には痛覚機能は存在せず、ほとんどが生体パーツで代用されている作り物の身体。
身体を覆っていたガラスケースが砕け、液体は流れ出て、新鮮な空気が死体のような身体を撫でる。
目の前のヴィンセントはもうポッシが死んだと判断し、アラクネを破壊する為にアフラマズダとアラクネを繋いでいる部位に銃口を撃ち込んで破壊していた。
確かに普通の人間なら死んでいた。
だがポッシは死んでいないし、この程度では死に行くことは出来ない。
【ザ・リジェネレーター】
ポッシに発動した再生能力を持ったギアスを発動させる。
失った筈の腕や足が生え始め、壊れてしまった機体を掴む。
折れた操縦桿は真っ直ぐになり、その先の機器は何事も無かったように元の姿を現す。砕け散った装甲はみるみる塞がっていく。
つなぎ目を破壊し続けるヴィンセントの頭を握り、そのままパワー差に任せて握り潰す。
アラクネの接続部よりアフラマズダの全身が姿を現す。
ポッシは咆哮を上げアサルトライフルを撃ちながら跳んだ。
残存戦力が集中砲火をお見舞いするがそんなの気にも留めずに撃ち続ける。
意図を察したロロは急いで浮上しその場を離れる。
残っていたサクラダイトやミサイルに引火してアラクネは大爆発を起こす。その爆風でロロを含む数機が吹っ飛ばされ、何機かは上った爆炎に飲み込まれた。
何より爆風で加速をつけたアフラマズダの体当たりが月下紫電に直撃し、紫電は右腕をへし折られた上、何度も地面を転げ跳ねる事に…。
残るは灰色の暁のみ。
銃口を向けようとするアフラマズダは上からの衝撃で大きく傾いた。
頭部やコクピット上部が吹き飛ばされ、青空が肉眼で見て取れる。
そこに浮かぶ白い角の生えたナイトメア。
―――ワタシハアレニミオボエガアル…。
ポッシは元通りになってしまった脳で思考する。
だが、直すだけのギアスでは壊れかけた脳を直せても失ってしまった記憶までは戻らない。
されど一つだけ理解した。
「私は―――」
烈火白炎より放たれた弾丸が吸い込まれるようにポッシへと向かっていく。
光り輝く長距離超電磁砲の弾丸に身体が包まれる。
―――もう…自由なんだ。
ギアス饗団の最奥に位置する遺跡の前にはもうルルーシュもC.C.も居ない。
居るのは階段に腰かけて風前の灯のような命を感じ取っているV.V.のみ。
V.V.やC.C.などコード所有者はギアスを自身が使用することは出来ないが、ギアスの能力を受け付けないのと不老不死を得ている。
例え心臓を貫かれようと頭蓋を食い荒らされようとも身体の半分を消滅させられようとも死にはせず、時が経つと驚異的な速度で修復されるのだ。
だからV.V.の傷も時間と共に消えていく筈だったのに…。
ジークフリート改に搭乗してルルーシュ達と戦い敗れたV.V.は普通なら死んでいる筈の大怪我を負っていた。
攻撃により割れたパネルの破片が腕や頬に刺さり、大きく揺れたために打ち付けた額はぱっくりと開いて血を流し、衝撃緩和装置を積んでいたとしても上空から地下まで落下により身体全身が打撲に打ち身は勿論、骨折がいたる所で起こっていた。
あれから何分も経つのに身体は再生されるどころか寧ろ弱っていく…。
『兄さんは嘘をつきましたね?』
嘘の無い世界を作ろうと言っておきながらマリアンヌを殺害した事についてだけ嘘をついた…。
自分で言っておきながら…。
だけど後悔はない。
だって後はシャルルがやってくれるだろうから。
嘘のない世界を…。
あの幼き日々に見て、見せられ、見せつけられた醜く反吐が出そうな日常を…。
騙し騙され、裏切っては裏切られるあの殺伐とした日々…。
母が殺されたあの光景を…。
二度と繰り返さず、すべてが一つへとなる世界を…シャルルなら作ってくれる。
もう計画はC.C.のコードがあれば完成する。
暴走したギアスを自身の意思で制御する術を勝ち取っているシャルルはコードの強奪を可能とする。
ボクのコードはシャルルが盗って行った。
C.C.はルルーシュとシャルルが居るあの黄昏の間へ渡った。
ならあとは……。
「伯父上…」
死を待つだけのV.V.は呼ばれた事で閉じていた瞼を持ち上げる。
ぼやけた視界の中でもそれが誰なのか分かり、驚きはなくスッと受け入れた。
「やぁ、君もボクに嘘をついていたんだね……オデュッセウス」
懐から拳銃を取り出し銃口を向けるオデュッセウス。
横には日向 アキトにクララ・ランフランクの姿もあったがもはや意識は向ける余裕もない。
出血が酷くて視界がぼやけるどころか顔を上げているだけでも妙に揺れる。
体勢の維持も難しいほどに…。
「極力嘘はつかないようにはしていたんですけどね」
「ゼロの正体を知っていたんだ…」
「知っていましたけどそれについては聞かれていませんし…まして私(兄)がゼロ(弟)を売ると思いますか?伯父上でも逆の立場ならそうしたと思いますが」
「あは…やっぱり兄弟は…そうでないとね…君はボクに似ているのかな?」
「それはどうとも」
「最後なんだし乗ってくれても良いじゃないか…」
乾いた笑みを漏らして座る体勢すら維持できずに前のめりに倒れていく。
オデュッセウスにはまだ迷いがあり、銃口を下ろしてただただ眺めていた。
大量の出血からもはや助かる事は無い。
「…殿下」
撃つ事を躊躇った様子にアキトが前に出て銃口を向ける。
代わりに撃つという意思表示にクララは目を閉じて顔をそむける。
かちゃりと音が鳴り、V.V.は――――…。
「やっぱり私は甘いなぁ」
アキトが構えた銃口はオデュッセウスにより下げられ、銃弾がV.V.を貫くことは無かった。
そろそろ意識を失いかけていたV.V.にオデュッセウスは歩み寄る。
その両目を赤く輝かせながら。