コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第102話 「日本へ」

 『――――第一号として黒の騎士団に日本解放を要請します』

 『良いでしょう。超合集国決議第一号。進軍目標は――――日本!!』

 

 蓬莱島で執り行われた超合集国の式典は全国に流された。

 大国ブリタニアと並ぶ連合国家。

 発起人は反ブリタニア勢力の英雄であり、希望であるゼロ。

 多くの人が予想した通りに事態はブリタニアと超合集国との戦争へと動いて行く。

 超合集国に加盟した各国は軍事力を永久に放棄し、放棄された軍は黒の騎士団に集まり、国家に属さない戦闘集団として超合集国と契約。

 黒の騎士団は超合集国の決議により盾にも剣にもなる。

 そしてまず最初に剣として日本解放へと乗り出したのであった。

 

 

 

 ブリタニアにより十一番目の植民地エリアにされた日本。

 そこを奪還しようと動き出した超合集国に加盟する各国の軍事力を集めた黒の騎士団は、日本海に面する東日本沿岸部へと軍を進めた。

 

 中華連邦蓬莱島での式典後に日本に向けて出発した主力艦隊は超合集国黒の騎士団総司令黎 星刻の指揮の下、カゴシマ租界沿岸に進行していた。

 中華連邦の大型地上戦艦【大竜胆】を旗艦に竜胆が周囲を囲むように六隻、後方に直線状に二隻、斜め前方に一隻ずつ。斑鳩をベースに建造した小型浮遊航空艦【小型可翔艦】が両脇に二隻ずつ、斜め後方に一隻ずつ、前方に三隻が展開。合計ニ十隻の大艦隊とそれらに収納されたナイトメアフレームに空戦可能な攻撃ヘリ。

 対するブリタニアもカールレオン級浮遊航空艦を出してはいるものの、カゴシマ租界沿岸部に指揮用陸戦艇G-1ベースを中心に補給や整備の施設を用意している為、然程展開はさせていない。そもそもエリア11に数を揃えている訳でもないので出そうにも出せないのだが。

 沿岸部には空戦能力――つまりフロートユニットを装備していないサザーランドやグロースターが砲戦仕様の武器を構え長距離戦、海上に展開できるナイトメアフレームや艦戦で防衛線を展開する構えを見せている。

 

 両軍の衝突は超合集国側の一発の砲撃より始まった。

 たった一発の砲弾が放たれると両軍から砲撃が開始され、その弾幕の濃さにより砲弾同士が衝突し、ちょうど真ん中で爆発がいくつも起こった。

 

 『前衛部隊敵部隊と交戦状態に入りました。第一遊撃隊は発艦を願います』

 『ライ様。御武運を』

 「行ってきます神楽耶様―――ライ、蒼穹弐式改発艦します!」

 

 ライは神楽耶の言葉を受けて操縦桿を握り締める。

 大竜胆より発艦したライが隊長を務める第一遊撃隊は蒼穹弐式改と八機の暁により構成される。

 強化された飛翔滑走翼により紅蓮弐式以上に肥大化している右腕の輻射波動機構の重みをものともせず、高い機動力を発揮する蒼穹弐式改に合わせるように機動力を上げた暁達は最前線へと飛翔する。

 

 敵ナイトメアはフロートユニットを装備したグロースターに、試作機ではなく正式量産機として生産されたヴィンセント・ウォード。

 加速をかけたライは友軍機に気を取られていた隊長機らしきヴィンセント・ウォードを左腕の折り畳み式の刀身を展開して通りざまに斬りつけた。いきなり指揮官を失った部隊は困惑し、対処出来る者は通り過ぎた蒼穹弐式改へと狙いをつけるが後続の暁隊に切りつけられ何も出来ずに撃破されていった。

 

 第一遊撃隊の戦闘は簡単だ。

 カレンに次ぐ実力者であるライが斬り込んで注意を引いて、その隙に暁隊が斬りかかるというシンプルなもの。だがそれなりの人物でないと対応しきれないのも事実。蒼穹弐式改に後続の暁隊が戦場を駆けるとその付近では幾つもの爆発が発生している。

 

 「全機エナジーを確認せよ」

 

 デメリットと言えば対応できる精鋭部隊と交戦してしまった場合と、機動力を発揮し続ける為にエナジーの消費が大きい事だ。ゆえに小まめな確認が必須となる。

 全機のエナジー量に問題がないと分かると一旦最前線より後退しつつ戦況を把握する。

 カゴシマ以外にも複数の沿岸部に進行しているというのに中々ブリタニアの防衛網が硬くて突破しているところがない。

 この主力艦隊とていつまでも戦える訳ではない。

 全てはゼロに掛かっている訳だが…。

 

 苦々しく戦況を確認していると左翼が崩れているのに気付いた。

 回線を大竜胆ではなく神虎へと繋ぐ。

 

 「星刻総司令。左翼が崩れていますが…」

 『非常に突破力の高いナイトメアが居るらしい。ラウンズの何れかが居るのだろう』

 「分かりました。左翼へ行きます」

 『君の実力は知っているが油断はするなよ。それと行くならエナジーの交換をしてゆけ』

 「了解です」

 

 近場の小型可翔艦にて補給を受けるとすぐさま飛び立ち、ラウンズが居るであろう左翼へと向かう。

 が、目標のラウンズ機を見つける前に崩れた左翼に多くのブリタニアのナイトメア隊が雪崩れ込んでいた。

 

 「全機、突貫!!」

 

 速度を上げつつ敵中に突っ込む。

 ワイヤー付きの右手を発射してヴィンセント・ウォードを掴むとパワーにものを言わせて引き寄せ別の敵機にぶつけて損傷させたり、左腕の刀身で斬りつけたりと前進すること重視に攻撃を仕掛ける。

 暁隊も同様に侵攻ルートに居る敵機だけを切りつけ、あとは狙わずに銃弾を放っている。敵中という事もあって撃てば何かしら敵機に命中するし、敵機からは同士討ちの可能性か銃撃は控えられている。

 流れるように敵機を切り伏せながら突き進むが中には反撃にあって足を止め撃破される者、止めようと前に飛び出してきた敵機に激突してしまった者、同士討ち覚悟で撃って来た攻撃を受けてしまった者と数機が撃破される。

 自分の部下を死なせてしまった事に罪悪感と後悔の念が押し寄せて来るが、おかげで敵の動きに乱れが生じ、その事を知った星刻の機転で乱れていた左翼が斬り込み、何とか左翼側が持ち直した。

 

 「副長、生存確認!」

 『三機が撃破され、二機が小破。無事なのは隊長と三機のm―――』

 

 通信の途中で副長との通信が切れた。

 何事かと振り向くと副長機の暁に一機のナイトメアが取り付いていた。

 

 右手首にある四つの爪にブレイスルミナスを展開し、高速回転させることでルミナスコーンと言うブレイズルミナスのドリルを主力武器とし、小型ミサイル内蔵のミサイルシールドを左手で構え、ヴィンセントがベースらしき薄紫の一本角のナイトメアフレーム。

 

 ―――ブリタニアの吸血鬼。

 ―――人殺しの天才。

 ―――帝国最強十二騎士ナイトオブラウンズの一人。

 

 ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー。

 専用ナイトメア、パーシヴァル。

 

 『ほほぅ、中々面白い戦いをするじゃないか』

 

 クツクツと笑いながら外部スピーカーより流された声に苛立ちと気持ち悪さを感じた。

 どう見ても今までの相手ではない。

 それはラウンズという強者だから―――ではなく、こいつは楽しんでいる(・・・・・・)

 戦いとかではない。

 人殺しを楽しんでいる。

 

 「各機散開!この場を離脱しろ!!」

 『おぉっと、逃がしはしない』

 

 パーシヴァルの膝より低出力のハドロン砲が放たれ、直撃した暁は抉られるように装甲を毟り取られ、爆散して行った。

 蒼穹弐式改にも同様に放たれたが、操縦桿とペダルを素早く、細かく、正確に動かしてギリギリを躱す。

 近距離に飛び込むと輻射波動機構を突き出して捕えようとするが、その寸前でブラッドリーは距離を取る。

 

 ルキアーノ・ブラッドリーはコクピット内でほくそ笑んでいた。

 人の大事な物―――命を公に奪えるこの機会を楽しんでいたが、どうも歯ごたえがなさ過ぎて物足りなかった。

 たった数機で敵中を駆ける部隊を見つけた時は多少楽しめるか程度の気持ちで仕掛けたのだが、目の前の敵機は大いに手応えがあるだろう。

 正面から見たブラッドリーの瞳には蒼穹弐式改がハドロン砲を回避したのではなく、ハドロン砲が蒼穹弐式改を通り過ぎた(・・・・・)ようにしか見えなかったのだ。そんな事物理的に考えてあり得ない。あるのなら目の錯覚。見間違えではなく錯覚だ。

 蒼穹弐式改は短時間に何度も小刻みに操作した事でほとんど動いていない様に見せ、最低限の動きで回避しきったのだ。動きが少なく動きの幅が無い事でまるで通り過ぎたように目が錯覚を起こした。

 そんな操作が行えるものはラウンズ内でも少ない。

 

 『面白い。お前の大事な物はなんだぁ?』

 「大事な者…」

 

 突っ込んで来るパーシヴァルが突き出したルミナスコーンを輻射波動を放って受け止める。

 大事な者と言われて咄嗟に神楽耶を思い浮かべたライは後方に見える大竜胆をメインカメラに収めてしまった。

 大竜胆には参謀長官の周 香凛を始めとする武官の他に日本の代表である皇 神楽耶と中華連邦の代表の天子が乗艦している。無意識にメインカメラを向けてしまった事でブラッドリーは歪んだ笑みを浮かべる。

 

 『そうか――貴様は自分の命ではなく他に大事な者が居るらしいな』

 「―――ッ!?」

 『ならそれを私が奪ってやろう!!』

 

 再び距離を取ったパーシヴァルに不安を覚え、輻射波動機構を放つ。

 ワイヤーを伸ばしながら飛んでいく輻射波動機構はパーシヴァルが付近に居たグロースターを盾にすることで防ぎ、グロースターの爆発によって発生した爆炎で一瞬見失ってしまった。

 

 『奴を足止めしろ!』

 

 声がした方向を向くと上空へ飛翔したパーシヴァルと指示に従い向かってくるヴィンセント・ウォードが視界に映る。

 ヴィンセント・ウォード二個小隊と交戦しながらも視線の隅でパーシヴァルを捕え続けたライは驚愕した。

 フロートシステムが損傷したのであろう味方のカールレオン級浮遊航空艦を引っ張り、大竜胆の方向へ進路をとらせている。

 無視して追い付こうとするがヴィンセント・ウォードが邪魔をして思うように進めない。

 

 「邪魔をするな!!」

 

 ラクシャータに後で怒られるだろうが輻射波動を最大規模で拡散させる。

 紅蓮弐式をベースにしている蒼穹弐式改の輻射波動機構は効力を増すために本来よりも大型にしているだけで、機能的には紅蓮可翔式の輻射波動機構に劣る。

 それが無理をして同じことをしたのだから負担は大きい。

 拡散の範囲を狭めて放った為、足止めのヴィンセント・ウォード隊は大きく損傷し、その場で動かなくなった。

 一気に速度を上げながら墜落しようとしているカールレオン級浮遊航空艦へ向かう。

 星刻の神虎も大竜胆への落下を阻止しようと向おうとしているがナイトオブワンのギャラハットの相手で思うように動けない。

 再びブラッドリーに命じられてか、それとも敵機だからか複数のナイトメアが向かってくる。

 突破は容易い。が、時間を取られる。

 少しずつであるがカールレオン級浮遊航空艦との距離が開いて行く。

 たった数十メートル、数センチ、数コンマの距離離れる度に絶望が濃くなって心を覆う。

 

 

 

 脳裏に何かが過る。

 古びたフィルムを再生したかのような色あせた景色に光景。

 その中には優しく微笑んでいる黒髪の女性―――日本の貴族でブリタニアの地方領主の父に嫁いだ母。

 母の面影を強く受け継いだ可愛い妹…。

 多くの臣下に領民たち。

 僕は母、妹の為にギアスを使って王となる道を選んだ。

 何もかもが順調だった。

 ギアスの力は絶大で欲した物を何でも手に入れる事が出来た。

 そしてギアスによって全てを失った。

 戦争前の演説時にギアスが暴走して、誰も彼もが武器を手に笑みを浮かべて敵という敵に遮二無二突っ込んで行った。

 その中には母も妹の姿もあった…。

 もう声は届かず、皆は帰ってくることは無かった…。

 

 アッシュフォード学園で気が付いてからずっと記憶を失ったまま今の今まで時間が過ぎたが、記憶を取り戻したい気持ちは心の片隅にあった。だが、今は蘇った記憶よりも目の前の事が重要だった。

 否、蘇ったからこそ目の前の事が大事になったのか…。

 

 「―――ッ!?もう二度と――」

 

 ペダルを最大限まで踏み込んで加速による負荷で身体がシートに押し付けられる。

 向かって来たナイトメアの銃撃を掠めながら振り切った。

 目を開ける事すら難しくなる中でもしっかりと目標を捕え続ける。

 けたたましく鳴り響く警告音を無視して速度を上げ続ける。

 あまりの負荷に機体が悲鳴を上げ、意識が朦朧とする。

 だが、決して手放すことは無かった。

 

 血液検査で皇家とは遠縁の貴族の血を引いていることが分かった。

 例え今に続く系譜が分からなくとも貴族の血を引いているならばキョウトとの交渉には役立つだろうと、黒の騎士団より日本解放戦線へ移ってからは支援を頼みに何度か使者として会いに行った。

 その度に輝かんばかりの笑みや料理など御持て成しなどで歓迎されたり、ただ話すだけでも闘いばかりで疲れつつある心を癒してくれた。

 懇意にされたのもあったのかも知れない。

 いつの間にか神楽耶様の存在が心の中で大きくなっていた。

 記憶が戻った今となっては何処か妹と似ていたというのもあったのかも知れない。

 だからこそ―――…

 

 「――失ってたまるか!!」 

 

 射程距離に入った瞬間に輻射波動機構を飛ばしてカールレオン級浮遊航空艦を掴ませる。

 蒼穹弐式改の加速にワイヤーの巻取りを合わせて勢いよく取り付く。

 衝撃で肥大化した輻射波動機構が軋み、装甲にひびが入った。

 リミッターを解除して最大出力で輻射波動を撃ち込んだ。

 

 蒼穹弐式改――ゲームに登場した紅蓮弐式改の技、リミットブレイク。

 撃ち込まれたカールレオン級内部に高エネルギーが駆け巡り、行き場を失ったエネルギーが装甲を突き破って辺りに放出される。それが周囲の敵機をも巻き込んで一帯に複数の爆発を引き起こした。

 

 『これは予想外…っと』

 

 放たれたエネルギーの内の一発がパーシヴァルに向かって伸びてきたが難なく回避する。 

 止めに来るとは思っていたがこうも阻止されただけでなく、周囲のブリタニア軍を一掃されるとは思っていなかった。

 だからと言って焦る事は無く、一気に命が散った戦場に高揚感すら感じていた。

 この力があればどれだけの命を散らせるかと思いながら…。

 

 「お前だけは落とす!!」

 『ハッ!猿知恵だな』

 

 爆発四散したサールレオン級の装甲板に隠れて接近したライは、ルミナスコーンを展開できる右腕を警戒して左側より突っ込んだ。

 アニメでカレンの紅蓮聖天八極式の引き立て役として簡単にやられたと言ってもラウンズの一人。

 左側より突っ込んできた蒼穹弐式改に対して大きく動くことは無く、ミサイルシールドを展開して迎撃する。

 すでに輻射波動機構は使用不能なほど破損し、飛翔滑走翼は機能低下。機体はボロボロという最悪のコンディションでは、どれだけ良い腕を持っていようと避け切る事は不可能。

 ならばと考えを改めて壊れた輻射波動機構を盾代わりに突き進む。

 装甲を厚くしていてくれたおかげかミサイル群を抜けることには成功したが、右腕は跡形もなくなくなってしまった。

 爆煙の中を突っ切って現れた蒼穹弐式改の行動を予測しきれずにワンテンポ遅れたパーシヴァルに左腕の折り畳み式の刀身が迫る。僅かながらも身体を捻ってコクピットへの直撃は回避したが、刀身はパーシヴァルの右肩に突き刺さった。

 

 『――ッこのイレブンの猿がぁあああ!!』

 

 今までの悪意のある笑みを含んだ声は消え失せ、怒りを露わにした声色にライは笑みを零す。

 機体はもう限界で刀身が突き刺さると左腕の肘の関節が砕け散り、バランスを取る事もままならない蒼穹弐式改は海へと落下して行った。

 しかし海面に激突することなく空中で静止した。

 機体状況を鑑みて脱出することも視野に入れていたライは蒼穹弐式改にワイヤーを絡めて落下を防いだ神虎を見上げた。

 

 『良くやってくれた。これで左翼は立て直すどころか機能する。それとまだ戦えるか?』

 「機体は無理ですが僕はまだ行けます」

 『ならゼロが置いて行ったC.C.用の暁を使え』

 

 神虎はワイヤーを弛めて友軍の暁へと蒼穹弐式改を放ると、斬りかかってきたギャラハットと剣を交え押し止める。

 二機の衝突を眺めつつライは大竜胆へ一時帰還した。心配し過ぎて少し涙目になっていた神楽耶に多少言われたが、今度は守れて良かったと心底思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリア11のトウキョウ租界では厳重な警備体制が敷かれていた。

 政庁には総督のナナリー・ヴィ・ブリタニア以外にもブリタニアの宰相であるシュナイゼル・エル・ブリタニアも入り、指揮能力と拠点としての重要性は格段と上がった。

 前線から離れているが、すでにシュナイゼルはゼロの狙いがトウキョウ租界への奇襲攻撃だと読み、アーニャ・アールストレイム、ジノ・ヴァインベルグ、枢木 スザクのラウンズ三名を待機させ、ダールトン将軍率いるグラストンナイツとアリス達ナナリーの騎士達が政庁防衛に当たっている。各部隊を配置していつ奇襲攻撃が始まろうと対処できるように手は打たれていた。

 さらにはブリタニア軍に復帰したコーネリア・リ・ブリタニアとギルフォード・G・P・ギルバートも加わり戦力としては十分すぎるほどだ。

 

 そのコーネリアは政庁ではなく元黒の騎士団専用の収容施設に来ていた。

 黒の騎士団が居なくなった後は収容施設ではなく、ブリタニアの軍事施設の一つとして使われている。

 エリア11に残りナナリーの手助けをしている姫騎士と一部のオデュッセウス直属の部隊が居るだけなのだが…。

 

 施設に増築した格納庫でコーネリアとギルフォードは機体の充実性に驚いていた。

 背に大剣ではなく長剣を背負い、自身を隠すほど大きなタワーシールドと銃口が二つ並んでいる大型のアサルトライフルを装備したギャラハット。

 主に桃色でカラーリングを施されたヴィンセントに守備部隊が使用するのであろうヴィンセント・ウォードが四個小隊分。

 そして黒の騎士団の紅月 カレンが搭乗していた紅蓮可翔式をロイド・アスプルントとセシル・クルーミーの趣味が混ざりながら強化・改修された紅蓮聖天八極式が鎮座していた。

 ブリタニアでもこれほど高性能な機体を持つ部隊などラウンズ以外には無いだろう。

 自機である専用のヴィンセントも並んで少し手狭な格納庫でそんな感想を抱いていると純白の強化歩兵スーツで全身を覆った姫騎士が補佐をしているマリエル・ラビエと共にやって来た。

 少し後ろには鼻歌交じりに歩いている左目に眼帯をつけた少女に警戒の色を強める。

 何がという訳でないが嫌な感じがする。

 本当に何と表現すれば良いのか。

 あの者だけ周りと色が違うというか雰囲気が異質なのだ。

 

 「――――っ……」

 「あ!どうぞこれを」

 

 姫騎士は何かを言おうとして俯き、ノートとペンとマリエルから受け取り書き始める。

 姿を晒すことも話すことも許されない。

 もし晒し喋るものならば命に危険が及ぶ。

 それももう大丈夫だろうが兄上がもう少しと仰られたのだ。

 窮屈な暮らしも僅かなものだろう。

 出来るだけ早々に終わらしたいがギアス饗団以外に行動をする者を知らない為に打つ手はない。

 

 ノートには【二人っきりで話しませんか?】というものであった。

 断る理由はない。

 寧ろこちらから言いたい事であった。

 

 「分かった。ギルフォード、少し待っていてくれ」

 「畏まりました」

 「じゃあ私も別室で待機しているね。マオちゃんはどうする?」

 「パイロットは警戒状態で待機なんだから大人しくボクのギャラハットと待ってるよ」

 

 コーネリアはマオに対して警戒したまま姫騎士に続いて一室に招かれる。

 会議室でも良かったと思うのだが案内された先は姫騎士の個室。

 知る人が見れば私が総督だった時の彼女(・・)の個室と変わりなかった。

 扉の前に誰も居ない事を確認し、部屋内を一通り見渡す。

 まだ確認し終えていないというのに姫騎士は自身の顔を覆っていた面を外して大きく息を付いた。

 

 「油断だぞユフィ(・・・)

 「申し訳ありません。嬉しくってつい」

 

 ユフィ―――ユーフェミア・リ・ブリタニアは謝りながらも輝かんばかりの笑みを向ける。

 久々に姉妹として会えたこともあって注意しながらも頬が緩んでしまっているのは仕方がない事だろう。

 

 ブラックリベリオンのきっかけとなった行政特区日本での虐殺事件。

 一人のブリタニア将校が皇族の命と叫びながら集まった日本人に向かって発砲。

 ナンバーズを快く思っていないブリタニア人は多く、皇族の命令という事もあって警備に当たっていたナイトメア隊も攻撃を開始し、特区日本に参加しようとした大勢の日本人を虐殺した痛ましい事件である。

 件の首謀者は将官が名を口にすることなく死亡した事もあって明確に明かされていないが、特区日本の提案したユーフェミアが首謀者ではないかというのが一般的な事実として認識されている。

 実際はユーフェミアではなくギアス饗団による事件なのだが、一般市民にギアスの事を言ったところで荒唐無稽の夢物語と判断されるのがオチだ。

 それもあって兄上が機転を利かせて死亡扱いにして怒りを露わとするイレブンと、首謀者であるギアス饗団より身を隠させたのだ。

 ただ今まで皇族で致せり尽くせりの生活を送っていたユフィが一人で生活できるはずもなく、こうして兄上所属の者として匿われていたのだ。

 元々兄上はナンバーズから人を引き入れる事もあり、事によっては身元を伏せたりするなど多々あったので誰も言及しない状況が出来上がっていたのは、身元を隠すには大変助かった。

 ユフィの事を知るのは私を除けば匿っている兄上とユフィの強化歩兵スーツを作ったマリエル・ラビエなど最小限に抑えられている。

 

 「元気にやっていたか?」

 「えぇ、皆さん良くしてくださいますので。お姉さまこそこの一年近く何をなさっていたのですか?」

 「まぁ、色々とな。っと、お茶の用意なら誰かに――」

 「大丈夫ですよ。この生活になって自分で幾らかするようになったので」

 

 そう言ってお茶の準備を行うユフィに驚きながらも様子を伺う。

 慣れた手付きで準備を行う様子に少し前までは何も知らない優しいだけの箱入り娘だった妹が、知らぬ間に成長を見せ大人になって行くのだと思い感心と寂しさを感じてしまった。

 にしても今は紅茶を入れているのだが部屋の一角にコーヒーサーバーやらお茶の銘柄の書かれた入れ物が何種類も並んでいたり、沸かす道具にしたって一個二個なんて数ではない。これは一人で扱うにしたら多すぎやしないだろうか?

 後ろから向けられている視線に気づかず紅茶を用意しつつ、下の戸棚からお茶菓子を取り出す。

 

 「ユフィ。少し色々と多すぎないか?」

 「え、何がでしょう?」

 「お茶やコーヒーなどの道具だ。一人にしたら多すぎる気がしてな」

 「あら?お兄様がアドバイスしてくださったのですけれど」

 

 合点がいった。

 そういえば兄上も自室などの専門店のように色々と取り揃えていた。

 これは兄上の影響なのか…。

 差し出されたカップを受け取り、ゆっくりと口を付ける。

 紅茶が良かったのか、淹れ方が良かったのかとても美味しく、心が温かく感じる。

 

 「兄上と言えば今こちらに向かっているというのは聞いているのか?」

 「オデュッセウスお兄様もこちらに?」

 

 兄上で思い出した事を口にしたのだがどうやら知らされていないようだった。

 何でもハワイで積み荷(・・・)を降ろし、補給を済ませたらトウキョウ租界へ来るそうだが、もしやシュナイゼル兄上や総督のナナリーも知らないのではないかと不安が過るがまさかなと無理やり追い払う。

 

 「何時頃お越しになられるのですか?」

 「確か今夜には来るとは言っておられたな。この戦いが終わったら三人でゆっくりとお茶を楽しむか」

 「そうですね…皆さん戦っていらっしゃるのですよね」

 「皆というよりはユフィが心配しているのは枢木の事だろう?」

 「―――ッ!?」

 

 顔を真っ赤にして必死に言い返そうとしているが、言葉が出てこずにわたわたと慌てるだけとなってしまっている。

 その様子があまりにも可笑しくて腹を抱えて笑ってしまった。

 恥ずかしそうに抗議してくるが、それさえも懐かしく笑みが零れて来る。

 

 ―――緊急の一報が届けられるまでは…。

 

 黒の騎士団のゼロがトウキョウ租界外延部に現れたと…。

 テレビには夕日をバックに向ってくる蜃気楼と金色のヴィンセントが映り込んでいた。


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