コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
いつになくオデュッセウスは焦り、苛立っていた。
「私、怒ってます」と言わんばかりにズカズカと急ぎ足でナイトメア格納庫に向かっている。
服装は皇務用の服装からオデュッセウス用に誂えたラビエ親子が開発した強化歩兵スーツとwZERO部隊のワイバーン隊が使用していたパイロットスーツを合わせたものを着用し、出撃する気満々なのが見て取れる。
「殿下!お待ちください!!」
「いや、待てない。この話す時間一分一秒でも惜しいのだ」
後ろからレイラが止めようと説得を試みても取りつく島もない。
今まで皇族としておかしな行動は幾度となく行っていたが、話をまったく聞かないというのは無かった。それだけ余裕がない事は理解する。だからこそ説明を求めるし、止めないといけないと判断する。
オデュッセウスは冷静さを欠いている。
これだけは確かである。
「何故そうも急がれるのですか?」
「間に合わないんだよ。まったく原作通りなら夜になってからだろうに…」
「原作?」
アニメでは第二次東京決戦は夜に行われていた筈なのに、何故か夕刻に始まっているらしいのだ。
何がどう交わって内容を変えたのか分からないが、時間が前倒しされるなんて考えられるのは一つ。
枢木神社でのスザク君とルルーシュとの対話がなかったのだろうな。
しかし夕刻にトウキョウ租界に奇襲とは思い切ったことを。
確かに今なら星刻達の侵攻部隊はまだ攻勢に出るだけの余力があるから、ビスマルクたちは援軍には駆け付けられないだろうし、未確認だけどブラッドリー卿の機体が大破した情報も入っている事から現場では抜けた戦力を埋めるために必死でこちらに援軍など送れないから黒の騎士団はアニメ以上に有利に進めるだろう。
おかげでこちらは出遅れる事になっているんだけど。
そもそもペーネロペーは無理やり一個師団のアレクサンダを積み込む為に、大型の増設設備に追加してかなりの重量を持っており速度低下が甚だしい。否、飛ぶことすらままならないのを強化型フロートシステムを付けて飛行できるようにしている。
ならば飛行能力を持ったナイトメアで飛んだ方が早い。
「何でもないよ。兎も角私は先行して出る。ペーネロペーは予定通りにトウキョウ租界へ飛行してくれ」
「ですからそんな焦った状態で行かせるわけには!せめて護衛を付けないと」
「無理だ。あいつにアレクサンダでは追い付かんよ」
「しかし…」
「すまないが今回は押し切らせて貰うよ。そうしなければ租界が半壊する」
「だからどういう事ですか!」
格納庫に到着したオデュッセウスはレイラを振り切るようにミルビル博士に頼んでいた新しい愛機へと駆ける。
変形機構を取り付け、オデュッセウス用に射撃戦に特化した“ランスロット・リベレーション”。
専用の狙撃システムから特殊武装まで全てオデュッセウスの注文が事細かに入れられた特注品だ。
メインカラーは灰色で縁には白銀で塗装され、背にはサブアームとスコープ付きの狙撃ライフル、後ろ腰には対ナイトメア用短機関銃二丁、コクピット内には狙撃専用のスコープが取り付けられ、右腰には長方形の銃身(バレル)の大口径回転式拳銃が一丁。あとは両腕の特殊兵装と左腰に日本刀型のメーザーバイブレーションソードがある筈だが刀の方はまだ調整中で未完成。
正直戦いに行くのではない。
フレイヤを発射するまでに間に合えばそれで良いのだ。
コクピットに入ると起動キーを入れ、コードを入力。機動確認を手早く済ませながら両目のギアスを発動させる。
これから行うのは機体限界ギリギリの高速飛行。
機体が持ったとしても意識や身体が持たない可能性が高すぎる。
少し前の肉体状態に戻しながらの飛行が必須。
まぁ、下手をしたら子供にまで戻りかねないから力加減だけは間違えないようにしないと。
「ハッチ解放してくれ」
『――ッ…分かりました。くれぐれも気を付けて下さいよ!』
「戦闘は避けるさ」
『艦橋へ。ハッチ解放及びカタパルトレールを展開してください』
内線で艦橋にレイラから命令が送られるとナイトメアハッチが開き、発艦用のカタパルトレールが伸びる。
ランドスピナーをレールに合わせて一息入れる。
『殿下。発艦どうぞ!』
「オデュッセウス、ランスロット・リベレーション。発艦する!」
カタパルトレールを勢いよく駆け、空中へ飛び出す。
フロートユニットを起動させると同時に機体を可変させる。
直角にお辞儀した体勢で足裏を後ろに向けるように膝を曲げる。襟の部位が頭部に対する空気抵抗を減らすように展開、最後にフロートユニットの向きが進行方向へと稼働する事で変形は完了した。
「頼む。間に合ってくれよ!」
加速による負荷を耐えながらオデュッセウスは祈るように呟き、ペダルを踏み込むのであった。
超合集国決議第一号【ブリタニアからの日本解放】
各国と打ち合わせして満場一致で可決される議題であったと知っていたとは言え、これを耳にして高揚感を押さえれる者が果たして黒の騎士団に存在するだろうか?
答えは――否だ。
ここに居るブリタニアに散々苦渋を飲まされ続けた諸外国、いつ自分達も植民地エリアにされるかと覚え続けた小国、祖国を蹂躙され搾取され続ける現状を耐えに耐え続けた我々。
今ここにその全ての国が一団となって立ち向かおうとしているのだ。
我々の祖国を取り戻さんが為、ブリタニアによる支配を止める為。
ゼロが計画した作戦は短期決戦であった。
こちらはブリタニアに並ぶほどの軍事力を得たものの、指揮系統をまとめただけの寄せ集めの軍隊。日本はインド軍区より暁を受領してナイトメア戦力を持っているが各国がそうとも言い切れない。ユーロピアではパンツァーフンメル、中華連邦では鋼髏、中東では小型陸戦艇のようなバミデスなどなど現在主力となりつつ飛行能力を持たない機体ばかりで歩調も合わせ辛い。
なにより今回日本へは航空・海上を進むからには空戦能力は必須。
地上戦用の機体は超合集国とブリタニアとの境に防衛部隊として配備するか、戦闘艦などに乗せて砲台として利用するしかない。日本に侵攻する戦闘部隊はインド軍区が急ぎ生産した暁に旧型のグラスゴーや無頼、サザーランドに簡易的な飛翔滑走翼を装備した機体、そして大多数が戦闘可能なヘリで構成されている。
対してブリタニアはサザーランドやグロースターなどのナイトメアで地上も空中も固めており、海中に至っては海中用ナイトメアのポートマンⅡを導入。それに次世代の新型量産機も導入してナイトメアの質と量で圧倒できる。
長期戦となれば間違いなく瓦解するのは超合集国。かと言って真正面からの殴り合いでは兵器の質や量で圧倒される。
だからこそこれからの行く末に左右するこの日本解放作戦【七号作戦】では短期で決着をつける為に再びトウキョウ決戦を仕掛ける。
星刻総司令を含む部隊が沿岸部にブリタニア勢を引きつけ、斑鳩と小型可翔艦四隻で構成された艦隊が東京湾近くまで海中を進み、一気に浮上してトウキョウ租界へと進撃。
ゼロが仕込んであったゲフィオンディスターバーでトウキョウ租界が停止している内に政庁を押さえるというものだ。
藤堂 鏡志郎は斬月に乗り込み斑鳩より発艦する。
ゲフィオンディスターバーでライフライン、通信網、そして第五世代以前のナイトメアは機能停止し、敵の戦力は半減しているとは言え第二皇子シュナイゼル率いる第六世代以上のナイトメア部隊を保有する主力部隊が到着すれば戦局はたちまち危うくなる。
その前に決めておかなければ…。
「全機目標地点制圧へ迎え!本作戦は時間が勝負を決める!迅速に事を成せ!!」
ブリタニア軍は租界外延部に部隊を配置して防衛線に備えており、機能を停止したサザーランドやグロースターが横一列に並んだまま停止していた。潰すことも考えたが時間が掛かり過ぎる上に本作戦上時間を無駄に出来ない。
無視して頭上を通過して行くとモニターに何機か稼働している部隊を確認する。
当たり前のようだが政庁周辺に動けるナイトメア部隊が集結を始めている。
いきなり攻め入るのは難しい。ならば周辺の施設を潰して包囲するまで。
『藤堂さん!』
「どうした千葉」
『先遣隊より緊急通信が―――アヴァロンを視認したと』
「なに!?」
馬鹿な、早すぎる。
アヴァロンはシュナイゼルが乗っている可能性が高い。
なんにしても租界に踏み入って早々援軍が駆け付けるなど。
こちらの手を読まれていた?なるほど…さすがあの若さで帝国の宰相を任されるわけだ。
だが、引く訳には行かぬ。
「シュナイゼルが居るという事は。斑鳩へ、ラウンズの動きはどうなっている?」
『現在ゼロがランスロットと交戦中。ジェレミアも参戦しているようですがラウンズ三人とも向かっているようで…』
ジェレミア・ゴットバルト。
以前ゼロによりオレンジ事件で失脚し、ゼロには浅からぬ恨み辛みを持っているであろう人物。
それが何故ゼロの仲間になっているのか私にも知らされていない。
色々と思うところはあるが今は目の前の事だ。
頭であるゼロを潰されれば日本解放どころか超合衆集国そのものが崩壊しかねない。
「分かった。千葉、ゼロの救援を頼む。卜部は政庁の部隊へ牽制を。朝比奈は私と共にゲフィオンディスターバー防衛に当たれ」
『『『承知!』』』
「ネモはどうした」
『アイツなら先行して敵部隊と交戦してますよ』
「そうか…」
そうとしか言いようがなかった。
反応速度は黒の騎士団随一のパイロット。
反ブリタニア活動をしていて捕まり、日本に総督と一緒に輸送されていた時に助け出し、黒の騎士団の一員となった少女だが、誰かに無理に命じられることを好かない性格で、ゼロもその点を踏まえて指示を出している。
今回彼女に出してある指示は施設の破壊もしくは起動している敵ナイトメア部隊の排除。
下手に指示を出して反感を買われのもこの時間の無い状況では避けたい。
『藤堂さん。呼び戻しますか?』
「好きにさせればいい。俺達は俺達のやるべき事をやるぞ!」
『はい!』
藤堂の斬月と朝比奈の暁直参仕様がゲフィオンディスターバー防衛に向かっている頃、先行したネモはたった一騎で渡されたリストにあった施設を好き勝手に粉砕し、次なる獲物を探していた。
四つの赤い目を輝かせ、太刀と生き物のように動く頭部から生えたスラッシュハーケンのような武装【ブロンドナイフ】で一瞬にしてヴィンセントタイプ一個小隊を壊滅させた漆黒のナイトメア。
機械というより人間のような滑らかな機体を目にしてから震えが止まらない。
間違いなくアレは同類…ギアスユーザーで違いないだろう。
「ナナリー総督に出来る限り味方を救援して欲しいと頼まれたが」
『蛇どころか虎が出たね』
周囲に潜んで様子を伺っていたイタケー騎士団のサンチアはたった今起こったばかりの惨状にため息を漏らす。
いつものように陽気に振舞っているようだがダルクの声色には不安が混ざっている。
ナナリーの騎士団である彼女らは総督護衛の任に付いていたがこの状況下で味方が孤立してしまい、その状況を知ったナナリーが救援へ向かってほしいと言ったのだ。
政庁の護りはダールトン将軍とグラストンナイツを始めとした精鋭部隊が固めているから不安も多少は少なかったが、これは出て来て正解だったらしい。あんなのが乱戦状態で来た場合は簡単に政庁の防衛ラインは突破されかねない。ここなら数の利も生かせて気兼ねなくギアスを使用できる。
「ルクレティア」
『ザ・ランドとGPSの照合確認。いつでも行けます』
『アリスと合流は待たなくて良いの?』
「到着まで二分。待って居たら奴をロストするだろう。アレを政庁に行かせる訳にはいかない」
『そうだよねぇ。ナナリーの騎士団ってあたし達にとって居心地良いもんね』
「だからこそ守らねばな。作戦を開始する」
騎士団となっているが規模は一個小隊のナイトメア部隊程度である。
だが全員がギアスユーザーであり、その能力は通常の部隊であるならば一個師団でも相手出来るほどだ。
指揮を執るサンチアは気配と動向を読み取り多種に渡る確率を算出する【ジ・オド】と、ルクレティアの地形を精密解析する【ザ・ランド】を駆使して作戦を立案し、過重力で超高速を得る【ザ・スピード】のアリスとあり得ない程の怪力を生む【ザ・パワー】のダルクがアタッカーとして作戦の柱を担っている。
ゆっくりと息をして呼吸を整えたサンチアはトリガーかけた指に力を籠める。
サンチアのグロースター最終型が構えている狙撃用リニアライフルが目標であるナイトメア――マークネモをに狙いを定める。
同時に背後で待機するルクレティアのグロースターREVOが砲撃戦の準備に入る。
グロースターREVOはゲームに登場したサザーランドREVOをグロースターで再現したものだ。装備は変わらず両肩には八連小型ミサイルポッドにキャノン砲を備えている。ライフルも加えて射撃戦特化の機体で近接攻撃は近接武器がない代わりに追加装甲で防御力を上げての体当たりのみ。
正直スタントンファーでも欲しいところであるがこの二人の仕事は状況把握に作戦立案、後方支援にあるので作戦通り事が進むのなら問題はない。
目標を睨みつつトリガーを引く。
弾丸が放たれると伴って発砲音が響く。
耳が良いのか、それとも勘が良いのか奴は直撃する前に気付き、弾丸をギリギリのところで躱し切った。
どう見ても人間の反応速度ではない。
「ルクレティア!」
『撃ちます!!』
奴ははっきりと発射してきた方向からこちらを位置を理解し顔を向けている。
場所が特定されようともこちらは作戦通りに事を進めるのみ。
グロースターREVOのキャノン砲より砲撃が開始され、マークネモは避けながらもこちらに進んでくる。
こちらに誘導されているとも知らずに。
砲撃と狙撃の両方を回避しつつ距離を詰めるマークネモはふと自分を遮った影に疑問を浮かべて頭上を見上げる。
そこには六階程のビルの残骸を担いだヴィンセントが跳んでいた。
ダルクのザ・パワーを発揮できるように近接戦闘――肉弾戦闘特化にしたこのヴィンセントにもギアス伝導回路とマッスルフレーミングの機構を備え、機体の何倍もの物体を持ち上げるパワーを発揮できる。
『よいしょっと!!』
天辺から放り投げられたビルによりマークネモは姿を掻き消され、辺りには落ちたビルによって砂ぼこりが舞い上がる。
『これでどうよ。アリスの出番はいらなかったね』
確かに普通ならそうなのだが嫌な予感がする…。
違う。これは予感ではない。
未だにジ・オドで奴の気配を感じ取れる。
しかし奴はダルクが投げ飛ばしたビルに潰れた筈。
ならばどうやって…。
答えを出す前に気配が迫り、答えを見せつけてきた。
頭から落ちて斜めに立って居るビルの反対側を突き破ってマークネモは姿を再び現したのだ。
投げたのがただの瓦礫なら良かった。
ビルだったからこそ内部をブロンズナイフを使用した三次元の移動方法で通り抜けたのだ。
人間ならざる力。
まさしくギアスの力であろう。
「化け物か!?」
『下がって!ここは一斉射で』
サンチアの最終型を押しのけてルクレティアのグロースターREVOが前に出る。
八連小型ミサイルポッドにキャノン砲、ライフルの一斉掃射を行った。
降り注がれた弾幕を壁にブロンズナイフを刺して昇り、回避しながら距離を詰められる。
眼前まで迫られるとグロースターREVOには体当たりしか残されていない。
されど実行する前には通り様に足を斬り落とされ、地面に横たわる。
味方をやられるのを黙って見ていれるわけもなく、サンチアは狙撃用リニアライフルを投げ捨てて、メーザーバイブレーションソードを構えて斬りかかった。
が、気が付けば右腕と頭部が機体より切り離され、サンチアもルクレティア同様に転げるしかなかった。
目で追えても理解や反応が追い付かない。
本当に気が付けば勝敗は決していた。
そして止めを刺そうと太刀を振り上げ……。
『止めろおおおお!!』
駆け付けたダルクのヴィンセントによる攻撃。
反応速度が桁違いと言っても先ほどの攻撃を見れば警戒し距離を取る。
たった指先が掠っただけでもその機体は砕け散る。
当たればダルクが勝利し、躱しきれれば奴の勝ち。
問題はダルクがあの反応速度に追い付けるかどうかだが…追い付くのは至難の業だ。
追いつけるのはアイツしかいない。
『サンチア!みんな無事!?』
「アリス。間に合ったか」
そこに現れたのはアリスのギャラハッド。
ダルクより前に降り立ってマークネモを牽制した。
サンチアは急ぎ先ほどの戦闘データをアリスに転送する。
「奴は未来予知、または読心のギアスユーザーの可能性が高い」
『分かった。二人はまだ動ける?』
「いや、足をやられている。私たちは兎も角、ナイトメアは戦闘不能だ」
『ならダルクと共に引いて。こいつは私が』
『ちょっと。私はまだ行けるんだけど』
『誰がサンチアとルクレティアを護るのよ?』
モニターにギャラハットのつま先から脛の辺りまで真っ赤に輝いたのが映し出される。
アリス専用ギャラハッドには通常の剣以外に足と腕部に折り畳み式のメーザーバイブレーションソードを装備している。
反応速度に合わせる為か背の剣は抜かずに折り畳みと足のメーザーバイブレーションを起動させたようだ。
「ダルク!私とルクレティアを回収。機体は機密保持の為に破壊し、この場を離脱する」
『え?壊しちゃうの。勿体ないような…』
「良いから急ぐぞ」
自爆コードを撃ち込んでコクピットから降り、ダルクのヴィンセントへとルクレティアと共に駆け寄る。
その瞬間、アリスのギャラハッドがマークネモが動こうとしたのを察して斬りかかる。
スラスターとザ・スピードを合わせた超高速で斬りかかったギャラハッドと、動きをギアスで読み切ったマークネモが回避し、立ち位置が入れ替わるように二機が動いた。
胴体を真っ二つにしようと振られた剣はマークネモの右手首を少し掠った程度の傷しかつけれなかった。
『馬鹿な!攻撃の未来線は読めていたのに何故躱せなかった!?』
『私のザ・スピードを…高速の太刀筋を躱したというの!?』
二機より驚きの声が漏れるとアリスは無理にUターンして再び斬りかかり、マークネモはすべてのブロンズナイフを攻撃と移動に使用しながら太刀を振るう。
自機が自爆する様子を離れた地点より眺め、目で追うのがやっとの二機の斬り合いを目つめる。
決してナイトメアがあっても入る余地もない戦闘。
勿論アリスの勝利を願っているが、勝ち負け以上に無事に帰還することを祈りながら、ダルクのヴィンセントに運ばれ戦場を後にするのであった。
元黒の騎士団収容施設前でも激しい攻防戦が繰り広げられていた。
ここには姫騎士護衛の為の戦力を置くために簡易であるが基地としての機能を持ち、防衛用にナイトメア以外にも多くの暴徒鎮圧仕様のプチメデなどが配備されている。
プチメデにはサクラダイトを使用しない緊急時用の電力ラインが内蔵されており、単体でも十分程度なら稼働可能。
黒の騎士団にはそれも含めて一端の軍事施設として認識されており、施設を破壊する為に部隊が割かれたのだ。
三機の暁が連携してヴィンセントに銃撃を向けるが、ターゲットになっているヴィンセントはコーネリア専用機で、放った弾丸はガンランスの先端に展開されたブレイズルミナスで弾かれ、ランスに内蔵された四つの銃口により一機が蜂の巣にされる。
銃撃戦では埒が明かないと思った一機が廻転刃刀で斬りかかるものの、力量差があり過ぎて簡単に槍先で裁かれてしまう。そしてがら空きとなった胴に膝蹴りが直撃する。
「この脆弱者が!!」
トリガーを押し込むと肘から膝へ付け替えられたニードルブレイザーが暁を貫く。
残った一機は立て続けに二機がやられた事で逃げようとするがギルフォード機の横から一突きで撃破される。
『姫様。このままではこちらのエナジーが尽きます』
「分かっているが引く訳にもいかない」
出来ればコーネリアもここから姫騎士を連れ出して政庁の守備隊と合流したいところだが、シェルター並みとはいかなくとも施設自体頑丈に作られ、地下にも地下施設が存在する。機密性が高いのはナイトメア格納庫と姫騎士の居住区と仕事部屋ぐらいなので緊急時の避難先として設定されていたのだ。
いきなり戦闘が起こり周辺住民は避難計画通りに避難してきたのだ。
民間人を放置する訳にも行かず、防衛ラインを張って護るしかない。一応ここからの脱出を考えているもののゲフィオンディスターバーの影響で装甲車すら使えない。
そもそも戦闘中に外に出た方が危険なので逃がすに逃がせない。
『敵機さらに確認!』
「次から次へと…行くぞギルフォード!」
『お供致します姫様』
確認できたのは暁四機。
上空より急降下しながら接近してくるのに対してコーネリアとギルフォードはガンランス先端のブレイズルミナスを展開して弾丸を防ぎながら上昇する。
すれ違いざまに一機はコーネリアに薙ぎ払われ撃破されるが、ギルフォードが向かっていた相手は衝突を恐れてか回避しようと機体を逸らす。
ギルフォードの技量ならば問題なく動きに合わせられたがあえて合わさずに右腕の兵装を起動させる。
右腕には高所に撃ち込んで昇る為のスラッシュハーケンの亜種型で、機体に絡む事を目的としたスラッシュアンカーが取り付けられてある。放たれたアンカーまたは元より強化したワイヤーを絡ませ身動きを取らせず、敵機を捕獲・行動不能にしてしまおうとの考えから作られた新兵器。
放たれたスラッシュアンカーは避けた暁に絡むとギルフォードは強化ワイヤーを右手で掴み、余力と相手の勢いを利用して別の暁に衝突させる。あまりの勢いで衝突した二機は大破とまではいかないが、機体は大きく損傷した。そこを左手で構えているガンランスの銃口が火を噴き二機まとめて撃ち抜いた。
最後の一機はそのまま施設に向けて突っ込んで行くが地上からの弾幕に晒されて爆発四散した。
地上にはマオが搭乗するギャラハッドにヴィンセント部隊が待機している。
ヴィンセント隊は施設の護衛をしなければならないので良いとしても、本来なら機体性能の高いギャラハットには自分達と一緒に前に出て欲しいのだが、パイロットであるマオが然程強い訳でないので、ああして固定砲台のようなことしか出来ない。
おかげでこちらはエナジーの消費が激しい。
苦々しくエナジーの表示を睨んでいると辺りの建物や街灯などに灯りが灯り始めた。
これはゲフィオンディスターバーの影響が無くなったという事であり、現状機能停止中のナイトメアが戦闘に復帰するという事。
「これで形勢は決したか―――ッ!?」
一瞬の油断。
高所からの奇襲でなく建物の間をすり抜けてきた一騎のナイトメア。
暁をエース仕様にカスタマイズした暁直参仕様が隙を突くように廻転刃刀を構えて斬り込んできた。
咄嗟にガンランスで迎撃するが、ガンランスはブレイズルミナスや銃の機能などを持たせた為、通常のランスよりも重い。振り回せるように専用のヴィンセントはパワーを上げているが、精密な射撃をするにはしっかりと両手で支えるか重さによって発生するブレを補正する必要がある。
つまり咄嗟に銃口を向けて撃ったところで重さに振り回されて狙い通りに当てれないのだ。
そんな弾丸を回避して迫る暁直参仕様の一撃をガンランスで何とか受け止める。
「この亡霊共が!!」
『その声、ナリタで!?コーネリア…生きていたか』
暁直参仕様を操る卜部は声でコーネリアと判断し、ここで討ち取ろうと殺気立つ。
射撃を行おうとして重さで振り回され、無理に攻撃を受け止めたコーネリアは完全にバランスを崩しており、呆気なくガンランスを弾き飛ばされてしまう。ギルフォードは援護射撃しようとしてもコーネリア機が接近し過ぎていて撃つに撃てなかった。
『その首―――貰った!!』
「嘗めるな!!」
振り下ろされる廻転刃刀に目をくれず、膝のニードルブレイザーを撃ち、反動で身体の向きを替えてコクピットへの直撃は回避。代わりに左腕を斬り落とされるが仕方がないと諦めるしかない。
『なんと!?今のを避けるか!!』
『御下がり下さい姫様!!』
距離が開いた事でギルフォードがすかさず射撃で牽制する。
卜部は驚きつつも冷静に操縦して回避運動を続けるが、一発の弾丸が左足首を撃ち抜いた。
施設上部に膝を付いて狙撃用にカスタマイズされたアサルトライフルを構える姫騎士専用に用意された桃色のヴィンセント。
剣を振るう事は出来ないけれど、援護ぐらいはと出て来たのだが、まさか回避運動を行っている相手に当てるとは想いもしなかった。と言ってもまぐれ当たりっぽいが…。
被弾した卜部は後続の暁隊と合流して再び攻め込もうとするが援護しようとマオのギャラハッドにヴィンセント・ウォード隊によって張られた弾幕の前に一旦撤退を余儀なくされた。
『ご無事ですか!?』
「あぁ、無様にも片腕を持って行かれたがな」
『ここは私が押さえますので姫様は後退を』
「いや、防衛線を下げよ」
『しかしそれでは…』
「明かりがつき始めたという事は機能停止しているナイトメアが戦線に復帰する。さすればこちらにも援軍が来る。あと少し耐えればそれで良い」
『ハッ――緊急通信?』
アラーム警報と同時に送られてきたのはフレイヤという兵器を使用するという情報とその兵器の範囲内となる危険域のマップ情報。
いったい何のことか知らない二人はただただ租界全体を照らす桃色の輝きを目にするのであった…。