コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第105話 「決断」

 私は間違っていたのでしょうか?

 

 ブラックリベリオンが起こる前からとある実験の事ばかりを考えていた。

 学園でイベントがあったりしても参加せず、授業の終えた放課後にも生徒会室に設けられたパソコンの前で理論だけを組み立て続けていく日々。

 周りからは理解されない。

 自分が周りにどのように周知されているか良く知っていた。

 暗く、人付き合いは苦手で、科学オタクと蔑まれていた…。

 もしもシャーリーのように誰とでも仲良くなれるような明るさを持っていたら。

 もしもミレイちゃんのように堂々と振舞える芯の強さがあれば。

 もしも…もしも…もしもと何度も考えてきた事か。

 でもこれが私。

 こんなのが私なのだ。

 

 だから嬉しかった。

 雲の上の存在であるオデュッセウス殿下とユーフェミア皇女殿下に優しくされた事に。

 オデュッセウス殿下の専属技術士官として雇われ必要とされた事に。

 今まで考えるだけだった技術を生かせる機会を与えて下さったシュナイゼル殿下に。

 

 私は変われた。

 新しく生まれ変われたのだ。

 

 そう錯覚していた。

 人はそうそう変われはしない。

 立ち位置や立場が変わるばかりで…。

 

 私は学園に居た頃と何一つ変わっていなかった。

 自分の事ばかりを見て周りには一切目を向けず、介しようとせず、ただただその場その場の流れに流されているだけ。

 

 ようやく思案するだけだった理論を実証し、物として完成させた。

 それが何をもたらすかも考えもせずに完成させてしまったのだ。

 実験場で起爆させ、データ通りの威力を発揮したのを確認するだけでその意味を認識しえなかった。

 ランスロットに積み込ませて発進させた時でさえも別段思う事も無かった。

 中々撃たないスザクに苛立ちを覚え、何故撃たないのかと理由を考えもせずに叫んでいた。

 

 私がフレイヤがどれだけ悲惨で非情で非道な結果を招くかに思い至ったのは殿下が戦場に現れた時だ。

 黒の騎士団を壊滅させれるフレイヤは同時に味方をも危険に晒す。

 怯え、逃げ惑う一般市民。

 ブリタニアに反旗を翻す黒の騎士団。

 ブリタニアの矛・盾として戦うブリタニア兵。

 その中にはミレイちゃんやシャーリー、リヴァルなどの学園の皆や戦場に居るオデュッセウス殿下も含まれるのだ。

 

 もしもあの一発で巻き込まれていたら?

 大勢の一般市民がフレイヤで蒸発したら?

 私に責任を取る事は出来ない。

 身近な人々の命を奪われた悲しみや憎しみを孕んだ憎悪が一斉に向けられるだろう。

 ゾッとする感覚に襲われて震えが止まらない。

 私はなんて物を作り、なんてことを口走り、なんてことを行おうとしていたのかと自分自身に恐怖した。

 

 殿下が黒の騎士団にフレイヤの威力を見せ、交渉の席に付かせる為だけの脅しとして上空に打ち上げさせた時には心の底から安堵し、アヴァロンに着艦したときには真っ先に駆け寄り、深々と頭を下げて謝った。

 自身の想いを殿下は頷きながら聞き続け―――額に軽いチョップを落とした。

 

 「まったくとんでもない物を作ったものだね」

 「……はい」

 「でも、まぁ、被害はない。君も心の底から反省している。なら良いんじゃないかな?」

 「え?」

 「在り来たりの言葉だけれども失敗したのならその経験をこの先で生かすんだよ。君は失敗したんだ。ならこれからどうしたら良いかを考えるんだ。難しい事だけれども君は一人じゃない。ロイドやミルビル、心許ないかも知れないけれど私を頼っても良いんだから」

 

 ふわりと頭を撫でられた手は大きく力強く…とても温かった。

 人は簡単に変わる事は出来ない。

 なら変わろうと必死になるしかないんだ。

 想わなければ、行動しなければいけないんだ。

 ただ流されるだけの私ではなく、自分でしっかりと考えて殿下のお役に立てるように、優しさに甘えるのでなく報いる為にも。

 私、ニーナ・アインシュタインは変わるんだ。

 オデュッセウスの大きな背中を見つめながら力強くニーナは想うのであった。

 

 

 

 ……その大きな背中の人物は後から合流したレイラにコーネリアの二人掛かりで怒られて小さくなるのだが、それはニーナの知るところではなかった。

 

 

 

 

 

 

 正式な話し合いの前にオデュッセウスは一足先に斑鳩に入った。

 シュナイゼル達には先に話しておくことがあると言い、アーニャ・アールストレイム(中身はマリアンヌ様)と先に来たのだ。

 ゼロ(ルルーシュ)にはC.C.の状態を戻す方法があると言って来ている。

 入った時には怒りを向けている千葉などが何時襲い掛かって来るかと危機感を募らせていたが、そこはゼロが配慮して人目につかない様にセッティングしてくれた。

 いやはや気遣い助かるよ本当に。

 一人二人なら鍛えてあるから組み伏せれるとしても乗組員全員となると無理だ。

 という事で今ルルーシュ…ゼロの私室でC.C.と対面したわけだがやる事は決まっている。

 今日この日の為に書き連ねたメモ帳にノイズ処理も行い声だけを録音できる高性能ボイスレコーダー。

 

 「お、お、男は床でね、寝ろ!」

 「貴方…何時までやらせるの?」

 

 呆れた視線を向けられるがこの欲求は止められなかった。

 C.C.は一時的に意識を離して昔に戻っている。

 傍若無人やだらしない一面を多く持ちながらも、優しさと心の強さを持った女性。

 それが今やおどおどしたか弱い少女となっている。

 

 そんな今の彼女に原作で発したセリフを言わせたらどうなるのか? 

 などという思い付きを躊躇うことなく実行した馬鹿は想像以上の衝撃&ギャップで悶絶しているのだが…。これを他の弟妹が見たらどう思うのだろうか。

 アーニャ…マリアンヌは呆れ顔で眺めつつも悪戯好きの性格も相まってちょくちょく参加する。

 が、すでに三十分ほど経過し飽きが来ている。

 大きくため息を付いたマリアンヌは軽く頭を叩いて意識を戻させる。

 

 「ふんぐるいふんぐるい―――ハッ!?私は何を…」

 「なに馬鹿やってるのよ。そろそろC.C.を元に戻すわよ」

 「惜しいような気も…」

 「何か言ったかしら?」

 「イエ、ナンデモナイデスヨ」

 

 恥ずかしがりながらも頑張って真面目に言っているC.C.の前で悶絶し続けるオデュッセウスもようやく我に返り、片言ながらも本来の務めを果たす。

 マリアンヌ様が触れるとC.C.と共にハイライトが消えてその場でぐったりとする。

 倒れたら痛いだろうからと二人を横にして近くの布を駆けてただ見つめる。勿論接触して意識を探っているのだろうから離れないようにするのに最新の注意を払った。

 

 幼げを残した少女(アーニャ)と普段なら見せないだろう無防備な笑みを浮かべる少女(C.C.)が一緒の布で寝ている…。

 なんだろう。

 たったそれだけなのに凄く絵になる。

 寝ている事もあって躊躇うことなく写真を撮って携帯を仕舞い込む。

 暫くして目を覚ました二人は静かに起き上がり、私に疑いを含んだ視線を向けて来る。

 

 「寝ている間に悪戯してないでしょうね」

 「―――…悪戯とはどの程度の事でしょうか」

 「したな」

 「したわね」

 「携帯でお二人の寝顔撮らせて頂きました!申し訳ございませんでした!!」

 

 一瞬でバレすぐさま土下座。

 そして何故かC.C.に頭を踏まれるというこの始末。

 顔を上げれないから見れないが多分ゴミを見るような目で見降ろしているのだろう。

 マリアンヌ様は現状を楽しんでいる気がするが。

 

 「ま、まさか私の方が土の味のような構図になるとは…」

 「なんだ?土に塗れたかったのか?なら後でたっぷりと擦り合わせてやろう」

 「なら構図も一緒で枢木神社で願おうか」

 「馬鹿な事言ってないの。C.C.もその辺にしてあげなさい」

 

 マリアンヌ様の一言で頭を軽くだが踏んでいた足が退けられた。

 ふむ…美少女に冷たい視線で見降ろされて踏まれる。これは俗にいうご褒美と言うやつか。私は妹に膝枕したりされたりした方が好きかな。

 なんにしても止めて下さりありがとうございますマリアンヌ様。

 

 「それは私の(・・)玩具なんだから」

 「玩具確定なんですか!?」

 

 確かに昔っからそうでしたけれども。

 納得いかないと表情で示してもクスリと笑みを向けられるだけ。

 肩を落としながらも乾いた笑みを返す。

 

 「さぁて、あの人を待たすのもなんだし。行きましょうかC.C.」

 「あ、待ってください。今連れていかれると少々問題が」

 

 これからブリタニアと黒の騎士団との話し合いがあるというのに黒の騎士団のC.C.を神聖ブリタニア帝国のナイトオブラウンズのアーニャ・アールストレイムが連れ去ったとなると少々どころか大問題。

 攫われたとなると奪還作戦をするだろうし、ゼロならばトウキョウ租界での戦いを避けていきなり神根島に奇襲仕掛けるくらい訳ないだろう。そうなるとシャルルとマリアンヌ様の計画に支障が及ぶ。

 

 ……と、自分の思惑を語らず(・・・・・・)、同時に嘘をつかない様にC.C.を連れて行く事が大きなリスクになる理由を述べる。

 何度か頷きながら小さくため息を吐く。

 

 「確かにそれは面倒ね」

 「ですので交渉後に神根島に私がお連れしようかと」

 「出来るのかしら?」

 「無論です」

 「失敗は許されないわよ」

 「ご心配なく。最悪の場合にはギアスユーザーが居りますので」

 

 解答に満足したのかマリアンヌ様は「なら任せたわ」と一足先に神根島に向かう為に部屋を後にする。

 出る際にはゼロに連絡してロロが先導の為に来ることになっている。

 そしてC.C.と二人っきりとなる。

 

 「少し話をしようか?」

 

 私は意を決して口を開いた。

 これが父上やマリアンヌ様に対する裏切りだと理解して。

 

 

 

 

 

 

 第二次ブラックリベリオンの翌日。

 黒の騎士団トウキョウ租界侵攻部隊旗艦の斑鳩には超合集国日本代表皇 神楽耶、超合集国中華連邦代表天子の代表二人を始めとし、ゼロ、藤堂 鏡志郎、黎 星刻などの黒の騎士団に欠かせない人物が集結していた。

 と、言うのも第二次ブラックリベリオン時にオデュッセウスが発した交渉の席につくためである。

 現在黒の騎士団もブリタニア軍も停戦状態になり、ナイトオブワンやナイトオブテンは沿岸部から離れた。なので睨み合いをしていた星刻達も話し合いに参加すべく合流したのだ。当たり前だがもしもの時には対応できるだけの指揮系統を作ってからだが。

 

 ゼロは会議室の扉の前で立ち止まる。

 これからどうするか。どうなるかがこの部屋で行われる話し合いで決まる。

 最悪の場合にはギアスを行使する事にもなるだろう。

 あの兄上にも…。

 

 覚悟は未だ定まってはいないが何時までも立ち止まっている訳にも行かずに扉を開けて先に入っているブリタニア側に姿を見せる。

 

 「おう、ワリィな。テメェらにやられた負傷兵の世話に手間取ってよ」

 

 入るや否や皮肉を言い放った玉城にディートハルトが注意をするが、真正面から受けたオデュッセウスは困り顔を晒した。

 まぁ、オデュッセウスが困っているのは玉城の一言だけではなく、今にも襲い掛かって来そうな気迫を向けている千葉にもあるのだがそれは置いておこう。言っても止めるとは思えないし。

 

 先に入って待っているオデュッセウスを中心に左右にコーネリア、シュナイゼルなどの皇族が座り、その後ろにそれぞれ一人ずつ立って警戒している。

 オデュッセウスの親衛隊長のレイラにシュナイゼルの側近カノン、コーネリアの騎士ギルフォード。

 ラウンズが居ないのは警戒してかそれともこちらへの配慮か…。

 

 「いやはやそれは申し訳ないね。―――でも負傷兵で良かったですね。フレイヤなら遺伝子すら残りはしないですから」

 

 相も変わらず涼し気な笑みを浮かべた仮面をかぶり、飄々とこういう事を口にする。

 シュナイゼルの一言に玉城は舌打ちしてそっぽを向く。

 皆には伝えているがデータにとれただけでもあのフレイヤという兵器は異常だ。

 本当にあんなものを何発も撃たれていては黒の騎士団が壊滅。下手をすれば周りの者らまで巻き込みかねない。もしかするとナナリーだって巻き込まれたかも知れない。そう思うとゾっとする。

 

 「シュナイゼル、交渉前に事を荒立てないでおくれ。私が話し辛くなるよ」

 「申し訳ありません兄上」

 

 昔とあまり変わらないやり取りに安堵感を覚えながら席につく。

 ナナリーからは不安そうな雰囲気が漂い、コーネリアからは薄っすらと警戒心が伺える。

 薄っすらというのはギアス響団を攻撃した際に共同戦線を行ったせいだろうか?それとも別の理由があるのか……あー、オデュッセウス兄上が話しづらくなるから牽制的な事を控えているのか。

 

 「では話し合いを始めましょうか。オデュッセウス殿下」

 「勿論ですよ。皇代表(・・・)

 

 いつもの人の良さそうな微笑みは消え去り、真剣な表情でさん付けでなく役職を口にした事からいつになく真面目なのだと察する。後ろの親衛隊長がぼそっと「…いつもそういう態度であれば」と漏らしたのがギリギリ聞こえたがやはり兄上の親衛隊長となると別の意味で大変なのだろう。

 そして何故かもしもの時に対応できるからと連れて来たロロが苦笑しているのだが…。

 

 「腹の探り合いは無しと致しましょう――――日本を返して頂きたい」

 「良いよ」

 「すぐに返事は出来ないでしょうけ…れ…ど?」

 「あ!あと紅月 カレンもか。紅蓮を改修してからだから少し時間が掛かるかな」

 

 本格的な話し合いが始まって一秒も経たぬ間に会議室が凍り付いた。

 あまりに呆気なく返還することに同意した事に黒の騎士団は理解が及ばず、ブリタニア側も同様に唖然としていた。

 あのシュナイゼルが目を見開いて驚きの感情を露わにするほどに…。

 

 「あれ?どうしました」

 「あああああ、兄上!何を仰っているのか分かっているのですか!!」

 「日本の返還でしょ」 

 「いえ、兄上。コーネリアが言っているのはそうではなく皇帝陛下の了承も得ぬまま決定するというのは…」

 「俗事は任せる―――だってさ。なら好き勝手にするよ私は」

 

 にっこりと笑った兄上にコーネリアもシュナイゼルも苦笑いを浮かべる。

 そういう俺も仮面の下で浮かべているがな。

 唐突にこういう思いもよらぬことをする。

 すぐに我に返って納得せざるを得ないなと頭を働かせられるのは昔から慣れている皇族と長く近くで関わっている人物だけだろう。

 

 「ただし条件がある」

 

 悪戯っぽく笑みを浮かべて言葉を続ける。

 その表情が何処か母さんに似ていた。

 なんにしても兄上からの条件をまずは聞くことにしよう。

 

 「お聞きしましょう」

 「現在父上が――神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアがここ日本の神根島に来てるんですよ。なので一緒に…えーと、なんて言えば良いかなぁ。んー……殴り込みいかない?勿論大義名分も用意している」

 「喜んで」

 「ゼロ様!?」

 

 今度は自分が思わず即答してしまった。

 跳び付かずにはいられない。あの男に対して攻め込むというのだから。

 本日二度目の静寂…。

 これはもう驚きというより考えが追い付いていない。

 あっさりと日本を返還するだけでも驚愕する事実なのに、重ねるように皇帝に反旗を翻すと言われれば当然と言えば当然か。

 いち早く思考を正常に戻し、思案できたのは俺以外で言うとシュナイゼル、オデュッセウスの親衛隊隊長。黒の騎士団で言えば星刻や藤堂ぐらいだ。

 玉城に関しては考える事を放棄しているかのように騒ぐだけで、周りの考えをまとめる時間を裂いているように見えるが…。

 

 「ほう、見かけによらず野心家だったのだな」

 「野心?」

 「自ら国のトップを討つ。大義名分を掲げていくからにはそういう事なのだろう?」

 「第一皇子で皇位継承権第一位、さらには皇族からの信頼が厚いとくれば討った後に皇帝になるのは―――」

 「いやぁ、一時的には引き継がなきゃとは思うけどずっと皇帝は嫌だな。父上は元老院やシュナイゼルや私とかに投げてたりするけど皇帝って本来ならば(・・・・・)大変な仕事じゃないか。私はゆっくりとのんびりとした暮らしがしたいからね」

 「ならば何故自国の皇帝を討とうというのですか」

 「討つというよりは打つ…かな。そろそろ一回殴ってでも止めないといけないから―――で、手を貸してくれるかいゼロ」

 「……より詳しい話をお聞きしても?」

 「勿論だとも。出来れば二人っきりで話したいな。それまではここの面子には部屋から出ず、外部と接触する機会を与えたくないんだが」

 「良いだろう。話が済むまでは皆にはここで待機させる」

 「時間も無いから話が早くて助かるよ」

 

 理解しようと思考を働かせながら兄上と別室に移動する。

 何か裏があるのかと警戒し疑うべきなのだろう。

 だけれども兄上に対してその考えは向けなかった。

 寧ろ安心しきっていた。

 ナナリーの件を始めとして、キュウシュウに対大宦官戦、ギアス饗団など共闘したときの兄上は本当に頼りになり、絶対的な安心感がある。

 だから俺はすでに決めていた。

 どんな話を聞かされても兄上の提案に乗ると。

 

 まさか母さんが生きていると聞かされるとは思いもしなかったが…。


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