コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
帝国最強のナイトオブワンの称号を持つビスマルク・ヴァルトシュタインはいつになく焦っていた。
シャルル・ジ・ブリタニア皇帝陛下が計画を実行する為に神根島に到着し、自身の万が一の為に警備についた途端これだ。
全世界に発せられる放送…。
オデュッセウス・ウ・ブリタニア皇子が現皇帝の行いは他国を虐げるばかりでブリタニアを貶める行為だと非難。他にも政治を俗事と述べた事や臣民全てを蔑ろとしている事を非難し、神聖ブリタニア帝国シャルル・ジ・ブリタニア皇帝に対して反旗を翻したことを宣言した。
これに同調したのはオデュッセウスを慕う多くの皇族と大貴族達。それに植民地エリアの大多数である。
植民地エリアではオデュッセウス殿下がすでに融和策を行っており、シャルル皇帝を廃せればオデュッセウスが植民地エリアに対して行う恩恵を万全に受け入れられるという期待と恩から現皇帝ではなくオデュッセウス側へとついた。
まだエリアの方はいい。問題は皇帝陛下代理を務めているギネヴィア・ド・ブリタニア皇女殿下が同調して反旗を翻した事だ。動きは迅速ですでに同調した貴族や皇族と話し合い、ブリタニア本国の主だった機能を手中に収めている。
味方同士の戦いに踏み切れないブリタニア軍は指示を乞おうにも陛下は気にも留めていない様子。
「守備隊を展開させろ。これより我らは時間稼ぎを主体に防衛線を開始する」
『ヴァルトシュタイン卿。陛下はグレートブリタニアに戻って頂いた方が宜しいのでは?』
「陛下は最も安全な所に居られる。案ずることなく防衛に集中せよ。ブラッドリー卿にも出撃を」
モニカが乗っているログレス級浮遊航空艦グレートブリタニアとの通信を切るとモニターに映る反乱軍を睨みつける。
こちらの戦力は自身が搭乗しているギャラハッドに皇帝直属の騎士団“ロイヤルガード”の緑色のヴィンセント達。そして神根島守備隊のフロートユニットを装備したサザーランドにグロースターである。ブラッドリーは専用機を持っていたが先の戦闘で損傷。今は予備機のヴィンセントに搭乗して出撃させている。
対して反乱軍は黒の騎士団旗艦の斑鳩を中心に左右にアヴァロンとペーネロペー、前方に小型可翔艦三隻を展開し、ナイトメアフレーム隊を発進させている。
黒の騎士団は超合集国の多数決の合意がなければ動けない為、一緒に居ようと今はまだ戦えない。ゆえにオデュッセウス旗下の部隊も停止するしかない。
「に、しても厄介だな」
ビスマルクはぽつりとつぶやいた。
計画を考えれば遺跡を破壊されぬよう時間さえ稼げればこちらの勝利。逆に言えば突破された上で遺跡を完全に破壊されればこちらの負けだ。
反乱軍の中にはランスロットや捕縛してあった紅蓮の姿もある。
枢木とオデュッセウスが旧知の仲で友好関係を築いていたのは知っていたのでそれほど驚きはない。が、さも当然のようにゼロが搭乗しているであろう蜃気楼に背を預けるようにオデュッセウス殿下のランスロット・リベレーションが前線に出ている事には違和感を覚えてしまう。
昔から賢い子だった。
幼き頃から見守って来たから殿下の優秀性を疑う余地はない。
優しく、努力家で、家族想い。だからと言って甘いだけでなく、守るためには剣を振る覚悟もあった。
稽古をつけていた時を懐かしく思い出す。
だからこそか彼は前々からこの事を予想して準備していたのではないかと疑ってしまう。
陛下は気付いていないだろう。
彼――オデュッセウスはすべてを統一する陛下の計画を好んでいない事を。
よく見れていれば…“よく”では無い。親として人としてちゃんと接していれば気付けたはずなのだ。
殿下は意識を繋げる集合体ではなく違う個だから好むという事を。
自分と違うから妬み、恨み、警戒する。
逆に自分と違うからこそ分かろうとする。欲しようとする。成ろうとする。
陛下は前者で殿下は後者。
相容れる道理は最初からなかったというのに…。
なんにせよもう手遅れだが。
現状に憂う事も、殿下が今更動いた事もすでに手遅れだ。
『私はオデュッセウス・ウ・ブリタニアである。
神根島を守護するブリタニア軍に通告する。
我々はこれより世界を苦しめ、ブリタニアを世界の敵とする元凶を捕えます。
貴公らが真にブリタニアの騎士と言うのであれば道を開けなさい!
それは国や国民を―――否、人類そのものを蔑ろにする存在。
己が命と騎士の誇りをかけてまで守るものではない。
オデュッセウス・ウ・ブリタニアが命ずる。
道を開けよ!そして志を同じくする者が居るならば我に続け!』
忠誠心の高いロイヤルガードが揺らぐことは無い。
が、拠点として重要性を理解できない神根島の兵士達はそうでもない。
遺跡の事を…陛下の御意志を知る立場ならまだしも有象無象でしかない彼らは重要性に触れられず、左遷に近い扱いを受けたと思っている兵士も多い。
士気が低いのだ。
そんな者らが殿下に弓引くことが出来ようか。
させるしかない…。
「ブラッドリー卿…」
『了解です。ヴァルトシュタイン卿』
薄い紫色に塗装されたヴィンセントが動きを止めたサザーランドのコクピット上部を切り裂いた。
突然の出来事に戦場の目線が釘付けとなる。
そして搭乗者が見える位置取りでランスを突き立てて絶命させる。
『何を立ち止まっている?ブリタニアとは皇帝陛下あっての事。それを反旗を翻した者の言に惑わされるとは…。良いだろう。これより先、反乱者に加担する者、躊躇った者は私が殺してやろう』
楽し気に周囲に言い放たれた言葉に兵士達がゾッとする。
これが他のラウンズであるならば脅しの類と判断も出来るだろう。が、今宣言したのは人を殺す事を楽しんでいるルキアーノ・ブラッドリー卿。精神は狂人で腕前は皇帝最強の十二騎士の一席を預かる者。
神根島の兵士達には死神に見えただろう。
戦わなければ死ぬと…理解した。
『さぁ!誰から殺してやろうかぁ!!』
殺されたくない一心で立ち止まった機体が一気に突っ込んで行く。
未だ超合集国からの決議が来ていない黒の騎士団は動けない。となれば動けるのはオデュッセウス旗下の部隊のみ。
ビスマルクも操縦桿を倒して前に出る。
狙うはオデュッセウス・ウ・ブリタニア。
「殿下!いや、オデュッセウス・ウ・ブリタニア!!」
皇帝陛下自ら名を付けたギャラハッドの大剣“エクスカリバー”を上段に構えて突っ込む。
気付いたランスロット・リベレーションは蜃気楼を突き飛ばして距離を取らせ、大口径回転式拳銃を構えた。
放たれた弾丸は正確に頭部や肩を撃ち抜こうとするが当たらない。
これはギアスの力ではない。
ギアスを使えば容易いが殿下の場合は必要ないのだ。
何故ならば殿下は人を殺す事を嫌う。戦闘では頭部や腕などを狙うばかりでコクピットに対する攻撃は無い。ならば銃口の向きとその事を踏まえて考えれば自ずと狙っている場所は理解できる。
六発ほど回避すると弾切れを引き起こしたのか次の弾を装填し始める。
そんな間は与えないが。
上段からの一撃を囮として距離を詰め、避けた所にタックルを喰らわせる。
体勢を崩したところで横薙ぎの一撃を放つ。
『兄上!』
「皇女殿下か!?」
突如割り込んだヴィンセントのランスにより防がれる。
通常のランスなら真っ二つになっていた所だがどうやらこのランスはブラッドリー卿のパーシヴァル同様にブレイズルミナスを先端に展開して攻撃力を挙げるタイプのようだ。これであればあっさりと斬り捨てられない。
『近接装備がないのでしょう!ここは私が…』
『いや、コーネリアも下がりなさい。ビスマルクは君やギルフォードで抑えられるほど軟じゃない』
ヴィンセント越しにランスロット・リベレーションを見つめると、大口径回転式拳銃を持っている右手とは逆に左手は対ナイトメア用短機関銃を構えていた。もしコーネリアが割り込まなければ殿下を斬ったとしても自分もただでは済まなかっただろう。そうなれば陛下を護り切るのは難しかったろう。
上からギルフォードが斬りかかって来たことに気付いてさっさと距離を取る。
「殿下、これは皇帝陛下に対する叛逆行為です」
『そうだよねぇ。私も大それたことをしていると分かっているんだけどね』
「ここで引いてもらえませんか。ここで退くのであれば命だけは助かるでしょう」
『退くに退けないよ。私にも通したい
「………どうしてもというならば―――斬り捨てるまで!」
左目を開放してギアスを使用する。
ビスマルクのギアスは僅か先だが未来を読むことが出来る。
目で捉えた対象の少し先の動きが手に取るように映像として表示されるのだ。
これにより動きは勿論、銃弾の弾道もすべて見る事が出来る。
『卑怯!後ろをバックに―――なんてね』
『落ちろ!!』
「なに!?」
いつの間に背後に周られていたのか紅蓮の攻撃を紙一重で回避し睨みつける。
ロイドとセシルが魔改造を施した紅蓮聖天八極式。
機体性能はギャラハッドを圧倒していて、今避けられたのはただ単にギアスの能力とビスマルクの技術が間に合ったからに他ならない。
「決議が可決されたか…これで黒の騎士団も…」
一番厄介な機体を前に苦悶の表情を浮かべると…。
『隙あり!!』
可変したランスロット・リベレーションとゼロの蜃気楼が正面より突っ込んで来る。
加速をつけた突進と思い回避してしまったがこれが悪手である事に気付いたのは通り過ぎた後であった。
『ごめんねビスマルク。遅めの反抗期って事で大目に見て欲しいな』
戦場に似つかわしくない言葉を残して蜃気楼とランスロット・リベレーションは神根島―――ギアスの遺跡に向かって飛んで行ってしまった。
あとを追おうにも紅蓮が睨みを利かせて追うに追えない。
『ヴァルトシュタイン卿!これ以上の抵抗は無駄です。投降を』
「枢木か……私も嘗められたものだな!」
ランスロットの枢木より投降を促す通信が入るが拒否する。
帝国最強の騎士が不利だからと敵に無抵抗で下ることなどあってはならない。
逆に考えれば黒の騎士団のエースの紅蓮と裏切ったブリタニア軍のエースであるランスロット、それにコーネリアにギルフォードを釘付け出来るのだ。
ならば最後まで足掻けるだけ足掻いて陛下の為に時間を稼ぐのみ。
「来るがいい!私はナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン!帝国最強の名は伊達では無い事を教えてやる!!」
ギャラハッドはエクスカリバーを構えて斬りかかる。
全ては皇帝陛下の為に。
そして自身も夢見た計画を遂行させる為に。
遠目でビスマルクが複数機と戦闘している様子を目にしたブラッドリーは頬を緩ませた。
今は四機で攻めているからビスマルクを追い込んでいるが、たった一騎失っただけで崩れるような戦況。
反逆者と言う事は誰を殺しても良いのだろう。
ならばあの気丈なコーネリアを殺すのはどうだろうか。
多少腕が立つと言ってもラウンズほどではない。
隙をつけばあっさりと殺せるだろう。殺される直前にあのコーネリアが何と叫ぶか…楽しみで仕方ない。
そうと決まればと動き出そうとした瞬間、一発の弾丸が自身を貫こうと向かってきた。
難なく回避するとそこにはフロートユニットで飛行する細身のナイトメアがライフルを構えていた。
確かクルシェフスキー卿のフローレンスの原型。アレクサンダとか言うナイトメアではないか?
「まぁ、良いさ。行きがけの駄賃だ。少しは興じさせろよ」
ランスを構えて突撃を敢行する。
相手は近付けまいと狙撃してくるが穂先で払い除けるなどわけない行為。
あっと言う間に間を詰められる。
そう思っていた。
突如として鳴り響くアラーム警報。
舌打ちをしながら回避し邪魔をしてくれた奴に睨みを入れる。
『大丈夫かユキヤ!』
『ごめんリョウ。やれると思ったんだけどね』
『ユキヤは無茶し過ぎ。リョウ、援護して!』
駆け付けた二機のアレクサンダを見比べて明らかに装備が違う事に気が付いた。
一機目は狙撃仕様。
二機目は重攻撃型。
三機目は近接戦闘。
それぞれが役割を担い三機で補って戦うのだろう。
事実その考えは正しかった。
リョウのアレクには大量のミサイルポッドなどが装着されており、小型ミサイルが嵐のように放たれる中、ユキヤの狙撃にアヤノの斬り込みを受ける事になってしまった。一機一機はブラッドリーにとって他愛のない相手だがこうも連携を取られると厄介この上ない。
しかしながら弱点がない訳でない。
それは重攻撃型のリョウのアレクサンダだ。
重攻撃型は大概短い間に高い火力を誇る物が多い。小型ミサイルにグレネードランチャー装備だったり、リョウのアレクも例にもれず短期間を想定した使い捨ての装備。
時間さえかければ一番の特徴を失い性能は激減する。
「雑魚がちょろちょろと」
『クッ!?こいつ…』
斬りかかって来るアヤノのアレクサンダが狙撃の邪魔にならない様に距離を開けた瞬間、リョウのアレクサンダへと向かう。
向こうも理解してアサルトライフルで弾幕を張るが問題ない。ユキヤ機からの狙撃はリョウ機を盾にすることで無力化出来る。
手古摺らせた相手をじっくり弄りたいという気持ちを抑え、距離を詰めるとランスを高々と振り上げる。
振り下ろした筈のランスは背後で腕ごと宙を舞った。
何が起こったか理解できないブラッドリーは視線を動かし確認した。
背後にはまた異なるアレクサンダが剣を手にしている。
どうやらそいつが通り様に腕を斬り落としたらしい。
『大丈夫かリョウ』
『助かったぜアキト』
眼前のアレクサンダがアサルトライフルを構えるのに対して斬り込もうとするがすでにランスも右腕も存在しない。
咄嗟に左腕を盾にしながら射線上から機体を逸らす。
撃破は逃れたが左腕は損傷。
さらに待ってましたと言わんばかりの狙撃が頭部を吹き飛ばす。
追い打ちをかけるように二機が剣を手に斬りかかる。一機の攻撃は蹴りで対応して何とか凌いだがもう一機は防ぎきれずに胴体と下半身が切り離されてしまった。
「私が!この私が二度も落ちるなど!!」
戦う術を失ったブラッドリーのヴィンセントは呆気なく海へと落ちて行った。
追撃するよりも周囲の防衛能力を削った方が良いと判断したアキト達はブラッドリーに止めを刺すことなくその場を離れる。
移動しながらも戦況を眺めていたオデュッセウスは落ちていくブラッドリー機を目撃し、ガッツポーズをして喜びを露わにするのであった。
シャルル・ジ・ブリタニアは何度この時を待ち望んだことか。
まだ幼い頃に皇族による争いによって母を失ったあの日。
儂と兄さんは誓ったのだ。
嘘のない…争いの無い世界を創ろうと。
時が経って皇帝に即位し、力を付けて、知識を蓄え、時間を掛け、仲間を増やしてきた。
すべてはこの日の為に神聖ブリタニア帝国そのものを使って支配地域を増やし、ギアスに関する遺跡とこの日を迎える為の力を得る為だけに何十、何百、何万、何億もの他者を踏みつけ、虐げ、搾取し、取り込み、殺し続けてきた。
だが、そんな愚かな日々も今までの世界ともおさらばだ。
集合無意識に干渉できる【アーカーシャの剣】。
アーカーシャの剣を作り出すために必要だったギアスの遺跡の数々。
兄さん――V.V.とC.C.が持っている不老不死のコード。
儂の手にすべてが揃った。
アーカーシャの剣が人間の集合無意識のCの世界に干渉し、不老不死のコードを用いて全人類の意識を集合無意識と接続。
強制的に全ての人類と思考が繋がり、嘘のない世界が完成する。
しかもCの世界には死者の記憶や思念もあるので過去現在すべての人類と繋がれるのだ。
この計画に賛同した者は多くは無い。
そして計画を詳しく知る者はもっと少ない。
妻であり同志であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアにC.C.。ラウンズではビスマルク・ヴァルトシュタインに枢木 スザク。そして今は亡き兄さんだけだ。
嘘のない世界を創ろう…そう言っていたのに兄さんは儂に嘘をついた。
マリアンヌを殺しておいてそれを嘘をついて隠したのだ。
だから儂は兄さんを見殺しにした。
ギアス饗団が襲われ、瀕死の状態の兄さんから不老不死のコードを奪い、その場に放置した。
生きてはいないだろう…。
――だが、問題はない。
シャルルはエリア11にある神根島の遺跡前に立って居た。
隣にはアーニャ・アールストレイムが並び立ち、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「もうすぐ私たちの夢が叶うのね」
「――あぁ、そうだ。そうだとも」
「長かったわ」
アーニャ・アールストレイム――否、ギアスによりアーニャの中に居るマリアンヌが何処か遠くを見るように、懐かしそうに空を見上げる。
見上げた空では幾つもの閃光があがる。
オデュッセウスが動いたがもはや手遅れだ。
「行くぞ。マリアンヌ」
短く返事を返したマリアンヌとシャルルは遺跡の中へと消えていくのであった。
背後からばてて走り切れずに息を切らしているルルーシュに肩を貸し、走る速度が遅いV.V.を背負ったオデュッセウスが追い掛けて来るのに気付かずに…。
ちなみにC.C.は走ることなく速足で速度を合わせていた…。