コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第110話 「天空要塞ダモクレス」

 戦場は大好きだ。

 武器を持っていようが持っていないとしても、戦場に立ってしまえば年齢も性別も立場も人種などもまったくもって全てが意味を成さない。

 単純かつシンプルに生きるか死ぬかの世界。

 高尚な理想を掲げる者。

 大切なものを守ろうと立ち上がった者。

 お金を得るために戦争を生業とする者。

 軍の命令に従って何の利用も無く戦う者。

 非現実的な理想や自身を漫画のヒーローのように思い込んで飛び込んで来た者。

 

 私はそんな千差万別の意志思想を孕んだ者らを殺すのが好きだ。

 まるで聖人君子のような言の葉を吐く者も、悪の帝王のような悪意を纏う言動を述べる者も私は殺して来た。

 皆が言うのだ。

 その澄ました表情を、悠然な表情を、憮然とした表情を、凛とした表情を歪ませて一心不乱に“殺さないでくれ!!”“止めてくれ!!”“助けてくれ!!”と心の底から恥や外聞を投げ捨てて懇願する。まるで祈りを捧げるように。

 私はその叫びを耳にし、命を狩り獲るのが大好きだ。

 別に拷問するのが好きだと言っている訳ではない。

 人間は命を奪われる際こそ輝きを、本質を曝け出す。

 今まで心や理性や臓物や肉体で覆っていた本性が殻を破って現れる。

 そんな瑞々しい果実のような本性を私は喰らう。

 ちまちまと食べるのではなく一思いにかぶりつくのだ。

 この瞬間こそ私の至福の時なのだ。

 しかし楽しい時や喜ばしい時間というのは瞬間的なものでそう長くは続かない。

 だから至福を得るために次の獲物を、次の果実を、次の戦場を求める。

 

 ゆえに私はアイツが好かない。

 神聖ブリタニア帝国皇位継承権第一位のオデュッセウス・ウ・ブリタニア第一皇子。

 いや、今はもうオデュッセウス陛下か。

 呼び方などどうでも良い。

 奴は殺しを嫌う。

 平和主義を気取っているにも関わらず戦いの備えだけは怠らない。

 他者に戦いを押し付けて安全地帯で戦いを見て見ぬ振りをする訳でもなく、恐れずに戦争を直視しながら自ら前線へと跳び出して行く。

 自分は人を殺さない様に務めるが、他者にそれを強要することは無い。

 ここだけ見れば私は奴に好感だって持てたかもしれない。

 ただの夢想を掲げる平和主義者ではなく現実を見据えた合理主義……違うな。そうじゃない。

 矛盾と夢想を掲げて出来るだけ合理的に無茶を行う…。

 正直言って気持ちが悪い。

 聞き分けの良い大人を演じている子供。

 我侭で傲慢で自分勝手。

 その割には周りの人間を誑し込む。

 

 私が奴を嫌いになるのと同じくらい奴は俺を嫌った。

 ゆえに奴が皇帝になった際にヴァルトシュタイン卿がブリタニアより離反すると分かった私はついて行った。

 なにせ今度は味方だから皇族だからと殺せない事は無い。

 

 元皇帝への忠義などは持ち合わせていない。

 だから私がシャルル派についたのは奴の命を奪えるから。

 それとオデュッセウスが皇帝となれば平和への道へと進み楽しみが減る。

 

 『ブラッドリー卿。出撃どうぞ』

 「あぁ、さて楽しませてもらおうか」

 

 ニタリと頬を吊り上げたルキアーノ・ブラッドリーはペダルを踏み込んで天空要塞ダモクレスより出撃した。

 シャルル派は世界と今のブリタニアと決着をつける為に大回りしつつ、エリア11に向かい浮遊している。

 その道中で三つほどの作戦を実施している。

 

 決戦を挑もうにもナイトメア戦力や航空戦力を充実させる為にもこちらに入りたいという者らを乗せた浮遊航空艦の護衛兼案内役としてオリヴィア・ジヴォンとオイアグロ・ジヴォンの部隊が別行動。シャルル皇帝の勅命で極秘裏に移動中の新型ナイトメアとナイトギガフォートレス強奪にジノ・ヴァインベルグとノネット・エニアグラムが向かい、私とドロテア・エルストンは帝都ペンドラゴンの制空権を奪い、フレイヤ弾頭にて帝都を吹き飛ばしてブリタニアの中枢を焼失させて頭を潰す。

 

 ようやく修理を終えたパーシヴァルを先頭にナイトメア二個中隊と空戦可能な戦闘ヘリ多数が先槍として突っ込んで行き、後続にドロテア・エルストンと四個中隊が配置されている。

 ビスマルクにモニカ、主力部隊などはダモクレスで待機。

 下手に戦力を過剰投入されて獲物の取り合いにならずに済むのであればブラッドリーとしては満足である。

 

 「ふぅむ、上がって来たのはオデュッセウスの台座付きか」

 

 帝都ペンドラゴンを守る守備隊の中にはオデュッセウスに仕えるウェイバー・ミルビル考案の天空騎士団が存在する。

 中でも多用されているのはプリドゥエンという攻撃オプションでもあるナイトメア用の乗り物だ。

 

 「各機蹴散らしてやれ」

 『『『イエス・マイ・ロード』』』

 

 返事が返ってくるとニタリと笑いながら射程内へと近づきつつあった敵機にミサイルシールドを向けてミサイルを放つ。

 同時に他の者らもミサイルや銃撃を行い始めるがプリドゥエン各機よりばら撒かれたフレアによって誘導兵器は明後日の方向へと飛び去り、お返しと言わんばかりにミサイルと銃撃、誘導型ケイオス爆雷が放たれる。まるで短期間で使い切ろうとしているように。

 鬱陶しい弾幕を掻い潜り命を散らせてやろうとルミナスコーンを展開して突っ込むが、プリドゥエンの小回りの良さと高い機動力から追い付けない。

 

 「チッ、面倒な」

 

 仕方なく接近戦から両膝のハドロン砲を使った銃撃戦に移行し、撃ち落していくがいつもの快感を味わえないというのはつまらない。

 そうこうしている間にブラッドリーを含んだ前衛部隊は散り散りとなり、乱戦へと持ち込まれた。

 後続部隊が合流して立て直そうとするが対応しきれずに後手に回る。特にドロテアのバロミデスは接近戦用でこのような機動力を生かして射撃戦のみを行う敵機に対応出来ない。

 

 『全機距離を保って応戦。ただし撃破ではなく注意を引き付けるように。ドロテアは後退。モニカを主軸に部隊を再編成する。ブラッドリーはモニカの直営に当たって欲しい』

 「なるほど…畏まりました第二皇子殿」

 

 シュナイゼルの指揮が行き渡ると混乱していた部隊が徐々に立て直し始め、部隊として機能し始めた。

 指示通りモニカのフローレンスを護衛する形で攻撃を再開。

 好みの戦い方ではないが今はこれで我慢するしかない。

 あとで楽しみのメインディッシュ(オデュッセウス)が待って居るのだ。こんなオードブル(小者)にこだわっても仕方がない。

 そう言い聞かせて護衛に徹する。

 

 『ハドロンブラスターを使用します。射線上の機体は退避してください』

 

 モニカの機体はユーロピア連合が作り、オデュッセウスの親衛隊も使っているアレクサンダ系。スロニムで回収されたアレクサンダ・ドローンを改修して専用機に仕立てたものだ。

 アレクサンダの利点をそのままに武装やシステム面で大きく強化されている。

 その武装の一つ。コクピット左右に取り付けられた機械的な翼のようなハドロンブラスターが可動して頭部左右にセットされる。収束された赤黒い二本のハドロンブラスターが放たれ、角度を動かすことで敵機を剣で斬るように巻き込んで行く。

 巻き込まれた何十機が爆散するも未だ敵の方が優勢。

 さて、第二皇子様はどうするかと思っていると警報と同時に退避エリアが表示された。

 

 「退避?それにフレイヤとはなんだ?」

 

 おかしな命令に聞き覚えの無いフレイヤという名に首を傾げながら警告通りに退避行動に移る。

 ダモクレス下方より小さな砲弾が放たれ、それは真っ直ぐに帝都へと向かって進んで行く。

 天空騎士団がそれを見逃すことは無く、迎撃し、対象は目を焼かんばかりの閃光を放ち爆発した。 

 レーダーに映っていた何十何百という敵機の信号が消滅し、その破壊力にブラッドリー卿は不快感を示す。

 

 …戦争が変わる。

 あんなものが存在するなら戦場で殺しを楽しむ事は出来ない。

 楽しむどころか一瞬で自分が飲み込まれかねない。

 

 『アレが…フレイヤ。なんていう威力なの…』

 「確かに凄い威力ではあるが戦場では無粋だな」

 『ちょっと待って!帝都はどうなったの?』

 

 良心からか不安を現したモニカにつられて爆発した範囲内に入っている帝都へと視線を向けた。

 残念なことに帝都は無事だった。

 帝都全域を覆った超巨大なブレイズルミナスによる結界。

 あんな馬鹿馬鹿しい事を一体だれが考えたのやら。まぁ、思い当たるのは一人しかいないが…。

  

 「本当に度し難い。だからこそ―――」

 

 メインディッシュに対する想いを高めながら帝都上空を通過するダモクレスへと帰還する。

 帝都は潰せなかったがメインはこの次……日本での戦争にあるのだから…。

  

 

 

 

 

 

 オデュッセウス・ウ・ブリタニアは頭を抱えて項垂れていた。

 超合集国に加盟表明して日本に行き、最高評議会に加盟の許諾を決める多数決を受ける事になっていた。

 原作を知っている私としては容易に加盟できるとは思っていない。

 それにユーロで復権しようと考えていたヴェランス大公らユーロ・ブリタニアを焚きつけ、援助を行ったブリタニア本国だけ加盟してユーロ・ブリタニアを放置することは道理に反すると思うんだ。なのでユーロ・ブリタニアの加盟も条件に入れてたのでかなり難易度は跳ね上がった。

 なにせブリタニアが加盟の話を出してユーロ・ブリタニアに侵攻され、支配地域となった国々の元代表や貴族達をユーロピアの数か国が保護したという諜報部から報告があった。ユーロピア地域よりユーロ・ブリタニアを一掃する議案が通過すれば超合集国に加盟したブリタニアは例えユーロ・ブリタニアが攻められても戦力を黒の騎士団と契約した事で助けれない。その時に保護した者らを御輿に担ぎ出して民衆などを味方につける気だろう。

 

 勿論条件を呑んでもらうためにこちらも案は出したさ。

 超合集国の決議は多数決で決まり、投票権は各国の人口に比例している。

 つまり世界の半分を手中に収めるブリタニアには一声で超合集国の決議を決めてしまうだけの力を持つ。

 まずはこの危惧を解消する。

 原作でルルーシュに言い放った人口比率を下げるのは後の交渉次第として国を割る案を採用した。

 まずブリタニアが支配した地域をユーロ・ブリタニアに任せる。治めるのはあのヴェランス大公なので悪い事にはならないだろう。特に民衆にとってね。

 復興まではユーロ・ブリタニアでは無理だろうから数年はブリタニアが支援する。

 さらに支配地域に収めた中華連邦の一部を始めたとしたアジア地域をまとめたアジア・ブリタニアを創設。ブリタニアより独立させて投票権を分ける事にする。

 後はナイトメアや医療の技術提供。

 これに飛び付く国は多い。

 ブリタニアの医術は死なない限りはどんな傷であろうと生かすことが出来るほど高いのだから。

 

 そこで父上――シャルル・ジ・ブリタニアの犯行声明を耳にした。

 父上はラウンズと反オデュッセウス派を名乗る貴族や軍人達と共にブリタニアと超合集国に宣戦布告し、両方の代表が集まる日本に向けて進軍すると。

 道中、帝都ペンドラゴンを攻撃した事も…。

 

 会議は中断され、黒の騎士団の主だったメンバーとブリタニアの会談へと変更された。

 黒の騎士団側からはCEOのゼロ、総司令の黎 星刻、統合幕僚長の藤堂 鏡志朗などが向かいに腰かけ、ブリタニア側には私ことオデュッセウスにレイラ、そして付いて来て貰ったユフィとスザクの四名……………の筈だった…。

 横にはギネヴィアにコーネリア、 マリーベル、パラックス、キャスタールなど愛しの弟妹達が私から目を逸らして並んでいる。

 話を聞くと私の身の安全を危惧して日本の周辺海域に部隊と共に来ていたのだとか…。

 嬉しいよ。うん、凄く嬉しい。

 けれど内政担当と軍務担当、エリア担当の三名が自由に動くというのはどうなのだろうか。私だって皇帝になってから抜け出すのを我慢しているのに!

 いや、こちらはまだ良い。

 皆部隊を引き連れているからそれらを日本防衛線へ回す戦力に加えられるから逆に有難い。

 

 私が頭を抱えているのは父上のアドリブ(予定外行動)にある。

 父上とルルーシュはブリタニアの悪行をすべてシャルルに集中させ、ブリタニアへの憎しみをシャルル個人に対するものへと変える計画を立てた。

 

 手始めに特区日本での虐殺を父上の命令という事にして、父上へのヘイトを稼ぎつつユフィの復帰を容易くする。

 次に戦力を整えてブリタニアと超合集国に対して宣戦布告。不利ならば場合によってフレイヤを使用してさらにヘイトを集めるという。ついでに今のブリタニアに反抗する勢力を一掃する考えもあるとか。

 なんにせよ恐怖の魔王役を演じる父上をブリタニアと超合集国の双方が手を取り合って打倒する。そうすることでブリタニアも前に進める。

 正直多くの血が流れる事を最初から盛り込んだこの作戦は嫌いだが、私は長兄として弟妹達が普通に過ごせる世界を創らねばならない。

 覚悟は決めたさ。だけど想像を絶するアドリブは勘弁してほしい。

 

 

 

 誰が帝都にフレイヤ撃ち込めって言ったよ!?

 予定では帝都に被害が出ない程度で攻撃を敢行するって話だったでしょ!

 ニーナ君のアイアスの盾が完成している事を盛り込んでの発射だったろうけど聞いた瞬間寿命が縮むほど驚いたよ。

 アイアスの盾というのは帝都ペンドラゴンを覆う都市防衛用の多重ブレイズルミナス展開装置の名称である。

 最大五つまで重ねる大型のブレイズルミナスとなるとエネルギー源も膨大となり、非常時の籠城策の時には都市全てのエネルギーを回しても足りないだろう。そこで目を付けたのがフレイヤでも用いられたウランなどの核物質―――つまりはこの世界には存在しない原子力発電。

 気候や環境の影響を受けずにエネルギーを作り続けるこのシステムを使わない手は無かった。万が一にも事故が起きてメルトダウンが発生しようものならブレイズルミナスを展開して封じ込める手も打っている。将来的には地震対策も兼ねて浮遊させれるように出来ないか検討中。

 

 「はぁ…」

 「兄上。いえ、皇帝陛下。今後の方針ですが」

 「分かっているだろうギネヴィア。我々は父上と対峙しなければならない。ゼロ。どうか力を貸してくれないかい」

 「勿論だとも。奴らは今の平和を乱す敵だ。それに日本へ侵攻する彼らを見逃すわけにもいかない。寧ろ協力を申し出てくれた事感謝する」

 

 最初っから決めてあったようにルルーシュとは事を進める。

 席を立って握手を交わしてお互いに協力するアピールをしておいた方が良いか。

 そう思って立ち上がろうとしたオデュッセウスの胸ポケットより携帯が鳴り響く。

 いつか録音したナナリーの「にゃー」と言った声が静かな会議室に流れる。

 マナーモードにしとけばよかったと後悔するのも遅く、皆の怪訝な視線が突き刺さる。

 

 「す、すまないね。少し失礼するよ」

 

 視線から逃れようと席を立って離れた所で電話に出る。

 電話の向こうから焦りに焦った者の報告を受けて頭が痛くなった。

 内容は移送中だったナイトギガフォートレス“エルファバ”とコアナイトメアフレームがシャルル派によって強奪されたとの事。

 父上ぇ…もう勘弁して下さいよ。

 予定外の事態にオデュッセウスは大きなため息を漏らすのであった。


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