コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第111話 「平和への決戦前夜」

 黒の騎士団には旗艦が二つ存在する。

 コードギアスに登場する兵器類の中でもフレイヤを除いて最大級の火力を有している浮遊航空艦斑鳩。

 フロートシステムを使用すれば海上を進むことが可能な中華連邦の大型地上戦艦大竜胆。

 飛行することをメインに想定された斑鳩と異なり、地上もしくは浮遊する大竜胆は斑鳩程重量に制限はなく、格納庫となれば何倍もの広さを誇っている。

 シャルル一派との戦いまで日もあまりないこの夜。

 日本に集まりし黒の騎士団とブリタニア兵が、収納されていたナイトメアを退かしてまで、スペースを確保した大竜胆の格納庫に集結していた。

 格納庫の最奥には壇上が設置されており、ゆっくりと、優雅に、堂々と一人の男が上がる。

 

 「ここに集いし全ての者らへ。

  私は神聖ブリタニア帝国第99代皇帝オデュッセウス・ウ・ブリタニア」

 

 壇上へと上がったオデュッセウスは優しい音色を乗せて話し出した。

 今まで苦渋を呑まされてきた国々より黒の騎士団に所属している兵士たちの視線が向けられるが自然と殺意や悪意の感情は見受けられない。寧ろ期待を持っているかのようだ。

 

 「我らは明日にも世界最後になるであろう戦いに赴くこととなる。

  世界を恐怖させ、世界を蹂躙し、世界を支配し得た我がブリタニアの騎士達よ!

  どれほど苦渋を呑まされ、どれほど虐げられ、どれほどまでも逆境に落されようとも抗い続けた黒の騎士団の戦士達よ!」 

 

 先ほどの優しさからは感じられなかった力強い言葉に集まった者らすべてが気を引き締められた。

 向けられていた視線が次の言葉を求める。

 憎き仇敵の、敬う皇帝の次なる言葉を待ち続ける。

 

 「私は今この時に喜びを味わっている。

  数日前ならば殺し合い、奪い合い、犯し合う筈の我ら彼らが肩を並べ共に歩まんとする事に。

  私は歓喜し、高揚し、残念に思っている。

  何故こうも人は争うのか。

  何故私はもっとこの光景を早く実現できなかったのか。

  何故こうならなければ共に歩むことも出来なかったのかと…」

 

 悲し気に目を伏せ、表情がすとんと消え去る。

 静まり返ったこの場でみだりに音を発生させて乱す者は居らず、静寂の下でただただ耳を澄ませる。

 同じ想いに同じ気持ちを抱きながら…。

 

 「だからこそ…ならばゆえに私は全身全霊を持ち、この血で血を洗い、死で死を覆う悲惨な惨劇と化した日々を終わらせよう。

  皆を勝利に誘い、皆を支え、皆と共に戦場を駆けよう!

  我が身、我が命を賭してても平和へと繋がるであろうこの最後の戦争に終止符を打たん!!」

 

 握り拳を振るい、感情のままに振舞う。

 四方一メートル内の小さな壇上が大きな舞台のステージのように広く、たった一人の男が過去の物語に登場するような巨人のように大きく目に映る。

 周りの関心を鷲掴みにし、想いを一重に集めた。

 高まった高揚感を噛み締めた各々の前で今度はがっくりと肩を落とした。

 

 「しかし足りない。されど足りず。

  私が如何に頑張ろうと戦場では何ものと変わらぬ一でしかない。

  一個の識別された数字でしかない。

  一人では軍隊には勝てぬし、一人では戦局を変える事は出来ぬし、ましてや戦争で勝利を掴むことなぞ夢のまた夢。

  私は―――私はここに集いし一騎当千たる諸君らに求める!

  憎悪や因縁の類をひとまず心の片隅に追いやり、安穏たる日常を全員で矜持するべく仲間として、同志として、友として肩を並べて共に闘う事を!

  私は頭を伏してお願いする。

  明るき未来を後世を歩む子供達に託すためにも私に諸君らの力をお貸し頂きたい」

 

 深々と頭を下げるブリタニア皇帝に対し誰もが目を見開いて静止した。

 まるで時が止まったかのように。

 しかし実際に止まる事は無い。

 緩やかに、急速に思考と感情を巡らせて先の言葉とこの行動を吟味し、周りへと視線を巡らせる。

 つい数か月、数週間、数日まで敵同士だった相手を…。

 朧気な視線は向かい合い強い熱意と輝かんばかりの意思を持った瞳となった。

 

 頭を下げたオデュッセウスへ誰かが拍手を持って返答する。

 また一人、また一人と返答者は増えていき、瞬く間に格納庫全体に広がり、拍手は喝采と成りて響き渡る。

 

 下げていた頭を上げて感謝を乗せた微笑みをこの場の全員に向けると、自ずと拍手は鳴り止んで静寂が再び訪れる。

 

 「――ありがとう。

  ありがとうブリタニアに仕えし忠義厚き我が騎士達よ。

  ありがとう愛しく尊敬に値する黒の騎士団の諸君らよ。

  今この夜に我らは千差万別の烏合の衆から一個の群となる。

  勝つ為にはと思考は理解出来ても感情は早々納得は出来ないだろう。

  今宵この場は無礼講だ。

  用意された酒を呑み散らかし、並べられた料理の数々を食い散らかそう。

  戦いの英気を養い、共に並ぶ者との親睦を深めよう。

  さぁ、パーティを始めようか」

 

 ワイングラスを手にしたオデュッセウスは高々と掲げる。

 それに倣って皆が皆、所狭しと並べられた料理や飲み物を置かれた長机よりグラスを手に取る。

 日本酒にワインにウィスキーなどお酒を好み飲める者はそれらを、年齢や数多の理由から飲めない呑むわけにはいかない者らはジュースやお茶をグラスに注ぎ、同じく高々と掲げる。

 

 「―――乾杯!」

 

 こうして懇親会も兼ねたパーティが開始された。

 正直言って騒がし過ぎるほどだ。

 日本に赴かなかったカリーヌとクロヴィス、ライラを除いた皇族も参加しては居るが、騒がし過ぎてギネヴィアは開始早々席を外している。

 壇上を降りたオデュッセウスにゼロが苦笑いを浮かべる。

 勿論仮面をつけた状態なので表情を察する事は出来ないが、気配や雰囲気で何と無しにか理解してしまう。

 

 「パーティ開始の挨拶にしては過ぎるような気がするが?」

 「そうかな…いや、そうだね。でも、まぁ、作戦開始時の士気向上(演説)は君任せなのだから、今ぐらい私の想いを告げさせて貰えなかったら言う機会がないのだから」

 「にしても見事なものだったな。それも父親譲りかな」

 「父上ほど威厳がないからね。さすがに譲りと言うほどではないよ」

 

 ゼロの隣にテーブルに並べられていたピザの一つを大皿ごと手にし、ゆっくり味わいながら食すC.C.が並ぶ。

 そしてロロが余所余所しくこちらを見つめる。

 どうやらまだ決めかねているのだろう。

 

 パーティ会場と化した格納庫を見渡してオデュッセウスは苦笑を浮かべる。

 すでに出来上がっている玉城がクラウスと共に全種を制覇する気かと思うほど酒に手を伸ばす。

 藤堂と四聖剣の面々が周りを寄せ付けないような酒気を撒き散らすように日本酒を煽る。それに勝負するようにダールトンが加わる。コーネリアとギルフォード、グラストンナイツの満面は遠目ながら見守り、苦笑を浮かべて料理に手を付ける。

 キャスタールに追従しているヴィレッタとクロヴィスより送られてきたキューエルがジェレミアと再会し、積もる話を感情のまま語り合っている。その一角には純血派の代表メンバー以外にキューエルの妹であるマリーカの姿も見受けられる。

 ユフィはスザクと共にパーティを満喫し、ナナリーはアリス達を連れてカレンと談笑を楽しんでいる。

 リョウと呼びつけたアシュレイがフードファイトでもしているかのように一つのテーブルの品々の数々を文字通り食い散らかし、ユキヤにアヤノ、そしてアシュレイ隊の面々が応援または諫めようとしている。

 ロイドとウェイバー、ラクシャータの三名は何やら議論しているようだが、セシルは関わることなくアーニャと料理の数々に舌鼓を打っていた。

 ………なぜかメルディが紛れ込んでおり、ディートハルトを驚かせていたのはどういう事だろう。知り合いだったのだろうか。

 

 「なんともまぁ、面白い感じに混ざっているね」

 「面白いですか…陛下」

 「なんだいレイラ。君もリョウ達のように楽しめば良いのに」

 「私には親衛隊としての職務がありますので」

 

 護衛をしているアキトとレイラに苦笑いを浮かべ、オデュッセウスはある人物を探すが見つけられずため息を漏らす。

 

 「お兄様」

 

 周りを気にしていなかったために急に呼ばれて驚き肩を震わせる。

 振り返るとマリーベルにオルドリンを筆頭にしたグリンダの騎士達。それとパラックスとキャスタールが集まって来ていた。

 

 「お見事な演説でした」

 「ありがとうマリー。キャスもパラックスもよく来てくれたね」

 「ボクらは心配で付けてきただけだから。迷惑じゃなかったでしょうか」

 「うーん、戦いに巻き込むのは兄としては迷惑というより心配かな」

 「大丈夫だよ兄上。あれから腕も上げたからね。キャスはどうか分からないけどいっぱい成果を挙げて来るから」

 「それ、心配を増やす元だと思うのだけど」

 

 キャスタールは不安ながら、パラックスは自信たっぷりに、マリーはにこやかに語る。

 自慢の弟妹を巻き込んだ時点で兄としてどうかと思うのだけれども多分止めるように言っても聞いてくれないのはよく分かっている。

 だから出来るだけ無理をしないように気を回さなければ。

 

 「相変わらずのようだな」

 「………君はどこにでも紛れ込むようだね」

 「お兄ちゃん!?」

 

 ギアスでも使っていたのか堂々と紛れ込んでいるオルフェウスに驚きを通り越して呆れてしまう。

 クララがトトと何やら険悪そうに静かに言い合っているのが見えるが気にしないでおこう。

 突然の登場にオルドリンは驚いているが、私にとっては驚きではない。

 なにせオルフェウスを呼び寄せたのはこの私なのだから。

 まったく素性を知らないキャスタールとパラックスは誰こいつと言わんばかりに不審な目を向ける。が、オルフェウスは一向に気にする様子はなくこちらだけを見つめる。

 

 「約束は覚えているな」

 「だから呼んだんだ――――オイアグロ・ジヴォン卿は君に任せるよ」

 

 恋人……エウリアの仇であるオイアグロとの決着。

 伸びに伸びた決着をつける為にここに居る。

 理由を知っている。否、知らされたオルドリンは暗い表情を浮かべるが、止めることも邪魔する事も無い。

 

 「―――オデュッセウス殿下。いえ、陛下。お願いがございます」 

 「ん?なんだい改まって」

 「お母様…オリヴィア・ジヴォンの相手は私にさせて貰えないでしょうか?」

 「おぉ!それは助かるよ。私から頼もうと思っていたからね」

 

 自身の親と戦ってくれなんて言い難い事を言わなきゃいけないと思っていた分、オルドリンからの申し出はありがたかった。

 なにせ黒の騎士団とブリタニアの連合軍は精鋭が揃っていると言ってもラウンズとやり合えるのは少ない。

 カレンとスザクの両軍のエースを除けば星刻にオルドリン、ネモにアリスぐらいだろう。藤堂はギリギリ戦えるかなとは思うけど星刻同様に指揮もこなさなければならないので先だって相手を任せる訳にはいかない。

 ゆえにオルドリンに頼むしかなかった。

 

 どうしようかと悩んでいた問題が片付いてホッと胸を撫でおろしていると、ちらっと視界の隅に探していた人物を捕えたオデュッセウスは勢いよく振り返る。

 どうやら格納庫より外へ出るようだ。

 

 「レイラ。すまないけど席を外す」

 「どちらへ?」

 「すぐに戻るよ」

 「一人でですか?危険です」

 「少し二人っきりで話したい事があるんだ」

 「……近くには居りますので」

 「すまない」

 

 見失わない様に急ぎ足で追い掛ける。

 戦いが始まる前に言っておかないといけないから。 

 

 

 

 

 

 

 盛り上がっているパーティ会場と成り果てた格納庫より抜け出し、ニーナは一人夜の海を眺める。

 緩やかに波打ち音だけが広がり、時間が止まってしまったかのような緩やかな時間だけが過ぎゆく。

 大きなため息を吐き出し自己嫌悪に陥っていた。

 シュナイゼル殿下に協力を求められ私が開発を指揮したフレイヤ弾頭。

 あの頃は私でも役に立てるんだとやっていたのだけれども、その結果がオデュッセウス陛下を苦しめる事になるなんて思いもしなかった。

 殿下から陛下となりブリタニアを一気に平和へと導いてようやく手に入りかけた所でのこの事態。

 

 「私が作らなければ…」

 

 小さく呟く。

 立場が変わろうとも多分あの人は後ろから指示するだけでなく、自身から最前線へ赴くのだろう。

 フレイヤが放たれるであろう戦場に…。

 今更思っても遅い事ではあるが私が作らなければという考えが頭から離れない。いや、それ以上に私が居なければ……駄目だ。こんな事思っていたらまた陛下を心配させてしまう。あの人は優しいからきっと「そんな事は言うんじゃない」と心から心配しながら怒るのだろう。

 怒られることに対して申し訳ないと思う前にそう想われる事が嬉しいと先に過った辺り駄目だなと違う意味でも自己嫌悪してしまう。

 再び大きなため息を漏らして揺れる水面を眺めていると映る自分の姿ともう一つ人影が並んで見える。

 慌てて振り返ると想い描いていたオデュッセウス本人がにっこりと微笑みながら立っていたので心底驚いてしまった。

 

 「へへへへ、陛下!?」

 「驚き過ぎだよ」

 「申しわけありません…」

 「今度は畏まり過ぎだよ」

 「えと、あの」

 「あー、ごめん。困らせちゃったね」

 

 苦笑いを浮かべ、オデュッセウスはニーナの横へと並び、その場に腰を下ろした。

 未だ驚きつつも見習って腰を下ろす。

 おどおどしながら横顔を眺めると暗くて解り辛いがどこか頬のあたりが赤くなっている気がする。

 

 「この前さぁ」

 「…はい」

 「勿体ないって話したじゃない」

 「あ、あれは――」

 「そういう想いがあるって事で良いんだよね?」

 「――――っ………はい。その分不相応な想いだと分かってはいるんですけれど」

 「そうか…そうだよね。やはりそうなんだよね」

 

 ポリポリと頬を掻きながら困った笑みを浮かべられ、分かっていた事だが当然の反応に心が痛む。

 居ても居られなくなりその場から逃げるように離れようとすると、手を掴まれて待ったをかけられた。

 

 「少し待って貰えるかい」

 「離して……ください。今は…」

 「すまないけど話を聞いてもらう」

 

 離してくれず今にも泣きだしそうになるのをぐっと堪えて振り返る。

 陛下は微笑みどころか笑みすらない真面目な表情で真っ直ぐ瞳を見つめていた。

 月夜に照らされる陛下の表情に思わず見惚れてしまった。

 

 「私はね。その、なんていうか恋愛に疎いんだ。これまでの三十二年も気付かず、抱いていなかったらしいんだ。だから君の気持にどう答えたら良いか分からないんだ。

  だから、さ。もう少し待って貰えるかい」

 「―――え?」

 「よく理解してちゃんとした答えを返したいから」

 

 思いもしなかった言葉に期待が膨れ上がる。

 期待しても断られると思いながらも期待で顔が真っ赤になっているのが自分でも解る。そして対面しているオデュッセウス陛下も段々と顔が赤くなり始めている。

 どうしていいか分からない二人は見つめ合ったまま―――。

 

 「優し過ぎですよ兄上」

 「「――――っ!?」」

 

 ジト目で見つめているギネヴィアの一言で磁石の同極同士が近づいたように勢いよく離れ、口は餌を求める鯉のように開閉を繰り返す。

 

 「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 「ぎぎぎ、ギネヴィア様!?えっとこれはあのですね!!」

 「二人共落ち着きなさい」

 

 ため息交じりに呆れられたオデュッセウスにニーナはわたわたと慌て、落ち着こうにも落ち着けずに目をぐるぐるさせている。

 まったくもって落ち着く様子の無い二人にもう一度ため息を漏らす。

 

 「兄上が優し過ぎるのは知っていますがこれは如何なものかと」

 「え!?何か駄目だった?」

 「無自覚でしたか。変に期待させると後が面倒ですよ」

 「配慮に欠いていた……そういう事かな」

 「立場と言葉の意味を深く知るべきだと言っているのです」

 

 こう言うのはなんだが予想外。

 二人っきりであのような言葉を告げられた私に対して目撃したであろうギネヴィア様は感情を露わに激怒すると思っていた。

 けれど現実はそうでなく、冷静に戒めるようにオデュッセウス陛下に語り掛けている。

 いや、今はオデュッセウス陛下と話しているからそうであって、私に向けて話していないからか。

 疑問符が先とは違った不安に変わり、高鳴っていた想いが急に冷たく沈んで行く。

 

 「あまり夜風に当たられると体調を崩されます。兄上はブリタニアの頂点。今まで以上に大事にされないといけません」

 「心配ばかりかけてすまないねギネヴィア」

 「兄上…先ほどは我が身を賭してと仰られていましたが――」

 「分かっているよ。アレは表現の一種。想いを現した一言と処理してほしい。なにも死ぬ気はないよ。私は最後は穏やかに見守られながら老衰と決めているんだから」

 「なら安心しました。心置きなく剣を振るって下さい」

 「ギネヴィア?」

 「兄上()が何を成そうというのかは分かり兼ねますが、私にとって兄上が無事に帰って来られる事こそ重要なので」

 「――――ッフ、あははははは、本当にどうして。あー、私は幸せものだ。こうも自慢できる弟妹に囲まれているのだから」

 

 本当に嬉しそうに笑い合うオデュッセウス陛下にギネヴィア皇女殿下。

 私の存在など無いかのように二人には私は映っていない。

 お邪魔にならない様に離れた方が良いのだろうか。

 脳裏にそう過った時、心を読んだかのようにギネヴィア皇女殿下の視線が向けられる。

 それは邪険にしたものではなく、何か言いたげなものであった。

 

 「では兄上。そろそろ」

 「あぁ…今日は早めに休むよ。お休みギネヴィア。それとニーナ君。帰ってからゆっくり話そう。」

 「は、はい!お、おやすみなさい…」

 「おやすみ」

 

 にこやかな笑みを残して寝室へと向かうオデュッセウス陛下を見送ると離れた通路より親衛隊のレイラとアキトが姿を現し、私というよりかはギネヴィア皇女殿下に一礼して陛下の後を追う。

 一礼を返して隣にいるギネヴィア皇女殿下の顔をちらっと伺う。

 ―――目が合った。

 忌々しそうに向けられる視線に背筋と言わず身体が凍り付く。

 

 「何を怖がっているのですか?」

 「い、いえ、そのぉ…怒っていらっしゃるのかと…」

 「はぁ…貴方は兄上との立場を弁え、一線引いていたように伺えました。問題があるとすればそこを考えも無しに話した兄上にあります」

 

 まさかのお咎めなしにきょとんとした表情を晒してしまった。

 失礼と気付いて戻すがギネヴィアは気にせずに踵を返す。

 

 「本当に兄上は理解していないのだから」

 

 自分の前を通り過ぎるギネヴィア皇女殿下に深々と頭を下げてから、ペーネロペーに用意されている部屋に向かおうと歩き出す。

 

 「何処へ行くのですか?」

 

 進もうとしていた足を止めて、一気に冷たくなった声質に頭が危険を知らしめる。

 ここで止まったらいけない。

 そうは告げても逃げ出す訳にも、逃げる場所もなく、ゆっくりと、本当にゆっくりと振り返る。

 にっこりと満面の笑みを浮かべていても絶対零度と表現すべき凍り付くような雰囲気を纏ったギネヴィア皇女殿下に畏怖した。

 

 「少しお話があります。勿論強制ではありませんよ」

 

 ……強制ではないが脅迫に近い笑みを向けられているのですけど…。

 なんてことを口に出来る筈なく、ニーナはおずおずとギネヴィアに連行……コホン、ついて行くのであった…。


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