コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第112話 「兄弟」

 日差しの暖かな午後。

 とことこと小さな足を動かして目的地へと急ぐ。

 急ぎ過ぎたらはしたないと怒られかねないので、姿勢は正しく且つ見苦しくない程度に早歩き。

 目的地に到着すると服装に乱れがないかを確認して扉をノックする。

 中より優し気な返事がかけられ扉を開けるとふわりとコーヒーの香りが広がってきた。

 

 「いらっしゃい。今日はどうしたのかな?」

 

 柔らかな笑みを浮かべたオデュッセウスがコーヒーカップを傾けながらソファに腰かけこちらを見つめていた。

 にんまりと笑みを浮かべて近づいて行く。

 兄上は凄い。

 自分とそう変わらない歳で父上の仕事を手伝い、ビスマルクに訓練を付けて貰っていて、学力も運動も出来る自慢の兄。

 怒った所を見た事なく、いつも落ち着いて優しい。

 

 コーヒーを飲み切ると新しくコーヒーを作りながらもう一つカップを用意する。

 いつものようにソファに腰かけて待つ。

 戸棚に入れてあったクッキーを机に置いて、コーヒーを淹れたカップを二つ持って戻ってきた兄上より一つカップを受け取る。

 

 「今日は勉強かな?お話しに来たのかな?それともリベンジかな?」

 「もちろんチェスを」

 「だと思ってたよ」

 

 ふふふと笑いながら本棚に置かれていたチェスのセットを机の上に置いて向かいのソファに腰かける。

 今まで勝ったことは無いがいつかは。またいつかは兄上に勝利する為に挑んでいる。

 

 「さて今日はどうなる事やら」

 「ボクがかちます!」

 「そうか。なら今日はどちらに賭けようかな―――」

 

 

 

 

 「―――殿下。シュナイゼル殿下」

 「ぅん…」

 

 カノンの声で意識を覚醒させたシュナイゼルはゆっくりと瞼を開けた。

 どうやらソファに腰かけたまま眠っていたらしい。

 

 「よく眠られていたようですね」

 「あぁ、懐かしい夢を見たよ」

 「夢…ですか」

 「本当に懐かしい夢だ。懐かしく…大切な」

 

 しみじみと言いながら短く息を吐き出す。

 ここは天空要塞ダモクレスのコントロールルーム。

現ブリタニアに対して反感を抱き、シャルルに忠誠を誓うシャルル一派と呼ばれる大勢の者達が騒々しく動き回っている。

 日本上空に差し掛かったからには避けきれないブリタニア軍と黒の騎士団の連合軍との戦闘。 

 

 正直両軍の連合軍総隊と比較すればシャルル一派の戦力など取るに足らないものであったが、ブリタニアが超合集国に加盟する間際に事を起こした成果か数は同数に近いものしか対峙していない。

 神聖ブリタニア帝国は超合集国に加盟しようとしていた矢先に動き、加盟申請は一時中断。

 前皇帝と多くのブリタニア兵が挙兵したのだから少なくともオデュッセウスを知らない者らはブリタニアの関与を勘繰るだろう。ならばシャルル一派だけでなくオデュッセウス率いるブリタニアにも警戒せねばならない。そうなると各国に待機させている駐留軍を国境線に配置して警戒を強め、警戒されたブリタニアも警戒する為に国境線に部隊を配置。

 自由に動けた筈の両軍の予備戦力は疑心暗鬼で動けず、対峙できたのは日本周辺に集まっていた部隊のみ。

 戦力は同数でもこちらにはフレイヤ弾頭がある。

 フレイヤさえあれば戦術も戦略も意味を成さないだろう。

 

 シュナイゼルとしては兄上に対して使う気はないが…。

 

 唯一シャルル・ジ・ブリタニアに付いた皇族であるシュナイゼルは忠誠心や現ブリタニアに反旗を翻そうとしてシャルル一派に入ったわけではない。

 大きな理由はオデュッセウスのらしくない行動にあった。

 ここ最近の行動は妙におかしかった。

 中華連邦で天子を助けた際の行動は実に兄上らしい理由であったが、そのあたりからどうも黒の騎士団を支援しているような動きが見受けられたのだ。

 そんな馬鹿なと多くの者は否定するだろうがシュナイゼルは確信している。

 エリア11へ移動中のナナリーが黒の騎士団に襲われた際には兄上が開発を命じた新型機が奪われ、中華連邦で天子の婚約が邪魔されると中華連邦の新政権は黒の騎士団と共に歩み、シャルル皇帝に反旗を翻した際には黒の騎士団に協力して仕掛けた。

 どれもこれも見方を変えれば黒の騎士団に協力しているように見えて来る。

 さらには一時期兄上の下に居た所属不明の部下たちの姿が消えているのも気になるところだ。

 

 何故兄上が黒の騎士団に協力するのかは理解しえなかった。

 ただ気になるものはあった。

 

 “コードR”。

 クロヴィスが特殊な力を持つ女性を捕らえて実験していた件だ。

 本人から聞いたわけではないが残っていた研究資料を回収し、こちらでも独自に調べてみると信じがたいオカルト染みた話がわんさか出て来た。

 曰く、それは不老不死。

 曰く、超常の力を得る。

 曰く、中には人を操る者も居るという。

 

 シュナイゼル自身も馬鹿馬鹿しいと思っていたが父上に兄上が関わっていたらしいとなると話は別だ。

 

 調べた資料の中にはブリタニア公ジョンが存命だった百年戦争頃に処刑されたオルレアンの魔女に、ブリタニア皇族と日本名家とのハーフである子が領地を継承する前後の父と異母兄弟の死に、母親に妹、それに領民達の不可解な無謀な特攻。他にもC.C.と呼ばれる女性が何世紀も渡り生きていた証明の写真の数々。

 そして黒の騎士団と共に目撃されたC.C.らしき女性。

 

 これは推測だが兄上はその超常の力で操られているのではないか?

 

 そんな疑問を持ってしまった。

 他にも思い当たる節があってもこの疑問を先に解消せねば気が済まない。

 兄上を何者かが操っているなど許すことは出来ない。

 夢物語な話なのは理解している。

 だが、確かめる為にも兄上を知る者の協力……つまりはジノ・ヴァインベルグ卿とノネット・エニアグラム卿にこちら側についてもらった。

 二人共半信半疑ではあったが資料を見て、少しでも可能性があるならばと手を貸してくれたのだ。

 

 シュナイゼルはコントロールルームに設置された大型のモニターより連合軍を見つめる。

 あそこに兄上が居るのだと実感すると手に力が籠る。

 

 「カノン。こちらの準備は?」

 「すでに陣形通りに展開しております。いつでも行けますが…」

 

 モニターの一つに味方の配置が映し出されており、一目見て確かに展開が終了している事を確認する。

 部隊を大きく七つに分けてダモクレス右翼にノネット率いる第四軍とドロテア率いる第三軍、左翼にはオイアグロ率いる第六軍とオリヴィア率いる第五軍、正面にモニカ率いる第二軍が構え、その先にジノとブラッドリーが居る第一軍を配置。第七軍は四つに分けて予備戦力兼ダモクレス後方の護りに付かせている。

 レーダーに映るシャルル一派連合軍に向かって凸の形に、連合軍はほぼ横長に展開している。

 こちらに比べて大きな部隊を三つ、残りは小分けに分けた部隊が散らばっていた。

 

 「では父上、お任せ頂いても宜しいですね?」

 

 シュナイゼルは振り返り、玉座より眺めるシャルルに確認を取る。

 「任せる」と短く答えると見世物でも見るかのようにモニターを眺め始める。

 

 「さて、どうしたものか」

 「殿下。連合軍より通信が来ておりますが」

 「通信?…繋げてくれ」

 

 一瞬の砂嵐の後にモニターが切り替わり、パイロットスーツを着用しているオデュッセウスの姿が映し出された。

 にっこり微笑もうとしているのだろうけどどこか悲し気に歪んでいる。

 理由には察しが付くがあえて言うまい。

 

 『えー、あー…んー…元気かなシュナイゼル。それに父上』

 

 敵対している者にかける言葉ではない。

 小さく笑みを零して向き直る。

 

 「元気ですよ兄上。遅まきながら皇帝就任おめでとうございます」

 『ありがとう。君にも祝いの席に参列してほしかったが………どうして、と聞いても良いかな』

 「構いません――と言いたいところですが」 

 『すでに機は脱したという事かな?悲しいね。兄弟で争う羽目になるとは』

 「えぇ、本当に…」

 『―――では、一勝負願おうか』

 「はい、兄上」

 

 微笑み合う二人は通信を切り指揮を執る。

 戦争という大きな舞台がボードでそこに存在する無数の命が駒と成りて動き出す。

 連合軍が両翼を伸ばして包囲しようとすれば先を抑えようとシャルル一派も両翼を伸ばす。

 今度はこちらの番と言わんばかりに第一軍を二手に分かれさせ、空いた中央を第二軍が魚鱗陣で連合軍中央へと突っ込む。

 連合軍は両翼を停止させ、突っ込んで来る第二軍を半円を描くように展開して迎え撃つ体勢を整える。

 包囲され射撃を集中されれば突破できたとしても第二軍は壊滅的打撃を受ける。そこで二手に分けた第一軍で半円の先に立ち塞がせる。

 

 頬が緩む。

 戦っているのだ。

 兵と自身の命を賭けて戦っているのだ。

 だというのに私は楽しんでいる。

 そうだ。これは幼い頃より何度も打ち合った兄上とのチェスだ。

 不謹慎だろう。

 だが楽しくて仕方がない。

 気持ちが高鳴って仕方がない。

 ゆえに熱が入る。

 今度こそ私が勝つと指揮に力が入る。

 

 攻めては攻められ、防げば防がれる。

 戦場は兄弟のチェス盤となりて入り乱れ、掻き回され、乱れ躍る。

 

 元の陣形は見る影も無くなった頃、戦場を見渡してシュナイゼルはため息を漏らした。

 切った通信を再度再開し、マイクを手に取る。

 

 「兄上…」

 『なんだいシュナイゼル』

 「手を抜きましたね…」

 

 あまりにも上手く行きすぎた事に疑問を持って問う。が、分かっている。解り切っている。兄上がそのような事をする筈が無いと。

 悲し気な表情を浮かべたオデュッセウスは首を横に振る。

 

 『まさか私が手を抜くと?あり得ないよシュナイゼル』

 「しかしこれは…」

 『こちらの手は抑えられ、君は上手く攻勢の陣形を組み終えているね』

 

 囲もうとした中央は崩れてこちらの突撃で崩せるし、大きく広げた両翼は防いでいる。

 兄上の手に違和感はなく、何かの罠という訳ではない。

 しかし信じきれなかった。最近になって勝つ事もあったがここまで差をつけての勝利は無かったのだ。

 

 『強くなったねシュナイゼル。さすがだよ。さすが私の自慢で愛しい弟だ』

 

 優しい笑みにシュナイゼルは察した(・・・)

 兄上は操られていたのではなく操っていた側(・・・・・・)なのだと。

 それが何を目指し、何を成そうとしていたのか。

 賢いシュナイゼルは疑念を払拭した事で思考がクリアになり、瞬時に理解してしまった。

 だがそれ以上にこの勝利に興奮していた。

 

 「は…ははははは、そうか。勝てたのだな」

 『為す術もなくやられたよ。本当にどうしようもなく…ね』

 「だから私は貴方に―――賭け(・・)で負けたのですか」

 

 そう…兄上はいつも私の勝ちに賭けていたのだ。

 兄上が勝とうと私が勝とうと関係ない。

 どちらにしても兄上の勝ちは決まっていたのだ。

 思った通り第二軍後方下方より所属不明の部隊が突然現れ、レーダーを見つめていた監視員は驚いて慌てふためいていた。

 

 

 

 

 

 カモフラージュを施し、地上で動力を停止させていたペーネロペーは起動と同時に出力最大で浮上を開始。

 上部にブレイズルミナスを展開し、艦首を今まさに戦端を切り開かんとするシャルル一派第二軍へと向ける。

 ペーネロペー上部にはアシュラ隊の重火力のアレクサンダが並び、対空戦闘の準備を整えていた。

 

 『陛下の読み通りですね』

 「私は信じていたから」

 

 後部格納庫でランスロット・リベレーションに搭乗して待機していたオデュッセウスは微笑みながらレイラに答える。

 いつだってオデュッセウスは信じてきた。

 原作で知るシュナイゼルをではなく、自身の弟が成長していくことを。

 必ず自身を抜いて行く事を。

 何度も何度もその事に賭けて来たのだ。

 

 「…おかげでよくおやつのケーキがお預けになったっけ…」

 『なにか?』

 「いや、何でもないよ。総指揮権はゼロに」

 『了解しました。斑鳩へ通信致します』

 

 懐かしい光景を思い出してはまた笑みが零れる。

 起動キーを差し込んで、機動確認を済ませ、深呼吸を繰り返す。

 最後に覚悟を決めて通信回線を開く。

 

 「ペーネロペーに搭乗する各員に通達する!

  これより我らは敵先頭部隊に突撃を敢行する。後ろから追ってくる者や逃げ出す者などは相手にするな!正面のみに火力を集中し、敵陣を突破!同時に攻勢に出る中央本隊と合流する!

  危険な任務であるが承諾してくれた諸君らに感謝すると同時に誰一人欠ける事無く生還することを切に願う」

 

 操縦桿を握る手に力が籠り、ペダルに足を乗せる。

 

 「全機発艦!行くぞ皆!!」

 

 後部格納庫より飛び出したランスロット・リベレーションに続いてアキト達有人のアレクサンダ、そして無人のアレクサンダが発艦する。

 ペーネロペーを囲むように展開した全ナイトメアはオデュッセウスと共に突き進む。


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