コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第115話 「閃光」

 離れた右翼からでもはっきりと中央で爆発したフレイヤの輝きが確認された。

 オリヴィア・ジヴォンに勝ったオルドリンはその光に焦りの色を浮かべ、すぐさま現状確認の為に無線を開いた。

 

 「マリー!今のは!!」

 『分かっているわオズ。報告が殺到しているけれどフレイヤが使われたのは確かよ』

 「こちらの損害は?」

 『ゼロよ』

 

 すぐさま返って来た返答に耳を疑った。

 ここからでも確認できた規模の爆発で被害がないなどあり得ない。

 まさかフレイヤを威嚇の為だけに使ったというの?

 そんな訳は無いとどういう訳かと思考を働かせるがこれだと確信する考えは浮かばない。

 いや、そもそも騎士道精神を持つオルドリンでは考え付かないだろう。

 

 『敵は…お父様は自身の味方に向けて放ったのよ』

 「味方に!?そんな…どうして!」

 『恐らくだけど意味はあまり無いと思う。下手をすれば射線を確保する為に邪魔だからという理由かもしれないし…』

 「そんな理由で」

 

 怒りがふつふつと沸き上がる。

 それを察してかヴィンセント・グラムルージュが肩を掴んだ。

 

 『落ち着きなさい。それでも皇女殿下の騎士なの?』

 「―――っ!?」

 『貴方はただの騎士ではないの。マリーベル皇女殿下の筆頭騎士(ナイト・オブ・ナイツ)。どんなことがあろうと平静を保ち、冷静でいなさい』

 「えぇ、そうよね。うん…よし!」

 

 自ら頬をパチンと叩いて気合を入れて気持ちを入れ替える。

 中央に被害が無いというのは幸いと考えるべきだろう。

 敵が射線を確保するにも時間は必要となる。

 ならばマリーの事だからこちらの大勢を整えて反撃の一手へと導いてくれるだろう。

 

 『オズ!まだ戦える?』

 「私はまだ戦えるよ」

 『なら現在現れた新手の対応をお願いします』

 「新手!?」

 『お兄様と同じ手を考えていらしたようで突如地上よりナイトメアフレーム部隊が接近。グランベリーに迫る勢いで突っ込んできています』

 

 カールレオン級浮遊航空艦グランベリーはグリンダ騎士団旗艦であり、神聖ブリタニア帝国・黒の騎士団の連合軍右翼の司令艦を務めている。

 もしもグランベリーを落とされれば右翼の指揮系統は消滅し、混乱の真っただ中に落される。

 下手をすれば崩壊だってあり得るのだ。

 

 「グリンダ騎士団総員新たに出現した敵部隊の殲滅に当たる!」

 

 指揮系統云々よりもオルドリンとってはマリーの安全が第一。

 仲間より返事が返ると速度を上げてレーダーに表示される地点に向かう。

 

 新たに出現した敵部隊は一個大隊ほどの規模のナイトメア隊だった。

 サザーランド・エアなどではなく全機がヴィンセント・ウォード……否、配色からロイヤルガード所属の精鋭機と推測する。

 中には大型のナイトギガフォートレスまで視認出来た。

 

 「つまりラウンズを除いた最大戦力!」

 『もしかして先ほどのフレイヤはこの為の囮かな?』

 『目を逸らさせる為だけに味方を消滅させたと言うのですか!?』

 『惨い事をするね…』

 『だがその効果は大きかった。なにせこれだけの精鋭部隊が司令艦に迫る機会を生んだのだから』

 

 確かにそれだけの効果があったのは認める。が、味方を死なせる手段については納得できない。

 急ぎ駆け付けようと近づくとナイトギガフォートレスの拡散したハドロン砲が連合軍ナイトメアをまとめて撃破していた。

 

 拠点防衛用ナイトギガフォートレス“エルファバ”

 ジェレミア・ゴッドバルトのサザーランド・ジークと同じ流れを組む試作機。

 性能以上に見た目がサザーランドジークに酷似しており、違いと言えば左右の大型ユニットの下に拡散ハドロン砲を撃てるマニュピレーターが取り付けられ、機体の真下にあった大型のロングレンジリニアキャノンがハイパーハドロン砲に変えられている点であろうか。

 拠点防衛用ナイトギガフォートレスという事だけあって攻守とも優れた機体に仕上がっている―――筈だった。

 漫画に登場したこの機体にはルルーシュが搭乗している蜃気楼のデータが使用され、ドルイドシステムを用いた絶対守護領域により絶大な防御力を誇っていたのだが、ドルイドシステムはブリタニアの技術でもそれを転用した絶対守護領域は黒の騎士団(ラクシャータ)の技術で搭載が間に合わなかったのだ。よって防御力を持たせる面で全方位にブレイズルミナスを展開できるようにしたものの、防御力は漫画時よりもかなりランクダウンしてしまった。

 それとコアユニットとしてランスロット・トライアルの下半身が埋め込まれていたのだが、そこには大きなカバーが取り付けられてコアユニットを覆い隠している。

 

 劣化版とは言え拠点防衛用を行えるだけの強力な火力は健在な訳で、拡散ハドロン砲にハイパーハドロン砲、多数のミサイルで弾幕を張られて連合軍ナイトメア部隊は近付くことも出来ずに撃破されていく一方。

 後続のロイヤルナイツは出来るだけ温存して突き崩すつもりなのだろう。

 逆に言えば道を切り開くために絶えず撃ち続けているので、エナジーの消費は凄まじくて中央まで持つことは無い。

 無いからと言ってエナジー切れを待っていては味方を見殺しにするに等しい。

 やるべき事は変わらない。エナジー面で弱っている事で多少容易になるぐらいか。

 

 『お嬢様。如何なさいます?』

 「トトとソキア、マリーカで周囲の敵を。私とレオン、ティンクであのナイトギガフォートレスを撃破します。ティンク!」

 『一気に数を減らすのか。了解した』

 

 呼ぶだけで意図を察したティンクはゼットランド・ハートはメガ・ハドロンランチャーを構えてランスロット・ハイグレイルの前に出る。ランスロット・ハイグレイルはゼットランド・ハートのコクピットの左右に伸びたウィング状の持ち手を掴み、後ろに伸びた脚部に足を付ける。

 

 『ユグドラシルドライブダイレクトコレクション!』

 「目標敵ナイトギガフォートレス及びナイトメア部隊中央!」

 

 ハイグレイルチャリオットの形態をとった両機のユグドラシル・ドライブ連結し、威力を格段と挙げたギガ・ハドロンランチャー・フルブラストが目標に向かって伸びて行く。

 範囲攻撃を行っていたエルファバはブレイズルミナスを展開して回避行動に入るが避け切れずにブレイズルミナスの一部が掠る。掠った程度でもかなりの高威力を受けてブレイズルミナスを打ち破って左舷マニュピレータを溶解させ、衝撃であらぬ方向へ弾き飛ばした。

 損傷したものの生き残ったエルファバは良いものの、後ろに続いていたロイヤルガードのヴィンセント・ウォード隊は回避する事もままならずに飲み込まれ消滅して行った。

 奇襲を仕掛けてきた部隊の大半を打ち破ったがここで手は休めない。

 

 「レオン、お願い!」

 『行きますよオズ!』

 

 ゼットランド・ハートから離れると合体できるように可変したブラッドフォード・ブレイブが背に接続し、ハイグレイル・エアキャリバーとなった事を確認したオルドリンは一気に上昇してエルファバを見下ろす。

 反動によって弾かれた影響で体勢を整え切れていないエルファバに狙いをつけて一直線に降下する。

 

 『ルミナス・ラム展開!』

 「行っけぇえええええええ!!」

 

 ハイグレイル・エアキャリバーは右足を伸ばして蹴りの体勢のまま突っ込む。

 足先に高エネルギー体で構成されたルミナス・ラムを展開させて、そのままエルファバと激突した。

 負けじとブレイズルミナスを展開したようだが破損して弱っているブレイズルミナスでは高所からの落下と最大加速、そしてルミナス・ラムを使用したハイグレイル・エアキャリバーを受け止める事無く、呆気なくブレイズルミナスは突破されて機体に大きな風穴が出来上がった。

 

 「これで終わりね」

 『―――ようやく出られるのね』

 

 無線を通して聞こえた女性の声に背筋が凍り付くような―――違う、そんなものじゃない。

 全身の血の気が引いて、指先ひとつ動かすことが出来ない。

 今まで戦ってきた中では味わったことの無い純粋で無邪気、ゆえに恐ろしいと感じる殺気。

 視線だけをゆっくりと動かしてソレを捉えた。

 

 機体ダメージから放電し、火花を散らしながら降下するエルファバのコアユニットを覆っていたカバーが吹き飛び、中よりナイトメアが姿を現した。

 

 モルドレッドを模したかのような頭部。

 二の腕を守るように取り付けられた剣の刃のようなショルダーシールド。

 肩の方に先端を向けた腕より少し短い刀身が取り付けられた腕部。

 スカート様に展開されている腰部の滑らかな装甲版。

 鋭く刃を連想させるような尖った脚部。

 コクピットの左右にはメーザーバイブレーション、左腰には持ち手だけの刃の無い剣が装備。

 胸部は追加装甲が施され、純白に染められた機体の彼方此方を走る真紅に輝くライン。

 

 見た事の無いナイトメアに目が奪われる。

 いや、似た機体は覚えがある。

 頭部はモルドレッドのようだが身体は中華連邦の神虎と酷似している。

 オルドリンの中でオデュッセウス陛下の下よりナイトギガフォートレスとナイトメアフレームが奪われたという報告を思い出し、陛下の所有するナイトメアには神虎を元にした朱厭なるナイトメアがあった筈だ。

 

 『窮屈だし、手ごたえがなさ過ぎて退屈だったのよ。でも貴方達のおかげでようやく出られたわ。ありがとうね。そして――――』

 「――――ッ!?」

 『さようならかしら?』

 『オズ!!』

 

 背中より十枚(・・)のエナジーウィングが展開されたと思った次の瞬間、開いていた距離が一気に詰められた。

 気付いて距離を取ろうとするも向こうの方が機動力が高過ぎてあっと言う間に追い付かれる。

 このままでは危ないと突き放すようにブラッドフォード・ブレイブが接続を解除して、斬り込もうとしたがスピンを掛けながら横を通過した敵機によって右足と右腕、そして頭部が幾重にも刻まれて剣を振るうどころか持つ事さえ出来なかった。

 ――理解した。

 この敵には私…私達では敵わない事を。

 

 それでも諦めずにブラッドフォード・ブレイブの飛行ユニットを損傷させるように蹴りを喰らわせた敵機に剣を振るう。

 母を超え、ジヴォン家とは違う意味を持った己の剣を。

 

 目にも止まらぬ速さで身体を捻りながらの蹴りで振るおうとしていた右腕が弾かれて、反応する間もなくオルドリンの視界には迫る刃が目の前にまで迫っていた。

 死を連想したが映し出されたのは頭部カメラからの映像。

 メインのモニターからの映像が消え、衝撃が伝わったことで頭部をやられた事を理解する。

 システムがメインカメラが使用不能になった事で別のカメラへと切り替えるのだが、そのコンマ何秒を待たずにして機体に衝撃が走る。

 何が起こっているのか知る由は無いが勘で理解したオルドリンは躊躇わずに脱出レバーを引いた。

 

 見る事叶わないがこの時、頭部を切り裂いた敵機はそのまま二撃目の蹴りをかまして、もう一撃で機体を両断しようとしていたのだ。

 両断と言っても狙いはコクピットでなく、腰部分で機体を胴体と下半身で切り分ける。

 

 トトのヴィンセント・グリンダがオルドリンが乗っているコクピットを受け止め、落ちて行くブラッドフォード・ブレイブをマリーカのヴィンセント・エインヘリヤルが支える。

 刹那の出来事を目の当たりしていたソキアは一瞬反応が遅れたが、冷静なティンクは味方機が離れた事で高火力のギガ・ハドロンランチャーを放つ。グランベリー上部甲板より周辺の援護を行っていたシュバルツァー将軍の漆黒のヴィンセント・グラム―――ヴィンセント・グラムノワールの狙撃用のハドロンランチャーよる長距離援護も加わる。

 が、それらを嘲笑うかのようにワルツでも踊っているのかというような優雅に舞って回避する様子から技量の高さよりもまだ底の見えない事実が叩き込まれる。

 ようやく迎撃しようと動いたソキアはACOハーケンで仕掛けるが二本のメーザーバイブレーションによって剣の間合いに入った瞬間には切断され、有効的な攻撃を行う事も出来ずに両腕を切断されてその場に捨て置かれた。

 次の狙いはゼットランド・ハートだと分かり易く直線的に近づく。

 距離が狭まったというのに当たらないメガ・ハドロンランチャーを投げつけ、離脱を図るも避けずにメガ・ハドロンランチャーを斬り、肉薄されて膝蹴りの一撃で頭部を潰され通り過ぎられた。

 

 ハッチを開けて肉眼で周囲を確認するオルドリンはもう追い付くことも出来ない敵機がグランベリーより援護していたヴィンセント・グラムノワールの攻撃を完璧に躱して、両手両足を切断して連合軍中央へと向かって行く様子を眺めるしかなかった。

 

 『オズ!オズ!返事をして、無事なの!?』

 

 無線機より懇願するように叫ぶマリーの声にハッと我に返り、耳に装備しているマイクを手に取る。

 

 「私は大丈夫。大丈夫よマリー」

 『無事なのね?怪我はしてないのね?』

 「怪我もしていないし、無事だから安心してマリー」

 『あぁ、本当に良かった。もし貴方に何かあったら私…』

 

 オルドリンの事で頭がいっぱいになり精神が不安定になったマリーベルを落ち着かせるように優しい音色で答える。

 こうなってはマリーベルは指揮に専念できない。

 

 「マリー。中央の陛下とゼロに現状の報告をお願い」

 『―――っ!!…そうね。そうするべきね。ごめんなさい…今の私は冷静じゃないみたい』

 「謝らないで。私はマリーの騎士。貴方を支えるのが私なんだから。それとアマネセールと予備機のヴィンセント・グラムの用意をお願い」

 『…行くのねオズ』

 「えぇ、行くわマリー」

 

 決して敵うことの出来ない相手でも引き下がる事は出来ない。 

 アレを放置するなんてどれほど危険なのかは骨の芯まで理解している。

 私の力だけで足りなければ他の方々の力を借りてでも止める。絶対に。

 

 そう決意したオルドリンにマリーベルは大きく頷いて彼女も覚悟を決めて指揮をシュバルツァー将軍に任せてナイトメア格納庫へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 フレイヤの輝きを目の当たりにしたゼロは大きく息を吐いた。

 この戦争はルルーシュとシャルルが仕組んだもの。

 反オデュッセウス派を集結させ、すでにその半数以上を排除し、残っている者も味方ごと消滅させる凶行を行ったシャルルよりオデュッセウスへ乗り換えるだろう。

 

 「扇。ここの指揮は任せる」

 「任せるって…どうする気だ?」

 「敵はもはや歯向かうほどの力を失い、残るはダモクレスとフレイヤのみ。私はダモクレスへ向かう」

 「危険だゼロ」

 「危険は承知の上だ。だが行かねばならない。それに策も用意してある」

 

 心配そうな眼差しだった扇は大きく頷いて力強い目で見つめ返した。

 

 「分かった。ここは何とかしよう」

 「頼む。行くぞC.C.」

 

 C.C.を連れて黒の騎士団旗艦イカルガ艦橋よりナイトメア格納庫へ向かう。

 やけ静かで自分達が歩く足音が耳に響く。

 

 「これで終わるのか」

 

 格納庫へ向かう途中ぼそりとC.C.が言葉を漏らした。

 記憶を失った時のようにしおらしい様子に戸惑い、表情を伺いながら何か話題を探す。

 

 「C.C.。お前はこの戦いが終わった後はどうするつもりだ?」

 「…そうだな。またこの現世を漂うとしようか」

 「騎士団には残らないか?」

 「不死の私は表に立つわけにもいかない。あぁ、契約を果たしてくれるなら残るが」

 

 先ほどのしおらしさは何処に行ったのか挑発するかのように向けられた言葉に苦笑いを浮かべる。

 契約を叶えたい気持ちはある。が、それを行うにしても今はまだやるべき事が散在している。そう易々と返事を返してやれない事が辛く感じる。

 

 「まったく何故こうも契約不履行者ばかりなのだろうな」

 「………C.C.」

 「それに私にもやるべき事がある。安心しろ。もうあのように死は選ばない」

 

 格納庫に辿り着いた二人の前にはゼロの蜃気楼とC.C.の暁 直参仕様が待機していた。

 蜃気楼にはフレイヤ対策としてオデュッセウスが用意したフレイヤ・エリミネーターが取り付けられている。

 これを使えばフレイヤを相殺することが出来る。

 ただ起爆する前に刻々と組成が変化するフレイヤの真逆の反応を打ち込まなければいけないので易々とはいかないが…。

 蜃気楼に乗り込もうとしたルルーシュは足を止めて、暁 直参仕様に乗り込むC.C.へ振り向いた。

 

 「勝つぞC.C.」

 「何を今更。当たり前のことを」

 

 クスリと笑いコクピットに入って行く様子を見届け、ルルーシュも入ってシートに腰かけて起動させる。

 起動を済ますとイカルガより出撃し、ダモクレス攻略の為に編成した部隊と合流する。

 編成部隊はカレンにスザク、ライにジェレミア、そしてオデュッセウスにアーニャの六名。本来なら藤堂達も含まれていたが戦闘により機体が大破してしまい待機中。機体を調達するにしても待っている時間はない。

 ただ嬉しい誤算があった。

 

 『ルr―――ゼロ。ノネット達がこちらに加わるとの事で突入組に入って貰おうと思うけど』

 「ノネット?…ラウンズがこちらにか」

 『信用できる相手だよ。腕も確かだし私が保証しよう』

 「そうか。了解した」

 

 紅蓮聖天八極式、ランスロット・アルビオン、蒼穹弐式改、サザーランドジーク、ランスロット・リベレーション、ランスロット・クラブ、モルドレッド、フローレンス、パロミデス、トリスタン。

 一騎当千の精鋭揃いの部隊に負ける気がしない。

 

 「良し!ではこれよりダモクレス攻略の為に突撃を敢行する。カレンとスザクは道を切り開き、残りは左右後方へ警戒してくれ!接近さえすればあとはこちらの策がある」

 

 陣形を整えさせ、いざダモクレスに行かんとするルルーシュに緊急の通信が割り込んだ。

 

 『ゼロ!大変だ。右翼が突破された』

 「なに!?まだそんな戦力があったか…それで状況は?」

 『右翼を突破した機体はそのままこちらに向かってきている』

 「突破した機体?敵の数は?詳しい詳細を知らせよ」

 『敵は一機だよ。見た事の無い機体だし新型なんじゃあ…兎も角データを送る』

 

 一機という事に嫌な悪寒を覚えた。

 これまで一機で突っ込んできた相手でこちらの都合通りに事を進めれた記憶がない。

 送られた画像は神虎をベースとして頭部をモルドレッドのものを取り付けたような機体が映っていた。武装らしい武装がメーザーバイブレーションソードしか見受けられない事から格闘戦を主体とした機体と見受けられるが…。

 

 「兄u……オデュッセウス。見覚えはないか?」

 

 ブリタニアの機体ならば兄上の方が詳しいだろうと画像を送ると通信機越しに小さい悲鳴みたいな声が漏れた。

 

 『これは不味いよ。最悪だ…』

 「覚えがあるんだな」

 『あるけれどこれは相手にしない方が良い。この機体は現状の技術検証実験用ナイトメアフレーム―――仮名“カリバーン(選定の剣)”。ランスロット・アルビオンに紅蓮聖天八極式、アレクサンダなど私の所で知り得る技術を集めに集め、詰め込んだ非常識なナイトメアだ』

 「馬鹿げた機体だな。で、弱点はないのか?」

 『神虎とは違った意味で搭乗者が居ない事だったかな。あれを動かすと負荷で死ねる』

 「それで選定の剣か。動かせる者というのはジェレミアと同じ…」

 『搭乗者に至っては心当たりがある。知ってる人物が乗ってるよ』

 

 言葉のニュアンスで察したルルーシュは頭を痛めた。

 最悪の状況だ。予想通りの相手でそれだけのスペックならここの面子総出で挑まなければならないだろうが、そうなれば二射、三射とフレイヤが放たれて被害はすさまじい事になる。

 

 『ノネット、いや我がラウンズの騎士達よ。アレの足止めを頼む』

 

 命令を出す前にオデュッセウスの指示が飛び、ルルーシュもその方向で指示を出す。

 

 「ライは援護を。残りはこのまま行くぞ」

 『了解!』

 『行きます!』

 

 紅蓮聖天八極式とランスロット・アルビオンが先行し、蜃気楼にC.C.の暁 直参仕様、サザーランドジークが続く。

 一抹の不安は残るものの賭けるしかない。

 念のために相手が相手だった場合、オデュッセウスに喰らい付く可能性があるので別ルートで向かう事に。

 

 

 

 

 

 

 私は私自身の不甲斐無さを呪った。

 騎士としての私は威張り散らしているだけの貴族達では相手にならない高みに立ってはいたが、本当に欲したものは何一つ手に入らない。あの人の夢に賛同して同じ夢を見ようと手を貸したものの、私のギアス適正は低くて役に立ちそうになかった。

 出来る事は騎士として外敵を追い払う事だったのにそれはビスマルクの仕事。私の仕事と言えばあの人との間に産まれた保険(・・)の世話。

 もっと私のギアスに有効性があればあの人の役に立てたというのに皇妃としての役回りばかり。何度となく自分の能力の低さを恨んだ事か。どれだけ自身のギアスを呪った事か。

 けれど今はこのギアスで良かったと心底思う。

 

 肉体の約80%を医療サイバネティック技術と機械工学で賄い、無理やり心臓を動かさせて肉体は生きているとしてオデュッセウスのギアスで機能停止していた脳を正常な状態に戻し、コード所有者であるシャルルの協力により神根島の遺跡よりこの身体に魂を降して貰った。

 私、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアは借り物の身体ではなく尋常ならざる肉体を持ってこの世に蘇ったのだ。

 

 「あぁ、やっぱり自由って良いわね」

 

 呼吸ひとつするたびに生きていると実感する。

 混ざりものであるがシャルルが保存してくれていた私の肉体の感覚に感動すら感じる。

 背中と繋がったシートからこの子(カリバーン)も喜んでいる。試験機として暗い不自由な実験棟から一時の狂宴としても大空を駆けまわれる自由を。

 

 「雑魚ばかりでは貴方も飽きたでしょう?私は飽きたわ。そろそろ食べ応えのある相手と戦いたいものね」

 

 視線をダモクレスに向かって行くナイトメア隊へ向ける。

 ゼロであるルルーシュを守るように追従する紅蓮聖天八極式とランスロット・アルビオンを視界に収めると獲物を見つけたと言わんばかりにニヤケ、唇を嘗めた。

 今にも追い掛けたい気持ちを押し止める。

 私とてこの計画の一端。

 ならばルルーシュがダモクレスに辿り着くことは絶対条件。

 だからどれだけ遊びたくてもあとに取っておく。

 それよりも今はお仕置きをしなくちゃね。私達の夢を砕いたあの悪い子に…。

 

 『一斉に掛かるぞ!』

 

 拾い上げた声に退屈しのぎにはなるかしらと呟き発生源に振り返る。

 機体の先にはこのカリバーンの元機である朱厭の大元である神虎が両手を広げてこちらへと向かってきているではないか。

 パイロットは知略・技術ともに高い黎 星刻。

 少しは楽しませてくれるかしら?

 不気味な笑みを浮かべてカリバーンを神経電位接続により動かす。

 

 周囲に展開したナイトメアは暁タイプが十六機にヴィンセントタイプが九機の合計二十五機。

 向けられた銃口に臆することなく吶喊する。

 命令によりフルオートで放たれた弾丸を回避する光景は異常だ。

 スザクのランスロットもブレイズルミナスを展開したり、ギリギリを躱したりしていたが。これはそれと違ってカリバーンの出力と強引な軌道制御によってなされたもの。普通の人間であるならば意識は途絶え、骨は砕け、臓器が潰れるほどの負荷を改造・強化された肉体を持つマリアンヌだから出来る荒技。

 純白の機体に施された真紅のラインが発光して銃弾飛び交う空間を赤い閃光が駆け抜ける。

 剣が届くか届かないかの位置まで接近されたナイトメア隊は次々と腕や胴、頭部を斬り飛ばされて戦闘継続不能とされていく。

 まさに化け物と表現するしかない相手に星刻も冷や汗を流す。

 

 「これが中華連邦で…いえ、黒の騎士団でも名を馳せた人物の策なのかしら?」

 『いや、これからだ!!』

 

 一気に二十五機もやられた事で神虎は下がる。

 追撃する前に気付いたマリアンヌは落ち着いた様子で高度を上げた。

 先ほどまで居た位置にシュタルクハドロンが通過して焦るどころか嬉しそうに頬を緩ませる。

 

 「そう!そうなのね!貴方達が私を楽しませてくれるのね」

 

 背後をとるように位置取りをしていたアーニャ・アールストレイムのモルドレッドに頭上を抑えるように待機しているジノ・ヴァインベルグのトリスタン。モルドレッドを守るように布陣しているノネット・エニアグラムのランスロット・クラブにライの蒼穹弐式改、左右から挟み撃ちにしようとしているドロテア・エルストンのパロミデスにモニカ・クルシェフスキーのフローレンス。

 即席であるがラウンズと黒の騎士団の混成精鋭部隊。

 こう有利に囲んでいるという事は先ほどのナイトメア部隊は彼らが布陣する為に注意を引く囮と考えるべきなのだろう。

 

 「ふふふ、面白いわね。あの子(オデュッセウス)へのお仕置きは後回しにしてあげる―――来なさい」

 『挑発に乗るな。奴の機体は接近戦に秀でている。遠距離戦に持ち込め!』

 

 パロミデスの大型ユニットの指が飛び回り四方を囲み、頭上からはトリスタンのハドロンスピアーが降り注ぎ、モルドレットのシュタルクハドロンとフローレンスのハドロン砲が飲み込もうと襲い掛かる。

 その猛攻を嘲笑うかのようにわざとギリギリを見極めて回避して見せた。

 装甲が溶解しない程度にわざと寄る光景など誇りある騎士にとってはプライドを傷つけられる行いでしかない。

 

 『舐めた真似を!!』

 

 真っ先に動いたのはドロテアだった。

 そもそも格闘戦主体の彼女が何時までも遠距離戦を取るなど気に入らなかったのもあって、この挑発は効果的であった。

 と言っても冷静さは失ってはいない。接近すると同時に合計十指の配置を変えて隙を狙おうとしている。

 注意をパロミデスに向ければ十指に撃たれ、十指に向ければ正面により拳を叩き込まれる。

 選択肢はドロテアの中には二択しかなかったが、マリアンヌには三択目があった。

 

 鞘より抜き放った一本のメーザーバイブレーションソードをそのまま投擲し、あまりに短いモーションに対応できなかったパロミデスの右肩に突き刺さった。パロミデスが突撃した事で同士討ちを避けるために長距離攻撃は止み、機体に受けたダメージにより意識から離された十指が無防備になる。

 後ろに飛び退くと機体を捻らせながら十指に繋がるワイヤーをすべて切断。

 動きを止めたフローレンスに急接近する。

 ここでフローレンスは動きを見せずにハドロン砲を構えたままカリバーンを見据える。そこに割って入る味方の姿が―――ライの蒼穹弐式改があったのだから。

 ノネットにより互角の腕前と聞いていただけにそれなりの期待はしている。せめて足止めでもなればと…。

 

 『これで――』

 「あら残念ね」

 

 フローレンスに気を取られているカリバーンにとっては不意打ちともいえる攻撃を、メーザーバイブレーションソードを突き出すだけでしのぎ切られてしまった事にライは驚きを隠せない。

 近づいてからのエネルギーを拡散させての輻射波動で機体が動けなくなるほどのダメージを与えようとしたのに、放つ瞬間に寄られて輻射波動機構を積み込んでいる腕にメーザーバイブレーションソードが深々と突き立てられている。

 

 「この程度で終わり?」

 『舐めるなと言っている!!』

 

 殴り掛かって来るパロミデスの一撃を受けずに躱し、斬りかかってきたトリスタンの一撃を受け止める。

 ハーケンタイプのメーザーバイブレーションソードを柄を掴んで受け止めたばかりか、手首を捻って奪い去ってしまう。

 

 『な!?今の一瞬で――』

 「反応が遅いわよ」

 

 トリスタンの頭部に奪い取ったメーザーバイブレーションソードのハーケン部分が突き刺さり、膂力にものを言わせたカリバーンにより抵抗する間も無く蒼穹弐式改へ投げつけられる。縺れた二機に目もくれずフローレンスのハドロン砲を回避すると同時に繋がっていたメーザーバイブレーションソード二つに分けて片方を投げつける。

 発射の反動で行動しきれなかったフローレンスのハドロン砲に突き刺さり、爆発する前に何とか切り離したが爆風は回避しきれずに体勢を崩す。

 そこにカリバーンが接近する。

 勿論モルドレッドの援護があったが避け切られて、易々と接近したカリバーンはフローレンスを蹴り落とした。

 

 「さぁて、残るは――」

 『私だね』

 

 マリアンヌがしていたようにメーザーバイブレーションソードを放り、ルミナスコーンを展開して突っ込むランスロット・クラブ。

 剣は弾くことが出来たがルミナスコーンの一撃までは弾けなかった。

 否、ノネットが弾けぬようにぶつかり合う寸前で先を僅かにずらして柄とハーケンタイプの刃を斬り飛ばしたのだ。

 

 『これでカリバーンの武装はなくなった!であれば――』

 『先ほどの返礼をさせて貰おうか!』

 

 機体を捻りながら斬りかかって来るランスロット・クラブに損傷しても尚一撃をお見舞いしようと背後より突っかかって来るパロミデス。

 確かにカリバーンに目で見える範囲に武装は存在しない。

 目で見える範囲には…だが。

 

 腰より刃の無い剣の柄が飛び出した。

 それを掴むと柄より先に透き通った刃が現出してクラブの腕を斬り落とした。

 ノネットはその刃の構造を理解した。

 あの刃はエネルギー体で構成されたもの。つまり剣状のルミナスコーン。

 

 「この子はものを隠すのがとっても上手なのよ。こんな風にね」

 

 クラブとパロミデスの顔面に向けて伸ばされた両腕。

 腕部より折り畳み式のメーザーバイブレーションソードが展開されて二機の頭部が刎ねられた。

 それでも諦めずにドロテアは蹴りかかる。

 唯一にして絶対の自信があるパロミデスの強靭な四肢による一撃。

 そんな自慢の一撃を真っ向からブレイズルミナスを展開した足で蹴り返し、逆にへし折られてしまった。

 

 「さて、あの子は…あら?」

 

 モルドレッドも居るがずっとシュタルクハドロンを撃ちっぱなしのあの機体はこれ以上戦闘を続ければエナジー切れを起こす。放置しても良いと判断してオデュッセウスを探すと変形してダモクレスに向かう姿が…。

 追い掛けようかなと思った矢先、何かを忘れている気がして足を止める。

 

 ほんの僅かながら生まれた隙。

 今まで戦闘に参加せず気配を消すように動いた神虎のワイヤーがカリバーンの腕に絡みついた。

 この僅かな隙を生み出す策を用い、失敗することなく突いたのは見事だと言うしかない。

 

 「さすがね。麒麟児というのは本当だったようね星刻」 

 『貴様は類稀なる鬼才の持ち主だ。ゆえに油断をするのだ』

 

 ワイヤーより電流が流れて機体に深刻なダメージが与えられる。

 回路は焼け、システムはダウンして大規模修理でもしない限りは現状動くことは叶わぬ。

 

 「意外に楽しめたわ」

 『馬鹿…な…』

 

 機能を停止した神虎が落ちない程度にカリバーンがワイヤーを引っ張り上げる。

 現状あらゆる技術を吸収したカリバーンにはジークフリートに積み込まれていた電磁ユニットを小型化したものが積み込まれており、神虎より電流が流される前に逆に送り込んだのだ。

 モルドレッドに投げつけるとカリバーンはダモクレスへ向かって駆けた。

 まだ遊び足りないマリアンヌの得物として空を駆けるのだ。


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