コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第121話 「オデュ、デートに参る!其の壱」

 どうしてこうなったと嘆くのはいつもの事だろうか。

 ボク――ロロ・ランペルージは解放されたはずの胃がシクシクとする痛みを感じた気がして、腹部を軽く押さえる。

 つい数日前に兄さん(ルルーシュ)姉さん(ナナリー)、他にも数名を交えての話し合いが行われた。

 内容はオデュッセウスとニーナの仲を進展させるというものだ。

 別段不仲になったという訳でも間に誰かが入らなければ進まない訳でもないのだから、いくら恋愛に疎いとはいえ周りがとやかくする話では無いとは思う。

 それでも大仰な感じで皆が話すという事はそれだけオデュッセウスが親しまれている証拠とも言えよう。

 幼き日から接している自分としては嬉しい事この上ない。しかも兄さんに頼りにされては熱も入る。

 僕は話したよ。

 あの人の性格上どんな所でも楽しめるだろうけど幾らか目的を強制できるところの方がデートの場合はいいだろう。

 美術館なら美術品を見る。

 図書館なら本を読む。

 映画館なら映画を鑑賞するなどなど。

 強制できないのなら下手すると公園のベンチに腰を下ろしたまま数時間ものんびりとしていられるだろう。

 それと出来る事なら引っ張れるような人材を側に付けたいところだ。

 いつもなら先頭を突っ切るオデュッセウスだが恋愛関係になるとどこか足踏みしているように感じる。ニーナは引っ込み思案で付いて行くだけになるのは想像に易い。

 思いつくことをすべて出した。

 出し切った。

 それでどうしてこうなったのか…。

 ロロはソファに腰かけたまま周囲を見渡す。

 複数のモニターを完備する一室に詰める優秀なオペレーターに監視役。

 総指揮者としてゼロとして活躍したルルーシュ・ランペルージに補佐としてグリンダ騎士団を率いていたマリーベル・メル・ブリタニア。

 動員された警備が3000人に身元を確かめた上で今回の詳細を当日に知らされた家族連れが約2000人、施設運営要員1000人、監視や予備の人員1500名。

 施設を貸し切りにするのと同時に死角を補う監視システムの追加に遊具及び施設の安全面の確認と修復。

 

 ………世界に名立たる指揮官に7500以上の人員の配置、大きな資金の投入などこれが兄のデートを見守るのに必要な事なのか?

 先帝陛下という立場を考えればそうなのかもしれないが、どうにもやり過ぎなきがするのは僕だけでしょうか。僕だけなのでしょうね。姉さんも違和感を感じてないようですし…。

 

 「会場への人員の配置完了しました」

 「不審者や侵入者らしき人物無し」

 「招待客への情報伝達は完了」

 「ネット上の情報監視を開始いたします」

 「事前にあった参加者がゲートを通過」

 「システム面に異常なし」

 

 通達される情報を素早く正確にルルーシュとマリーベルが返答し、新たな指示を飛ばして万全を通り越した準備を進める。

 緊急時でもない限り仕事の無いロロはナナリーの近くで待機する。勿論アリスも居るが他の騎士団の面々は別行動を取っている。

 マオとダルクは現場に向かい、サンチアとルクレツィアはナイトメアに騎乗してギアスを用いた索敵で警戒を強めている。

 

 本当にどうしてこうなった…。

 信頼とか親しみとかいう次元ではない。

 ロロはぼんやりとため息を吐き、ブラコン達を眺めてモニターへと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 ロロ達の事を露ほども気付いていないオデュッセウスは、突然クロヴィスより贈られてきたチケットを手にクロヴィスランドへと訪れていた。

 何でもランドの関係者だけを招待するらしく、通常よりも人が少なく待つ時間が少ない。

 「それなら少数の護衛を付ければ自由に楽しめるでしょう」なんて気を使ってくれるのは嬉しかったな。今度何かしらお礼しなきゃね。皆で温泉旅行とかどうだろうかな。

 

 「ど、どうしましょうかオデュッセウスさん」

 

 先の事を想い描いていたオデュッセウスはニーナの一言で我に返り、意識を彼女へと向ける。

 今日ここにはその…デ…デート…として来た。

 本当に気を使わせてしまった。

 私だけでなくもう一枚贈ってくれるとは…。

 

 ん?そういえばクロヴィスにニーナ君の事紹介したっけ?

 疑問は頭上を駆けて行ったジェットコースターに乗っているアーニャが視線に入った事で「アーニャのブログか」と納得して勝手に解決してしまった。

 

 「さて、そろそろ来ている筈なんだけど」

 「お兄様!ニーナさん!」

 

 手を振って近づいてくるのは現ブリタニア皇帝のユフィである。

 職務は一応片付けて今日はお忍びデート。

 つまり私達とダブルデートであり、ユフィの隣にはスザク君の姿があるのだが…。

 

 「お待たせしましたか?」

 「いや、待ってはいないよ。それよりスザク君」

 「なんでしょうか先帝陛下」

 「まずその呼称と敬礼は止めて欲しいな」

 「イエス・ユア・ハイネ――」

 「禁止」

 「あ、すみません」

 「本当にスザクは真面目ですからね」

 「そこが良いんだろうユフィは」

 「はい」

 

 満面の笑みを浮かべて肯定された事によりスザク君の顔が真紅に染まる。

 このまま行けばランスロット・トライアルのカラーに並ぶのではと思うほどに赤い。

 まぁ、赤さでは私と隣にいるニーナ君も負けじと赤いですけどね。ついでに手を繋いでいるので私も若干赤いと思う。鏡を見て確認しようとは思わないけど。

 

 「それと…その恰好どうにかならないの?」

 「何か変でしょうか?」

 

 真顔で返されたのだけど私はどう言ったら良いのだろうか。

 

 私は黒のニット帽に上着にジャケット、紺色のズボンといった格好で、ニーナ君はユフィに合わせたのか桃色の上着に赤いスカーフ、白いスカートと茶色のベレー帽を被っている。

 ユフィはアニメで見た上部が白色で腹部が薄緑色の上着に橙色のスカート。それと伊達メガネ。

 

 ユフィも顔がバレているが逆に堂々としている分、気付かれ難いというのは私が散々証明しているから良いだろう。

 けれどスザク君の服装はラウンズの正装に分厚いサングラス…。

 デートという事でしっかりと正装したというのは理解した。

 理解したけれども服装だけで存在をバラしてどうする。

 

 と、思ったのだが、全然周りが反応を見せない。

 若干周りの客が離れている気がするぐらい。

 もしかして完成度の高いコスプレイヤーと思われているのだろうか?

 

 ※用意された客達は関わらないように努めているので、遠目でも解るスザクたちに近づかないようにしている。

 

 「あー…いや、なんでもないよ」

 「では行きましょう!」

 

 ユフィはスザクの腕に抱き着き、さっそくと言わんばかりに駆け出して行く。

 あまりこういう所に来たことの無いユフィは少々興奮気味だが、護衛も居るとの事で問題ないだろう。ちらっと見渡すと小走りで追い掛けている人たちが確かにいるし。

 

 「私達も行こうか」

 

 こくんと頷いたニーナ君に歩調を合わせてゆっくりと進む。

 私達は私達のペースで歩むのが一番だろう。

 ……というかユフィのハイペースに合わせていたらニーナ君が確実に転ぶだろうし、私も歳を感じるから多分持たない。

 

 ランドと言えば定番だよねジェットコースター。

 このクロヴィスランドには三種類ほどあり、子供でも乗れる速度と高さを抑えられた機種に、スリルを楽しみたい人向けの高度にコース、速度を重視した機種。私達はそれらに比べれば一般的なレベルのものだ。

 ちなみにアーニャ達はスリルを楽しむ機種に乗っていた。置いて行くのもアレだったので護衛も兼ねてヴィー(V.V.)を任せたのだが、後部にマオちゃんとダルクの姿が見えたような気がしたのだが…。

 

 「殿k――オデュさんはジェットコースターは得意なんですか?」

 「得意不得意と聞かれれば苦手かな」

 「え?意外です。てっきり慣れているのかと」

 

 意外そうな表情に自身が一番納得する。

 確かにスラッシュハーケンを使った立体機動を行いながら移動をした事もあるよ。でもそれは自分が操作しているからコースや速度を十分に理解して行っている訳で、ジェットコースターのように任せている訳ではない。

 つまり任せっきりなのは解らないので怖いのだ。

 バイキングやメリーゴーランドは良いよ。コースは決まっているし、動きもそうは変わらないから。けれどジェットコースターはコースは理解できても速度によって印象がガラリと変わる。

 だから苦手。

 

 「そうだねぇ…スザク君の操るランスロットに乗せられると思ったら理解出来るかい」

 「凄く怖いのは分かりました」

 「あのぉ…聞こえているのですが」

 

 苦笑いを浮かべるスザク君には悪いけど訂正はしない。

 あんな変態機動を同乗して怖くないという人はいないだろう。下手な絶叫系よりも断然怖い―――…それをアトラクションに組み入れてみるのをクロヴィスに提案してみようかな。ノネットとかも乗ってくれそうだし…。

 

 「あ、順番が来ましたよ」

 「クロヴィスの言っていた通り人が少ないから早いね」

 「待ち時間が少ないのは良いです」

 

 前の列にユフィとスザクが座り、その後ろに私とニーナ君が腰かける。

 バーを降して安全を確認するとジェットコースターがゴトンと揺れ、ゆっくりとコースを進みだす。

 どうでも良いのだが前世にジェットコースターに乗っていた怪しい黒尽くめの二人組を思い出したのだが、それに近い感じになっていないかなとふと思った。

 思ったところでオデュッセウスの表情がみるみる硬くなっていく。

 微笑みを浮かべた状態で一時停止でも押されたかのように固まった状態で、ジェットコースターはことことと恐怖を序章するように上がり始める。

 昇りきったところで一旦停止、いつ進むのかと思った矢先に猛スピードで下り始める。後ろに引っ張られるように負荷を受け、コースが右や左に傾くたびにそちらへと負荷が移り、不自然に微笑んだ状態のオデュッセウスは自然とそちらへと傾く。

 隣ではニーナがぎゅっとオデュッセウスの手を握り、声を殺してながらもスリルを怖がりつつ楽しみ、完全に楽しんでいるユフィは笑みを浮かべて声を挙げ、スザクはそんな様子に満足げに眺めていた。

 右に左に上に下にコースを駆け抜け、三回ほどぐるりぐるりと上下へと円形のコースを周り、中々のスリルを体験させたジェットコースターは乗り場へと帰って来た。

 降り立ったユフィは思いっきり腕を伸ばしてニコリと笑う。

 

 「楽しかったですわね」

 「もう一回乗りに行く?」

 「はい!ってアレ?お兄様は…」

 

 後ろにいる筈のオデュッセウスが居ない事に気付いたユフィは周囲を見渡し、近場のベンチに腰おろして休んでいるのを見つける。

 表情は微笑んだままなのだが、目が死んでいる。

 

 「大丈夫ですか先t…オデュさん」

 「少し休めば大丈夫だよ」

 

 笑って安心させようとするが乾いた笑みしか出来ずに申し訳なく思う。

 ニーナ君とスザク君は心配しているようだが、ユフィだけは笑っていた。

 

 「お兄様にも弱点があったのですね」

 「私も人だよユフィ。弱点なんていくらでもあるさ」

 「帰ったらお姉さまに教えてあげなくちゃ」

 「勘弁しておくれよ。あまり知られたくないし」

 

 すでにモニタールームで見ているルルーシュ達に知られているとは思いもしないだろう…。

 オデュッセウスはユフィがもう一度乗りたいと言っていたのを聞いていたので、スザクと共に乗って来るように促す。その間に少しでも復帰できるように体調を整えなければ。

 

 「オデュさん。飲み物をどうぞ」

 「ありがとう」

 「そ、その…自販機で買った物ですけど大丈夫ですか?」

 「ははは、問題ないよ。寧ろそっちの方が気楽に飲めるからよく飲んでたし」

 

 抜け出した時はよくお世話になりましたと冗談交じりに話すと、モニターを眺めていたロロの胃に痛みの残滓が蘇ったのは言うまでも無いだろう。

 二人並んでベンチに腰かけてコーヒー缶に口を付ける。

 降り注ぐ日差しが気持ちよく、何気なしに周りをぼんやりと眺める。

 

 「今日は本当に良い天気だねぇ」

 「そうですねぇ」

 

 のんびりとした雰囲気を纏った二人は周りの喧騒など耳に入っていないようにこの時間を楽しむ。

 ユフィとスザク君が戻ってくるまではこのままで良いかとコーヒーを味わうのであった。

 

 

 

 ……それを周囲に隠れ切れていないミレイ達がまどろっこしそうに眺めているのであった…。


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