コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第122話 「オデュ、デートに参る!其の弐」

 神聖ブリタニア帝国の皇子が監修した遊園地と言えども、規模と種類が豊富というだけで他の遊園地と同じ遊具で構成されている。

 コーヒーカップ然り、ジェットコースター然り。

 中には速度はゆっくりながらもレースを行えるゴーカート場も存在し、今まさにレースを行っている。

 遊び目的の客の一団をすり抜け、前に出たのは白色と灰色の二台。

 オデュッセウスとスザクがマジでレースを行っているのだ。

 コース外より眺めているユーフェミアとニーナがそれぞれを応援し、二台は縺れるようにコースを進んで行く。

 

 「殿下相手でも手加減はしませんよ」

 「だからもう殿下でも陛下でもないんだってば」

 

 お互いに慣れ親しんだ愛機に比べて止まっているのではと思いたくなる速度に不満を感じ、アクセルをふみっぱななしでコーナーへと差し掛かる。

 ブレーキを掛けようかと一瞬悩み、オデュッセウスは曲がれる程度に落して進むが、スザクはハンドル操作と僅かながら自身の体重移動だけで曲がり切る。

 ゴーカートで蟹走り(ドリフト)しながらコーナーを曲がり切ったスザクにオデュッセウスは目を見開いて驚きを露わにした。

 速度を落としてしまった分、スザクとの距離が離れ、いくら取り返そうとアクセルを踏んでも、距離を保つだけで追い付くことは無い。

 僅かな違いと言えどそれこそが決定的な差となり、オデュッセウスはスザクに追い付けずに二番手としてゴールインした。

 ゴーカートを元の位置へと停車させた二人は並んで出口へと向かう。

 

 「普通ゴーカートでドリフトって出来るものなのかい」

 「え?」

 「出来ないんですかみたいな視線やめてね」

 

 嫌味を含まない言葉に一応抗議はしておく。

 そこにユフィたちが合流し、ユフィは凄い凄いと興奮気味に褒め称えて来るのだが、どうも納得できずに気持ちがモヤモヤしている。。

 

 「どうかされたのですか?」

 「うん?んー…ゴーカートってあの速度でドリフト出来るものなのかな」

 「えっと、後で計算してみます」

  

 そういう事じゃないんだけどなぁと思いつつも、頼んだよと笑みを向ける。

 さて、ジェットコースターにバイキング、ゴーカートと連続で遊び続け、時刻は昼食時に近づいており、休憩も兼ねて昼食にするのも良いだろう。

 

 「どうだろう。どこかで昼食にしないかい」

 「確かに良い時間ですし、そうしましょうか」

 「食事が出来るのはえっと…」

 

 ニーナが地図を開いて調べているのを横から覗き込んでいると、視界の端でスザク君が離れていくのが映った。

 振り返ってみると脇にある射的にユーフェミアがジッと覗き込んでいる。

 お菓子や小物類、ぬいぐるみなど多種の品が並ぶ中、黒猫のぬいぐるみに釘付けのようである。

 

 「アレが欲しいの?」

 「はい。でもこれどうしたら良いのでしょう」

 「なら一緒にやってみようか」

 

 スザクの提案に嬉しそうにユフィは笑い、店員から渡されたコルクとライフルの使い方をスザクから教わる。

 二人を邪魔するのも悪いのでここは傍観に徹する。

 ユフィは言われるがままライフルを構えて人形へ狙いを定めるが、銃口の向きから外れるだろうな思っていると案の定コルクは目標から逸れて、後ろの壁に当たって下へと落ちて行った。

 

 「あら?外してしまいましたわ」

 

 悔しそうなのか、楽しくて嬉しいのか分からない表情を浮かべながら、二度三度と撃つがやはり逸れるか当たっても倒れることは無かった。

 そこで今度はスザク君が拳銃タイプのコルク銃で狙いをつける。

 さすが軍人と言うべきか狙いは完璧だ。

 見事コルクは狙い通り人形の左胸―――心臓あたりに直撃した。

 

 「あれ?」

 「あれじゃないよ。なんで心臓を撃ち抜く気満々なのさ」

 

 呆れ半分に突っ込み、そのまま終わるまで眺めていたが、黒猫のぬいぐるみは位置さえズレたものの落ちはしなかった。

 残念がるスザクとユーフェミアの横顔を見て何と無しにモヤモヤの正体に気付き、そういう事かと一人納得して店員にお金を払いコルクとライフルを受け取る。

 親指を唇に当てて少し湿らし、空気に触れさせて風向きを確かめる。

 目算で目標との距離を測り、重心を探る。

 最後に(コルク)を込めてライフルを構える。

 狙いを定めて一発目を放つが、調整されたばかりのライフルと違ってだいぶズレた。

 

 ※傍から見ればわずかな誤差。

 

 このライフルの癖を覚えて、今度は僅かにずらしてトリガーを引く。

 ぽふんと目標である人形に当たるとぐらりと揺らぐが倒れはしない。すかさず(コルク)を込めて揺れに合わせて二射目を当て、揺れが大きくなった人形は耐え切れずに転がり落ちた。

 

 「凄いですわお兄様」

 「これでもスナイパーだったからね」

 

 穏やかな笑みを浮かべながらも、心情は安堵でいっぱいであった。

 先ほどは負けてしまったが、兄として良い所を見せられたとホッとしている。

 これで終いにしたいところだがまだコルクは残っている。

 少し悩んでオデュッセウスは先にコルクを二セット分のお金を払い、再びライフルを構えた。

 結果店主の顔が青ざめる事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 カフェエリアで昼食をとっているニーナは今更ながら凄い面子であることを実感する。

 現皇帝のユーフェミアに前皇帝のオデュッセウス、皇帝直属の騎士のスザク。

 ブリタニア帝国の最重要人物揃い踏みなんて光景普通は(・・・)考えられない光景だ。

 ただニーナを含めてアッシュフォード学園の一部関係者にとってはそれほど珍しい光景ではなくなっている。……普通に学園祭に居たりもしたし。

 本来なら雲の上の人だというのに一般人と変わらない様子でホットドックにかぶりついている。

 ユーフェミア様だけはかぶりつく様子を見られるのが恥ずかしいらしく、口元を片手で隠しつつ食している。

 その様子がお嬢様っぽいなぁと思いつつ、ニーナは小口でかぶりつく。

 食事をしながら他愛のない話をしているというのに、私は話の内容よりもオデュッセウス様がユーフェミア様に渡された人形ばかりに意識が向かってしまっている。

 不遜なのかも知れないが羨ましいと思ってしまった。

 オデュッセウスの戦利品である大きめの紙袋に詰められた景品に、ちらりと視線を向けたニーナは別の者まで視界に入れてしまい咽た。

 

 「大丈夫かいニーナ君」

 「ゴホッ、ケホッ…だ、大丈夫です」

 

 差し出されたコーヒーの入った紙コップを受け取り、ゴクリと飲み干して違和感を残していたホットドックの一部を流し込む。

 まだ少しイガイガするが呼吸を正しながら大丈夫だと言い張り、咽た原因となった者らへと視線を戻した。

 

 そこには物陰に身を潜ませながらこちらを伺うミレイ・アッシュフォードの姿があった。

 いや、ミレイだけではない。

 リヴァルにシャーリーにライラまで居る。

 

 何処から漏れたのかと考えつつも、オデュッセウス達に気付かれぬように様子を伺う。

 リヴァルは巻き込まれて、ライラとミレイは興味本位で、シャーリーは―――応援だろうか。

 目が合ってからジェスチャーで何かを伝えようとしている。

 まぁ、見なくても大体理解出来たけど無理だと首を横に振るう。

 なにせ勢い任せに攻めるべきみたいな根性論を向けられても私には無理だ。

 精々こうして隣にいる程度で―――――…。

 

 ふと手にしている紙コップに意識が向かい、思考がゆっくりと動き出す。

 自分はホットドックとジュースを飲んでいた筈だ。

 ユーフェミア様もスザクもジュース。この中でコーヒーを頼んでいたのはただ一人…。

 理解すると頭から湯気が出そうな勢いで顔が真っ赤に染まり、力は抜けたようで背凭れに身体を預けた。

 

 「ニーナさん!?」

 「え、本当に大丈夫かい?」

 「救護班探した方が…」

 「だ、だだだ、大丈夫れす!!」

 

 真っ赤に染まった上に呂律まで回らなかったニーナは、周りから見て解るから元気を見せる。

 余計に心配した様子で三人が気に掛けてくれるがそれがどうも申し訳なくて縮こまる。

 

 「気分が悪いのではないのですね?」

 「大丈夫です。その心配させてしまいすみません…」

 

 頭を下げて謝り、小さく息を漏らす。

 視界の端でミレイとシャーリーがわたわたと動いて、何かを伝えようとしているが何時に増して余裕がない。

 申し訳なさ過ぎてため息まで漏らしてしまう。

 そしてまたも猫のぬいぐるみを視界の端に納めてしまい、自分の嫉妬の高さに嫌気がさしてしまう。

 

 「・・・あー…はい」

 

 何やら一人納得したのかユーフェミアは手を軽く叩いて立ち上がった。

 

 「ニーナさん。少しお兄様お借り致しますね」

 「え、あの…」

 「ちょ!?どうしたんだいユフィ?」

 「良いから来てください」

 

 いきなりどうしたのかと解らないまま、オデュッセウスさんが連れていかれていく様子を眺めるしか出来なかった。

 残された結果スザクと二人っきりになったしまったニーナはどうしたものかと悩み、スザクは置いといてホットドックを齧りながらオデュッセウス達を目で追う。

 二人してコーヒーカップに乗り込む様子にムッとしてしまう。

 

 「あはは、ニーナって意外に表情で分かるものだね」

 「え?」

 「今オデュッセ…オデュさんを盗られたって思ってるでしょ」

 「そ、そんな、そんなこと…ない!―――筈です…」

 

 思っていた事をズバリ当てられた事と、オデュッセウス様にもユーフェミア様にも不敬な想いだと思い、声を荒げて否定してしまった事にびっくりして狼狽える。

 

 「そ、そういうスザクだって…そうじゃないの?」

 「勿論だよ」

 

 呆気からんと答えられ、自分だけ狼狽えている事に不服に思って唇を尖がらせる。

 するとふとした瞬間に笑いが漏れ、二人して笑い合ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 「もうお兄様。駄目ですよ」

 「え?なにがだい?」

 

 急にコーヒーカップに誘われたかと思うと、乗り込んで開口一番に告げられた言葉に首を傾げる。

 何が駄目だったのだろうか?

 射的で馬鹿みたいに取り過ぎた事だろうか。

 それともデートらしくなかっただろうか。

 一人混乱しつつ思考を働かせるが、理解出来ずにわたわたと慌てる。

 その様子に頬を膨らませて抗議の視線を向けられた。

 

 「ニーナさんの事です」

 「ニーナ君の?」

 「私に猫のぬいぐるみを取って下さったのは嬉しかったですけど、お兄様はニーナさんとデートで来ているのですよ。だったら私よりもニーナさんにプレゼントするべきだったのではないでしょうか?」

 「・・・・・・・・・あ」

 

 言われて気付いてオデュッセウスは頭を抱えて俯いた。

 確かにそうだ。

 チケットを貰って自分からデートに誘ったというのに、ニーナ君でなくユフィの事で動いてしまった。

 誘っといてそれはないだろう。

 不安が募ってどんどん胸の内がモヤモヤしてきた。

 

 「ニーナ君、怒ってないかな?もしかして落ち込んでる?それとも呆れているかな?」

 

 そわそわと問いを投げるがユフィは少し悩み、その様子にオデュッセウスははらはらしながら言葉を待つ。

 

 「そう言う風には見えませんでした。まだ気付いてはいないというだけで」

 「安心は出来ないよね。この調子では…」

 「しっかりしてくださいお兄様」

 

 情けなさから小さく唸り声をあげつつ、ニーナ君達に視線を向ける。

 私がユフィに連れられ、残された二人は何やら談笑して居るようだった。

 アレだけ“日本人(イレヴン)”を嫌っていたニーナ君が普通にスザク君と笑いながら話している様子に不思議な感覚に陥る。

 

 否、違うな。

 壁を越えたんだなという感心ではなく、何というか…イラっとするというか…なんだこの感情?

 

 「聞いてますかお兄様」

 「あ、ごめん。なんだっけ…」

 「ふふふ、ニーナさんの事が気になって仕方がないようですわね」

 

 クスリと笑われて呆けた面を晒してしまった。

 

 「どうしたのですか?鳩が豆鉄砲を食ったようお顔をされてますわよ」

 「そんな顔をしていたかい?」

 「えぇ、いつにないお顔でした。どうされたのですか?」

 

 少し考え込みながら今の理解し得なかった気持ちをありのまま感じたまま答えた。

 真面目に聞いていたユフィだったが、話が進むにつれて楽しそうな笑みが向けられて、それもそれで理解出来ずにオデュッセウスは疑問符を浮かべる。

 

 「お兄様はニーナさんが好きなのですね」

 「いや、まぁ、うん。まだ恋愛感情かどうか解ってないんだけどね。」

 「恋愛感情ですよ。間違いなく」

 「本当かい?なんでわかったんだい?」

 

 あっさりと言われた言葉に驚き、食い気味に問う。

 ニヤニヤと笑みを浮かべて焦らされて、初めてユフィに意地悪をされた気がする。

 少し間を開けて確証を口にした。

 

 「だってお兄様は心配されたのでしょう。嫉妬されたのでしょう。不安に思われたのでしょう。スザクとニーナさんが笑いながら話している様子に」

 

 そうなのかな、とユフィの言葉を自分に対して自問自答する。

 最初は否定しようとしたが、どんどんと言葉と気持ちが一致して行き、妙にすとんと落ちて落ち着きだした。

 

 「独占欲っていうんですのよ。そういうの」

 「独占欲…私はニーナ君を欲しているという事かい」

 「そうだと思いますよ」

 

 なんかすっきりした。

 自分で気付けないとは情けなく感じるも、何というか晴れ晴れとした気分だ。

 あー、これが恋愛感情か。

 どうにも煩わしくも感じるがそれが心地よい。

 オデュッセウスはようやく理解した感情に喜びながら、午後はこの気持ちのままニーナ君とのデートに臨もうと笑みを浮かべた。


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