コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第125話 「ハワイ二泊三日の旅」

 ハワイ。

 以前は日本侵攻の拠点のひとつだった地に、オデュッセウスはニーナを連れて訪れていた。

 燦々と輝く太陽を浴びながら目的地である民宿目指してビーチを眺めながら歩く。

 白のワンピースに麦わら帽子(オデュが被せた)姿のニーナが横目に映り、申し訳なさそうに笑みを漏らす。

 これが単に旅行であるなら荷物を置いてビーチに行くのも有りなのだが、今日はまず顔合わせが第一。なら後でとも思ったが、あの人に絡まれるというのに予定を立てても意味を成さないのは経験上理解している。

 日本とは違う熱さを感じ、目の前には海が広がっている。行きたいor遊びたい気持ちが起こるのは当然だろう。

 

 「ごめんね。ビーチは明日行くからさ」

 「あ、いえ…そうではなくてイレブン(・・・・)も居るんですね」

 

 言われてみれば確かにブリタニア人以外にいろんな人種が遠目でも見受けられる。その中にはアジア系もおり、日本人らしき人物がちらほら混じっている。

 その光景に人というものは存外に逞しい物なのだなと思い知らされる。

 が、その前に言わなければならない事がある。

 

 「駄目だよニーナ。彼らは日本人だ。もうイレブンなんかではない」

 「―――ッ!!す、すみません…」

 「これから気を付ければ良いからさ」

 

 足を止めて酷く落ち込む(オデュに注意されたから)ニーナの頭を空いていた左手で優しく撫でる。

 幾らか沈んだ表情が明るくなったのを確認して再び歩き始める。

 キャリーバックを引き摺るながら歩き、ようやく目的地に到着する。

 外国人が思い描くハワイ感に溢れる物が外からでも伺える二階建ての民宿。完全に外国人旅行客をターゲットにした民宿の敷居内に入ったが、民宿に入らずに裏庭へと続く道へ進んで行く。

 なんで建物に入らずにそちらに行くのかと疑問の視線を背後から受けるが、あの民宿は目印であって目的地はその裏にあるのだ。

 進んだ先には一軒の邸宅がある。

 民宿のオーナーの住まいで、民宿とは三メートルの柵と門で区切ってある。

 一見普通の邸宅のようではあるが侮る事なかれ。

 木造だと思われる壁の内側には戦車の砲弾も通さない鉄板に窓ガラスは特注の防弾ガラス、さらに何者かが侵入しても分かるように光学センサーに熱センサーなども配置。もしナイトメアフレームに襲われても核シェルター並みの強度を持つ地下室に潜り込めば一か月は籠城できるようにしてあるのだから。

 

 何故知っているか…。

 多分疑問に思われる方も居るだろう。

 答えは簡単だ。

 ここのオーナーが有無を言わさず私に設計図を渡し、金を支払わされたからだ。

 

 私の家より頑丈なのではと思う家へと近づくと一人の男性が裏から現れた。

 鍛えられた大きな体躯に顔に残る傷跡。

 腰には警棒、脇のホルスターには拳銃が納められ、軽いとはいえ武装している。

 装備は貧弱そうに見えても彼に対して完全武装した一個小隊を差し向けたところで返り討ちに合うのを私は知っている。

 カッターシャツにズボンという格好をした元ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿。

 

 「殿下(・・)

 「その呼び方は変わらないんだね」

 「えぇ、陛下(・・)のお子である限り変わりませんよ」

 

 クスリと笑っている辺り、ラウンズの頃よりも若干丸くなったような印象を受ける。

 

 「というか裏で何をしていたんだい」

 「庭で育てていた野菜の世話をしておりました」

 「ファ!ビスマルクがかい!?」

 「今日の夕食にも使われるかと」

 

 若干どころではない。

 畑仕事をしているビスマルクって…。

 屯田兵か何かかな。

 まぁ、何かあれば彼がここの護りに全力を注ぐから間違ってはいないのか。

 

 「ところで中に居るのかい?」

 「えぇ、随分とお越しになられるのを楽しみにしていたご様子」

 「待ち構えられていると知ったら何故だろう。普通の扉なのに凄く重々しく感じるよ」

 

 「ハハハッ」とビスマルクは笑っているが割とマジなんだが。

 なにせこの世界のラスボス級と裏ボス級の揃い踏みですよ。しかも裏ボスに限っては本当に何をしてくるのか不安で仕方ない。

 しかしながら何時までも扉の前で立ち尽くして居る訳にもいかないし、長旅でニーナも疲れているだろうし意を決して入らなければ。

 

 「あの、何をしているんですか?」

 「トラップの有無を確認しないと」 

 「大丈夫ですよ。先ほど出た際に私が受けましたので」

 「そっか。ならだいじょ――ばない!いや、解除した後なら私達は大丈夫だけどさ」

 

 安心して良いのか悪いのか分からないが、あの人のトラップがないのであれば堂々と入ろう。

 そう思いながら視線は随時辺りを警戒し、罠があると知った以上ニーナが非常に警戒してしまっている。それにしてもビスマルクが引っ掛かった罠と言うのはどういうものだったのだろう。

 気になる気持ちを抑えて中へ入り、ビスマルクに案内されるままに付いて行くとリビングルームに付き、目的の人物を視界内に収めた。

 

 「久しいな我が息子よ」

 「元気そうでなによりですよ父上」

 

 ウッドチェアにドカリと腰かけるシャルル・ジ・ブリタニアに笑み――苦笑いを浮かべた。

 ブリタニア皇帝の正装から赤基本の半袖のアロハシャツに短パン、何重にも巻かれていた髪は後ろで束ねたポニーテール。

 皇帝時代では想像できない姿がそこにあるのだ。

 しかも手にしているグラスには高級なワインでは無くトロピカルジュース。

 寧ろ一目見た瞬間に噴き出さなかっただけ良いだろう。

 

 逆にニーナの緊張は一気に高まっていたが…。

 

 「貴様がニーナ・アインシュタインかぁ」

 「ひぅっ!?」

 

 見定めるように目を細め、鋭い視線と父上独特の節が付いた言葉にニーナが怯んで小さな悲鳴を挙げる。

 今日は父上に彼女を紹介すると伝えていたからどのような子なのかと知ろうとしているのだけれど、どうみてもマフィアのボスが睨みを飛ばしているようにしか見えない。

 一応ニーナには父上達の事を来る前に話しておいて心積もりはして貰っていたが、父上から発せられる圧を真正面から受け止めれる十八歳女子は中々いないだろう。

 

 「儂はただ問うただけぞ?それとも口が利けぬのか?」

 「いえ…あの!」

 「父上。私のニーナを怯えさせないでください」

 

 さっとニーナの肩を抱きながら抗議の声を挙げる。 

 シャルルからすればいつも通りに会話しているつもりなのだから、この抗議には疑問を浮かべているようであった。

 

 「なにがだ?儂は普通に―――」

 「ただでさえ怖い顔なんですから目を細めたりしたら大抵の人は怯えます」

 「ぬぅ…」

 

 眉間にしわを寄せて悩む父上の様子を眺めていたオデュッセウスは気付かなかった。

 背後より忍び寄る影を…。

 

 「で、この子が紹介したい彼女ね」

 「ひゃああああ!?」

 「あら、可愛い反応ね」

 

 心臓が飛び出そうなほど驚いたニーナは目を見開いて驚かした本人を見つめながらひしっとオデュッセウスにしがみつく。

 そこにはニヤリと悪い笑みを浮かべるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが立っていた。

 

 「あの…マリアンヌ様。私のニーナを苛めないで頂きたいのですが?」

 「人聞きの悪い。虐めてるのではなくて遊んでると仰い。貴方だって私のシャルルを苛めてたでしょ」

 「私は事実を申しただけです」

 「凛々しい男前な面構えでしょうに、毎日見ていても飽きないほどにね」

 「…美化フィルター入ってません?」

 「美化かどうかは知らないけれど愛しているのだもの。多少贔屓は入っているわね。貴方だってそうでしょう?

 「否定は出来ないですね」

 

 贔屓していないと言えば嘘になるんだろうな。

 数年前までは弟妹達以上に愛らしい者はいないと思っていた私だったというのに、告白してからは出会ったどんな人よりも愛らしく美しく映っている。

 

 「今日はゆっくりするのだろう」

 「えぇ、積もる話もありますし」

 「ビスマルクよ。ワイン蔵より六十年物を用意してくれ」

 「ハッ、畏まりました」

 「父上と酒を飲み交わす。中々味わえない貴重な体験ですね」

 「その前に少し私に付き合って頂戴。久々に貴方で遊びたいわ」

 「もう少しオブラードで包みましょうよ」

 「だってビスマルクや玩具達(響団の子供達)で遊ぶの飽きちゃったもの。だから新しい玩具が二つも増えて嬉しいの」

 「えぇ!?二人って私もですか」

 「あ!玩具で思い出したわ。シミュレーターとナイトメア貰えないかしら。良い暇潰しになると思ってたの」

 「そうポンポンと渡せるものではないんですけど…」

 

 簡単に言ってくれるが、やらないと後で何をされるか分からないという恐怖がある。ここは素直に用意した方が出費は少なくて済みそうだ。

 にしても皆、私に言えばナイトメアが貰えると勘違いしてないかな…。

 ここに来るのに正規の手段を使わず、オルフェウス君達の潜水艦に乗って移動していた際に、ナイトメア壊れたから次のをくれ的な事を言われていたからついでに用意することは容易だろう。

 ……ただ化け物染みた性能の機体を渡したら何かしでかしそうなので量産機で手を打ってもらおう。

 

 「シミュレーターとヴィンセントで手を打って貰えません?」

 「ならシミュレーターは四台ね」

 

 あ…対戦相手に父上とビスマルクがカウントされた。

 そう察したオデュッセウスはこれから付き合わされる二人に視線を向けると、シャルルは別段気にする様子はないがビスマルクが小さくため息を吐き出していた。

 

 「畏まりましたよ。手段もこちらで用意しますよ」

 

 火消しの機体を用意するついでだし、彼らに運んでもらえば見つかる事もないだろう。

 「話の分かる子は好きよ」と耳元で色っぽく囁かれた際に思わずドキリとしてしまった。そしてその心は隠し持っていた氷を襟元から入れられて一気に消滅した。

 一日目から騒がしくなったが、人の目や立場を一切気にせずに父上やマリアンヌ様、ビスマルクと触れ合えたのは本当に嬉しかった。ただ初めて接したニーナは随時戸惑っていたので、気にせねばならないだろう。

 まだ一泊二日あるのだから。

 

 

 

 

 

 

 今日は凄い一日だった。

 ダモクレスの戦いで亡くなったとされるシャルル・ジ・ブリタニア先々代皇帝陛下に、もう十年以上前に亡くなられたマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア皇妃が生存していて、その方々と私が出会ったという事。

 マリアンヌ様はまだしもシャルル先々代皇帝は生存している事、または生存にオデュッセウスが関わった事が世間に知られれば現ブリタニア政権は崩壊するほどの危険な秘密。

 まさかフレイヤの発射スイッチレベルにヤバイものを握る事になるとは…。

 秘密に対しての責任感に相手が相手なだけに気を使ったりと大変だったが、面白い一日でもあった。

 ビスマルク卿もシャルル様も寡黙な方ではあったが、なにかとこちらを気遣ってくれていたようだった。もしかしたらあの格好は私の緊張をほぐすためになされていたのだろうか?

 マリアンヌ様に至っては思っていた人物像と違って驚いた。自分が想っていた人物像は騎士に相応しい凛とした性格の同性の自分から見ても綺麗な女性。

 実際は悪戯好きのお姉さんと言った感じだった。

 ただ私だけでなくオデュッセウスさんにもするので、やられた時の反応を見ていて私も楽しんでしまった。

 …ただ毎日こんな濃い日が続くのは体力的に持たないので無理だけど…。

 

 「寝たかい?」

 「いいえ、まだ起きてますよ」

 

 用意されていた寝室にはダブルベットが一つだけ置かれており、ニーナはオデュッセウスと並ぶ形で寝転がっている。

 ベッドがダブルベッドだという事を知ってあたふたする私達を見た時のマリアンヌ様は悪い笑顔をしていたなぁ。

 こうなるのを予想して用意させたんだろう。

 嬉しいようで恥ずかしいんですけど…。

 

 閉じていた瞼を開けてオデュッセウスへと顔を向ける。

 

 「今日は疲れたろう。すまないね騒がしくて」

 「そんな事ありません。楽しかったです

 「そう言ってくれるとありがたいよ」

 

 社交辞令にとられただろうか。

 だとしたら違うと言いたい。

 本当に楽しかったのだから。

 

 「明日はビーチに行こう。せっかく二人で来ているんだから思いっきり遊ぼう。帰るころには肌がこんがり焼けるぐらい」

 「遊ぶのも良いですけどまずご飯を食べてからですよ」

 「腹が減っては戦は出来ぬっていうしね。ならどこかでパンケーキでも食べようか。定番スイーツらしいからきっと凄い美味しいの出てくるよ。あとあの…なんだっけ?カラフルなかき氷や揚げドーナツとかも食べてみたいね」

 「ふふふ、食べ物ばっかりですね」

 「今からお腹すきますよ」

 「そうだねぇ…今から楽しみだよ…」

 

 くすくすと笑っているとごそりとオデュッセウスが動き、目と鼻の先まで顔を寄せていた。

 びっくりして反射的に背けてしまったが、どうやら思った事とは違ったようだ。

 

 「君と来れて良かったよ。ありがとうニーナ―――愛してるよ」

 

 スッと耳元で囁かれた一言に未だ慣れないニーナは顔を真っ赤に染め上げる。

 

 「――ッ!?…不意打ちはズルいです」

 

 対して笑ういながら余裕ぶっているオデュッセウス。

 少しムッとして反撃と言わんばかりに抱き着いた。

 笑い声が止まり微妙に体温が上がった。確認しようと覗き込もうと思うが、やった本人ではあるが自身も真っ赤になっているのは明白。

 ドキドキと高鳴る二つの鼓動を聞きながら、いつの間にかニーナもオデュッセウスも眠りにつくのだった。

 

 

 

 ちなみに朝から悪戯に訪れたマリアンヌがその光景を目にし、速攻でカメラで激写してデジタルプリンターで印刷。額縁に入れて広間に飾ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オデュッセウスが訪れる一時間前…。

 

 ビスマルクは小さな籠を左手で持ち、裏庭の菜園から今日の料理で出される食材を取りに行こうとしていた。

 まだ時間もあるし、水やりの前に肥料を少しばかり足しても良いだろう。

 他にも今日使わないとしてもそろそろ食べごろの野菜も収穫して保存室に―――。

 

 そんな事を考えながら注意が散漫だったのがいけなかったのだろう。

 ドアノブに触れるや否や手にバチリと痛みが走った。

 何事かと手を離して素早く周囲に視線を走らせながら、後ろへと飛び退いた。

 原因を探る間も惜しい。

 もしもこちらに害を成す相手ならば非常に優れた相手である。

 なにせアレだけのセンサー類に引っ掛からず仕掛けを施したのだから。

 兎も角、自身の身よりも最重要なのは陛下の安全。

 ホルスターより銃を抜いてシャルルの下へ向かおうとしたビスマルクは抜きかけた拳銃を収めた。

 

 ドアノブの少し下に何かがくっ付いているのが見えた。

 それは数日前に購入させられた(・・・・・)電気ショックだった。

 「あの子が来るんだもの」と嬉しそうにしていた事から「殿下も災難だな」と思っていたが、まさか自分がそれを受ける羽目になるとは…。

 廊下の奥より偶然か気付いたのかは分からないが、マリアンヌ様の笑い声が聞こえてくる。

 このような幼稚な…しかも内側からなら気付く罠に引っ掛かってしまうとは情けなくて振り返る事すらできない。

 さっさと電気ショックを外して靴箱の上に置き、恥ずかしさから急いで外へと出ようと勢いづいたビスマルクは扉に頭をぶつけてしまった。

 鈍い痛みに耐えながら扉を睨むと開かない様に簡単な細工が施されていた。

 

 またも廊下の奥より大爆笑が聞こえてくるが、もはや気にしない事にする。

 ただし電気ショックとこのつっかえ棒は没収させてもらうが。


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