コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

128 / 150
第127話 「帰ってからの一時」

 “ブリタニアの吸血鬼”ルキアーノ・ブラッドリー。

 現在世界の行く末を担う極一部の人間が警戒し、世界で最も危険とされる人物。

 彼は反ブリタニア勢力の中枢を担っている人物としてブラックリスト入りしたが、各国政府は早々動き出せずに野放しにするしかない。

 かつては世界の半分近くを手にしていた神聖ブリタニア帝国も、ブリタニアに対抗できるほど強大だった中華連邦、ユーロ圏内の各国が集まったユーロピアも分裂したりして、超合集国に加入して地球上に存在する国が連合国家となった。

 それぞれが保有していた軍事力を放棄させ、超合集国が契約を結ぶ黒の騎士団に一括した為、評議会で採決が行われて命令が下れば超合集国加入国を護る戦力以外の軍事力が襲い掛かかる事になっている。

 が、しかしながら強大になり過ぎた故か身動きが取り辛くなったのも事実。

 地下に潜伏して密かに行動するブラッドリーを始めとする一派を敵視する一方で、利用しようと画策する者らも必ず存在する。否、しているのだ。

 ブラッドリーはブリタニアから弾き出された者。

 対象は現ブリタニア政権を強く恨んでいると判断され、今までブリタニアに良い様にされて怒りの収まらない国などからしたら良い憂さ晴らしであろう。

 なにせ攻撃されるのはブリタニアとブリタニア皇族に対してだと決めつけているのだから。

 ゆえに動こうにも様子見を決め込む国や寧ろ潜伏しているブラッドリーを探すのではなく、ブリタニアを囮にして釣り出そうという者まで居る。

 結果、ブリタニアは警察機構や民間軍事会社に警備の依頼を公で出し、議案として黒の騎士団に対策案を提出している状態だ。

 

 そんなこんなでブラッドリーの一番の憎しみの対象であるオデュッセウスは、自宅にて机に突っ伏してブラッドリーを呪ってた…。

 オルフェウス君からの情報を評議会代表の神楽耶と弟妹達に伝えたところ、満場一致でオデュッセウスの自宅謹慎が言い渡されたのだ。

 身を護れぬ現状でのこのこと出歩けば殺してくれと言っているようなもの。

 

 「…………疑わしい地域にフレイヤを撃ち込むか…」

 「え!?だ、駄目ですよ」

 

 あまりにイライラし過ぎて危険思想が加速し口から漏れ出してしまった。

 しかもそれを聞いたニーナが本気で焦っている。

 一応別室にもパソコンを備えて居たりするのだが、以前ニーナが作業するとの事で籠ったら誰の目もないことで四六時中パソコンと睨めっこして時間を全く気にしてなかったので、自分の目が届く私室でするように言ったのだ。

 そう言う事で私室に来たところで私の独り言。

 冗談や他愛のない一言だとしても焦るのも当然だろう。

 

 「何処にも出掛けれないんだよ。さすがに暇ではないかい?」

 

 不満を口にしながら同意を求めるが、ニーナは首を横に振るう。

 

 「家でゆっくりすれば良いじゃないですか」

 

 そう言えばこの子インドア派だったね。

 にしても家でゆっくりか…。

 確かにそれも良いかも知れないな。

 なんだったか家デートとか言うのもあるし、それも良いな。

 考えを改めてゆったりと過ごそうと気持ちを切り替える。

 

 部屋に置いてあるパソコンの前に座り、ニーナがキーボードを叩く。

 カチカチと音が断続的に続く。

 続く…続く…。

 というかそのキーボードを叩く動作と音しかないんだが…。

 

 後ろから覗いてみるとナイトメアのプログラムデータ作成しており、マリアンヌ様から頼まれたシミュレータの追加データだろう。

 表で扱われるものではないから公表していないカリバーンのデータを入れられる。

 ただオフライン設定でデータが抜き取られないようにシステム的にも物理的にも仕掛けを施さないといけないけど。

 背後から覗かれている事に気付いていないニーナは文字列が並ぶ画面とキーボードへ視線を往復させる。

 感心して眺めていたオデュッセウスだったが、徐々に眺めている行為も退屈になりそっと抱き締める。

 ようやく気付いたニーナが顔を真っ赤に染めて硬直する。

 

 「な、なにを!?」

 「いや、ごめん。暇だったのと癒やしが欲しかったので」

 

 やっておきながら凄く恥ずかしい。

 耳が熱を持っているのを感じる。

 けどそれ以上に誰かと触れ合っている感覚が心地よい。

 

 「嫌かい?」

 「……ズルいです」

 

 抱きしめていた手をニーナがぎゅっと掴み、微笑を浮かべる。

 背後に居るがパソコン画面に反射して良く見えていた。

 逆に言えば真っ赤になっている自分も映し出されているのだがもはや気にならない、

 

 「我侭を良いですか?」

 「なんだい?」

 「もう少し強く抱きしめて貰っても」

 

 恥ずかし気に言ってきた願いを聞き入れて、しっかりと抱き締める。

 より強い人の温もりを感じながら

 

 「ニーナ。良い匂いがするね」

 「あ、あまり嗅がないで下さい!」

 「あまりと言う事は幾らかは良いんだね」

 「揚げ足を取らないで下さいよ」

 「あはは、可愛いよニーナ」

 

 真っ赤に染まりながらも幸せそうに微笑まれると、つられてこちらも微笑んでしまう。

 幸せいっぱいだな。

 もう少し意地悪して反応を見たい気もするが、今はこのままで行こうかな。

 

 「少しお話が―――」

 

 ガチャリと扉が開いてノートを手にしていたヴィーと目が合う。

 ブラッドリーの話が出て関係者が狙われる可能性が高いので、学園に話を通して当分休学させて貰っているのだ。

 目が合ったヴィーは理解して微笑みかける。 

 

 「失礼しました」

 「ちょ……」

 

 扉を閉めて踵を返したヴィーを呼び止めようとしたが、止めようとしたのを止める。

 見た目も精神年齢も幼くなった伯父上様だが、空気は読める年長者。

 なら少し甘えさせて

 

 「良いんですか?行っちゃいましたよ…」

 「もう少しこのままで良いかい?」 

 「………はい」

 

 自由に動き回れない不自由さはあるけども、二人は甘い時間を暫し過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 オデュッセウスとニーナがいちゃついている現場を目撃し、空気を読んで離れて行ったヴィーは自室にてパソコンを起動させる。

 皇帝の座を退き皇族の地位を捨てたオデュッセウスであるが、色々と動いている事から公に出来ない情報を多く保有しているので、置かれているパソコンのほとんどは外と繋がらないようにシステム的にも物理的にも措置が取られている。

 ヴィーの私室に置いてあるパソコンはその例外中の一つで、オンラインで外部と繋がる様になっている。

 学園を休んでいるからと言って遊び惚ける訳にもいかず、先生たちより渡された問題集にて励んでいるのだ。

 けど一人でするのにも限度があり、先ほどはニーナに教えて貰おうと訪ねたのだがあの様子だと当分無理だろう。

 ニタリと悪い笑みを浮かべて接続を確認してキーボードを叩く。

 今日の分は聞きたい所以外は終わっており、待つにしても時間を潰すしかない。

 

 本当に幼い時分に比べて娯楽が増えた現代では遊ぶ手段など山ほどある。

 その中でヴィーはゲームや漫画など一人で楽しむ事より誰かと遊ぶことを優先している。

 リヴァルも含めて学園にも友人もいるが今日は別の人とだけど。

 

 先ほど目にした光景を簡易に打ち込み、メッセージを送る。 

 

 向こうは自由に動けぬ身なのだから返事は少し掛かるだろうと珈琲を入れに向かう。

 まぁ、向かうと言ってもキッチンまで移動することはない。

 ヴィーだけでなくジェレミアにアーニャなど各私室には何種類かの珈琲セットが常備されている。

 別に彼らが珈琲好きという訳ではなく、オデュッセウスが珈琲を好んで大量に注文するのでお裾分けに渡して回っているのだ。

 珈琲をカップに注ぎ、席に戻ると時間に関わらず大量のメッセージが届いていた。

 メッセージを送った相手は神聖ブリタニア皇帝ユーフェミア・リ・ブリタニアにアジア・ブリタニア女帝のギネヴィア・ド・ブリタニアを始めとするオデュッセウスの弟妹。

 全員それぞれ仕事をしている筈なんだけどなぁ…。

 それも国を動かしている者もいるのに何してるんだか…。

 

 妙な疲れと頭痛を感じながら情報を小出しに提供する。

 するとピラニアの群れの中に国を放り込んだ如くに喰らい付く。

 そこにまた情報を与えて反応を見る。

 歪んでいるのだろうか。

 この反応を見るのが楽しい。

 さすがに一般大衆にリークする気はない。

 弟の娘たちだから喜んでいるであろうことが楽しいのだ。

 向こうは良く思っていないようだけどね。

 ギネヴィアなどはあからさまだ。

 素性も解からない者が養子として“敬愛なるお兄様”の下にいるのだから。

 

 苦笑しながら様子を見ながらゆったりと餌を与える。

 ヴィーの情報提供が終わるころには珈琲をおかわりしており、続いてアーニャから情報提供が始まって深夜帯まで続いたという。

 ……本当に甥っ子や姪っ子たちは仕事をちゃんとしているのか心配するレベルなのだが、オデュッセウスに伝えた方が良いのだろうか本気で悩むヴィーであったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ジェレミア・ゴットバルトはオデュッセウスからブラッドリーの事を聞いた上で、主の不安を解消してあげられないかと頭を悩ましていた。

 オデュッセウスの自宅には警備員などは居らず、自分とアーニャしか居ない。

 警備が万全であるならば探し出して討つことも考えたが、人員が少ない以上は迂闊に離れる訳にはいかない。

 けど自身が居るからと言って防衛能力が万全かと聞かれれば否定する。

 改造されて白兵戦に関しては十分すぎる性能を持ってはいるが、対ナイトメア戦となると難しいだろう。

 オデュッセウスに恨みの有るブラッドリーが危害を加えようと思うのなら、失敗しないように戦力を整える筈。

 一応ナイトメアはある。

 農業で使用する民間用ナイトメアフレームが数機ほど…。

 心許ない。

 軍用ナイトメアと民間用ナイトメアでは出力からして違い過ぎる。

 相手が三流以下の騎士ならまだしも聞き及んだ“ブリタニアの吸血鬼”の話を鑑みるに、他人に対象を任せるよりも自身で殺しに来ることが予想される。

 と、なると万全の状態の軍用ナイトメアが欲しい所である。

 

 「民間用のナイトメアを幾らか改造すべきか」

 「……軍用相手では無理」

 

 解っていながらも口にした言葉をばっさりと両断され、ジェレミアは深いため息を吐き出す。

 乗り手としては優秀としても技術者として有能な訳ではないので改修を施したところでたかが知れている。

 ロイドに頼む事も可能であるが改修というよりは魔改造。

 軍用ナイトメアも真っ青な化け物を送って来そうな気がするのでやめておこう…。

 

 「出来れば我が手でオデュッセウス様の憂いを払いたいが、それも出来ぬか」

 「気持ちはわかるけど無理」

 

 黒の騎士団に所属している者らも自分達も動けぬとしたら世界の平和を維持する為にオルフェウス達一部の裏方仕事を担っている者らが何とかしてくれることを祈るか、自身の伝手で誰かに頼むしかない。

 差し当たって一番に思い浮かんだのはキューエルとヴィレッタであったが、両者とも皇族に仕える者であり、早々に自由に行動は出来ないし、自らの主を守護する責務がある。

 他に友好を深めた相手となると………いや、力を持っていて自由に動ける人物となると誰も居なかった。

 自身の交友関係の少なさに不甲斐無いと悔やみ、無い物強請りを口にする。

 

 「せめてナイトメアさえあれば」

 「ある」

 

 アーニャの言葉に驚きを隠せずに目を見開く。

 オデュッセウスならば隠し持っていてもあり得ない事ではないが、もし置いてあるならば自分達に話していておかしくない。

 いや、寧ろ「何が欲しい?」と聞いてくるだろう。

 しかしそのようなことは言われた事も聞かれた事もなかった。

 アーニャが嘘を口するとも思えない事から余計に疑念が深まりながら振り返る。するとアーニャは何処かを指差している。

 指さされた方向を見て理解した。

 方向にはオデュッセウスの趣味兼収入源としている戦争博物館と言う名のナイトメア格納庫が。

 戦争の悲惨さや歴史を展示物やガイドから知る場所であり、中には戦争の歴史を知るうえでナイトメアも展示されて居る。それもナウシカファクトリーで新規に制作された機体が。

 グラスゴーにサザーランド、グロースターと言ったブリタニアのナイトメアもあれば無頼などの日本製ナイトメアも置いてある。ただ紅蓮弐式やランスロットという高性能過ぎるナイトメアはランスロット・トライアル以外は置いていない。

 

 「確かに。博物館には置いてあったな」

 「そこにモルドレッドとサザーランド・ジークを置くように頼めばいい」

 「名案だな。早速行くとしよう」

 

 意気揚々とオデュッセウスに申し出たジェレミアだったが、当然ながらラウンズ専用ナイトメアとナイトギガフォートレスをわざわざ作っての展示は却下であった。

 ただし、ユーロピア関連のスペースにアレクサンダ・ドローンを改修別に展示することになり、緊急時にはそれらで時間稼ぎを行えるように施設の拡張が行われるのである。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。