コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第128話 「お茶会と医療」

 ニーナ・アインシュタインは喫茶店で紅茶とケーキを楽しんでいた。

 家でのんびりと過ごしていたところ、シャーリーより「久しぶりに会って話をしない?」と呼び出され、一人出掛けようとしていたところを、護衛は必須と言う事でアーニャが同行することになった。

 だからニーナの中ではシャーリーとアーニャの三人でお茶を楽しむ。

 そう勝手に思い込んでしまった。

 自分が予定に無かった誰かを連れて行くようにシャーリーも誰かを連れて来る可能性を考慮すべきだったのだ。

 

 六人座れるテーブル席に自分にシャーリー、アーニャに変装しているらしいユーフェミアと神楽耶を含めた五名で囲んでいる。

 ニーナは自分の事を棚に上げて何て豪華なメンバーなのだと思うだろうが違う。

 現ブリタニア皇帝、ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 超合集国最高評議会議長、皇 神楽耶。

 元ナイトオブラウンズ、アーニャ・アールストレイム。

 マリアンヌ皇女の忘れ形見で日本で行方不明になっていたルルーシュ皇子の彼女であるシャーリー・フェネット。

 元皇帝の交際相手であり表沙汰にされてないだけでフレイヤを二十歳未満で開発した天才科学者、ニーナ・アインシュタイン。

 もしもここに反ブリタニア組織などが居れば、無計画に被害も考慮せずに暗殺でも拉致でもしたであろう…。

 

 ルルーシュと正式にお付き合いすることになったシャーリーは自然と母違いの妹であるユーフェミアともゼロ時代に接していた神楽耶とも接点が出来たのだが、ちょうどブリタニアにいるからってこの場に呼び寄せる彼女の行動力は常識を逸脱していると言えよう。

 呼ばれてほいほい出てきた二人も二人だが。

 まぁ、そこはオデュッセウスの悪い所を真似てしまったという事で、非難の声は当然長兄に向かう訳だ。

 ちなみにオデュッセウスと違って付近にSPは待機している。

 というか店内も店外もユーフェミアと神楽耶のSPで埋め尽くされ、店内より外を見れば周囲の人間の90パーセントがSPと言う事になる。

 

 そんな面々が集まって話す内容とは国の行く末などではない。

 寧ろ個人的な話だ。

 

 「ルルったら私から誘わないとデートもしてくれないのよ」

 

 コイバナである。

 主にシャーリーがルルーシュの愚痴と惚気を半々で語っている。

 ユーフェミア様はルルーシュらしいと微笑、神楽耶様はそう言う一面もあったのですねと口にはしないものの見て来たゼロとは違う一面に感慨深い様子であった。

 ニーナと言えば話を聞きながら相槌を打ち、珈琲やケーキを楽しんでいる。

 

 「私の方も同じですわ。想って頂いているのは解かるのですがもう少し積極的に来てほしいものです」

 

 同様の想いがあったのか大きく頷きながら今度は神楽耶が相槌を打つ。

 ライは元は日本の名家でブリタニア皇族の血を引いた珍しい人物であるが神根島で眠りについていた事もあって現代では知られていない。その上で本人それを誇る気がなく、神楽耶との立場の違いばかり気にしている。

 一線引かれてはデートに誘うなどの行動は控えられるだろう。

 まぁ、ライからすれば一緒に居るだけで幸せであり、神楽耶としては欲を欠いてしまっているという現状である。

 

 「ユーフェミア皇帝は如何?枢木といつも一緒に居られるのでしょう」

 

 なんとも棘のある言い方だ。

 神楽耶の中では今でもスザクは日本ではなくブリタニアを選んだ人間。

 あまり良い感情は持っていないのだろう。

 そう言う事もスザクから聞いていたユーフェミアは困った顔をしたものの、あえて注意することはしなかった。

 

 「幸せですよ。一緒に居るだけで胸がときめくほどに」

 

 浮かべた満面の笑顔をその一言が全てを語っていた。

 あからさまにあてつけたようで神楽耶の笑みがピシリとひびが入る。

 空気が凄く重いのですけど。

 そう思いながらケーキを食べ、珈琲に口を付ける。。

 

 「ニーナはどうなのよ」

 

 外野で聞くだけに徹していたら話がこちらに振られて慌てて口を付けていたカップを置く。

 

 「どうって…」

 「オデュッセウス殿下との進展よ」

 

 進展と言われても…。

 コーヒーカップを置きながら悩む。 

 

 「進展と言われてもシャーリーが喜ぶような話はないよ?」

 「それでもよ」

 「皆も話したのですから一人話さないというのは不公平ですわ」

 「私も聞きたいです」

 

 と言っても本当に望まれているような話は無いと思う。

 オデュッセウスもニーナもシャーリーの様に積極的な訳ではないので、それほどデートに行くことも少ない。

 いや、家では一緒に居るからデートしていると言ったらしているのか。

 庭先でお茶や珈琲を飲みながらお話ししたり、ソファなんかでお互いに背中を預けながら私はノートパソコンを弄り、オデュッセウスさんは本を読んでいたりなんかだ。

 他には陽気に当てられてそのまま一緒にお昼寝したり、後ろから抱き締められるように一緒にゲームしたり…。

 

 何でもない日常となった光景を語っているとシャーリーが俯いて震え出す。

 どうしたのだろうと他の二人に視線を向けると、ユーフェミアはにこやかに笑い、神楽耶はなぜか羨ましそうに頬を膨らませる。

 本当にどうしたのだろうか?

 

 「え?あの…どうかしたの?」

 「どうかしたのじゃないよ。一番疎いと思ってたニーナがすごくラブラブしているよー」

 「本当なのですか?」

 「…すべて事実」

 

 恋愛ごとに疎いと聞いていたオデュッセウスが意外にいちゃいちゃしていた事に、疑念を抱いた神楽耶は問うもアーニャが肯定しながら証拠となる写真を見せつける。

 本当だったことにシャーリーがガンと音を立てるほどに机に頭をぶつけ崩れ落ちた。

 

 「うふふ、ニーナさんもお兄様も自然体で接しているのね」

 「えーと、はい。今思えば最初の頃よりリラックスしてます」

 

 意識して思い返してみると恥ずかしくなって顔を赤らめる。

 ユーフェミアは我が身のように嬉しそうに笑みを微笑む。

 すると急に突っ伏していたシャーリーが勢いよく立ち上がる。

 

 「決めた!ニーナをお手本にする!!」

 「―――えっ!?」

 「それは良い考えです。私もライにそうしてみましょう」

 

 驚き慌てているニーナの手をシャーリーが握った。

 その瞳は全部話すまで逃がさないと熱い熱意が籠っており、神楽耶様も同様の光を宿していた。

 助けてとユーフェミア様に視線を送るが分かってないのか笑みを返されるのみ。

 オデュッセウス殿下、早く中華連邦より戻ってきてくださいと願うのであった。

 

 

 

 

 

 

 黎 星刻。

 超合集国と契約した軍事組織黒の騎士団の総司令を務めた彼は、今や身体に巣くう病魔によってもはや寝たきりの生活が続いている。

 天子を大宦官から救うべく、新たな中華連邦政権を確立すべく文字通り命を削りながら従事した。

 結果、元々身体を蝕んでいた病は悪化し、もはや手の施しようがないほどに…。

 

 「今日はまだ調子がいいな」

 

 置かれている鏡に映るやつれてしまった頬などからはまったくそのようには見えないが、こうして普通に起きても痛みも何もない状態は最近では良い状態であると言えよう。

 本来ならばこの命が尽きるまで天子様の為に尽くすつもりであったが、その天子様自ら身体を大事にするようにと言われてしまったのだ。それに何時までも自分が出張って政務を熟していると周囲の者が育たないと洪古と周香凛からも言われ、一理あると言われるがまま病人として過ごす日々を受けている。

 運ばれた病院食を今日は全部平らげ薬を飲み、お茶で一息つく。

 穏やかな昼の日差しが眠気を誘う…。

 このまま寝てしまおうかと思った星刻はぐらりと身体が傾いた事に異変を感じた。

 

 「―――ッ…誰か…」

 

 急に視界がぼやけた。

 痛みや吐血ならまだしもこういった異変は今までなかった。

 ゆえに緊急事態だと判断してベッドの下に置いてあったナースコールのスイッチを押す。

 普通なら近くのスピーカーから「どうしましたか?」と声が掛けられるのだがまったく音は流れない。

 倒れ込みそうになるのを必死に耐えるも瞼や身体が思うように動かず、その場に伏せる様に倒れ込む。

 その時ガチャリと扉が開いて誰かが入って来た。

 

 薄れ行く意識の中で視線を向けると幻覚だろうかオデュッセウスが笑顔を浮かべて立っていた。

 何故という疑問も靄の掛かったような思考能力では生まれず、星刻はそのまま意識を手放してしまった…。

 

 

 

 「――ぅ……――くぅ」

 

 誰かの声が聞こえる…。

 私を呼ぶこの声には覚えがある。

 そう、あれは………。

 

 「星刻!」

 「……天子様…」

 

 閉じていた瞼をゆっくりと開けながら声を出すと、ベッド脇に天子様が居て心配そうに自分の手を握り締めていた。

 反対側には洪古と周香凛の姿があり、同様に安堵した表情を浮かべていた。

 

 「私はいったい…」

 「三時間ほど眠られておりました。覚えておいでで?」

 「いや…それより天子様。ご心配をおかけしたこと誠に申し訳ございません」

 「そんな事…ない。良かった星刻ぅ…」

 

 涙を流しながら喜んでくれる天子様に心がほわほわする。

 何と優しい主君か。

 出来れば何時までもお仕えし、この命を捧げたいものだ。

 そう思いながら身体を起き上がらせようとして周香凛にそっと押し戻される。

 

 「無理はしてはいけません星刻様」

 「いや、無理はしていない。寧ろ体調がすこぶる良いのだ」

 

 最近多かった身体中の痛みがないどころか清々しい気分なのだ。

 朱禁城で天子様の為に立ち上がった時以上に調子がいい。

 これならば私が居なくなった後の事をしたためる事も出来るであろう。ならば天子様には知られぬように筆と墨を用意して貰わなければ。

 

 「それより何処かおかしなところはないか?いや、気分が悪かったり違和感があったりしないか?」

 「節々が痛かったり、頭痛がするなんて事はありませんか?」

 

 突然倒れたのだから当然なのかも知れないが、やけに洪古と周香凛が身体の事を気に掛けて来る。

 「何も問題はない、寧ろ良いんだ」と伝えようとしたところで違和感に気付いた。

 起き上がろうとしたところを押してベッドに寝させた周香凛の手が異様に大きいのだ。

 他にも天子様が両手で右手を握っているのだがすっぽり収まっている事や、三人とも以前より大きく見える。

 否、自身の視点が低くなったように感じ取れる。

 

 「鏡は…」

 

 鏡が置いてあった方向へと視線を向けるもよく見たらここは自分が居た病室ではない。

 そもそも病室にしては日常品が多くそろえられており、薬品のにおいが一切しないではないか。

 これは一体どういう事だと首を捻っていると手鏡が手渡された。

 

 「お気を確かに」

 

 周香凛の言葉の意味を理解するまで時間は掛からなかった。

 自分を映した手鏡には見覚えのある少年が映っていた。

 艶やかな長髪に幼いゆえの柔らかそうな頬。

 見た目から十代後半ぐらいの少年であろう。

 これが目の前に居るのなら別に問題は無いのだが、映し出されているのは当然自分な訳だ…。

 

 「これは一体どういうこ………おい」

 

 驚き状況を確認しようと洪古に顔を向けたところ、部屋の奥隅でそっぽを向いていたオデュッセウスをようやく認識し声を掛ける。

 ギギギ、と錆びた人形のように首を動かし目を合わせた。

 

 「す、凄いよね。最近の医療技術って」

 「医療技術には思えないが」

 「ブ、ブリタニアは再生医療が進んでいるからね。例え蜂の巣にされようと艦の爆発に巻き込まれようと死ななければ生き返れるからさ」

 

 そんな解答で納得できる訳がないだろう!!

 ジト目で見つめていると右手がぎゅっと力強く握られた。

 

 「本当に良かった。星刻…」

 

 涙ぐんでいる様子に驚きで興奮気味だった心が落ち着き。

 ようやく冷静さを取り戻せた。

 大きく息を吐き、オデュッセウスを見つめる。

 

 「詳しい説明は?」

 「すまないが詳しくは出来ない。ただ簡単に言うと君は若返った。記憶以外のすべてが…だから病は治ったわけではない。前の状態に戻っただけだ」

 「そうか…これは誰でも受けれるものなのか?」

 「…そういう類ではないね。正直今回は特例だと思ってほしい。このまま君が逝くのはあまりにも天子様が不憫だったんでね」

 

 「お大事に」と最後に付け加えるとオデュッセウスは部屋を出て行った。 

 これは大きな借りを作ってしまった。

 返せるかどうかは分からないがいずれ必ず…。

 

 「恩に着る。

  これでまた天子様の為に仕えれる」

 

 この言葉を聞いた天子様は少し不機嫌になり、星刻は良く休んでと怒られたのだが何故だ?

 首を傾げる星刻に洪古と周香凛は呆れた様子でため息を漏らすのであった。 

 


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