コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第13話 「お仕事より遊びたい」

 オデュッセウスが日本に来て三日目。一日目は観光で、二日目は桐原さんや枢木首相を含めた政府関係者や大企業経営者との会食や会議で一日を潰した。そして三日目の今日もまた会食が予定されていた。そう、されていたのだ。 今朝起きてから体調が優れないとのことで今日一日の予定がキャンセルされたのだ。キャンセルと言ってもオデュッセウスが行く事が不可能になっただけで代理としてノネット・エニアグラム卿が行なっている。

 

 当の本人は日本政府が用意したホテルで休養を……ではなく朝の魚市場商店を嬉々として歩き回っていた。背後には多少呆れ顔をしていたロロが護衛としてついて来ていた。

 

 『貴様を我が息子、オデュッセウスの監視役として派遣する。表の監視役として』

 

 シャルル・ジ・ブリタニアは兄、V.V.から送られてきたギアスユーザーの少年にそう告げて送り出したのが数日前。裏の監視役であるギアスユーザーと共に対象の監視を行なう。それこそシャルルがオデュッセウスに監視であることを告げた真相だ。告げる事で囮であるロロに目を向けさせるのだ。

 

 ただこれには問題があった。実際にはありえない事なのだが監視対象が監視者を知っているという事だ。V.V.以外にシャルルでさえ知らない事の多いギアス教団を一回しか接触していないオデュッセウスが知りうる事はない。そうだ。その筈だったのに…。

 

 「おぉ…これは中々」

 「これは何という魚なんですか?」

 「これは鯛だね。色合いが鮮やかだね」

 

 大きなマスクで口元より顎鬚を隠していつもと違ってカッターシャツに黒いコート、ジーンズを穿いたオデュッセウスの隣には、純白のフリルチュニックに少し大きめな黒い帽子を被っているクララ・ランフランクが並んでいた。

 

 コードギアスの世界に憑依転生して23年が経って、元の世界の基本知識を除いた知識が徐々に薄れていく。コードギアスの知識も薄れていっているが大よその流れや主要メンバーの事はまだまだ覚えている。体調不良という嘘をついてまで出かけた魚市場を散策していたら、背後から視線を感じて振り向くとどの作品かは解らなかったが見覚えのあるキャラが立っていたのである。最初は目を逸らして「見てないですよー」とアピールしていたがオデュッセウスの方から声をかけて今に至る。

 

 目を輝かせながら見て回っているクララを見守っているオデュッセウスの隣ではロロが冷たい眼差しを向けつつ監視として追従していた。

 

 「宜しかったんですか?会食の約束を反故にした訳ですけど」

 「良くはないね。だけど今日の相手は意味のあるものでもないから」

 「それで昨日の会食相手はご自身で選んでいたんですね」

 「ああ、よく知っているね」

 

 すでにキョウト六家のメンバーに枢木家などの原作キャラクターに会っておかないといけない連中には二日目に会食を済ませた。今日の相手は知らないキャラクターで関係を持とうと魅力を感じなかった人々だ。ならば私よりもノネットが行った方が相手の本音を聞き出せるかも知れないし、中には物を渡して頼み事をしてくる者も出てくると思う。余計に相手にはしないどころか首相に報告しとこうかとも考えている。

 

 約束を破ってまで好き勝手に出歩いている事が気に入らないのか呆れた顔を向けている。

 

 「だとしても反故にするのは」

 「彼らと会食するより君と外出したかったからね」

 「はぁ?僕と……。まさかッ」

 「いやいやいや、手荒い事はしないよ。私ではどう足掻いても君には勝てないのは君が良く知っているだろう?」

 

 目を細めて威嚇しながらポケットの中に隠し持っている拳銃に手を伸ばしたロロに、敵意がない事を示す為に両手を挙げてアピールする。納得したのか手をポケットから出して警戒を幾らか解除した。

 

 「ではどういう魂胆なんですか?」

 「率直でいいね。別に魂胆らしい魂胆はないさ。ただ一緒に出掛けたかっただけだよ」

 「それにしても護衛ぐらい付けた方が―」

 「優秀な護衛がついているから問題ないでしょう?」

 「確かに僕は護衛も兼ねてますが基本は監視ですから」

 「ははは、それでも頼りにしているよ。ロロ」

 

 そっと差し出した手に顔を顰める。顰めるどころか不審な目まで向けてきた。

 

 「なんですかこの手は?拳銃を渡せとでも?」

 「護衛から守るべき手段を奪うほど愚かじゃないよ私は。迷子にならないように手を繋ごうと思っただけさ」

 「手を…繋ぐ?」

 「ああ、結構人も多いし、彼女も先に行ってるしね」

 「え…あ」

 

 途惑いながらも恐る恐る手を伸ばしてくる。微笑ましくロロを眺めて待っているのも良いなとは思ったのだが、クララが珍しそうに魚に見て回るように駆けて行くのでそろそろ見失いそうだ。手を取ろうとしていた彼の手をこちらから優しく掴んで並んで歩き始める。少しロロが気恥ずかしそうに頬を染めているが少し熱でもあるのだろうか?

 

 「失礼」

 「な、何を!?」

 

 前髪を掻き上げておでことおでこを当てて熱を測ると先程より真っ赤にして飛び跳ねて距離を取られた。しかも手はポケットの中へ伸びていた。

 

 「顔が赤かったから熱でもあるのかと」

 「違っ!な、なんでもありません」

 「そうかい?それならいいのだけれど…何かあったらすぐに言うんだよ」

 「分かりました。分かりましたからさっさと行きますよ!!」

 

 今度は顔を背けられながらもロロに手を握られて引っ張られて行く。その様子を少し先に行っていたクララがニンマリと笑って見つめていた。それに気付いて一瞬でいつもの冷たい目線に戻ったが関係なくクララにも手を差し出す。

 

 「じゃあ、行こうか」

 「は~い」

 

 帽子を被りなおして手を繋ぐクララに「帽子似合ってるね」と呟くと本当に嬉しそうな表情で返事をしてくれたのだが、少しだけ悲しそうにも見えたのは気のせいだろうか?

 

 そんな二人と手を繋いで赤や銀色に輝く魚を眺め、マグロの解体ショーも見物したりと一般市民が入れる魚市場を見て回っていると昼頃になっており、昼食もここでとる事にしたものの何故かメンバーが増えているのだが。

 

 長方形のテーブルを囲って座っているのだが私の両サイドに座るロロとクララは元々居たから良いのだが正面には神楽耶さんとスザク君が座っているのはどういう事なのだろう?しかも護衛か何か知らないが藤堂 鏡志朗も同席している。ちなみに神楽耶『ちゃん』ではなく『さん』付けなのはその方が子ども扱いではないからと喜ばれたからである。

 

 「ど、どうしてスザク君や神楽耶さんが来ているのかな?」

 「俺は神楽耶に巻き込まれて」

 「私はおじ様がホテルから出て来たのを目撃しましたので」

 

 見られていたのか?この変装なら絶対ばれないと思っていたのに…。少し項垂れながら頭を抱えていると今日何度目になるかロロの呆れ顔を拝む事に。そんな私をロロを除いた三人の子供達はクスクスと笑っていた。ただ藤堂中佐は腕を組んだままこちらをジッと睨んでいるだけだった。

 

 藤堂 鏡志朗

 原作で神聖ブリタニア帝国の日本侵攻の際にナイトメアを保持しない日本軍で初の勝利を飾った『厳島の奇跡』を起こした男。通称『奇跡の藤堂』。だが異名ほど奇跡や運に任せたのではなく、彼の鋭い状況分析や戦術・戦略に長けた指揮などによってもたらされた勝利であった。日本で最も優れた将軍であり、『帝国の先槍』と言われたギルバート・G・P・ギルフォードと渡り合うほどの実力を持つ騎士。

 

 その『奇跡の藤堂』がライフジャケットに日除けの帽子、クーラーボックスに釣竿一式を仕舞ったケースを背負ってまるで釣りの帰りみたいではないか。いや、まさかその通りなのか?

 

 「……私はただ釣りの帰りだ」

 

 こちらの視線を読んだのか自ら語ってくれたのだが本当に釣りに来ていた帰りだったのですか。リアルに釣りをする姿を想像して似合っている件については言わないでおこう。それより私が気がかりなのは彼らに私がここでさぼっていた事を報告されることである。

 

 「ところでこの事は…」

 「黙っといて欲しい?」

 「……はい」

 「私は構いません事よ。少し頼み事を聞いて頂けるなら」

 「俺はどうしようかなぁ?」

 「な、なんでも奢るから」

 

 悪戯っ子みたいな悪い笑みを浮かべるスザク君に、余裕のある雰囲気を漂わせながら微笑む神楽耶さんは黙っておいてくれそうだから良いのだが、一番の問題が日本軍所属の藤堂 鏡志朗中佐にどうやって黙っておいてもらうかだ。

 

 賄賂…。

 却下だ。金や権力で揺らぐような人じゃない。

 

 ならば脅迫…。

 そんな材料があるなら逆に聞きたいぐらいだ。というか最も恐ろしい手段過ぎて使えない。在っても使わないが…。

 

 力付くで…。

 武術・剣術にも自信はあるがそれが藤堂 鏡志朗相手に通じるかどうか分からない。現にビスマルクやマリアンヌ様には一勝すらした事がない。あ、ノネットにはまだ負けてないけど。

 

 いろいろ物騒な事を考えたが普通にお願いや交渉を持ちかけたほうが良いのではないか?将の器があるのなら理性的に聞いてくれるだろうし、外交官や政治家ほど口が達者と言う訳ではないだろう。ならば口で上手く言い包めれば………私がそれほど上手ではない。八方塞で突破口がまったくない。

 

 「おすすめ海鮮丼四つに海鮮ラーメン一つ、あら汁ふたつお待ちどうさまです」

 「あら汁は私と彼で」

 「俺、ラーメン」

 

 注文していた料理が届いた事で考えを据え置き、冷めないうちに頂く事とする。冷めないうちにというのは海鮮丼ではなくあら汁のほうである。

 

 一口啜っていると同じくあら汁を啜っていた藤堂さんは再び口を開いた。

 

 「今日は非番だ。軍に何らかの報告義務は無く、私はただ釣りの帰りに魚市場で誰かと相席となり昼食をとっただけだ」

 「感謝します」

 「だから何故とは聞く気もない」

 

 少し話しただけなのだが何となく安心感を与えてくれる人だ。いや、違うな。安定感と言ったほうが正しいか。その場に居るだけで圧倒的な雰囲気を放ちながら、どっしりと構えて気を張り巡らせている。まるで千年もの時を生き抜いてきた大樹のように。

 

 感謝の言葉を述べた私は昼食後に頼みや脅迫に近いお願いでアミューズメントパークに水族館、動物園と連れて行くこととなり、その場その場でいろんな物を奢らされた。これでも皇族のひとりなので財布的には何の問題もなく、ロロやクララ、それにスザク君と神楽耶さんと一緒に遊べたのは楽しかった。良い思い出に友人も増えて良い事尽くしで日本に来て良かったと心の底から思う。後は今日の帰りにでもお土産を買ってホテルへ帰ろう。一日代わりを務めてくれたノネットにも何か買って帰ろうか。

 

 動物園を出た頃には日は傾きかけており、そのままディナーも一緒にとったオデュッセウスは両手に大量の荷物をぶら下げてホテルに戻ったのであった。


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