コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 明けましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。


第129話 「撮影会」

 本日、ブリタニア本国にブリタニア皇族が集まっていた。

 これは今となっては非常に珍しい出来事と言えよう。

 シャルル・ジ・ブリタニアが皇帝としてブリタニアを収めていた頃と違い、まだ幾らか自由に動ける立場から国、または世界を動かせるほどの地位や役職についているものばかり。

 しかも担ぎ上げられるだけのお飾りではなく、自ら動いて己の能力を発揮している。

 シャルル皇帝時代に比べて軍事力こそ合集国に加盟した時点で黒の騎士団に送って自らの戦力は破棄したものの、ブリタニア本国にユーロ・ブリタニア、アジア・ブリタニアと合計した国土は増えたのでその管理、さらに黒の騎士団入りした者はそれぞれ厄介な事案や戦場を抱えていたりするのだ。

 要は立場があり、忙し過ぎて会うに会え難くなったのだ。

 

 元皇帝で戦争博物館と名を付けたナイトメアコレクションの館長兼サンフランシスコ機甲軍需工廠ナウシカファクトリー所長のオデュッセウス・ウ・ブリタニア。

 ブリタニア本国文化省長官のクロヴィス・ラ・ブリタニア。

 黒の騎士団外延部防衛隊所属機動騎士隊の隊長パラックス・ルィ・ブリタニア。

 復興事業監督官キャスタール・ルィ・ブリタニア。

 黒の騎士団首席補佐官シュナイゼル・エル・ブリタニア。

 行方不明だったが生存していたと世間に知られると同時に皇族の地位を捨てたルルーシュ・ランペルージ(・・・・・・)は、一般人と変わらない立ち位置となったが、今は世界人道支援機関名誉顧問になったナナリーの補佐官として世界を渡っている。

 そして世間的に過去の経歴など一切が謎で、ルルーシュとナナリーの弟となったロロ・ランペルージの合計七名。

 

 これだけの面子が揃えば何が起こるのだろうと危機感を持つ人だっているだろう。

 理解出来るし、納得もしよう。

 だからこそ大きなため息と共に憐れみを持った瞳で答えよう。

 思うだけ無駄だと…。

 

 「―――はい!良いですねぇ。もう一枚撮りますよ」

 

 死んだ魚の様な瞳でロロは目の前の光景を眺める。

 大きな役職や地位を持った者達は、今度発売される写真集の為の撮影会に集まっていた。

 普通はあり得ないと断言しよう。

 先にも書いたように全員大忙しだ。

 いちいち記者から写真集を作りたいんですと言って応じる必要もない。

 なのにオデュッセウスから誘われたら時間を作って会いに来る当たり、こんなブラコン達が世界を動かしていると思うと色々と不安になって来る。多分………いや、オデュッセウスの妹達も同様に来るだろう。アジア・ブリタニアのトップであるギネヴィアでさえ。

 

 今写真を撮られているのはクロヴィスで椅子に腰かけて、自然に微笑みを浮かべている。

 さすが慣れているというしかない。

 寧ろ慣れてない自分はちゃんとできるだろうかと不安が過る。

 

 「さすが慣れていますね」

 「エリア11の総督をしていた頃に良くやっていたからね。何処かの誰かさんに撃たれなければ立つことも出来たんだが」

 

 単純に褒めたつもりなのだろうけど、ルルーシュの一言はクロヴィスは冷たい笑みを浮かべる。

 撃たれた傷自体は完治しているのだが、ふと痛むときがあるらしくて椅子に座っての撮影となっているのだ。

 撃った者と撃たれた者の間に険悪な雰囲気が出来、オデュッセウスと弟妹の写真集を作りたいと申し出たメルディ・ル・フェイが助けてと視線を送るが、あの空間を和らげるだけの交渉術はない。

 諫めるならばオデュッセウスに頼むべきだと振り向く。

 

 「二人共大きくなったね」

 

 満面の笑みを浮かべてキャスタールとパラックスを片手ずつで抱き上げ、兄弟空間に入り込んでいる今のオデュッセウスはまったく気付いていない。

 ほわほわとするブラコン世界を展開されて、その空気に当てられたのか二人の間から重っ苦しい空気が霧散して苦笑いを浮かべている。それは良かったのだがさすがに撮影中にあの世界に籠られては撮影が進まない。

 溜め息を零しながら注意はしておこう。

 

 「オデュッセウス様―――」

 「様付けなんて不要だよ。ロロはルルーシュとナナリーの弟。ならば私の弟だ。兄さんって呼んでごらん」

 「―――ッ…」

 

 殿下呼びはおかしいと思って様付けで呼んだのが裏目に出てしまった。

 今までと違う感じに照れて呼び辛く、何とか切り抜けようと考えるも兄さん(ルルーシュ)より諦めろと言わんばかりの視線を感じ、他の方々も同様か面白がっているので眺めて早く呼ぶように無言の圧力をかけて来る。

 うじうじと考えるより呼んでしまった方が早い。

 意を決したロロは大きく深呼吸をして口を開く。

 

 「お…オデュッセウス…兄上」

 

 呼びなれない呼び方に照れているとカシャリとシャッター音が聞こえ、カメラを構えてバッチリ写真を収めて満足気なメルディと目が合った。

 呼び方と撮られた二重での恥ずかしさで耳まで真っ赤になり、抗議を口にしようとするがそっぽを向かれる。

 

 「次はロロ君とルルーシュ君のお二人にお願いします」

 

 そして何事も無かったように振り返って笑みを振り撒く。

 

 「しかし写真なんてどうしたら良いのか」

 「そこは任せて欲しいな」

 

 自信満々に寄って来たオデュッセウスに対して不安感が倍増した。

 予感程度だが状況を悪化させる気しかしない。

 不安げに見つめていたら衣装からカッターシャツに黒の長ズボンを選んだ。

 意外にラフで在り来たりな服装に首を傾げながら、受け取って着替えを早々に済ます。

 

 「これで良いですか?」

 

 着崩れしているところもない事を確認しながら出てくると「大丈夫だよ」と言いながら手を引っ張る。

 着替えている内に用意したらしきシーツの上に仰向けで転ぶように言われ、とりあえず言われるがままに寝転がった。

 これで撮るのかと思っていたら兄さんが着替え終えてオデュッセウスの元へ。

 

 「それで俺はどうしたらいいんだ?」

 「まずはここをこうしてっと…」

 

 ルルーシュの胸元辺りを開けて四つん這いで向き合う形に…。

 同性とは言え整った兄さんを間近で見て顔が赤らむ。

 それを眺めていたメルディは目をキラキラと輝かせて喜んでいた。 

 

 「これでどうかな?」

 「ナイスです殿下(・・)!」

 

 まるで“やりきった”と言わんばかりの笑みを浮かべたオデュッセウスに後で抗議しようとロロは決める。

 多分聞いてくれないだろうけど言うだけの権利はある筈だ。

 抗議の視線を向けるも褒められて誇らしげで全く気付いていない。

 

 「いやはやニーナやアーニャに調べて貰ったからね」

 「何を調べて貰ったんです?」

 「なんでもロロは受け(・・)でルルーシュは攻め(・・)の意見が多いとかでこのポーズを推奨されたんだ」

 (絶対に聞く相手を間違えてます!!)

 

 写真を撮られているので口にはしなかったが心の中で意味を理解していないらしいオデュッセウスに突っ込んだ。

 そんな中でキャスタールが不満そうにオデュッセウスの袖を引っ張る。

 

 「僕達もあんな感じでないといけないんですか?」

 「あれはルルーシュとロロだけだよ」

 

 そう言うと懐から携帯電話を取り出して目を通し始めた。 

 どうやらアレにアーニャとニーナに聞いたポーズが書き込まれているんだろう。

 果たして他の方々は何を言い渡されるのか…。

 

 「キャスタールとパラックスは幼さを生かした可愛らしい写真でシュナイゼルは大人っぽさと色っぽさを兼ね合わしたものが良いんだって」

 

 意外と真っ当なものに不公平と言うか苛立ちの様なものを覚えるのだが…。

 いや、シュナイゼル殿下はそうでもないか。

 話を聞いた瞬間に護衛に徹していたカノン・マルディーニの瞳が怪しく光った気がする。 

 確かに確かにと頷きながら方向性に納得したメルディは一人だけ決まってない事に気付く。

 

 「オデュッセウス様はどうされるので?」

 「私かい?あー…それは決めてなかったね。どうしようか」

 

 本当に何も考えていなかったらしく、うんうんと唸っている。

 仕返しとばかりに何か提案してみるのも良いかも知れないと思案するが良い案が浮かばない。

 オデュッセウスだけでなくロロまで悩んでいるとメルディが「そうだ」と何かに気付いたようで両手をパチンと音を立てて合わせた。

 

 「そういえば昔に写真を撮った際には鍛えていらっしゃいましたよね?」

 「今もそうだよ。気を緩めるとお腹周りが気になりそうでね」

 「だったら鍛えた肉体を前面に押し出す感じでどうです?」

 

 ロロはメルディが確信犯であることを悟った。

 すでに買い占めるであろう人物リストと撮っただけで写真集に載せないデータを売る事も考えているだろう。

 さらにこういった感性に疎いオデュッセウスは絶対に断らずに二つ返事で受ける。

 予想通りに返事をしてメルディの指示通りの服装とポーズを決めた写真を撮り、その後もアクシデントらしいアクシデントもなく撮影会は終了した。

 

 ちなみに写したデータはとある皇族に買い取られたとか…。

 

 

 

 

 

 

 写真撮影が終わり、オデュッセウスは兄弟を喫茶店に誘ってお茶を楽しんでいた。

 本日は単に撮影するだけではなく、久しぶりに会いたいなという想いから誘ったもので、終わったから即解散と言うのは寂しいというもの。

 なので喫茶店に入ったのだが一般人として過ごしていたルルーシュにオデュッセウスに巻き込まれていたロロ、巻き込んでいたオデュッセウスは別として有名店でもないごくごく一般的な喫茶店に入ったシュナイゼルは興味深そうに店内やメニュー表を眺めていた。

 彼らにとっては物珍しいものばかり。

 逆に提供する側の喫茶店従業員たちは顔面蒼白で緊張で胃を痛めながら対応し、オデュッセウスの護衛を務めているジェレミアやキャスタールの秘書をしているヴィレッタなどお付きの者は大慌てで周囲の警戒に努めている。

 この現状に護る側から外れた事にロロはホッと安堵しながら、苦労している彼ら・彼女らを憐れむのであった。

 

 「う~ん…微妙?」

 「微妙だよな。いつも食べている方が美味いよな?」

 

 注文したケーキを口にしながら不平不満を口にするキャスタールとパラックスにオデュッセウスは苦笑いを浮かべる。

 なにせ彼らが口にするのは厳選された食材を一流のパティシエが調理した作品。

 比べるのは酷というものだろう。

 

 「それはそれで楽しむものだよ。って口元クリームだらけじゃないか」

 

 強く注意するのもどうだろうと思い、軽めの注意をしてパラックスの口元についているクリームをハンカチでそっと拭き取ってやる。するとキャスタールがわざと(・・・)口元をクリームで汚して突き出してくる。

 多少怒ったような声を漏らすも弟に頼られて嬉しそうに笑みを零し、ハンカチを折り畳んで綺麗な面にして拭き取ってあげる。

 拭き取ると他に汚している弟がいないかと見渡すと難しそうな表情で壁に掛った絵画に睨みつけているクロヴィスが視界に入った。

 

 「あの複製品…質が悪すぎるな。せめて――」

 「クロヴィスも落ち着こうか」

 

 そんな様子をロロとルルーシュは呆れ、シュナイゼルは面白そうに眺めながらそれぞれ珈琲や紅茶を楽しんでいた。

 

 「ルルーシュも兄上も式(結婚)は何時頃になさるのですか?」

 

 コーヒーカップを置いたシュナイゼルの一言に口を付けた体勢で固まる。

 ルルーシュは固まりはしなかったが気まずそうな表情を浮かべた事から、決めていなかった事が容易に伺える。いや、ルルーシュの場合はシャーリーに何度も言われて先送りしていた可能性もあるので気まずいといった感じか。

 

 「まだ未定かな」

 「こちらも同じく」

 「ルルーシュは良いとして兄上はもう良いお歳なのですから」

 「それを言ったらシュナイゼルもだろう………私は付き合うにあたって挨拶回りは済ませたよ」

 

 こんなおじさんが若い娘さんと付き合うんだ。

 うちみたいに父上が子供の結婚に無頓着で放任主義でない限り、ニーナの御両親は心配するだろう。

 だから付き合うのならばと挨拶を済ませたさ。

 娘さんと真剣にお付き合いさせて頂いてますって。

 ………なぜか頭を下げに行ったのに向こうの方が頭を下げて来て戸惑ったけど…。

 

 「あぁ、でも出立前には済ませたいところだな」

 

 出立前にとの言葉に首を傾げた。

 ルルーシュはナナリーと共に世界各国の貧困が激しい国や難民キャンプを渡り歩いている。

 危険が伴う場所にも向かい、荒事にも慣れているルルーシュが顔を顰めたのだ。

 なにかあるのかと不安がるのは当然だろう。

 

 「出立ってまた何処かに行くのかい?」

 「ナナリーと難民キャンプの方へ」

 「そういえばニュースでも言っていたね。確か“戦士の国”の近くだったか」

 

 戦士の国と呼ばれるこれといった特産も資源もない貧しい小国。

 しかしかの国を守護している兵士の質は高く、少数でブリタニアの大部隊を返り討ちにしたほどに屈強。

 例え合集国の軍事力を集めている黒の騎士団が本気で攻めたとしても、かなりの被害を出して辛い勝利を収めるか、撃退される可能性が高い脅威的な国である。

 当時の父上の方針が必要なギアス遺跡のある国の制圧でなく世界制服だったり、かの国が防衛でなくブリタニアに攻め込む方向に動いていれば、神聖ブリタニア帝国が無事に存続することはできなかっただろう。

 なにせ噂では向こうには絶対の予言があるというのだから。

 

 ナナリー達が行くのを思い出して何か変な胸騒ぎを感じながらオデュッセウスは珈琲を飲み干す。

 その胸騒ぎが実際に襲い掛かって来る(・・・・・・・・)とはこの時は知る由もなかった…


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