コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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復活の…
第133話 「開演の狼煙」


 ハシュベスの難民キャンプを訪れたオデュッセウス一行は忙しく働いていた。

 難民達から不平不満を聞き、何とか要望を叶えてあげられないかと考えつつ、医薬品や食料品などの支援物資を配る。

 朝から出来た長蛇の列は昼前になってようやく解消されたが、今も飲料水を求めてちらほらやって来るので仕事が絶える事は無い。勿論世界人道支援機関より派遣されている職員も手伝っているが、人手が足りなさ過ぎる。

 それだけ難民で溢れているという事だ。

 改めて大きな問題だなと認識し、ナナリーとの通信回線を開く。

 元々ナナリーが受ける予定の仕事だったし心優しい妹の事だから、気にしていると思って報告をするという名目で通信したのだが…。

 

 「どうだい?今まで通っていた学び舎は」

 「はい、やはり目で見てみるのでは違いますね。知っている場所ですのに全てが新鮮に映ります」

 「それは良かった」

 

 最初に報告を済ませてそれからはずっとただ駄弁っている。

 今ナナリーは日本のアッシュフォード学園に行っている。

 今まで通っていたと言ってもそれはギアスで見えなくなっていた時で、己の目で見てみるのも良いのではと勧めたのだ。

 結果は良好で中々楽しんでいるようだ。

 嬉しそうに話すナナリーに、オデュッセウスは笑顔を浮かべて聞き手に周る。

 少し興奮気味なので早口になるナナリーが嬉しそうで本当に良かった。

 明日は枢木神社などを見て回るらしいが、今度はルルーシュではなくアリス達が背負って運ぶらしい。

 あの長い階段を…。

 今更だけど十歳のルルーシュはナナリーを背負ってあの長い石段を登ったんだよね。

 気のせいか昔に比べて体力落ちてない?

 今度基礎体力をつける訓練を誰かに頼んでおいた方がいいかな。

 …ノネットとかどうだろうか。

 

 「ん?あれ?」

 

 などと考え事をしていると急にモニターの映像が乱れ、砂嵐みたいに荒れる。

 こういう時の対処法と言えば斜め45度から叩く事だがまったく治る様子がない。

 仕方ないと諦め「また掛け直すよ」と言うが、向こうからの言葉が同時に聞こえなくなっているので届いたかどうかは怪しいものである。

 誰かに直してもらうか…。

 そう思って通信機材の前から立ち上がると、警護担当の職員が走って来るのが見えた。 

 慌てぶりからただ事ではないのは理解したのだが、何事か分からない以上は首を傾げるしかない。

 やってきた職員は息を整える間もなく話す。 

 

 「先帝陛下!所属不明のナイトメアフレームが接近しております」

 「機種は?」

 「複数確認。国籍が特定できません。ゲリラの可能性も…」

 「数は?」

 「不明です。指示を」

 

 通信装置に影響が出たという事はジャミングしてきたという事。

 適当に襲ってきただけの夜盗の類ではない。

 寧ろナイトメアフレームを持ち出した辺りからそれなりに準備を行った部隊と考えるべきか。

 所属も数も目的も不明な相手にどう指示を出せば良いのか?

 それよりもすでにアニメ二期の内容も終わったというのに何故こんな事態が発生するのか?

 考え続けるが今はそれらを考えても仕方がない。

 ため息一つ吐いて現状を正しく認識する。

 

 「ここでの戦闘は不味い。私とジェレミア卿で打って出よう。他は難民の避難誘導を」

 「ニーナ様にはG-1ベースで退避を…」

 「いや、敵は用意周到だ。あんな目立つ物で逃げ出したら真っ先に狙われる。囮として別方向に自動走行させて、難民に紛れてここを離れさせて。護衛はアーニャに任せよう」

 「畏まりました。ではナイトメア起動の指示を出して参ります」

 

 職員がG-1ベースへと向かい、オデュッセウスはニーナの方へと歩いて行く。

 近くにはアーニャとヴィーも居り、二人は周囲を気にしながらニーナの方へと向かっている。

 それより先にニーナと合流を果たすと、ニーナは物凄く心細そうな表情を向けてきた。

 安心させようと頭を撫でながら微笑む。

 

 「ニーナ。ヴィーと共にこの場を離れてくれるかい?

 「でもオデュさんは…」

 「時間を稼ぐよ。上手くいけば撃退だってできるかも」

 「…お止めしたところで聞いてくれるとは思いませんが、無理はなさらないで下さいね」

 「勿論だとも」

 

 新婚旅行だってまだなんだ。

 ようやく得たのんびりライフだってまだまだ満喫し足りない。

 何としてもここを突破しなければ。

 

 「アーニャ。ニーナとヴィーを任せるよ」

 「イエス・ユア・マジェスティ」

 「…私もう皇帝じゃないからね」

 

 ようやく合流したアーニャにそれだけ伝えるとG-1ベースへ向かって歩き出す。

 時間を稼ぐにもナイトメアは必要だ。

 警備用とは言え難民キャンプに堂々と置いておくわけにはいかないのでベース内の格納庫に収納しているのでそちらに急ぐ。

 同じ考えだったジェレミア卿が息を切らすことなく走って現れた。

 

 「陛下!」

 「ついに先帝も抜け落ちたか…」

 

 ジェレミア卿の呼び方にがっくりと肩を落とすが、すぐに気持ちを切り替える。

 なんたってここで戦える戦力は二名と少ない。

 敵勢力がどれほどのものか知らないが無駄に時間は潰せない。

 

 「現状敵勢力は戦力共にすべてが未知数。そして周辺には民間人が多く占めている事から私とジェレミア卿で打って出る。私はドローンにて支援するからジェレミア卿は真母衣波 一式で出撃頼めるかな?」

 

 真母衣波 一式。

 式典用にG-1ベースに搭載されている最新ナイトメアフレームではあるが、式典展示用という事で戦闘出力に制限がかけられ、武装もシュレッダー鋼の剣が二本だけ。

 これで戦えと言うのは酷な話だ。

 ドローンの一騎を有人に切り替えて搭乗した方がまだ戦いやすいかも知れない。

 けれど敵が不明な以上は数が欲しい所だ。

 

 「畏まりました。ではすぐに準備いたします」

 

 私なら悩むところを即答で行くところ、やはり覚悟が違うなぁと感心してしまう。

 っと、眺めている場合じゃない。

 アレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナに乗り込んで起動キーを差し込みコードを打ち込む。

 起動させるとシステムチェックを急ぎ、アレクサンダ・ヴァリアント・ドローンを遠隔で起動させる。

 ジャミングが掛けられたとはいえ、さすがにこちらのECCM(対電子対策)を無力化させるほどではないらしい。

 長距離間の通信に一般の通信回線を無力化する程度。

 

 「それでもかなり準備はしているのか…厄介だね」

 

 呆れるように呟き、出撃準備が整ったところで全機をG-1ベースより発進させる。

 最後にアレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナと真母衣波 一式が出て、現在こちらの持てる全ナイトメアが戦闘態勢に移行した。

 ちらりとモニターで難民に紛れて避難をするニーナを眺め、短く息を吐き出して向かってくる敵集団に視線を向けた…のだがモニターに映し出されたナイトメアを見て怪訝な表情を浮かべてしまった。

 

 「何処の部隊だ?あんな旧式のナイトメアばかりで」

 

 サザーランドやグロースター辺りなら初期生産型でも一部では今でもギリギリ現役ではあるが、グラスゴーはさすがにあり得ない。他にも鋼髏にパンツァー・フンメル、暁など国籍バラバラな上にノーマルのアレクサンダなんか入手困難なレベルなレア機体まで含まれている。

 ドローンの操作を行い陣形を組ませ、銃口を向けた状態で待機させる。

 

 「こちらは世界人道支援機関の依頼で難民キャンプを訪れている。それ以上の接近は許可できない。所属と接近目的を――」

 

 オープンチャンネルで一応告げるものの返信は射程外からの射撃。

 アレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナはプルマ・リベールラを六枚装備した高い防御能力を誇る機体。

 射程外からの攻撃など何事も無かったように弾く。

 

 「止む無しか…接近中のナイトメア集団を敵対勢力と断定し、これより攻撃を開始する」

 

 射程に入った敵機に射撃を開始する。

 正面切って突っ込んでくるナイトメア部隊は次々と蜂の巣になっていく。

 無論ただでやられる筈もなく、最後の足掻きによって何機か直撃を受けて被弾する。

 

 「ジェレミア卿、頼んだ」

 『イエス・ユア・マジェスティ!』

 

 二本の剣を構えた真母衣波 一式が突っ込む。

 ドローン相手に銃撃戦を行っていた敵機はいきなり突っ込んでくるナイトメアが居るとは思わず、銃口を向けるもそれより先に真っ二つに切り裂かれる。

 ゲリラにしては物持ちが良いが、正規軍とも思えない。

 いや、旧式で揃えた斥候であるならばまだ話は変わるか。

 最悪そうなると次は本体か、もう少しマシな部隊が来ることになる。

 この状況下で敵のおかわりは勘弁して欲しい。

 

 次々と敵性ナイトメアを撃破していく中でオデュッセウスの悪い予感だけは的中してしまった。

 

 二機ほど新手のナイトメアフレームが急速に接近してくる。

 視線を向けたオデュッセウスは眉を潜めた。

 見た事の無い人型のナイトメアフレーム。

 両肩に円形の盾を取り付け、腰にはサーベル。

 フロートユニットやエナジーウィングが見えないものの飛行して来る。

 

 「なにアレ…」

 『モルドレッド?いや、ギャラハット』

 「どちらでもない新型!?ジェレミア卿下がって!」

 

 ブリタニア系でも日本系でもないナイトメアフレーム。

 この地域のナイトメアフレームも知識として知っているので、それがどの系譜にも属していないのは明白。

 つまり派生ではない完全新作ナイトメアをあのような高性能で作り出せる者が仕掛けてきている。

 可能性として一番高いのは反政府組織や武装勢力などではなく国家。

 国家とするならば小隊単位でなく二機という少数で向かってくるあたり、かなりの性能を誇った機体、もしくはパイロットが搭乗しているのだろう。

 ジェレミア卿の腕は確かだが制限付きのナイトメアでは分が悪い。

 ドローンの一斉射撃で牽制するも、がっしりと力強さを抱かせる体躯とは異なり、身軽な動きで銃弾の嵐の中を突っ切って来る。

 

 「ラウンズ並みの実力か!―――ッ、ドローンの反応が消えた!?」

 

 新型に気を取られてもう一機のナイトメアの接近を許してしまう。

 そしてそのもう一騎を見て驚愕してしまった。

 

 コクピット左右より肩にガトリングガン二基に、両手には大口径のアサルトライフルが二つ、肩にはミサイルシールド、フロートユニットを装備した見覚えのある薄紫色のナイトメアフレーム。

 

 『久しいなオデュッセウス!!』

 「ブラッドリー卿!?こんな時に…」

 

 予想通りの人物の声に苛立ちを隠せず、ドローン二機で牽制するも肩のガトリングガンで一瞬で蜂の巣にされる。

 基本は以前のパーシヴァルだが色々と改修されているらしく、次々とドローンを撃破していく動きは以前の比ではない。

 

 『お任せを』

 

 そう叫んでジェレミア卿が斬り込む。

 ドローンを盾にして懐まで潜り剣を振るう。

 否、懐に潜り込まされたが正しい。

 アサルトライフルを投げ捨てたパーシヴァルは四連クローよりブレイズルミナスを展開してルミナスコーンを形成。呆気ないほど簡単に一撃を防ぐと、右手も同じようにルミナスコーンを形成させた。

 

 「ジェレミア卿!脱出を!!」

 『よそ見をしている余裕があるのかな?』

 

 子供の声!?

 驚きながら突っ込んできて踏みつけようとして来た新型機から飛び退いて距離と取り、ドローンで取り抑えようとするも、信じられない動きを見せて避けながら蹴りを叩き込んでコクピットを潰した。

 ラウンズ級どころではない。

 下手するとカレンやスザククラス。

 

 『申し訳ありません陛下…』

 

 ジェレミア卿の通信を聞いて視線を向けると真母衣波 一式よりジェレミア卿が脱出し、機体はパーシヴァルによって貫かれて爆散する所であった。

 時間稼ぎをするしかない。

 そうと決めたオデュッセウスはドローンに指示を飛ばす。

 

 「ジェレミア卿!ルートEにて離脱を。私もすぐに向かう」

 

 機体をやられた事で返事は返ってこないのは理解している。

 でもこうしておけば後で出会えるだろう。

 後退を止めて逆に猛スピードで敵機に突っ込む。

 サーベルを鞘より引き抜いた辺りでオデュッセウスは脱出用のレバーを引く。

 コクピットブロックが機体より射出され、アレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナはそのまま突っ込み、真っ二つに両断されて爆発した。

 同時に指揮官機の反応が消えた事でオデュッセウスの最期の仕掛けが作動する。

 全ドローンのコクピットブロックが機体より射出。

 しかも煙幕は出しながらと言うおまけ付き。

 機体も爆散すると煙幕を展開して周辺を真っ白に染め上げ、脱出したオデュッセウスはまんまと襲撃者の目を潰して逃走したのであった。

 

 

 

 

 

 

 ルキアーノ・ブラッドリーは満足気に息を吐く。

 オデュッセウスには逃げ出され、小手調べに出した部隊は壊滅。

 戦果と言えば敵ナイトメアを壊滅させただけで、主目的は何一つ満たしていない。

 通常なら作戦失敗を悔やむところであるのだろうけど、ブラッドリーはそのような感情はなかった。

 寧ろこのパーシヴァルの改修機“パーシヴァル・ブラッドレイル”の感触に心躍らせていた。

 武装勢力として転々としていた頃と違って部品は純正品の新品。

 使い込まれた廃棄物を繋ぎ合わせて再利用していたゴミとはやはり動きが違う。

 それにやはりヴィンセントの改修機だった“ヴィンセント・ブラッドレイル”よりパーシヴァルの方がしっくりくる。

 満足感に支配されるブラッドリーは指示を仰ごうと今の上官に声を掛ける。

 

 『どうします。追撃しますか?』

 

 もう一機へと視線を向ける。

 最新鋭の技術を余すことなく取り入れられたナイトメアフレーム。

 パイロットはまだ幼げな少年ではあるが、不満なく彼は仕えている。

 なにせブラッドリー卿は彼の者に敗北し、彼の者が叶えるであろう夢に希望を託している身なのだから。

 

 「いや、追撃は不要だ」

 

 声色からも幼さを抱かせるも雰囲気は非常に冷たい。

 馴れ合いをする気がないのかそれとも信用していないのか…いや、駒に掛ける感情はないということあろう。

 今はその冷めきった関係が自分の立ち位置を判らせるようで心地よい。

 昔なら確実にナイフの一本ぐらい頭部めがけて投げ込んでいただろう。

 

 「しかしアレは計画に必要なピース(・・・・・・・・・)だったのでは?」

 

 鼻で嗤いながら言葉を続ける。

 彼の計画…いいや、彼と彼女の計画にはオデュッセウスの必要性があった筈だ。

 

 ――違った。

 必要ではあるが必須ではない。

 寧ろこちら(・・・)が必要としているだけで向こうとは重要度が異なるのだったな。

 

 「違うな。アレはピースでなく保険。欲しいものはすでに我が庭に入り込んだ」

 「入り込んだと言っても貴方の庭は狭いようで広い。早々に見つかるとは思えませんが?」

 「姉さんの予言通りさ」

 

 予言と言われれば黙るしかない。

 なにせ彼女の予言は超軍事国家だったブリタニアを退けるほどの力を持つ。

 国のトップや親友の言葉よりも信頼がおける。

 …親友がいたかどうかは別としてな。

 

 「なら問題ありませんね。私としたことが出すぎた真似を致しました」

 「心にもない事を…なんにせよここでの役目は終わった。行くぞ」

 「畏まりました我が王よ(・・・・)

 

 返された通りに心にもない謝辞を述べたブラッドリーは彼に続いて帰投する。

 これからの出来事に心躍らせながら…。


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