コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第134話 「集まる者と追う者」

 世界人道支援機関からの依頼で当初ナナリーが行く筈だった難民キャンプ。

 三国の国境が重なる危険地域の一つで、その危険さからオデュッセウスが役割を変わり現地入りした。

 予定通り難民達から要望を聞き、支援物資を渡し、その足で式典に向かう筈だったのだが謎の武装勢力により戦闘が起こり、オデュッセウス・ウ・ブリタニア先帝陛下、オデュッセウスと婚約を果したニーナ・アインシュタイン、養子であるヴィー(V.V.)。さらに警護役で同行したジェレミア・ゴットバルトとアーニャ・アールストレイムが行方不明となった。

 世間ではこの事件を通称で“ハシュベスの戸惑い”と呼んで認識している。

 超合集国は調査団の派遣を検討するも、そこは超合集国に加盟していない土地で、下手な口出しは外交問題へと繋がる。

 アジア・ブリタニアを納めているギネヴィア・ド・ブリタニアなど一部は強硬な姿勢を見せるものの、シャルル時代のブリタニアを彷彿させるような軍事侵攻は何処の国も許容しない事を理解しており、それ以上の行動はとれないでいた。

 

 当の襲撃犯であるジルクスタン王国上層部では現在の状況に笑みを零していた。

 ジルクスタン王国の首都の中枢部に存在する神殿。

 その最上階にてジルクスタン国王の姉で聖神官として神事を担っているシャムナが最奥の座に腰を降ろしている。

 室内は機械類も置いてあるものの、石造りで足元の細い水路を水が流れて居たり、その様子は洞窟や遺跡を思わせるものとなっている。

 座の左右には警護を兼ねている女性が控え、少し離れた真正面には数人の男性がシャムナの言葉を待っていた。

 長い金髪をふわりと揺らし、シャムナは並んでいた一人、シャムナの親衛隊隊長を務めるシェスタール・フォーグナーに向ける。

 

 「してその後の進展は?」

 「ハッ、シャムナ様の予言(・・)の通りに優先目標第一位の捕縛が完了し、今こちらに護送中です」

 「そう…。他の者らはどうしたか?」

 「第三目標及び警備の者らはまだ発見できておりません。如何なさいますか?」

 

 その言葉からシャムナは悩む。

 すでに賽は投げた。

 同数、またはある程度の兵力の差であればジルクスタン王国の戦士達と予言(・・)を用いれば負ける事は無い。

 ただしこちらの対応可能不可能な戦術や数で攻められれば敗北は必至。

 ゆえに出来れば捕縛したいが今は(・・)予言の意味はなく、そして無理に捕まえる必要性も無い。

 

 「それらは程度でよい。優先事項第一位は確保でき、第二目標はすでに予言に示した。その二つさえ手中に収めて居ればどうとでもなります」

 

 この答えに納得したシェスタールは大きく頷く。

 もう何もないかと思っているとニヤケ面を浮かべたルチアーノ・ブラッドリーが軽く手を挙げた。

 使える戦士であることは認め、この場に来ることも許してはいるもののあまり彼の事は好いてはいない。しかし計画の一端には必要な人間であるのは確かなので無下に扱う事も出来ないという厄介者。

 そう認識しているシャムナはそれを解り切っているルチアーノに小さくため息を漏らす。

 

 「なにか?」

 「いえね、私の手の者からの報告なのですが報告が…どうやら黒の騎士団の狗らしきものらが入り込んでいるようでして」

 「人数は?場所は?」

 「追跡はさせております。現在判明しているのは三名ほど。もしかするとまだいるかも知れませんね」

 

 何処か悦すら感じる言い方に苛立つがそれをいちいち口にしていては面倒だ。

 シャムナは視線をずらし、その横で警戒させていた暗殺部隊隊長スウェイル・クジャパットに向ける。

 

 「任せます。生死は問いません」

 「ナム・ジャラ・ラタック」

 

 片手で顔を覆って返礼したスウェイルはその場を離れる。

 それを見送ったブラッドリーは再び口を開く。

 

 「それと“嘆きの大監獄”の警備はどうします?もしよければ私が赴きますが」

 「不必要です。それに彼が来る(・・・・)というのに貴方が行けばどうなるか分かったものではありませんからね」

 

 これは命令であり警告。

 いらぬことをされて計画が崩れ、それこそ黒の騎士団が全力で攻め込んでくる口実になる可能性が高い。

 それに事に始めてから通信制限を掛け、獄長には警戒態勢をとるように指示してある。

 何かあれば今“嘆きの大監獄”に向かっているシャリオを呼び戻し、警備としてシェスタールを向かわせればよい。

 

 全ては困窮している祖国、そして愛しき弟の為に…

 

 

 

 

 

 

 ミレイ・アッシュフォードは何故こうなってしまったのかと考える。

 世界各地に戦争を吹っ掛けていた軍事大国であった神聖ブリタニア帝国は、世界と協調路線を選んだオデュッセウス・ウ・ブリタニア先帝陛下とユーフェミア・リ・ブリタニア皇帝陛下により平和への道を歩み始めた。

 この一年は大きな戦争は起こらず、平和と言う平穏な日々を多くの者が過ごして来ただろう。

 そして平和になったからこそ軍事力に優れ、傭兵派遣を行う事で利益を得ていたジルクスタン王国は現在どうなっているのか…という企画が上がり、下調べの為に現地入りしたミレイはちょっとした旅行気分であった。

 学友のリヴァル・カルデモンドをバイトとして誘い、オデュッセウスの繋がりから気をかけてくれていたメルディ・ル・フェイと、ミレディと共に世界各地を自由に飛び回って記者の活動を行っているディートハルト・リートとも一緒にジルクスタン王国を見て回る―――筈だった。

 器材を積み込んだ六人乗りのワンボックスカーが夜道を走る。

 周囲は闇夜に覆われ、静寂と微かな生活の灯が漏れる中をただただ目的地へ向かって進む。

 目的地は中心部より離れた小さな宿屋。

 値段の安さと寝る場所確保の為だけで移住性に関心が無かったメルディが選び、到着した初日にひと目見たリヴァルが不満そうな声を挙げたのを覚えているが、今となってはひと目が少ないぼろい宿屋であったのは有難い。

 駐車場で止めたボックスカーよりメルディが降り、目立たないように周囲を確認して合図を送る。

 大きめの器材を抱えたリヴァルと私が並んで歩き、壁との間に隠れるように二人の人物は歩く。

 後ろをディートハルトが立って隠し、先導しているメルディは正面を塞ぐ。

 こうして隠れている人物達を人の目に晒さないように二階へ上がり、借りている一室に入る。

 中に入ればすぐさま扉を閉めて、安堵の吐息を漏らす。

 

 「もう大丈夫よニーナ」

 

 扉が閉まると同時にへたり込んだニーナを落ち着かせるように抱きしめ囁く。

 人の温もりに触れてからか、それともようやく落ち着ける場所に入った安堵感からか、ニーナはため込んでいた感情を出し切るように泣き始めた。

 

 黒の騎士団に所属し、情報関係を担っていたディートハルトの情報網は広く伸びている。

 その情報網に“難民キャンプが武装勢力に襲われた”という情報が舞い込んだのだ。

 詳細不明で場所が三国が所有権を主張する地域、しかも近くであるというのなら調べるべきだろうと急遽予定を変更して現地に急行。しかし現場周辺はすでに封鎖されており、三国からの調査団が派遣されていてフリーの記者や他国の報道陣がおいそれと入れる場所ではなかった。

 仕方ないと諦めながら来た道を戻っていると見覚えのある人物を見つけたのだ。

 場所が場所だけにまさかと思いながら確認してみると、ニーナとアーニャの二人だった。

 困惑しながら二人を車に乗せ、事情を聴くとなんでもオデュッセウスと共に難民キャンプを訪れていた際に、ナイトメアフレームの一団に襲われ逃げて来たのだとか。

 本当なら養子にしたヴィーとも難民に紛れて逃げていたのだが、その道中でまた襲われて離れ離れになってしまった。

 すぐさま周辺の警察か軍に保護して貰い、捜索隊を出してもらうのが良いのだろうけど、ディートハルトとメルディが待ったをかけたのだ。

 三国が睨み合う難民キャンプ辺りでは幾度か小規模な小競り合いが起こっている。

 傭兵やゲリラを雇っての嫌がらせ染みた戦闘もあるが、ナイトメアフレームを多数使用した事と当時は電波妨害もあった事からかなり用意周到で力のある勢力の可能性が高い。

 ニュースを付けてみるとニーナを含めたオデュッセウス一行の消息は不明となっており、何処とも連絡も合流も出来てないと見て良いだろう。

 無人機とは言え警護するには充分すぎるナイトメアフレーム部隊に、腕利きのジェレミアとオデュッセウスを相手に撃破、または行動不能にするほどの戦力を投入するなどそこらの武装勢力では不可能だ。となれば考えられるのは三国の何処かが動いたに違いない。調べぬ前に保護など求めれば逆に捕縛される可能性の方が高い。そこでとりあえずこの情報を外に知らせると同時にニーナの安全を確保する為に、明朝にでも黒の騎士団の伝手で国外へ脱出することになったのだ。

 

 「連絡出来れば一番なのだけど」

 「もしここが当たり(・・・)であるなら通信からバレる可能性がある。機密性の高い通信機なども今度から持ち運ぶか?」

 

 軽い冗談っぽく言い合う二人はやはりこういう場に慣れているのだろう。

 見せかけではなく本当に余裕が見て取れる。

 予想であるがもっと危ない状況を体験したことからの経験の差。

 そう言った心構えを持っているところは素直に羨ましいと思う反面、そんな状況はあまり体験したくないなぁと思う。

 クスリと微笑んでいると二人が急に窓の方へと視線を向ける。

 いや、二人だけでなくアーニャもであるが。

 耳をすませば小さな音が聞こえてきた。

 

 「外が騒がしいような…」

 「近付かないで!」

 

 外の物音に気付いたリヴァルがカーテンに手を伸ばすと、ミレディが腕を掴んで止め、覗き見るようにちらりと外を確認する。

 真剣な様子から何かしら問題があったのは確かなようだ。

 

 「所属不明の武装勢力を確認。アレは…暗視ゴーグルかしら。武装は短機関銃(サブマシンガン)の類っぽい」

 「夜戦用の対室内戦装備か。つけられたか?」

 「かも知れない。避難誘導していないようだから正規ではなさそうだけど…」

 「最悪の場合は特殊部隊、または暗部か。厄介だな」

 「どういう事なんだよ!?」

 「落ち着いてリヴァル」

 

 話についていけてないリヴァルに声を掛けながら、ニーナを奥へと隠れさせる。

 外からは銃声が響き出し、どうやら目標は私達ではないらしい。

 しかしディートハルトの言う様に暗殺部隊や特殊部隊であればニーナを見られるのは非常に不味い。

 そう思い奥へ誘導し、動きを理解したディートハルトは震えながら護身用の拳銃を取り出す。

 元々戦闘要員ではないのだ。

 年下の女性であるアーニャが拳銃を手にし、動じない様子と比べると情けなく見えるが、こうやって矢面に立たされること自体少ない立場だっただけに、震えるのも仕方がない。

 

 大きな音と煙が立てられながら扉が破られ、何者かが突入してきた。

 驚いて銃を構えきれなかったディートハルトの代わりに、アーニャが銃口を入り口へと向けるもナイフで上へと逸らされる。

 緊迫する中で接敵した当人たちは相手を確認して戸惑う。

 

 「紅蓮のパイロット?」 

 「アンタ…確かラウンズの。会長にディートハルトまで」

 「何故ここに?」

 

 入って来たのはナイフと拳銃を手にした紅月 カレンだった。

 そしてカレンに続くように武者を連想させるような鎧と忍び装束が合わさった衣装の篠崎 咲世子と、白衣ではなく動きやすくラフな格好のロイド・アスプルンドが入って来た。

 

 「いやぁ、シュナイゼル殿下に一番怪しいここの調査を頼まれてね」

 「正面切って文句言うと外交問題になるって事で来たんだけど…」

 「排除しようとする辺り明白かと」

 

 これは余計にニーナを知られるわけにはいかない。

 どうしようと考えていると入口に銃弾が撃ち込まれる。

 カレンと咲世子が険しい顔をして中に隠れるのではなく逆に外へと跳び出す。

 身体能力と性格を考えるに彼女らは接近戦に持ち込んだ方が力を発揮できる。

 無論アーニャとディートハルトは援護射撃を行うが、それより早く二人は仮面型のゴーグルを苦無や拳銃で破壊したり、格闘戦で相手をねじ伏せて一方的に無力化して行く。

 これは勝てると思い始めていると他の襲撃者と違って顔すら隠してない男性―――スウェイル・クジャパットが前に出た。

 

 「お前たちは下がれ」

 

 命令に従って襲撃者たちはスウェイルより後方に下がる。

 指揮官であることが明白な相手にカレンが睨みつける。

 

 「アンタが責任者?観光客に対してハード過ぎるアトラクションね」

 「黒の騎士団の狗には向いていると思ったんだが…」

 「なら答えはタイマンで決めようか?」

 

 カレンの言葉にスウェイルは鼻で嗤った。

 それはまさに馬鹿にしたかのように。

 

 「私はナイトでも侍でも無いのでね」

 

 怪しく目が赤く輝く。

 それが何を意味するのかはミレイは解らなかったし、ギアスに掛かったカレンの行動は余計に理解不能だった。

 襲撃者が散開したのを不思議そうに見つめ、怪訝な表情をしている事から咲世子が大丈夫かと近づけば、ナイフと拳銃で攻撃を仕掛けて来たのだ。

 慌てて応戦するも殺さぬように手加減しなければならず、カレンもかなり戦闘能力が高いので苦戦を強いられる。

 逃げるように二階に飛び移れば、同じく二階へと上がり、扉から覗いていたこちらを銃撃してきた。

 咄嗟にロイドが眼鏡からブレイズルミナスを展開し弾丸を弾いたので事なきを得たがこれは可笑し過ぎる。 

 

 「敵対者には自滅こそが相応しい」 

 

 スウェイルは不敵な笑みを浮かべ、殺し合うこちらをただ眺めている。

 事態を打開しようと注意がこちらに向いている隙に、死角より飛び掛って押し倒す。

 腹部に乗り、両手を押さえるが必死に暴れるので中々上手くいかない。

 散った襲撃者は集結し、銃口を構え始める。

 

 「ほぉ、個体の認識を入れ替えるギアスか。中々慎ましい能力だな」

 

 その一言で場が凍り付いた。

 誰だと全員が視線を向けると入口より悠々と歩いて来るC.C.とサングラス付きのヘッドフォンを付けたままのマオが現れた。

 手話だろうかジェスチャーでC.C.にナニカを伝えるとニヤリと笑った。

 

 「目を直接見るタイプのギアスユーザーか。なら対処もし易い」

 「まだ狗が紛れていたとは。それにギアスを知っているのなら背後関係を洗わなければな」

 

 またも瞳が輝きC.C.を捉えるも全く動じる様子がない。

 不敵な様子にスウェイルは違和感を感じ取り、相手が掛かっていない事に気付く。

 

 「ギアスが効かない!?まさか……これは元嚮主様に対して失礼でした。ここは出直すとしましょう―――散れ」

 

 襲撃者は全員が散り散りに逃げ去った後、C.C.は静かに視線をカレン達に向ける。

 その瞳は何処か…否、あからさまは不満の感情が含まれており、関わっていないミレイですらその感情を読み取れた。

 向けられたカレンからしてみればそちらより何故ここに居るのかと言う方が疑問であるが…。

 

 「アンタどうして…」

 「元々は別件だったんだがな。ギアス関連なら見て見ぬ振りも出来ないか」

 

 面倒臭そうにつぶやくとついて来いと言わんばかりに手招きする。

 

 「車はあるのだろう?乗せろ」

 「なんでアンタはそういつも偉そうなのよ」

 「どうせオデュッセウス関連だろ。居場所を知っている奴の所まで案内してやる」

 「本当ですか!?」

 

 奥で震えていたニーナは慌てて表に跳び出し、C.C.に問いかける。

 襲撃があった事、誰に見られているか分からないがニーナがこうして表に出てしまった事を考えると早急にここを離れなければならない。

 ミレイは会話を最後まで聞く事無く、リヴァルと一緒に部屋の荷物を纏め、急ぎ車へと運ぶのであった。


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