コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

14 / 150
第14話 「突然の別れ…」

 枢木神社に隣接する屋敷の縁側より陽気な日差しを目一杯浴びた立派に育った木々を眺めつつ、みたらし団子のあんが残る口に緑茶をゆっくり味わいながら一息ついた。

 

 「良い日和ですねぇ~」

 「まるでご老人のような台詞ですね」

 

 隣には縁側に腰掛けるのではなく、立ったまま辺りを警戒しているノネット・エニアグラム卿が待機している。隣に座っても良いのにと言いはしたのだが、今日は護衛者はノネットのみなので護衛に徹するとのことらしい。いつもならロロも居るはずなのだが、外せない用事があるとのことで護衛から外れているのだ。

 

 今現在縁側でお茶を啜っているのは、スザク君と神楽耶さんを待っているからだ。昨日は一身上の都合で体調不良となった為に、最終日に回る予定だった枢木神社に行く予定を身体を休めるという理由で入れ替えてもらったのだ。すると知ったところだからと二人が案内してくれると申し出てくれたのです。くれたのですが中々姿を現さないのだ。焦ったり苛立ちを募らせるのは性分に合わないので、この時間をのんびりと過ごす事にしたのだ。枢木神社に行くのは公務ではなくプライベートで組み込んだのでこちらの日本の監視も少ない。

 

 にしてもノネットの言葉に棘のようなものを感じる。棘というには弱いのだがどこか怒りのようなものを感じる。だいたい見当は付いているのだが…。

 

 「そ、そんなに年寄り臭かったですかね?」

 「ええ、まったくもってご老人のような台詞でした」

 「昨日の事怒ってます?」

 「さぁ、どうでしょう」

 

 悪戯っこのような笑みを浮かべるが肩を回してあからさまに疲れたとアピールをしてくる。遊びたいが為に体調不良だと発表した結果、皺寄せがノネットにすべて向かったのだ。一応皇子ではなく騎士だから、表に出来ないような根回しを行ってくる者のあぶり出しも含んだ事だったのだが、朝に突然言った事がいけなかったのか。いや、それ以前にお堅い場所を好まない彼女にはストレスマッハだったと理解した。それが一番の不機嫌の理由だろうな。騎士と主の関係ではあるが公の場でなければ私は彼女とは友人だと考えているので問題はないが、コーネリアが見たら何て言うだろうか。

 

 二本目のみたらし団子に手を伸ばそうとすると、とたとたと駆けてくる足音が聞こえてきた。ノネットにも聞こえており一瞬ピクリと指先が動いたが、この足音には聞き覚えがあり、銃を抜く事無く目で追うだけで納めた。

 

 「待たせたな」

 「お待たせして申し訳ありません」

 

 現れたのは白い小袖の白衣に緋色の袴である緋袴の巫女装束姿の皇 神楽耶に、紺色の袴に剣道着姿の枢木 スザクだった。申し訳なさそうに謝る神楽耶を余所に、スザクは横に置いてあったみたらし団子を見つけて「もーらい」と告げて、パクッと食らい付いた。私の団子がと呟きそうになったが、美味しそうに食べる表情を見ていたら言うに言えなくなった。

 

 「二人とも似合ってますね」

 「お褒めの言葉嬉しく思いますわ」

 「良かったな。時間をかけて着替えたかいがあったじゃねぇか」

 「もう!そういうことは言わないで!」

 「レディの身支度というのは時間がかかるものですからね。それに綺麗な姿を見られて大変喜ばしいですし」

 「ありがとうございます。しかしお待たせてしてしまって退屈ではありませんでしたか?」

 「そんな事はありませんよ。待つのも楽しみの一つですから」

 「さすがはお髭のおじ様ですわ。少しはスザクもおじ様を見習ってみたらいかが?」

 「へいへい、どうせ俺は子供ですよ」

 

 こういう何ともいえない雰囲気を味わっていると兄弟・姉妹に会いたくなってきた。三日でホームシックになるとは予想以上に家族に依存しているのだろうか?

 

 ここで話しているのも楽しいのだが時間は無限ではない。話をしながら案内してもらうとしよう。団子の乗っていた皿と湯飲みを下げて縁側より立ち上がる。すると神楽耶さんが何やら期待した目で見つめてくる。何だろうと悩んだがすぐに理解して手を差し出す。

 

 「レディ。お手をどうぞ」

 「はい」

 

 嬉しそうに手を繋いではしゃぐ姿に頬が弛む。その光景を鼻で笑ったスザク君も、無理やりに近かったが手を繋いで同じ状況にする。当然のように仕返しと言わんばかりに神楽耶がクスクスと笑っていたが。

 

 「ところで最初は何処に行くのかな?やはり神社と言う事だから本殿からかな」

 「私はそれが良いと申したのですが…」

 「最初に行くのはこっちだよ」

 

 手を引かれるまま連れて行かれたのは道場であった。そこで原作でもスザク君が藤堂 鏡志朗に見下ろされていたシーンがあったなと思い出す。あれは柔道で投げ飛ばされた後だったのだろうか?しかしスザク君の服装は剣道着であり柔道着ではないんだよな。確か竹刀や木刀の類も見えなかったし…。

 

 年季の入った木造の道場内から活気に溢れた声が外まで届いてくる。それなりの人数が居るらしい。スザク君に連れられるまま道場内に入ろうとしたが、その前に一礼してから足を踏み入れる。自分で言うのもなんだがかなり姿勢良く出来たと思う。いつも通りの微笑を浮かべたまま顔を上げると私はそのまま固まってしまった。

 

 スザク君は道場の奥にいた人物に見学しても良いかと許可を取りに行き、私と神楽耶、ノネットの三人は道場端に移動して座って待つ。見学の承認はあっさりと出たらしく、すぐに戻ってきたスザク君も揃って見学をする。攻撃する部位の名を叫んで一撃を入れる剣道の迫力は、映像で見るのと生で見るのとでは迫力が違った。見慣れたスザク君はこちらの反応を窺い、感嘆の声を漏らすノネットを見て満足そうに笑う。

 

 奥に居る人物は昨日会った時とは完全に雰囲気が違う藤堂 鏡志朗が正座を組んで見つめている。離れていると言ってもびしびしと覇気が伝わってくる。それにもうひとりの人物に視線を向ける。道着ではなく緑色の日本軍服を着た50代中頃の初老の男性。軍人としての貫禄を漂わせる片瀬 帯刀少将が目を細めてこちらを観察していた。

 

 正直言って私はあの人の事を好いていない。むしろ嫌いな部類の人物である。日本の誇りを捨てず、日本独立の夢を諦めず、大国ブリタニアに挑む為に旧日本軍を集めて組織したなどの点については感心する。が、重度に守る事しか頭になく、敵に攻められれば慌てふためいて藤堂を頼りにして、少しでも自分が危ない目に遭えば部下を見捨てて我先に逃げ出す。片瀬少将ではなく藤堂中佐が指揮を執っていれば日本での抵抗運動はもっと激しいものとなっていただろう。ブリタニアの立場で言うと片瀬が指揮を執っていた方がやりやすいのだけれど。

 

 結構な活気と熱気を放つ練習を見ていると片瀬がのっそりと近寄ってくる。あからさまにはしてないが警戒を兼ねてノネットがいつでも動けるように腰を浮かす。気付いているのか立ち止まってそれ以上近付こうとはしなかった。

 

 「これは殿下。見学ですか?」

 

 ペコリと頭を下げ、頭を上げたときには先ほどの鋭い視線は消え、ニッコリと優しげに微笑んだ笑みを浮かべていた。

 

 「これは失礼を。私は日本軍少将の片瀬帯刀と申します」

 「私は神聖ブリタニア第一皇子のオデュッセウス・ウ・ブリタニアです。先の質問ですがその通り見学ですよ。日本の剣術はブリタニアでは見る事がありませんから」

 「ほう、殿下は剣術の心得を?」

 「毎日とはいきませんが習ってますよ」

 

 帝国最強のナイト・オブ・ワンに指南してもらっているけど何処の流派なんだろうか?もしかして我流だったりするのかな?などと考えていると大きく頷きながらニンマリと笑っていた。

 

 「どうですかな?参加してみては」

 「え?それは―」

 「藤堂中佐。少しいいかな?」

 

 そこまで言うと手を振りながら座禅をしている藤堂の下へと歩んでいく。こちらの回答は全無視でしょうか?確かに昔からビスマルクに仕込まれて腕には自信がある。けれど自分が強いかどうかは知らないのである。ナイトメア戦ならノネットやコーネリアに勝ったという事実があるが剣術はビスマルク以外と行ったことがなく、敗北の記憶しかない。他の誰とも手合わせしたことがないからどれだけの実力かも知る良しもなかった。一応、大会にも出たがこれは幼い頃だからカウントしないことにする。

 

 試合の場合、私個人の問題なら負けても良いのだが問題は立場も絡む事だ。神聖ブリタニア帝国第一皇子が軽い試合だからと言って敗北したなんて話が広まれば後々何か起こるのは必須。例えばブリタニアを良く思わない者達の蔑みの対象とか。私だけが悪く言われるだけでなく、こういう話は周りの者にまで被害が及ぶ。勝つか最悪でも引き分けに持ち込まないと不味い。

 

 と深く考えたが帝国の王子に怪我をさせるなんて外交問題に発展しそうな危険もあることだし軽い稽古程度のものだろうと考え直し、肩の力を抜いて立ち上がる。

 

 片瀬より話を受けた藤堂がチラリとこちらに視線を向けた後、目を瞑って一考してから傍らに置いてあった竹刀を手にとって立ち上がる。こちらに稽古を行なっていた日本人がひとり駆けてきて、怪我がないように防具に着替える為の場所を伝えに来たらしいが藤堂も道着に竹刀と防具をつけてないのでやんわりと断って竹刀を手に取る。

 

 「殿下。宜しいので?」

 「まぁ、大丈夫だろう。これ預かってくれるかい」

 

 灰色のコートをノネットに渡して中央のスペースへ足を運ぶ。目の前に立っていた藤堂が構えた為にこちらも構える。右手は柄の近くを握って、左手はひと拳分の間を空けて握る。体内の空気を全て吐き出すように息は吐き、胸中が落ち着いて静けさで満たされるまで瞼を閉じ、ビスマルクとの訓練を思い出しつつ瞼を開いて相手を見据える。常人なら気迫だけで圧倒されるのだがビスマルクで慣れているオデュッセウスにはまったくもって意味をなさなかった。

 

 「では―――参る!!」

 

 遅かった。いや、決して藤堂の剣筋が悪いわけではない。オデュッセウスが比較している相手に比べて遅いだけで、驚異的な速さである。構えから放たれた突きを受け止めようとしてまた思い出した。ゲームでプレイした『ロストカラーズ』などで見た藤堂の突きは単なる突きではなく、ランスロットに乗ったスザク君でも完全に避け切れなかった『三段突き』だった。

 

 防御しようとした竹刀をそのままに、地面から浮き過ぎないように横に軽いステップをして一撃目を避け、そして着地と同時にもう一度同じように避ける。さすがに一度目のように十分な距離の回避は出来なかったが、二撃目の突きも何とか回避できた。問題は最後の突き。一呼吸もおかずに連続で行なったステップでは回避するほど動けない。なのでここで受け止める。竹刀の先で剣先をずらして柄と柄をぶつけて動きを止める。上手く三段突きを凌ぎきると辺りの静けさが妙に心をざわつかせる。

 

 竹刀を引いた藤堂の目は先程より鋭いものとなり私を見つめるが、それも長くは続かなかった。

 

 「髭のおっさんすげえ!!」

 

 駆け寄って来たスザク君によって視線とピリピリした雰囲気が霧散して、ホッと胸を撫で下ろす。今ので刺激されたノネットが参加しかねないのですぐにここから離れようと決心する。これ以上の荒事は御免被る。

 

 「さて、次の案内をお願いしても良いかな?」

 「喜んで」

 

 話が決まると軽く竹刀を交えた藤堂に深く頭を下げて、来た時と同じく二人と手を繋いで道場を後にする。勿論出る際にも一礼はした。練習に参加できず少し残念そうなノネットには悪い事したなと思いつつも、足は止めずに歩き続ける。

 

 「今度は俺の秘密基地に案内してやるぜ」

 「その前に本殿でしょ」

 「焦らなくても本殿も秘密基地も逃げませんよ」

 「でも明日からまた忙しいのでしょう?」

 「一応外交で来ていますので。ですが、なるべく早く済ませて時間を作りましょう」

 「本当ですか?」

 「本当ですよ。そしたらまた遊びましょう。約束です」

 

 約束を交わしたら二人とも満面の笑顔で喜び、オデュッセウスは楽しそうに案内してくれる二人に引っ張られ、今日も今日とて至福のひと時を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 藤堂 鏡志朗は竹刀を元の位置に立てかけると近づいてきた片瀬に振り向いた。対面した片瀬は気付く事は無かったが鋭い眼が少しだけ揺らいでいた。

 

 「どう見た?」

 「厄介…としか言いようがありませんな。噂では剣術の腕はラウンズ並みで、指揮官としての才は将軍達を凌ぐとさえ言われていましたが」

 「皇族を持ち上げるだけのデマだと思っていたのだが認識を改める必要があるな」

 「はい。全てを鵜呑みにする訳にはいきませんが七割程度は事実と認識すべきだと考えます」

 「ふむ。しかし、いきなり三段突きをした事にも驚いたが見事凌ぎきるとはな」

 

 まるで予期されていたように凌がれた。いや、予期ではなく動きを途中で理解して対応したように見えた。最初は突きに対して防御の構えをとっていたが、急にステップで回避を行なった。しかも一撃目の途中で二撃目の突きを予想したのか回避体勢に入っていた。どんな思考能力と肉体能力を持っていればあれほどの対応を行なえるのだ?

 

 三段突きを凌がれた事よりも対峙したときのほうが印象に強い。相手の力量を測る為に気迫を向けて見たのだが、対抗する事もなく完全に受け流されていた。暖簾に腕押しの如くにだ。最初は軽い手合わせと考えていたのだが、そこまでされたら本気になってしまっていた。

 

 にしてもあれほどの者を敵に回すのは避けたいところだ。もし政府がブリタニアと戦争を行なうとなればオデュッセウスとも戦う事となるだろう。戦争になっても負ける気はないが勝つには難しい相手だ。しかし厄介な相手と認識したがそれ以上にもう一度立ち合ってみたいと望んでしまう。今度は別の物で競うのも良いだろう。

 

 「どうした藤堂?」

 

 不思議がる片瀬の言葉に疑問を覚えた藤堂だったが自然と自分が微笑んでいた事に気付く。そこまで気持ちが漏れていたかと思うと余計に頬が弛む。

 

 「いえ、出来ればまた手合わせをしてみたいものです」

 「そうか。今度は将棋でも打ってみるかね?」

 

 穏かな表情で頷きながら頭の中では明日にでも声をかけられないかと考えるが、藤堂の願いもスザクと神楽耶の約束も叶えられる事はなかった…。

 

 『マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア

  神聖ブリタニア帝国ペンドラゴンにてテロリストの襲撃に遭い死去』

 

 この訃報が伝えられた深夜に、オデュッセウスはブリタニア専用機にて日本からブリタニアへと急ぎ向かった…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。