コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
「暇ねぇ…」
紅月 カレンはコクピットシートに腰かけ、正面の器材に足をかける姿勢で欠伸を噛み殺しながら呟いた。
昨日の飲み食いして十分に休み、英気を養ったそれぞれはヴィー救出のために動いている。
と言っても日中はゼロやレイラ、コーネリアが作戦を詰め、いつもながらのゼロが色々と準備を進めると言う黒の騎士団おなじみの流れ。
パイロットは作戦指示に従って行動するのみ。
その命令に従っているのだが、正直に今はただ待っているのみなので暇で仕方はない。
カレンが操る機体はラクシャータが再設計した紅蓮タイプの“紅蓮特式”。
さらに拠点制圧から防衛までを担うフレームコートの一つ、紅蓮特式用の“火焔光背”を装備している。
おかげで今までのように単騎で突っ込んで近接戦闘に持ち込む様な事は出来ないが、一騎で軍勢を相手にするほどの火力を誇っている。
サイズもナイトメアフレームでなくナイトギガフォートレスクラスの大きさで、移動するだけで遠目でも敵に発見されてしまい奇襲には向かない。
夜間の出撃だとしても見つかり難くなるとしても発見はナイトメアに比べて比較的容易。
ゆえにゼロは彼らをジルクスタン王国主力軍を引き寄せる餌として使う事にしたのだ。
餌と言っても喰いつかせはしても食い千切らせるつもりはない。
その為に大多数を相手に出来るフレームコート持ちと黒の騎士団最強格のパイロットを二人も向かわせたのだから。
『気を緩ませ過ぎだよ』
「仕方ないじゃない。本当に待っているだけなんだもの」
苦笑いを浮かべているであろう枢木 スザクの言葉にため息交じりに答える。
スザクもロイドが基本設計を改良・発展させた“ランスロットsiN”に専用のフレームコートである“ホワイトファング”を装備し、カレンと共に主力軍引付けの任に当たっていた。
巨大なフレームコートが二機並んで浮遊していれば夜であろうと気付くなと言う方が無理であろう。
発見したジルクスタン軍は急ぎ部隊を編成し、首都に侵入する前に迎撃しようと部隊を派遣。
結果、カレンとスザクの眼下には蟻の群れが如くゲド・バッカが集結し始める。
『来たよ』
「確かに来たけど来過ぎじゃない?」
『それだけ味方には有利に運ぶよ』
相も変わらず我が身を犠牲に周りを生かすやり方は変え切れていない。
ユーフェミアが見たらハラハラするだろうか?
…いや、逆にスザクらしいと微笑んだのだろうか?
そんな事を軽く思いながら鼻で嗤い、下方より砲撃してくるゲド・バッカの群れへと降下する。
「先手は行かせてもらうわよ」
『どうぞ』
このジルクスタン王国にて行われる首都よりヴィーを救出する作戦の始まりの合図をカレンはあげる。
砲撃を輻射波動防壁で防ぎつつ、有効射程まで降下した紅蓮特式 火焔光背は巨大な“大輻射増幅型波動撃滅右腕部”を敵軍中央へと向け、カレンはトリガーを引いた。
紅蓮可翔式も長距離・中距離に輻射波動を放つことが出来、紅蓮特式 火焔光背も同様の事が行える。
ただし、機体の大きさと出力に合わせてその威力はけた違いであるが。
右腕部より拡散させられた高威力の輻射波動が敵大部隊を包み、輝きに覆われたゲド・バッカは次々と爆発四散していき、向かってきた部隊の中央部隊が一気に消失したのだ。
敵もそう甘くなく、広域攻撃に驚きつつも一気に壊滅させられる事の無いように散開して包囲砲撃へと移った。
さすがは戦士の国と言われるだけあって動きは良い。
しかしながらそれだけではあの二人に勝利することは出来ないと断言できる。
『今度は僕が行くよ』
同じく降下したランスロットsiN ホワイトファングはフレームコートのサイズに合う大型ランス状の武装“アロンダイト・マキシマ”を装備している。
これはただ撃つだけの射撃兵装とは異なり、複数の目標を入力する事で追尾攻撃する誘導兵器でもあるのだ。
スザクの眼前のモニターには敵機体が映し出されており、それらにロックオンマークが次々と当て嵌められていく。
星々のように散らばった敵機を目標にしたランスロットsiN ホワイトファングは目標補足追尾型射撃管制エネルギー刃“プラズマニードルキャノン”が放たれる。
一種の雷撃の様なエネルギー体が最初の目標を切り裂くと定められた目標へと地面を撫でながら追尾し、次々とゲド・バッカを撃破していった。
一気に向けた部隊の大半をやられた状況を鑑みて、出来れば撤退したい所であるが首都が彼らの後ろにあるとなれば退くに退けない。
かくなる上は援軍を要請しつつ、足止めする作戦に移行するであろう。
それこそゼロが望んだことであり、カレンとスザクが引き受けた任務である。
こうした流れを経て、作戦は次の段階へと移るのであった。
第二作戦はオデュッセウスが率いる部隊による首都警備隊の引付けである。
主力軍がカレンとスザクに向かって行ったが、それでも首都を警備する部隊は数多い。
なので主力が引きつけられている頃合いを見計らって、別動隊であるオデュッセウス隊が陽動を仕掛ける。
オデュッセウス隊はオデュッセウスを主力とした部隊で指揮官をレイラが務め、部隊はかつてのワイバーン隊が務めている。
懐かしい顔ぶれにオデュッセウスは微笑む。
『
殿下呼びで慣れ親しんでいる分、呼ばれてしまった事でさらに懐かしさに酔う。
現在オデュッセウスは上空にて周辺監視を行っていた。
オデュッセウスもカレンやスザク同様にフレームコートを装備したナイトメア“ランスロット・リベレーションブレイブ ウーティス”に搭乗している。
ランスロット・リベレーションブレイブ専用フレームコート“ウーティス”は“火焔光背”とも“ホワイトファング”とも違う能力と目的を有していた。
二機はその巨体と高い出力から大規模な攻撃持って防衛と拠点攻略を担う。
逆に言えば無差別に近い大出力の広範囲攻撃を持つがゆえに細やかな任務には向かず、巨体ゆえに目立ちすぎるという欠点を背負う事になる。
その欠点を補うべく作られたのが“ウーティス”である。
高い火力は有しつつも無差別的な広範囲攻撃を封じ、細やかな攻撃が出来るよう兵装を選別し、一回りほど小型化させた上にゲフィオンディスターバの副作用を持ってステルス性を高め、奇襲や細やかな技術が必要な基地奪還、味方との連携を可能とするものとして設計されたのだ。
そのステルス性は十分に機能し、守備隊より割かれたであろう部隊はランスロット・リベレーションブレイブ ウーティスではなく、レイラ達のナイトメアフレーム隊に向けて進撃していた。
レイラ達はナイトメアフレームを持ち込んではいないので、オデュッセウス達が嘆きの大監獄にて捕縛したジルクスタン製ナイトメアが与えられ、レイラはシェスタール親衛隊長が乗っていたジャジャ・バッカ、アキトにリョウ、ユキヤにアヤノはゲド・バッカに搭乗しているが、正直中距離・近接攻撃にて能力を最大限に発揮できるアキト達にしては長距離戦に特化したゲド・バッカは不得意な機体であった。
「結構な数が出て来たね。軽く一個中隊…いや、二個中隊はいるかな」
『了解しました。全機砲撃戦準備!』
レイラの号令に従ってアキト達は砲門の角度を修正を加えて砲撃準備に入り、オデュッセウスは逆に突入準備に入る。
この戦力と機体能力からして後方待機でなく前衛に周った方が被害も少なく、ランスロット・リベレーションブレイブ ウーティスの能力を発揮できるというものだ。
ついでに制作者であるパール・パーティにお土産として戦闘データを持ち帰ろうと思っている。
『殿下。お願いします』
「あぁ、行くさ」
上空より降下するランスロット・リベレーションブレイブ ウーティスはそのステルス性から発見は遅れに遅れた。
元々頭上と言うのは死角になり易く、目の前に敵がいるというのにレーダーに映らず、さらに夜間と言う物の判別がつき辛い暗闇が巨体を隠す。
そして敵がその巨体を目視したときにはすでに、ランスロット・リベレーションブレイブ ウーティスの掌に内蔵されていたハドロンブラスターが放たれた後であった。
数機が直撃を受けて爆発四散した事で驚いて隊列が崩れ、その隙を逃がすまいとオデュッセウスは追加攻撃を加える。
「目標下方全周囲―――行け!!」
フレームコートはそれぞれ人型に近い形を取っている。
ウーティスも同様に人型に近い形をしており、両手には鋭い爪の様な指が五本並んでいる。
それらは物を掴む事も可能だが、主だった使用方法は目標物の破壊。
指の一本一本が大型のメギドハーケンなのである。
合計十本のメギドハーケンがゲド・バッカを襲い、背中から四本の輻射推進型自在可動有線式右腕部が射出して中距離の敵機を薙ぎ払い、アサルトライフル装備のサブアームが自動標準にて近くの目標へと弾丸を叩き込む。
驚きから混乱へと陥ったジルクスタン軍にアキト達の砲撃が加わり、彼らの混乱は収拾が付かなくなっていった。
混乱しつつも戦士である彼らは本能的に一番の元凶を排除しようと攻撃を集中させる。
これはウーティスゆえの欠点である。
長距離・広範囲攻撃を封じ、他の部隊と連携する為に“火焔光背”や“ホワイトファング”よりも射程が短く、接近しなければならない。
その為、長距離砲撃戦を得意とするゲド・バッカの有効射程に捉えられてしまったのだ。
だが、製作者であるラクシャータが集めた天才児達がそんな解かり切った問題を放置する筈もなく、防衛能力として輻射波動防壁を装備していた。
さすがにモルドレッドみたいに全方位に隙間なく展開は大きさから不可能だが、半分以上を覆う事は可能である。
メギドハーケンや輻射推進型自在可動有線式右腕部などが装備させられた理由は、火力面もあるけれどもそれ以上に防壁の隙間をぬって自由に攻撃できる有線兵器だからである。
なんにせよ敵中央で暴れるオデュッセウスと砲撃を続けるレイラ達によって守備隊の一部を首都より離す事に成功。
これを持って第二作戦が終了し、本命である第三作戦に移行される。
シャムナは敵の動きに驚かされていた。
ジルクスタン王国上層部は敵による奪還作戦、もしくは侵攻作戦があるだろうと策を講じた。
内部に潜入している黒の騎士団とオデュッセウスを逃がすまいと外への道を塞ぎ、来たる侵攻作戦に対して時間稼ぎの持久戦の準備を始めさせた。
世界の大半が加入した超合集国の武力である黒の騎士団は、兵器も兵糧も弾薬も有り余るほど投入出来る事から持久戦を用いても勝ち目は皆無だと各将兵は認識しているようだが、計画さえ上手くいけばその後の事も何も心配はなくなる。
時間さえあればすべてはこちらの手中に収まる―――そう思っていた。
まさか嘆きの大監獄を襲撃してその翌日には首都に攻め入るとは予想外過ぎた…。
飛行能力を有するナイトギガフォートレス二機による正面からの進行と、時間差での後方からのナイトギガフォートレス一機と鹵獲されたナイトメア部隊による首都に対する挟み撃ち。
首都にて待機していた主力部隊より迎撃部隊を正面に、後方に主力の一部と守備隊を合わせた部隊を向かわせたが被害を受ける一方。
混乱に落ちいる部隊を再編し、首都に残っていた援軍を差し向けて撃破に向かわせた。
部隊にはシャリオにブラッドリーも加わって戦力は十分。
しかしこんなあからさまな侵攻だけとはボルボナ・フォーグナー大将軍は想っておらず、必ず本命である別動隊が居るであろうことを見抜いていた。
そしてその判断は当たっていた。
荒野より手薄になった守備隊を突破して首都内に突入した部隊が居た。
サザーランドⅡ五機、
約三個中隊規模のナイトメアフレームに指揮官機であろうクインローゼスはあの“
敵本命部隊の排除を最優先事項と位置付けて部隊を動かすも、そのすぐ後にはジルクスタンのあらゆる指揮系統が途絶えてしまった。
本命は確かに居たが、それはコーネリアの部隊でなかった。
コーネリア隊を撃破しようと部隊を動かそうとしたその時、ジルクスタン各省庁と軍令部が音信不通となったのだ。
ゼロの作戦は第一、第二の囮作戦を経てコーネリア部隊により首都への突撃が行われた。
これは敵にコーネリアこそが本命と誤認させる事こそが目的であり、本命は警戒が外とコーネリアに向いた隙に、政庁と軍令部を制圧、または破壊することが目的であった。
ギアスで操った軍人も含む人々を途中までコーネリア隊が移動で使っていた列車で首都へと運び、コーネリア隊が突撃を敢行する前までに伏せて置き、時刻と同時に指定していた目標地点への攻撃から工作を開始。
警戒が他に向いていたからこそ作戦は上手くいき、ロイドにセシル、ニーナなどが政庁からヴィーの正確な所在などの情報を抜く。無論警察や守備隊がやって来るだろうが指揮系統を失っている彼らでは時間が掛かる。各個の判断で動いたとしても護衛としてつけたアシュレイ・アシュラを隊長とした
部隊はあちこちに散らばり、軍から民間までのすべての指揮機能を失ったジルクスタンは立て直しを図らなければならなくなり、事態の収拾は困難になりつつある。
さらに追い打ちと言わんばかりに移送に使った列車に爆薬を詰め、王城へと突っ込ませて爆発させ、守備隊を突破したコーネリア隊によって王城が攻撃を受ける事態へと発展。
もはや混乱の収拾は不可能。
神殿にて“門”を使用してCの世界に干渉しようとしていたシャナムは溜め息を一つ零す。
こちらの予想をはるかに上回る動きに策略…。
黒の騎士団を過小評価し過ぎていたかもしれない。
こうなっては
遺跡と繋がっているカプセルより上半身を起こしたシャナムは苛立ちながら周囲を見渡す。
周囲は遺跡を改造し、門をシステム的に構築する為に必要だった機械類が並び、至る所にコード類が繋がっている。
カプセルの脇には神官である女性六名が警備も兼ねて待機していた。
もうギアスを使うべきかと、携帯していた拳銃に手を伸ばそうとして止めた。
遺跡入り口をナニカが飛び込んできた。
暗がりより遺跡内部へと入り込んだのは一騎のナイトメアフレーム。
神官たちが護ろうと前に出ると機銃掃射によって命を落とした。
『ここまでだ。シャナムよ』
私を撃たなかったナイトメアより仮面の男が姿を現した。
ゼロ…。
ブリタニアに占領された日本にて反ブリタニア組織を指揮し、小さなレジスタンスからブリタニアに対抗し得る超合集国及び黒の騎士団を作り上げた英雄。
そしてジルクスタン王国に困窮をもたらした要因の一人。
憎しみに苛立ちを募らせ、コクピットから姿を現しているゼロを睨みつける。
「チェックメイトだシャナムよ。無駄な抵抗はせず、ヴィーを返してもらおうか?」
勝ち誇ったように宣言する姿は――――
少し溜飲が下がった気がする。
「確か六時間前はお風呂だったかしら?」
「何の話だ?」
「いえ、こちらの話よ」
彼には私の言葉の意味は解らない。
いえ、解る事はない。
何気ない動きで拳銃を取り出し、銃口をこめかみに当てる。
意図を察し切れなかったゼロは動く事無く、一発の弾丸がシャナムの命を奪い去る。
瞳に赤く輝くギアスの紋章を浮かべて…。
暗闇に落ちて行く意識が覚醒し、シャナムは光の中に包まれる。
周囲へと視線を向けると広い大浴場を満たす湯船に下半身を浸け、前には肩まで湯船に浸かる丁度良い体勢を維持できるように、湯船の中に柔らかな椅子を沈めてシャリオがだらんと楽な姿勢で座っていた。
六時間前に戻った事を確認し、
触れていた手が離れ、離れて行く感じから目を閉じていたシャリオがたらんと垂れた瞳を向け首を傾げる。
「どうしたの姉さん。まさか予言?」
シャリオの言葉に頷きながら答え、周りで控えている給仕の子らに通信機を持ってくるように指示する。
彼女はギアスユーザー。
それも死ぬ事で六時間前に遡れるという逆行のギアス。
ジルクスタン王国にある予言は全て彼女のギアスの能力によるもの。
以前は先読みのギアスであったが、シャルルとマリアンヌの計画のせいでシステムが歪み、コードの継承が不完全に終えたばかりか今のギアスへと変化してしまったのだ。
運ばれた通信機を手に取り、ボルボナ将軍に予言として自分が体験した未来に起こる事を告げる。
そう…このギアスがあれば相手が大国であろうと大軍勢であろうがジルクスタン王国が負ける事は無い。
オデュッセウス達はこれより完全に対策を施された敵地へと足を踏み込むのであった。