コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
『暇ねぇ…』
欠伸を噛み殺したようなカレンの言葉にスザクは苦笑いを浮かべる。
現在カレンとスザクはジルクスタン主力部隊を引き付けるための囮として、拠点制圧や防衛を目的に開発されたフレームコートを装備した紅蓮特式 火焔光背とランスロットsiN ホワイトファングの二機で首都へ向かって進軍していた。
無論首都を攻撃する気はない。
フレームコートによる攻撃は高威力の広範囲なので、もしも街で使ったら目標問わずに被害をもたらしてしまうので民間人にまで被害を出してしまうだろう。
それは断じて容認できるものではなく、ルルーシュもさせる気も無いので目立つように進み、荒野で敵部隊と戦闘を行う様にしているのだ。
そう言う訳で敵部隊を吊り上げる為に目立ち、接敵してくるまで待機しなければならず、カレンには暇で仕方がないようだ。
「気を緩ませ過ぎだよ」
『仕方ないじゃない。本当に待って――――ッ!?』
「カレン!!」
横に並んでいたカレンの紅蓮特式 火焔光背を巨大なナニカが左右から挟み込む。
自動で輻射波動防壁が展開されてそのまま潰されたり、機体が掴まれたりする事は無かったが、そのナニカは防壁ごと挟み込んだまま引っ張っていったのだ。
咄嗟の出来事で対応できず、紅蓮特式 火焔光背は地上へと引き摺り下ろされる。
そこにはサソリを模したような巨大なナイトギガフォートレスが降り、防壁に攻撃を加え続けている。
早々に突破される事は無いが、全面展開しているがゆえに反撃も出来ず、持久戦に持ち込まれれば必ずエナジー切れを起こす。
助けなければと思っている視界の先で、今まで認識できていなかったゲド・バッカの大部隊が現れた。
見落としでも、レーダーの不調でもない。
ゲド・バッカは周囲に溶け込む同色のシートをかけて物理的に姿を隠し、ジャミング装置を用いてレーダーを誤魔化したのだ。
突発的な遭遇戦ではない。
あれだけ用意周到に装備を準備し、こちらの侵攻ルートを把握し、対抗できる戦力を用意した完全な待ち伏せ…。
どうやってと疑問も浮かぶがそれよりもカレンの救出だ。
前に出ようとしたスザクは機体が揺れる衝撃を受けて周囲へと視線を向ける。
そこには一機のナイトメアが空中を飛翔していた…。
『久しいな枢木』
「ブラッドリー卿!?何故ここに」
ルキアーノ・ブラッドリーの専用機であるパーシヴァルを回収したであろうナイトメアに、聞き覚えのある声にスザクは驚きよりも苛立ちを露わにする。
オデュッセウスから襲ってきた敵の中に居た事は聞いていたが、こうして目にするのとでは実感が違う。
不用意に接近してくるブラッドリーに対し、目標補足追尾型射撃管制エネルギー刃“プラズマニードルキャノン”を放てる大型ランス状の武装“アロンダイト・マキシマ”を振るって迎撃するも巨体ゆえに速度が遅く、易々と回避されてしまう。
『解かり切った事を口にする―――こここそが
回避したパーシヴァル・ブラッドレイルは距離を離すことなく、付かず離れずの距離を維持する。
フレームコートは高い火力を誇り、一体多数戦を可能とする広範囲攻撃を得意とするが、その巨体ゆえに近接戦闘は不得手なのである。特にホワイトファングは火焔光背と違って近接武器は装備していない。
コクピット左右に取り付けられたアサルトライフルより弾丸が放たれ、ホワイトファングに着弾していく。
さすが元ナイトオブラウンズ。
ひと目で弱点を見破り、さらに有効な手段を即座に実行する。
嫌いな相手ではあるが、腕は認めるほかない。
カレンを早く救出したいが、このホワイトファングでブラッドリーを相手にしながらの救出は不可能だ。
となれば一刻も早く決着をつけて向かうしかない。
「邪魔をするというのであれば――落とします!」
『もう堕ちているさ。これ以上堕ちる事も無いと思うがね』
楽し気に話すブラッドリーの言葉が通信越しに聞こえ、耳障りと言わんばかりに苛立ちスザクはブラッドリーと対峙する。
荒野にてカレンとスザクが待ち伏せを受けた事を知る事もなく、首都内に入ったアシュレイ・アシュラは突然の事態に笑みを浮かべる。
列車に搭乗して首都内へ入り、状況を聞こうとゼロに連絡を入れたが通信不可と表示されるのみ。
ゼロどころか首都に入る前に荒野で跳び下りたコーネリア隊にも繋がらず、短距離通信でも微妙に雑音が混じる。
確証もなく、単なる直感にて発せられた命令により貨物列車から飛び出したのはかなりの幸運だったろう。
なにせ駅周辺にはゲド・バッカが待機しており、あと数秒出るのが遅れていたら多方向から砲弾を撃ち込まれた列車と運命を共にしていたからだ。
「ッハ、何なんだよコレ!!」
驚いている割には楽し気な口調で、直前で跳び出すとは思わずに驚き、動きの止まったゲド・バッカに接近して頭部に振り上げた腕を思いっきり振り下ろした。
金属がへしゃげる音と振動を感じ取りながら、背後に周ると同時にその機体を盾に突き進む。
『アシュレイ様!ご無事ですか!!』
「そう簡単にこのアシュレイ・アシュラがやられっかよ!」
『全機アシュレイ様に続け!!』
アシュラ隊は嘆きの大監獄で鹵獲したゲド・バッカ五機に搭乗している。
ただアシュラ隊は全員で八名おり、アシュレイは当然のように乗るとして残りのパイロットは四人。なのでヨハネ、ヤン、アラン、シモンはパイロットとして搭乗し、ルネ、フランツ、クザンは白兵戦装備で相席している。
仲間を盾にされて躊躇いから動きが鈍る。
そこをアシュラ隊の猛攻が襲い掛かり、包囲網の一部を突破することに成功。
元々技量が非常に高く、実戦慣れしたアシュラ隊の連携を咄嗟に押さえるのはラウンズクラスの者でもいない限りは難しいだろう。
盾にしていた機体は頭部を潰されて周囲の様子が解らず大人しくしていたようだが、ようやく察しが付いたのか暴れ出したので近くに居た敵機に投げつけて砲弾を一発だけお見舞いしてその場より離れる。
五機が通り過ぎた後に投げつけられた機体は砲弾を叩き込まれた箇所より火花を散らし、爆発して周囲に爆炎を撒き散らす。
「アイツらやべぇな!」
『自らの首都でナイトメア戦を行うなど正気の沙汰ではありませんよ』
『それも流通のライフラインを潰すような真似までして…』
「どうでも良いそんな事。ヨハン!」
『は、はい!』
「テメェとシモンは客人の護衛。歩兵はその護衛だ。残りは俺と暴れるぜ!」
客人と言うのは政庁に向かうロイド達の事で、アシュラ隊はその護衛を務める予定だった。
しかしながらこうして攻撃を受けた事からアシュラ隊がそのまま護衛に就けば敵部隊は集中的に攻めて来る。そうなればさすがのアシュラ隊でも対応は難しい。
路地裏に逃げ込み、同乗していたロイドにセシル、ニーナに咲世子、扇に玉城をそれぞれの機体より降ろす。
「良いか!俺達が敵を引き付けるからそっちはそっちで何とかしてくれ」
『何とかって言われても…』
「泣き言言う暇があるならさっさと行きやがれ!」
アシュレイはロイドの言葉を遮るように言い放ち、路地裏から飛び出して敵機に砲弾を叩き込む。
その表情は危機的状況に関わらず、楽し気に嗤っていた…。
一方、作戦の総指揮を執り、現在は状況を整理しつつヴィーの居場所を探っていたゼロであるルルーシュは焦りに焦っていた。
黒の騎士団を立ち上げた時から幾度となく危機には見舞われたが、今回は打開策すら見つからない程の危機なのである。
当時敵対していたスザクのランスロットというイレギュラーならまだ何とか出来た可能性があった。
知力で同等かそれ以上のシュナイゼルとの駒の打ち合いであれば、押し切られても個々人の腕やフレームコートなどの性能差を用いれば打開は出来た。
本当に今回のは次元が違い過ぎる。
カレンとスザクの二人は元ラウンズのブラッドリーと巨大ナイトギガフォートレス、それとゲド・バッカの大部隊による伏兵に合い、コーネリア隊は列車を降りたところで待ち伏せを受けたと報告を受けたのだ。
そこで列車を狙わなかった辺り、こちらの戦力を首都内部で削るか捕縛する気なのだろう。
身動きの出来ないカレンとスザクはその場を打開しようと戦闘を開始。
コーネリア隊は察して包囲している部隊を何とか突破し、首都へと向かって行った。
方向的には王城を攻撃して隙を生み出す気なのだろう。
そうすれば立ち直すだけの時間を稼げたかもしれない。
しかしルルーシュの想いを他所に状況は最悪の一途を辿っていく。
首都内から観測できた戦闘の様子にジャミング…。
これにより長距離通信は出来なくなり、戦力は全て敵と接敵してしまった。
指示も飛ばせない。
手の空いた部隊も存在しない。
このままではと舌打ちを零したルルーシュは周囲の異変に気付いた。
暗闇に覆われた大地をナニカが迫ってきている。
「チッ!こちらの動きも知っているという事か!!」
向かってきているナニカ…。
ゲド・バッカの大部隊にルルーシュは焦り苛立った。
ルルーシュが搭乗している機体は真母衣波 零式。
蜃気楼同様に黒と金のカラーリングが施された新型機。
しかし武装はスラッシュハーケンに剣、機銃と在り来たりな上に、ドルイドシステムを用いて絶対領域などは装備していない。
パイロットがスザクやカレンであれば打開も可能だったが、ルルーシュの技量では多少の抵抗が出来るレベル。
一斉に放たれた砲撃をブレイズルミナスで防ぎながら、思考は回転させ続ける。
相手の布陣に動き、さらにこれだけこちらの策を読んだ相手の事を…。
「っく、こんなところで!?」
左足が吹き飛んだ。
機体がふら付いて動きがズレて防げた攻撃により右腕が消し飛ぶ。
動揺する間もなく頭部に直撃を受けてメインモニターが消える。
衝撃を押し殺せずにゼロを乗せた真母衣波 零式は煙をあげながら落ちて行った…。
状況を一切知る事の出来ない身であるも、モニターに映し出されたナイトメアを理解するや否や、オデュッセウス・ウ・ブリタニアは凡そではあるが理解した。
信じたくないし、あり得ないと心の中で呟きながらも絶対ではないと言い聞かせ、溜め息一つ零す。
「レイラ隊は首都へ向かいニーナを護ってあげて欲しい」
『殿下?それはどういう―――ッ!?』
「あの機体相手にゲド・バッカでは歯が立たない。私が稼ぐから……頼むよ」
『後で合流を!』
「勿論だよ。なにも死ぬ気は無いよ」
オデュッセウスの後方で待機していたレイラはアキトらを連れて、迂回するように首都へと向かって進んでいく。
正面のナイトメアフレームを避けるように…。
見覚えのある純白のナイトメアフレーム。
難民キャンプでパーシヴァルと共に襲撃してきた知らない新型。
嘆きの大監獄でシャリオと話していた際に名前だけは聞き出した国王専用機。
「ジルクスタン王国シャリオ国王専用機―――ナギド・シュ・メイン」
『その通りだよ。第100代神聖ブリタニア帝国皇帝オデュッセウス・ウ・ブリタニア』
「皇帝の座はもう渡したから今はただのオデュッセウスだよ」
一度戦った事から圧倒的な実力差に怯え、気を抜けば竦みそうな心に鞭打って、平常を装う様に言葉を吐き出す。
スザクやカレンと同等かそれ以上の敵など相手にしたくない。
ダモクレス戦ではマリアンヌ様に斬りかかった事もあったが、あれは周囲に自分より強い者がおり、一対一の状況ではないから良かったものの、この場には自分とシャリオしかいない。
レイラ達にそのまま援護して貰っても良かったが、先に行ったようにゲド・バッカではアレには勝てない。
逆にレイラ達の方を攻められた場合、彼相手に援護できる自信も無いが…。
『貴方との時間は有意義だった。何分身体が不自由だったからね。こうして多岐に渡る事柄を知る事もなかった』
「それはこちらもだよ。君との語らいは中々に楽しかった」
『もっと別の出会いをしていたらこの国はより良き未来に進めたかも知れない』
「かもではないよ。必ず進めたさ。別の出会いと言わず今からでも間に合う」
『それは無理だよ。ボク達は黒の騎士団を敵に回した。ここで手を抜く様なことあれば民は蹂躙され、報復と言う戦火がジルクスタン全土を焼くだろう』
「父上の時代ならそうだろう。けど今はそうもいかない」
『どの道ボクは姉さんの計画の為に戦うだけさ』
トーンがスッと変わり、緊迫した雰囲気が流れる。
それを感じたオデュッセウスは操縦桿を強く握り、いつでも仕掛けれるように準備だけは整えておく。
ただそれ以上に溢れ出そうな感情に戸惑いを覚える。
『ボクは戦士だから…戦う事こそが国に、民に、姉さんに報いる唯一の方法だ』
あぁ…駄目だ。
彼は完全に退路を断ってしまっている。
自身でそれしかないと思考を狭めてしまっている。
周りに与えている申し訳なさに苛まれて自己犠牲が当たり前になっている。
私は今…どうしようもなく腹が立っている。
彼に対してもだが、彼を戦いの道にしか導けなかった周囲の者に、そして何より知らなかったとはいえ気にする事すらしなかった私自身に。
「色々言いたい事はあるが、とりあえず君を止めるとしよう」
『止めるか…ならこちらはその機体から引き摺り出して連れ帰るとしよう』
「折角のお招きだがそれは遠慮させてもらおう。私はとっとと帰って心配かけてしまった弟妹に平謝りして、ニーナ君とゆっくり家で過ごす予定なのでね」
決死の覚悟でオデュッセウスは挑む。
相手はラウンズ最強レベルの技量と何処から得たのか最新技術を駆使したナイトメアフレーム。
きっとただでは済まないだろう。
敗北の可能性の方が高いのは解かり切っている。
でもここで奴を放置したら近くの首都に展開させた部隊が壊滅する。
それだけはさせる訳にはいかないんだ。
ついでにフレームコ―トを壊してしまった場合の事も覚悟しておこうかな。