コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第144話 「決着ジルクスタン」

 シャムナは目を覚ました。

 幾度と死に、過去に戻ってはこちらに都合の良いように手を打って、何度もCの世界にアクセスを繰り返し、あと少しで手が届きそうなところまで行けた。

 後少しですべてが上手く行くのだ。

 遺跡や機器類と繋がったカプセルより上半身を起こすと。異様に暗い事に気付いて小さくため息を零す。

 異変が起きた事は今日だけで何度あった事か。

 周囲を見渡せば護衛も務めていた彼女らが伏している。

 

 「また死んでしまったのねお前たち」

 

 これも初めてではない。

 一度目は敵ナイトメアフレームが侵入してきた際に放たれた機銃で彼女達は命を落とした。

 多少憐れむ事あれど泣くほど悲しさはない。

 何故ならまた過去に戻れば彼女達は生きるのだから。

 視線を周囲の彼女達から距離を置いてこちらを見つめる仮面の男―――ゼロに向ける。

 

 「Cの世界にアクセスしようとしているのか?」

 

 カプセルより出て対峙するとゼロはそう言い放つ。

 Cの世界を知っているという事はギアス関係者かと疑惑を抱いていると、それを掻き消すような驚きが襲う。

 ゼロは告げると仮面を外したのだ。

 そしてその素顔をシャムナは知っている。

 今まで死に戻りをする中でではなく、ニュースや情報として見た事がある。

 

 行方不明になっていたが最近になって発見された神聖ブリタニア帝国の皇子―――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 

 「貴方は確かルルーシュ・ヴィ・ブリタニア!?まさか日本解放の英雄がブリタニアの皇子だったなんてねぇ」

 「どうして俺が小さなレジスタンス組織でコーネリア軍と渡り合い、超合集国を作り上げてブリタニアと戦えたか分かるか?」

 

 驚きながらも懐から拳銃を取り出し向ける。

 先の発言からギアスユーザーである事も加味して視線は逸らし、ルルーシュからの質問に対しては興味な下げに「さぁ?」とだけ返す。

 するとさらに驚きの解答を放って来た。

 

 「判る筈だろ?俺と同じギアスを持つお前なら」

 「私と同じギアス!?まさか…いや、でも…」

 「長い話になりそうだ。紅茶でも入れて貰えないか?すまない苦手だったな」

 

 同じ過去に戻るギアス…。

 否定しようとしたが仕切れない。

 奴はこちらの打った手に対して有効な手を幾つも打って来た。

 私みたいに過去を改変せずに、こちらの手を打たせたうえで別の策で攻めたのは何故?

 否定しようにも肯定しようにも決定打を即座に出せないシャムナはふとルルーシュの周囲にも伏している彼女達を異変に気付いた。

 ピクリと動いたのだ。

 どうたら死んでいたのではなく気絶していたのだろう。

 紅茶が苦手だと言う事を知っていると口にする事で、余計に同じギアスの可能性を示唆して勝ち誇った顔をするルルーシュに、シャムナはキッと強気に睨みつける。

 

 「どうした?使ってもいいんだぞギアスを」

 「無礼者。まずは貴様が力を使って見せよ!」

 

 カツンと靴を鳴らす。

 すると伏していた彼女達はルルーシュに抱き着く形で動きを封じる。

 ここでルルーシュが死ぬ、または殺す事があれば過去に戻られ、また何かしら仕出かしてくる。

 それをさせる訳にはいかない。

 

 「殺してはなりません!」

 「良し!これで条件は全てクリアした!!」

 

 シャムナは決定的なミスを犯した。

 まずルルーシュのギアスはシャムナのギアスと違う。

 今までの発言は全ては唯一解らなかったシャムナのギアスを使用する為の条件を知る為。

 そして何よりピクリと動いた彼女達は気絶していたのではなく、ギアスでそうしているようにと命じられての事。

 

 “殺してはならない”と言う事で死ぬことで発動すると解ったところでルルーシュはパチンと指を鳴らす。

 するとシャムナの周辺で倒れていた女性が勢いよく立ち上がり、杖を振るって手にしていた銃を弾き飛ばした。

 これでは自ら命を絶って戻る事も出来ない。

 全てがルルーシュの策略と気付いたシャムナはキッと睨みつける。  

 

 「騙したわ…ね……」

 

 睨みつけると赤く輝く瞳を見てしまった。

 意識が遠のきそうになるのを耐え、ギリっと音がなるほど噛み締める。

 

 「知りたかったのはお前のギアスの発動条件。死ぬことで時を戻るギアスとはな…」

 

 勝ち誇った表情を向けるルルーシュに苦悶の表情を浮かべるシャムナ。

  

 「これは…ギアス…私を殺すと言うのか!?」

 「いや、お前には眠って貰おう。永久に!!」

 「眠る!?」

 

 絶対順守のギアスによって眠れという命令を受けたシャムナは瞼を降し、ふらりと倒れるところを周囲の女性が支える。

 意識が遠のき完全に眠りに落ちた事で、ルルーシュは小さく安堵の吐息を漏らす。

 その様子を陰より眺めていたC.C.は姿を現し、ルルーシュに問いかける。

 

 「大丈夫なのか?」

 「命令書を見るに戻れる過去は九時間以下。ならここを十時間後に爆破すれば問題ない。過去に戻っても寝ていては何も出来まい。それよりヴィー(V.V.)はどうした?」

 「先に乗せたよ。まったくああも性格が変わると気持ちが悪いな」

 「お前も似たような時あっただろうに」

 

 鼻で嗤い、爆弾を遺跡が完全に崩れる位置に仕掛けて行く。

 これでカプセル内のシャムナも含めて機器類も破壊し、二度とこの人工の入り口を使えないだろう。

 シャムナをカプセルに運んだ女性達にはもう用は無いので、先に避難するように命じてからルルーシュもこの場から退避するのだった。

 

 

 

 

 

 

 『作戦は達成した!全員生き残る事を第一に行動せよ!!』

 

 無線機よりルルーシュの声が響き、ニーナとその周辺に居る全員が出来るならしたいよと内心叫んだ。

 現在街中を逃走中だったニーナ達はジルクスタン軍に発見されて交戦中であった。

 ゼロの通信はジルクスタンの無線を使用しているので彼らも聞こえているのだが、負けた事に納得できないのか、それとも何も考えずに出ていた命令に従っているだけなのかまだ仕掛けてくるのだ。

 マークネモのおかげで何とか戦えているが、使っていたゲド・バッカの大半は限界に達していた。

 レイラ隊にアシュラ隊のを合計しても4機程度であり、それも中にはエナジーや残弾に不安を覚えるものばかり。

 なので大半のパイロットが銃を手にして援護射撃や敵歩兵と戦っている。

 

 今は何とか凌げているがこれ以上敵機が増えたらさすがに対応仕切れない。

 そう思っている矢先に数機のゲド・バッカが合流し、敵の戦力が増えた。

 

 「また来ちゃったよぉ…」

 「情けない声出すんじゃねぇよ」

 「ま、出したくなる気持ちも解るけどね」

 「リョウもユキヤも口より手を動かす。あの忍者みたいな人を見習いなさいよ」

 「忍者ではなくSPです」

 

 離れていたゲド・バッカのコクピット上部に人間離れした身体能力で飛び乗り、手榴弾で爆破したついでに付近の歩兵部隊の武器に苦無を投擲して使用不能にした篠崎 咲世子は戻って来たと思ったら即座にアヤノの一言に訂正を入れた。

 会話だけ聞くとまだ余裕がありそうなのよね…。

 

 『アハハ、まだいっぱいいるじゃない』

 

 スピーカーを通して聞こえてはいけない人の声が聞こえた気がした。

 きっと幻聴よねと言い聞かせるも、ゲド・バッカとは異なるランドスピナーの音が徐々に近づき、ナニカが空高く跳んだ。

 落下ダメージを完全に流すように着地したのは一騎のヴィンセント。

 集まっていたジルクスタンのゲド・バッカが新手のヴィンセントに砲身を向ける。

 それに臆することなくヴィンセントが駆け抜けた。

 流れるような動きで、荒々しく命を刈り取っていく。

 瞬きする間に五機ものゲド・バッカが切り裂かれ、通り過ぎた後に爆発して残骸を周囲に散らす。

 ナイトメアはヴィンセント・ウォードでもヴィンセント指揮官機でもなく、ロロが搭乗した物と同型のヴィンセント。

 金色のパーソナルカラーが輝きながら駆け抜ける様子はまさに閃光。

 砲弾の悉くをすり抜け、敵機を残骸の山へと変えて行く。

 間違いない。あの人(マリアンヌ様)だ。

 そう認識するとこの状況下で来てくれたことは本当に心強いが、何故という疑問が頭痛と言う形で襲ってくる。

 

 誰も仕掛けてきた事を理由に殴り込みを個人が国家に対して行ったとは思うまい。

 それも試作の偵察機を持ち出したうえで、燃料が切れたからと言って捨てたなど…。

 

 マリアンヌのヴィンセントは新たに現れたゲド・バッカ一個小隊にMVSを投げつけて二機を撃破し、残る一騎はコクピットブロックに踵堕としを喰らわせたのちに、エナジーパックを無理やり引き抜いて自身のヴィンセントのと交換してエネルギー補給を行っていた。

 

 『あら?何時までそこに居るのかしら?さっさと逃げなさいな』

 「でも、マリa―――貴方はどうされるのですか?」

 『ちょっと物足りなくて。もう少しここで遊んでいくわ』

 

 本当に楽し気に言い放ったマリアンヌ様は、放たれた砲弾をエナジーを抜き取った機体を盾にして防ぎ、力業でむしり取った砲身をバットのように握って駆け、撃って来たゲド・バッカを思いっきりフルスイングした。

 砲身は折れ曲がり、殴られた方は機体を大きく潰されながら転がる。

 アレは楽しんでおり、邪魔をしたら何をされるか分からない。

 味方の筈なのに恐怖を感じる…。

 後ずさりしたニーナに向かって突如現れた大型のトレーラーが突っ込んで来たかと思えば、途中でタイヤを滑らしながら直前で停車した。

 何事かと皆が銃を構える中、助手席の窓が開いて長い白髪を後ろで縛り、サングラスで目を隠し、アロハシャツを着こなした大柄な男性が顔を覗かせた。

 凄く見覚えがあるのですが…。

 

 「早く乗れぇい」

 「ア、ハイ」

 「え!?あれってもしかして皇t――」

 「急いで乗りましょう!」

 

 気付いたロイドが口にし終える前に背を押しつつ、皆を荷台の方へと向かわせる。

 残弾が尽きているゲド・バッカは廃棄して、レイラ達も急いで乗り込む。

 ちらりと運転席を見つめると酷く疲れた表情をしたビスマルクと目が合った気がしたが、今気にしている場合じゃないとあえて見なかったことにして乗り込むのだった。

 トレーラーが発進するとゲド・バッカ二機とマークネモが護衛に付き、敵機の残骸ばかりが広がるこの場から離脱するのだった。

 

 

 

 

 

 

 コーネリア・リ・ブリタニアは微笑を浮かべていた。

 王城にてバルボナ・フォーグナー率いる大部隊と対峙し、オルフェウスの助けを受けて橋の脚部に身を潜めていた身としては、ゼロ―――ルルーシュが勝ちを宣言したのには心が透く様な思いでいっぱいになったのだ。

 なにせ軍事大国だった父上が統治していた神聖ブリタニア帝国の大部隊でさえ大した戦果は挙げられなかったジルクスタン王国に対して白星を挙げたのだから。

 ゼロは生きる事を一番に撤収を命じたが、ルルーシュだけ白星を挙げて撤収すると言うのも癪だ。

 

 「ギルフォード、ここは私だけでも王城に突撃を駆ける」

 『姫様、それは…』

 「勝てばよいのだ。負けても味方撤収の囮にはなるだろ?」

 『我らもお供します』

 

 ギルフォードの答えを聞き、振り返るとグラストンナイツ全機が大きく頭部を上下させて意思を表す。

 絶対の信頼を置ける騎士と心強い部下の心に触れ、小さく鼻で笑う。

 

 「フッ、好きにしろ」

 『なら派手に行かせてもらおう』

 

 呟いた所でオルフェウスが割り込む。

 同時に銃声が響いて何事かと思えば、橋の上に居るゲド・バッカが上空に向けて撃ち続けていた。

 射線上にはいくつものミサイルが飛翔しており、それを迎撃しているようであった。

 それは海上よりオルフェウスが母艦に使っている潜水艦よりの支援攻撃。

 ゼロの敵の通信を使用する案に乗っかって、座標だけを送って攻撃を要請していたのだ。

 敵の目は完全に上空に向いており、行くなら今しかない。

 

 「行くぞ!!」

 

 スラスターを吹かして橋上部に一気に飛び乗り、そのまま敵部隊へと突っ込む。

 少し遅れてオルフェウスの烈火白炎にギルフォードのクインローゼス、グラストンナイツのサザーランドⅡが続く。

 上空のミサイル迎撃に集中しており対応が遅れ、何機かが初手で用意に撃破出来たがこの攻撃で敵はこちらを認識したはずだ。

 思った通りに砲が一気に向けられる。

 

 「回避運動!誰も死ぬなよ!!」

 

 左右に回避運動を行いながらただひたすらに突き進む。

 味方のシグナルがロストした事を警告音の種類で理解するも目は向けない。

 

 『デヴィット、エドガー、バート脱出!』

 「このまま行くぞ!目指すはフォーグナーただ一人!!」

 

 クラウディオからの報告を受けるが、その直後にクラウディオが直撃を受けて脱出。

 残るオルフェウスとギルフォード、アルフレッドの三人と共にさらに奥へとペダルを踏み込む。

 正面と後方からの弾幕をオルフェウスとギルフォードは抜けたが、アルフレッドは脚部を撃ち抜かれて脱出したので合計三機のみ。

 スラスターを吹かして跳び、向けられた弾幕をスラスターによる軌道修正で躱し、着地地点に居たゲド・バッカを踏み台にして最奥に構えていたバルボナ・フォーグナー専用である“ガン・ドゥ・グーン”に肉薄する。

 

 『抜けただと!?』

 「バルボナ・フォーグナー!お前の力を見せて見よ!!」

 

 ガン・ドゥ・グーンは砲撃戦に重きを置くゲド・バッカと違い、アサルトライフルや腕部に内蔵された機銃など中距離射撃戦を行い、完全に人型なので近接戦闘なども可能としたジルクスタン独自のナイトメアフレーム。

 後退して身の安全を図る事はせず、銃撃しながら前に出て来た。

 正面からの撃ち合いではクインローゼスの方が不利。

 ならばとホバーで機動力を得ているものの重装甲であることから、クインローゼスより断然遅いので機動力にものを言わせる。

 周囲を旋回しつつ銃撃、さらに隙あらばランスで突きかかる。

 壮絶な近接戦を行うコーネリアの邪魔をさせまいとオルフェウスとギルフォードは援護するのではなく、振り返ってゲド・バッカ部隊に対して攻撃を開始する。

 無論集中砲火を浴びれば両機とも撃破は確実なので、ギルフォードのクインローゼスがランスのブレイズルミナスを展開して護りながらだ。

 二人のおかげで妨害もなく切り結ぶ。

 そしてコーネリアはバルボナ・フォーグナーへの評価を数段階上げる。

 指揮官として優秀なのは周知の事実であるが、ナイトメアの操縦技量も中々のものだ。

 なにせ第七世代ナイトメアフレームであるクインローゼスに互角に渡り合っているのだから。

 一進一退の攻防戦を繰り広げる中で、ガン・ドゥ・グーンの攻撃でクインローゼスの左足が持っていかれた。

 

 「片足などくれてやる!!」

 

 驚くべき事にコーネリアは機体の荷重移動を行って左足一本で動き続ける。

 しかも動きに乱れもなく、見えてないだけで右足があるのではと思う程動きが良いのだ。

 そして飛び掛り、右肩に一撃を与えると同じ個所にもう一撃を叩き込んで右腕を吹き飛ばす。

 上から圧し掛かる体制となり、片膝を付いたガン・ドゥ・グーンに凭れる形で押さえつける。

 勝負はついた。

 

 「ここまでだフォーグナー!命が惜しくば投降せよ!」

 『全軍に告げる!私ごとブリタニアの魔女を撃て!!』

 

 自らを犠牲にしても敵を討てと言う命令にコーネリアは苦虫を潰したような表情を浮かべる。

 声色からそれは本気であることも伝わり、ここまでかと脳裏を過る。

 しかし何時になっても銃声の一発も響かない。

 モニター越しに振り返ればゲド・バッカ全機銃口を下げて動かない。

 ギルフォードとオルフェウスもその様子から銃口を降ろして攻撃を止めていた。

 様子から理解したコーネリアは小さく吐息を漏らすも、撃たない事にバルボナ・フォーグナーは叫ぶ。

 

 『どうした!?私は撃てと命じた筈だ!!』

 「止めよ。もう兵たちは解かっているのだ。バルボナ・フォーグナーこそジルクスタンの最期の城壁だと」

 『……予言の幕切れか…』

 

 小さく呟いたボルボナ・フォーグナーは抵抗する事もなく、コクピットより姿を現して投降の意思を見せた。

 安堵の吐息を漏らしたコーネリアは照らし始めた朝日を見上げる。

 これでジルクスタンの戦いは終わったのだと…。

 

 

 

 

 

 

 国王でオデュッセウスと対峙していたシャリオは、ゼロの終結宣言に納得出来ず、実の姉の安否を確かめるべく、即座に首都の神殿へと向かっていた。

 満身創痍のランスロット・リベレーションブレイブを抱き締めるように捕まえたままで。

 コクピット内に居るオデュッセウスはがっくりと肩を落としていた。

 フレームコート“ウーティス”に続いてランスロット・リベレーションブレイブまでも大破させてしまい、シャンティちゃんだけでなくミルビル博士にも謝罪と研究費用の増加で許しを請う算段を立てている。

 ただ言い訳をさせて欲しい。

 相手はスザク&カレンクラスの技量を持つ同等以上の性能を持つ近接戦ナイトメア。

 対して自分は動きが鈍いフレームコートや狙撃戦メインのランスロットで近接戦闘を行っていたのだ。

 データを見て貰えてばかなり善戦したと言えよう。

 しかも距離を離すべく可変機能にて速度を飛躍的に上げたのに、シャリオ君は残像を残しながら追い付いてくる始末。

 狙撃の利点を殺し、速度は追い付かれたて意味がない。

 

 うん、これで納得して貰えないだろうか…無理だろうなぁ…。

 

 大きなため息を零しながら、接触回線にてシャリオ君の焦りが伝わって来る。

 姉や兄は居なかったが自分の弟妹が危機的な状況であるとしたら同じように焦り、心配の余り周りが見えなくなる。

 よく分かる。

 だからこのまま彼を行かせるべきなのだと思う。

 けどそれは出来ない。

 我が身とかではなく、彼をこのまま行かせもしシャムナが死亡していたら彼は悪鬼羅刹の如くに暴れ、他に被害が出る可能性が高い。

 自分の弟妹とニーナに向けられる危険を考えると私は彼を手にかけてでも止めなければならないと判断する。

 

 「すまないね」

 

 ぼそりと呟きパネルのスイッチを押し、座席前方下部にあるレバーを思いっきり引く。

 機体より脱出する際に使うレバーであるが、コクピットブロックはナギド・シュ・メインのサブアームによって押さえつけられているので射出は不可能。

 現行の脱出システム搭載機ならであるが…。

 

 ランスロット・リベレーションブレイブは煙を噴き出しながら、弾けるように分解した。

 このランスロット・リベレーションブレイブはランスロット・リベレーションよりシステムや武装面、速度を向上させただけの機体ではなく、新システムである脱出機能を兼ね合わせた試験機。

 現行のナイトメアフレームの大半にはパイロットの生存率を揚げる為にコクピットブロックを射出し、パラシュートを展開して安全に降下出来る仕組みが存在する。コクピットの直撃で一発撃破でもされない限りは、機体の状況を感知して自動的に作動するようにもなっている。

 今回組み込まれた新機能は脱出後の移動である。

 脱出したは良いが敵地で足が無ければ捕虜になる可能性が高く、味方陣地でも他の部隊に合流するのに徒歩では心もとない。

 そこでコクピットに移動用の足を取り付けたのだ。

 足と言ってもナイトメアの丈夫な足ではなく、サブアームにランドスピナーが取り付けられたような簡素な物。

 

 『何を―――ナイトメア…違う!MR-1(民間用KMF)か!?』

 

 今その機能が初のお披露目となり、突然の出来事にシャリオが驚きを露わにする。

 確かに容姿は近いと言えば近いが、アレよりも簡素な出来だ。

 コクピットブロックから最低限視界を確保できるカメラに四つのサブアームが伸びている程度の品物。

 

 『逃がしてなる物か!!』

 

 ナギド・シュ・メインの両手は外れたランスロット・リベレーションブレイブのパーツが絡まっているが、サブアームはしっかりコクピットブロックを押さえたまま。

 逆に有り難い。

 

 「好都合!!」

 

 ランスロット・リベレーションブレイブ試作脱出システム“ブレイブ”には、一つだけ武装が施された。

 オデュッセウスの我侭で、ランスロット・リベレーションと同様のものが仕組まれた。

 ―――釘打ち機(パイルバンカー)

 

 サブアームを胴体と肩を繋いでいる隙間、膝の関節部に合わせてトリガーを引く。

 機体を揺らす爆音とサブアームが悲鳴のような軋みを上げて撃ち出されたパイルバンカーによってナギド・シュ・メインは戦闘能力を失う―――だけで良かったのに…。

 脆い隙間に撃ち込まれて右肩は完全に逝ったようだったが、左肩はそうはいかなかった。

 隙間を通り抜けてナギド・シュ・メイン後部についていたフロートシステムに直撃。

 損傷を受けて飛行能力は低下して機体は大きく傾く。

 

 『フロートユニットを!?よくも…』 

 「博士、威力つけ過ぎ」

 

 体勢を立て直そうとシャリオは必至だが、オデュッセウスは墜落も考えてギアスを使っておく。

 墜落した場合、ナギド・シュ・メインは頑丈な装甲があるので大丈夫かも知れないが、コクピットブロックオンリーのオデュッセウスは間違いなく死ぬだろう。

 この状態回帰のギアスならば多分生き残れはする筈だ……そう思いたい。

 願う様なオデュッセウスの思いは良い意味で裏切られた。

 傾きつつ降下したナギド・シュ・メインは首都上空に差し掛かっており、左に大きく傾いた結果、真正面には神殿の入り口が…。

 

 「対ショック姿勢!!」

 

 シャリオに届いたかは分からない。

 が、咄嗟に叫んでオデュッセウスは両手で頭を護りつつ、隙間に収まるように丸まる。

 パイルバンカー発射時よりも機体を大きく振動が襲い、オデュッセウスは次第に大きく軋む音と傾きに気付いて大慌てで跳び出す。

 機体の上を転がりながら神殿内に入る。

 地面に手を付いた辺りで振り返ると、入り口には仰向けに突っ込んだナギド・シュ・メインと、その上に乗った状態のブレイブ。パイルバンカーと突入時の衝撃でサブアームの強度を超えたのか、バキリと音を立てて砕けてそのままナギド・シュ・メインから滑り落ち、数百メートルはある地上に激突して潰れた。

 あと少し遅かったら自分もああなっていただろう。

 そう思うとブルリと身震いし、周囲を見渡して膠着する。

 

 天井や遺跡に不釣り合いな機器類の近くには点滅して起動している事を知らしている爆弾の数々。

 

 ―――うん、逃げよう。

 

 ギアスで助かると言っても痛いのは嫌なので、速攻でこの場を離れようと決意したオデュッセウスは微かに耳に届いた声に足を止める。

 

 「…姉さん」

 

 ほとんど見えてない目を最奥にあるカプセルの方に向け、地べたを張って進むシャリオ。

 カプセルにはシャムナが眠るようにそこに横たわっている。

 姉弟と周囲の爆弾を何度も見返し、大きなため息を漏らす。


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