コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
夏バテによる体調不良が治ったり、ダウンしたりを繰り返してこちらまで手が周りませんでした。
これより再開しますが週一投稿から二周に一回の投稿になります。
星々や月が昇った夜から朝になる中間。
空に太陽が昇ろうとして夜空が白み、動物たちが置き出す時間帯。
カーテンの隙間より入った零れ日を感じながら、眠りについていた意識が徐々に覚醒する。
ゆっくりと瞼を開けて周囲を見渡し、シャナムは小さくため息を漏らした。
ジルクスタン王国の王女であり、聖神官として君臨していたシャナムはそれなりに贅沢な暮らしをしてきた。
国力が少なく、資金力の乏しい我が国の現状を鑑みるとブリタニアの皇族ほど贅沢はしていなかったが、立場的な事もあって食うに困るような生活はしていない。
困窮する民から見れば十分過ぎるほどの贅沢な暮らしだったろう。
そして今はそんな以前の生活から一変し、裕福な
以前に比べれば小さくグレードの落ちたダブルベッド、寝室よりも狭い自室、見栄えのしない衣類などなど。
上半身を起こして思いっきり伸びをして背骨がコキコキと音を立てる。
寝ている間に固まっていた身体を多少解すと、優しい視線で隣を見下ろした。
隣では安らかな寝息を立てながら、スヤスヤと眠っているシャリオがそこに居た。
可愛い可愛い私の弟。
このオデュッセウスの屋敷で暮らすようになって一番変わったのはシャリオだろう。
日中はジェレミアの管理するオレンジ畑で働き、休日はオデュッセウスやアーニャ達とテレビゲームに興じる。
ナイトメアに搭乗してその身をすり減らしながら戦う事もなく、王の立場がなくなった事で護るべき民は自身の責任から離れたために心を痛める事は無い。
クスリと微笑、寝ているシャリオの頭を撫でる。
ふわりとした髪の触感に体温をその手で感じながら今の幸せを噛み締める。
本来ならばあのような事件を起こした私達は生きてはいられなかったろう。それがこうして生を謳歌できるというのだから有難いというものだ。
口には決して出さないものの実感を新たにしていると、頭を撫でられている事で意識が覚醒したのか「んん…」と声が漏れ、薄っすらと瞼が開いた。
「…姉さん……」
「あら、起こしたかしら?」
「今何時?」
「まだ大丈夫よ。もう少し寝てなさい」
「……ん」
寝惚け状態だったシャリオは再び瞼を閉じ、寝息を立て始めた。
早すぎる時間に起こしては後々辛いので、惜しいが
起こさぬように静かにベッドより抜け出してクローゼットに向かう。
寝間着をハンガーにかけ、簡素な服装に着替える。
王族ならば王族としての身嗜みがあったが、今の生活で大事なのは見た目よりも動き易さ。
だからと言ってファッションをガン無視した服装は御免断わる。
最初に「これで良い?」と渡された野暮ったいジャージ一式はクローゼットの端に封印させてもらった。
さっさと着替えを済ますと寝癖をチェックしたり、髪を梳いたりと手間暇かけて身嗜みを整える。
これもまた以前とは違う所の一つだろう。
着替えも身嗜みを整えるのも侍女の仕事であり、自身は紅茶を楽しみながらせっせと働く侍女たちを待つだけで良かったのだから。
全てと言うのは偏見であるが、身嗜みを気にして身支度をする女性は時間が掛かる。
白んでいた空には太陽がしっかりと昇り、見渡す限りの大地を照らしていた。
そうなるとシャリオも起き出す。
「おはよう姉さん」
「おはようシャリオ」
短い挨拶を交わし、シャリオはベッド脇に置かれた車椅子に這って移動して座る。
手助けしたい気持ちはあるも“出来る事は自分でする事”というオデュッセウスの方針に賛同した身としては手伝い辛い。
世話係がつかない今の生活では全てを他人に任せる事は出来ない。
ゆえに出来る事は自分でしなければならない。
納得はしても見ている身としては非常に辛いのは何とも言い難い…。
「こちらに来なさい」
一人で着替えも終えたシャリオを呼び、自分が扱っていた化粧棚の前に来させると後ろに回って髪を梳く。
身だしなみの全てを手伝う訳ではない。
これぐらいは“姉弟”の振れ合いとして良いだろう。
オデュッセウス達と生活を共にする事で良く知ったのは兄妹・兄弟との接し方だ。
他の家族の兄弟や姉妹、姉弟に兄妹の暮らしを知る事も無かったのでそう言った
だからオデュッセウス達の接し方を見ていたら目からウロコだった。
膝枕をされるコーネリア。
頭を撫でられるギネヴィア。
政治関係なしに無駄話に華を咲かせるシュナイゼル。
王宮のに比べて狭いお風呂にオデュッセウスと共に入るパラックスにキャスタール。
他にも例を上げたらキリがない。
始めはべたべたし過ぎだろうと思っていたのだが、あまりに自然にそう接している事からこれが普通なのだろうと理解
さすがにあそこまでべったりとするのは慣れも無いのでしないが、こういった振れ合いは中々に心地よくシャムナもシャリオも楽しみながら受け入れている。
髪を梳き終えると今度はシャリオが梳いてくれる。
先ほど身嗜みを整えた際にすでに梳いてあるが、愛しい愛しいシャリオが梳いてくれるというのは想像以上に心地よく癖になった。
それが終わるとシャムナは先に下に降りる。
シャムナとシャリオの部屋は屋根裏部屋を改装した一室にあり、下の階に降りるには階段か新たに取り付けられたエレベーターの選択肢がある。
一階に空いている部屋がなく、屋根裏を改装するしかなかった為、不自由なシャリオの為に用意したのだ。
これに対しシャリオが礼を述べたところオデュッセウスは驚いた様子を一瞬浮かべ「航空艦ほどの予算も使ってないから大丈夫だよ」と乾いた笑みを浮かべながら答えたがどういう意味なのだろうか。
シャムナの仕事はほぼ家政婦と言って良いだろう。
神事に軍事に政治に口を出していただけなので、決して掃除&調理のプロという訳ではないので、出来る範囲での話になる。
台所に向かえばエプロンを着てトースターでパンを焼き、ジャムとヨーグルトを用意する。
ジャムはジェレミアのオレンジ畑で収穫し、見た目や傷によって出せなくなったモノを使ったものなので、味や品質は上質な物である。
ヨーグルトは高いが市販でも取り扱っているもので、それにバナナや蜜柑などの果物を切って放り込む。
大概の朝食はこれにサラダが付いていたり、パンの種類が違っていたりでそう変わらない。
用意が終わる頃にジェレミア、シャリオ、アーニャの順番に訪れ、挨拶はそこそこに朝食を口にしていく。
その間にオデュッセウスとニーナの一室に向かい、廊下にワゴンごと朝食を置いて放置する。
あの二人は朝に弱い事は無い。
寧ろオデュッセウスに至っては身支度をしている頃にランニングしたりしているので私より早くに目を覚まして動いている。
ただニーナはオデュッセウスといちゃついていたり、趣味の研究に没頭して徹夜していたりするので寝ている事が多い。
起きているオデュッセウスは無理に起こす事はしないし、朝食時にシャワーを浴びたりと時間が合わない。そこでこうして朝食を置く事にしているのだ。
そうして台所に戻って自身も朝食を口にする。
いつもながらの朝食に舌鼓を打ち、食べ終わるとオレンジ畑に向かうシャリオ達を見送って自身は食器などを片付ける。
片付けが終われば掃除の時間だ。
まぁ、先ほども言ったように本格的な掃除ではない。
小型化された持ち運び可能な掃除機を軽くかけるだけ。
これに関してジェレミアが殿下の住まいだから隅々までと意見を述べたが、毎日それでは疲れてしまうと本格的に掃除するのは大晦日前だけで、最小限綺麗にするだけで良いと決まったのだ。
と言っても一階から二階、屋根裏部屋までとなると結構大変である。
しかも掃除している合間合間に洗濯機を回し、洗い終えたら乾燥機に叩き込み、最後に物干し竿に吊るして太陽の眩い陽の光に当てる。昼近くになれば昼食の準備だってしなければならない。
やる事が多すぎて肉体的に疲れが溜まる。
最悪疲れが蓄積し過ぎたら“精神的にも肉体的にも健康だった数時間前”に戻して貰うので、翌日に疲れが残らないというのは良い事だ。
なんにしてもオデュッセウスに言われたように如何に効率よくするではなく、如何に上手く手を抜くかを念頭に入れながら作業を行う。そうこうしていると昼食の時間が近づいてくるので、いつも通りに食事を手配する。
“作る”というのも仕事の範囲に入るのだろうけど、今まで家事をしていなかった人間にいきなり作れと言うのは酷な話。
何を注文するかは先に聞いているのでそれを弁当屋やらレストランなど電話で注文するだけ。
皇帝を降りて皇族の業務より表向きは遠のいたと言えども、見えない所に敵も居るオデュッセウスに対してナニカを盛られる可能性があるが、オデュッセウスのギアスで即効性でも遅効性でも毒の状態から正常な状態に戻る事が出来るので、あまり気にせずに食べる事が出来る。
まぁ、即効性の場合を考えてオデュッセウスが毒見することになるのだが…。
シャリオたちも畑仕事を切り上げ、部屋からようやく出てきたオデュッセウス達も合流しての昼食を一緒に摂り、再びそれぞれがやるべき事、またはやりたい事をする為にバラバラに散って行く。
朝食後同様に片づけを済まし、厨房にて調理を行う。
出来ないからと言って何時までもそのままで通すのもどうなのかと毎日レシピ本を見ながら一品作るようにしているのだ。
昨日は野菜炒めを作ったから今日は煮込み料理でも作ろうかしらとページをペラペラと捲る。
ま、正直な話をすると役職云々ではなく、味見するシャリオが本当に美味しそうに微笑んで感想を述べてくれるのが嬉しいと言うのが念頭にあっての事。
微妙に不慣れな手つきで時間をかけながら調理は進み、鍋に入れて煮込み始めると手持ち無沙汰な時間が訪れた。
中にはその隙に副菜やら用意する者も居るだろうけど今の自身では二つの調理を連続かつほぼ同時に行うと難しい事は解かり切っている。
なにせこの前、それをやって照り焼きチキンと言う料理を片側黒焦げにしてしまったのだから…。
あの苦さとリカバリーが利かない失敗した事によりダメージは忘れない。
出来上がるまでの時間、シャムナは椅子に腰かけてテレビでも見ていようと電源を入れる。
スゥっと映し出されたのはもう二度と関わる事の無い故郷たるジルクスタンのニュース。
画面には
地下資源も国力も無く、唯一の資金源だった兵士の輸出が難しくなって外貨を得る事すら出来なくなって衰弱の一途を辿り、それらを帳消しにも出来た計画が失敗してより状況が悪化した祖国…。
それがまぁ、なんとも上手く立て直されている事か。
オデュッセウスの口添えなのか、それとも担当している神楽耶と言う少女の才覚かジルクスタンは再建の道を順調に進んでいるようだ。
優しいシャリオは今でもジルクスタンを気にかけているので、後で教えてあげようと録画ボタンをすかさず押しておく。
お茶にオデュッセウスのお茶請けであるお菓子を取り出し、何気なく口にしながら眺める。
経済状況や復興の進捗、さらには黒の騎士団との戦力強化計画などなど公に発表できる範囲の内容が語られて行き、その中には捕虜の返還もあってシェスタールやクジャパットが復帰したらしい。
猫の手も借りたい現状で指揮官としての能力を持ち合わせている彼らの復帰は有難い。それにバルボナにとっては息子の帰還は精神的にも良いだろう。
ニュースを見ながらも鍋を気にし、出来上がると皿に移して一つはラップをして置いとき、もう一つは味見で摘まむ。
食べきったお茶菓子を仕舞っていた箱を崩してゴミ箱の奥底に追いやり、乗せていた皿はしっかり洗って証拠隠滅しておく。
一口二口はしっかりと味わいを確かめた後はテレビを見る摘まみとして食べていく。
日によってドラマや映画など放送しているものを何気なく眺めて時間を潰す。
途中オデュッセウスが来てお茶菓子であった煎餅を知らないかと聞いてきたが
「食べちゃったかなぁ」と首を捻りながら戻って行く様子を眺め、食べきったお皿にナイフとフォークを流しへと運ぶ。
さっさと残りの仕事を片付けようと洗い物を済ますと、干してある洗濯を取り込むと同時に畳み、その後に風呂掃除を行う。
屋敷で多人数と入る事も有るので浴槽も含めてお風呂は広い。
タイルはブラシを装着した円盤状の掃除用ロボットは放ち、浴槽は水流と専用の洗剤タンクによって自動で現れる。
なので広いがシャムナがすることはロボットを置いて、浴槽の洗浄開始のスイッチを押すだけ。
これでシャムナの仕事は終了である。
夕食もまた注文だがその頃には全員が戻って来て自分で注文するので問題は無い。
オレンジ畑よりジェレミアを始めとした面子が帰って来ると、真っ先にシャリオに寄っていく。
「お疲れさま」
「ううん、姉さんほどではないよ」
「汗をいっぱい掻いたでしょう。お風呂にしましょう」
そう言って車椅子を押して風呂場へと向かう。
ジェレミアもアーニャも同様に汗を掻いているであろうが、シャムナ達が使用するのは大浴場でジェレミアが使用するのは自身の部屋に設けられた風呂なのでかち合う事は無い。
アーニャはたまに大浴場も使うが仕事が終わった直後は必ず携帯を弄ってチェックや更新を行うので入って来る事は無い。
脱衣所で着替えてシャリオを運ぶとまずは身体や頭を洗う。
身体が弱いため筋力が衰えているので細く、焼けないように太陽光を避けるような服装をしているのは肌は白く綺麗だ。
傷つかないように肌触りの優しいスポンジで撫でるように、頭皮はマッサージするようにふわっとした髪に指で触れながら洗っていく。
繊細な割れ物を扱うように大切に大切に洗い、自らも洗い終えると二人して湯船に浸かる。
暖かで綺麗な湯船に身を浸ける二人はほぅと吐息を漏らしお互いを感じ入り、ふにゃあと顔を緩ませるシャリオを眺めつつ、抱きしめるように背を支える。
今にも寝そうなほどにふやけた可愛い表情を眺めながらぽつりと口を開いた。
「ここでの生活はどう?」
言葉に反応したシャリオは薄っすら目を開けるもトロンとタレ目掛かっているので今にも寝そうだ。
「慣れないし、疲れるけど…楽しいよ」
「そう…そうなのね」
「何より姉さんとこうして居られるし、手料理だって食べれるからね」
「私も嬉しいわ、シャリオ」
嬉しそうに笑うシャムナはこの生活も満更でもないと笑みを零す。
今の幸せをしっかりと噛み締めながら…。
「はぁ…」
オデュッセウスは数日間かかりっきりとなっていたPCから離れ、大きいため息を漏らしてソファで横になる。
思考能力の低下。
肉体的疲労。
身体に圧し掛かる気怠さ。
それらをギアスを使用して正常な状態へと戻すも、精神的疲労だけが蝕み続ける。
シャリオとシャムナはここの生活に馴染み始めている。
ジルクスタン王国が神楽耶達のおかげで復興の道へ歩んでいる。
黒の騎士団はジルクスタンの一件を教訓として争いの火種に対する監視能力を数段上げるように努めている。
誰も彼もが“終わったモノ”として先に進もうとしているが、オデュッセウスは違う。
未だにジルクスタンの一件に囚われたままだ。
「上手く行くかなぁ」
不安から言葉が漏れてしまった。
室内で聞いていたのは置いてあったコーヒーメーカーで二人分用意しているニーナのみ。
「大丈夫ですよ。そのためにここ数日詰め込んでいたんですから」
「そうかなぁ…そうだよねぇ…うん」
疲れが表情に出ているにも関わらず明るく振舞い言ってくれた言葉に、僅かながら安心感を抱いてニーナに触れるとギアスで正常な状態へと戻す。
「必ず上手く行く。いや、上手く行かせなければならないんだ」
自身に言い聞かせるオデュッセウス。
着きっぱなしのPCの画面には三桁に届きそうな各種ナイトメアフレームの名前に浮遊航空艦数隻、大量の武器などが並び、計画が描かれていた…。