コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第148話 「大規模戦闘」

 広い海原を海鳥に紛れて一機のナイトメアフレームが飛行していた。

 海面擦れ擦れを飛び、わざと足先を海面に擦らせて飛沫を上げさせる。

 傍から見れば優雅に美しい飛沫によるラインが引かれているようだが、多少心得があるものならこの行為がどれほどの行為かを理解してゾッとするだろう。

 飛行しているナイトメアは最高速度とまでは行かなくても、猛スピードで飛ばしている事は変わりなく、少しでもバランスを崩して躓けば、出している速度と相まって海面にぶつかった衝撃で分解されてしまうだろう。

 だというのにわざわざ足先を擦らせて激突を誘発する行為はそれほどに自信を持っているのか、はたまた命知らずな馬鹿か…。

 今回の場合は前者でありながら、その危険を楽しんでいる馬鹿であった。

 

 搭乗者は微笑ながらモニターにようやく映し出された小さな島を見つめた。

 小さな小島であるが多数の武装を施され、多くのナイトメアフレームを保有する軍事基地。

 海に囲まれている事から飛行能力に優れたナイトメアに海中戦力を保有している。

 簡易なデータを眺めると興味を無くしてすぐさまモニターから消し去る。

 

 つまらない台本(・・・・・・・)を読み耽るより、力の限り躍った方が楽しいに決まっている。

 ペダルをさらに踏み込み、操縦桿を握り込み、舌なめずりをしてまだかまだかと興奮で頬を高揚させる。

 彼女(・・)の期待を読み取ったようにアラート(警報)音が鳴り響き、後方に三機ほどの編隊が追尾しているのが分かった。

 データ称号からすると飛行能力を有し、戦闘機の様に可変可能なサマセット。

 フロートユニットを接続することなく単独での飛行が可能な機体だが、飛ぶために軽量化された結果装甲が薄くて攻撃能力も最低限。

 正直に言って武装は脆弱と言って良いほどであるが、今は海上を飛行しているのでフロートユニットに損傷を与えられただけでゲームオーバーになってしまう。

 

 (まぁ、それも含めて面白いのだけど)

 

 クスリと微笑み、後方の三機が自機に狙いを付けたのを感じ、そっとペダルより足を離した。

 当然ながらペダルを離せば機体は減速する。

 それも徐々に緩める事の無い急激な減速だ。

 追っていた三機は相手の速度を把握し、追い付こうと速度を出していたので、出していた速度の二倍以上の感覚で迫ってきているように感じただろう。

 咄嗟に回避行動に入った事で三機の運命を決定付けた。

 後方に付いた彼女の機体―――灰色のナギド・シュ・メインはアサルトライフルを向けると翼を撃ち抜いて行く。

 バランスを崩した三機は海面に激突して、衝撃で分解されていった。

 一瞬で三機を撃破した彼女の表情は、嬉しそうではなく何処か引っ掛かるように顰めていた。

 

 (追尾されていた感じではなかった。哨戒機かしら。けどちょっと違和感あるのよね)

 

 相手の意図を探るように考えを深めていると、海面に盛り上がりが出来たことに気付いて急ぎ高度を上げる。

 海面より魚雷が飛び出し、空中で爆散した。

 魚雷はミサイルみたく空中で飛行することなく勢い任せに跳び出す程度であり、直撃することは低く飛ばない限りあり得ない。

 が、嫌らしくも魚雷に対人地雷のように破片を周囲に撒き散らす仕掛けを仕掛けてあって、少々高度を上げた程度では小さいながらも被弾してしまう。

 しかし高度を上げ過ぎると新たに現れたサマセットにフロートユニットを付けたサザーランドやグロースターの大軍に蜂の巣にされてしまう。

 攻撃の手が届かない海中からは無数の魚雷。

 頭上は飛行可能なナイトメアに押さえられている。

 目的地までまだ遠い…。

 援軍は無く、単騎でこれを切り抜けなければならない。

 

 「本当に面白いじゃない」

 

 彼女―――マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアは絶体絶命のような状況にて微笑む。

 確かに通常のナイトメアフレームでは“閃光のマリアンヌ”とてこの状況を打破するのは難しい。

 しかしながらナギド・シュ・メインはダモクレス戦で搭乗した“カリバーン”を除けば一番相性の良い機体であるだろう。

 ランスロットや紅蓮の最新機も勿論扱えるが、彼女とナギド・シュ・メインが相性がいい理由は積み込まれた“メギストスオメガモード”にある。

 これは各所のフロートシステムを並列起動する事で残像が残るほどの超高速機動を可能とするシステムで、デメリットとして尋常ならざる負荷を耐えねばならず、本来の搭乗者であるシャリオは薬物投与によって誤魔化していた。

 が、マリアンヌは身体のほとんどが人体ではない。

 シャリオが苦しんだ負荷程度ではマリアンヌは顔をゆがめる事すらあり得ない。

 

 装甲が金色に輝き、残像を残しながらナギド・シュ・メインが銃弾の豪雨を突破していく。

 相手は点での攻撃ではなく面で攻撃しているものの、一発も当たりはしなかった。

 アサルトライフルを撃ちながら、腰に巻き付けていた曲刀を引っ張る。

 良く曲がり、良く伸びる曲刀はナイトメアを切る事には適しておらず、出来るのはその性質を上手く使ってのパーツの剥ぎ取り。

 高速移動しながらの射撃で大編隊への突入口を形成したマリアンヌは、そのまま突っ込んで曲刀で流れるようにパーツをはぎ取っていく。

 空には閃光が駆け抜け、ナイトメアの爆発がその通り道で起こる。

 そして海面には多数の部品が散らばり落ちた。

 倒しながら弾切れのアサルトライフルを投げ捨て、敵機より奪って射撃を続ける。

 粗方暴れて片付けたところで目的地である島へと向かう。

 崩れた編隊は部隊を再編して追い掛けるに時間が掛かるだろうし、海中から魚雷を撃っていたと思われるポートマンでは空中に対して攻撃手段を持っていない。

 メギストスオメガモードを解除して向かうと、案の定基地施設より迎撃が開始される。

 対空砲にナイトメアからの攻撃。

 モニターにはデータ照合から特定した機種が表示されるも、複数に渡って表示されるので正直前が見ずらい。

 「地味な事をして…」と呟きながら追加で出される情報をカット。

 だいたいであるが表示されたのは長距離攻撃に優れた機体らしく、それなら懐に入って倒してしまおうと回避行動を取りつつ突っ込む。

 

 ここで予期せぬ状況に発展する。

 

 基地へ突入したところで一機のナイトメアが突っ込んで来たのだ。

 ブリタニア皇帝直属の十二騎士ナイト・オブ・ラウンズの最強の座に君臨していたナイト・オブ・ワン専用機ギャラハット。

 振るう大剣エクスカリバーの太刀筋には覚えが合って頬が思いっきり緩む。

 

 「貴方が出て来るなんて予想外!なんていうサプライズかしら!!」

 『私としても再戦する機会を頂いて嬉しい限り!!』

 

 まさかのビスマルク本人の参戦に胸が高鳴る。

 黒の騎士団に名立たるパイロットは多くいるも、マリアンヌと渡り合えるパイロットとなると数が限られる。

 本気にならざるを得ない相手に、操縦桿を握る手に力が籠る。

 

 「今日は心行くまで楽しみましょう!」

 

 二機は舞う。

 お互いに勝利を掴むべく剣を振るい、全力を振り絞って戦い合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 基地の様子を上空に浮かぶログレス級浮遊航空艦より眺めていたオデュッセウスは安堵のため息をつく。

 今回あの島を中心に行われているのは黒の騎士団新兵強化訓練にナギド・シュ・メインの実戦データ収集、そして旧型と化したナイトメアの処理を兼ねた大規模演習であった。

 少し前まで現役だったサザーランドもヴィンセントやサザーランドⅡに主力の座を奪われたり、ゲフィオンディスターバー対策を行っていなかったりすることを理由に徐々に生産数を落としている。

 対策は改修すれば何とかなるものの、性能差が縮まる訳でもないし、わざわざ改修するよりかは新たにサザーランドⅡを生産する方が色々と都合が良い。

 よって各地で使われなくなった旧型ナイトメアを処分する必要が出て来たのだ。

 最初は分解して使えるパーツは…とも思索されたのだが、パーツもシステム面もすでに時代遅れで使い回す事すら不可能。

 最終的には資源として扱うかぐらいだったので、こちらで有意義にというか私の為に使わせてもらう事にした。

 

 ジルクスタン王国での一件で勝手に参戦していたマリアンヌ様達。

 あの人たちが「危険ですので帰って下さい」と言ったところで帰る筈もなく、寧ろ「少し遊んでいきましょう」と何かしら問題を起こすに決まっている。

 そんな事になってしまえば私や一緒に居たビスマルクの胃にストレスで風穴が空いてしまう。

 けどすんなり帰ってくれる筈は無いので、ある条件を出して引いてもらう事に。

 

 “本気で遊べる場を作りますから”

 

 …つまり大層な理由を並べたこの大規模演習はマリアンヌ様を満足に遊ばせる為だけの箱庭なのだ。

 我ながら何してんだろうかと思うも、あの人のご機嫌を間違えたらそれは全て私に返って来るので本気でやらねばならない。

 

 「いやはや…何と胃が痛む事かな」

 「それは今まで周囲の人が味わっていたと思いますよ」

 「痛感するね」

 

 

 用意された一室にて紅茶とケーキを味わうオデュッセウスとニーナは、モニターに映し出される映像を見ながらぽつりぽつりと漏らす。

 ニーナは兎も角、オデュッセウスはこの大規模演習の立案計画者であることから艦橋に居ても良いものだが、周りが緊張してしまうのとニーナとお茶を楽しみたかったのもあって、別室での観戦することにしたのだ。

 二人して馬鹿げた猛攻の前に舞いでも舞うかのように軽やかかつ力強く戦うマリアンヌに呆れ、溜まりに溜まったストレスを発散するかのように剣を振るうビスマルクに同情を向ける。

 

 「た、楽しそうですね…」

 「怖いぐらいだけどね…」

 

 苦笑いを浮かべていると手加減無しのマリアンヌとビスマルクの激闘が繰り広げられる。

 ビスマルクはギアスを用いて、マリアンヌは残像を残しながら切り結ぶ。

 高過ぎる技量を前にこの演習に参加したパイロットたちは大興奮だろう。

 今回用意したナイトメアにはパイロットは搭乗させていない。させていたら今頃あそこは戦死者塗れとなっていただろう。

 なのでナイトメアには遠隔で操作できるシステムを組んでもらい、搭乗者となる経験の浅い黒の騎士団パイロットに安全地帯より操縦して貰っているのだ。

 理不尽なほどの強さを見せつけられて悔しい気持ちもあると思うが、エース・オブ・エースの戦いを間近で見るのは良い経験になるとは思う。

 代償は徹夜続きで組み上げたために伴った疲れに、ナイトメアをあちこちから集めるべく書類を幾つも書き綴った苦労。

 

 「にしてもよくもアレだけ出てきたものだ」

 「レアな機体も多くてロイドさん喜んでましたよね」

 「狂喜乱舞って感じで怖かったけど」

 

 集めた機体はサザーランドや無頼といった少し前まで主力だった機体からグラスゴーや初期生産型のサザーランドなどのかなり古い物。特殊装備B型や遠距離型など珍しい物まで出てきた。

 …少し書類を誤魔化して何機かをうちの博物館に流したのは内緒である。

 

 ぼんやりと眺めながらお茶をしていたオデュッセウスだったが、席を立ちあがって艦橋へと通信を開き、次の段階へと移行するように伝える。

 そろそろエナジーも心許ないであろうが、手を抜けば確実に不安だからもう一回と無茶言われるに決まっている。

 ならば徹底的にやるしかない。

 次の段階では月下にグロースター、鋼髏による近接と遠距離支援を交えた猛攻となっている。

 

 「満足してくれると良いんだけど…」

 

 そう小さく祈るように呟くオデュッセウスは、美味しそうにケーキを食べているニーナの表情を見て、胃痛の原因と今後から目を逸らして癒やされながらこの一時を楽しむのであった。


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