コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第02話 「とりあえず鍛えようか」

 私、オデュッセウス・ウ・ブリタニアはただいま空中を回転しながら飛ばされております。

 

 今年で十二歳になった私は勉学だけではなく身体を鍛えようと決心しました。これから未来ではどうなるか解らない。このまま帝都ペンドラゴンで指示や催し物に参加するだけかも知れないし、総督としてエリアに着任もしくは部隊を率いて戦場で指揮を執るかも知れない。多分専属騎士を持つだろうが最前線に送り出したり、奇襲で本陣に白兵戦を挑まれたりと自分の身は安全なんて絶対はない。いざと言う時は自分の身は自分で守らなければならない。

 

 決して洋菓子の食べすぎでお腹周りが気になり始めたとかギネヴィアに「最近大きく(主にお腹が)なられましたね」などと言われた事が原因ではない。断じて違うのだ!そ、そう、これは私ののんびりライフの為に必要なことなのだ。

 

 と言ってもまだ十二歳の子供。過度な運動は身体の成長を妨げるだろうから今行なっているのはもっぱら基礎体力作りだ。ランニングに腹筋、背筋を軽めに行なう程度で慣れるまでは肩で息するほど疲労したが一ヶ月も行なえば同年齢の身体能力を上回っていた。さすがブリタニア皇族の肉体は凄いと感心したものだ。

 

 皆さんにも覚えがないだろうか? 

 

 小さい頃、特に小学生の頃は勉強や運動が出来る子が持て囃されていたなんて事が。勉強も出来て運動も出来る。そして皇族と言うオプションを持つ私は周りの者から持て囃された。特に嬉しかったのは同年代の女子にモテたことだ。子供は大人と違い純粋だ。その純粋な彼ら彼女らの言葉に前世ではモテた記憶の無い私は酔い痴れた。

 

 次のステップに進もうと剣術に手を出した。二ヶ月もするとあっさりと同い年の子供達と差を付け、今や中学生の全国クラスまでの腕前を手に入れた。私は周りの声と自分の肉体に増長して、多少傲慢になっていたと今では思う。

 

 増長した私は父上の側近中の側近であるビスマルクに試合を申し込んでしまったのだ。結果は完敗&惨敗…。容赦の無い太刀筋は一振りで慢心や増長を薙ぎ払われた。自覚した。私はなんと惨めで浅はかな存在なのだろうと。井の中の蛙如きが大海原でデカイ顔をするなど馬鹿でしかない。

 

 皇帝陛下の騎士であったとしても第一王子相手に容赦なく敗北させた事が当時その事で宮殿内でも問題視された。だが、これはどう考えてもビスマルクが悪い訳ではなく増長しきっていた私こそが悪いのだ。敗北して目を覚ました私は真っ先にビスマルクの下に駆けて暇な時で良いから剣術指南役をして欲しいと懇願した。最初こそ渋られていたが何度も頼む内に認めてくれたのか皇帝陛下の勅命が無い限りと言う条件で指南役をしてくれるようになった。

 

 そして私は下段からの攻撃を馬鹿正直に剣で防ごうとして空中へと吹き飛ばされたのだ。

 

 ドスンと重い音と共に背中から床に落ちた。背中に痛みが走るが声を漏らす事無く立ち上がり剣を構える。初めは痛みに堪えきれず蹲っていたら首筋に剣を向けられ「そのような事ではすぐに敵に殺されてしまう」と怒鳴られた。何でも、優秀な騎士なら痛みに悶えるより次の事を考えて行動するとの事だ。確かにいつまでも転がっていては殺して下さいと言っているようなものだ。

 

 ゆっくりと息を吐き出しながら頭を落ち着かせる。熱い気持ちは心に宿して思考は冷静に。相手の動きを見つつ行動する。直感も大事だがまずは基本を身につけ運頼りにしないだけの実力を付ける。その想いで懐に飛び込む。ビスマルクが持つ木で出来た大剣は小回りが悪く一太刀でも避ければ懐へと潜り込める。何とか一太刀目は避ける事が出来たがすぐに二太刀目が来た。どうやらビスマルクの策に嵌ってしまったのだろう。防御の構えを取ったが勢いは殺せず再び宙を舞った。

 

 「兄様、だいじょうぶですか?」

 

 ボロボロになるまで相手をしてもらった私にふんわりとして柔らかそうな紫色の髪の少女が心配そうに駆け寄って来た。

 

 彼女はコーネリア・リ・ブリタニア。我が妹にして後に最前線を駆ける戦乙女となる子である。元々身体を動かすことの方が好きな彼女は他の兄弟と馴染めないで居た。ギネヴィアは遊ぶこと自体珍しいし、シュナイゼルに至っては知能ゲームを主にしている。そんな所に身体を動かした兄である私が現れたのだ。彼女はよく私と遊ぶようになった。今ではこうして私が剣術指南を受けていると見学するようになったのだ。

 

 「うん、大丈夫だよ。心配かけたかな?」

 「はい…」

 「すまないね」

 

 謝りつつ頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。どうも私は妹や弟の笑顔に弱いらしい。今なら何でもお願いを聞いちゃいそうだ。身体は疲れきっているけど…。

 

 「殿下」

 

 褐色の肌に純白のナイト・オブ・ラウンズの正装で身を包むナイト・オブ・ワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿が小さな救急鞄片手に戻ってきた。本来なら皇族に何かあったらいけないと医務室に向かわされる所だが、大仰にしたくないのとちょっと打ったぐらいなら湿布でも貼っとけば大丈夫、と前世の思いで行かないのだ。それでも痛い所は痛いので、湿布を貼ったり消毒したりはする。母上に心配させぬように隠れてしていた所をビスマルクに見つかり今では終わると軽い治療をしてくれることになった。今日は膝を擦り剥いたのと打ち身が五箇所、後は背中の強打…まぁ、全部服やズボンで隠れる所だから良かった…。

 

 「兄様はいつも怪我をしてばかりです…」

 「怪我を怖がってちゃビスマルクの剣術指南なんて受けられないからね。それにまだまだ私は弱いから」

 「そんなに自分を卑下しないで下さいオデュッセウス殿下」

 

 あの大きなビスマルクが小さく縮まって治療をしてくれている光景には未だに見慣れない。と言うか慣れる事はあるのだろうか?

 

 「確かに殿下はまだ弱いですが最初の頃と見違えました。初めて手合わせをした時は剣に驕りがありましたが今ではそれらが無く真剣さが伝わってきます」

 

 背中を捲られ強打した所に湿布の冷たい感触が伝わってくる。まだ湿布の効能が効いてきた訳ではないが冷たさにより痛みが一時的に引いて行く。

 

 「最近では身体を捻るなどして最小限に抑えるようにして怪我も減ってきています。十分に上達しておられます」

 「ありがとう御座います」

 

 湿布の上から温かみのある大きな手を感じる。指南中は子供だろうが手加減しない鬼のような雰囲気すら出すが、終わるととても優しく接してくれるこの感じにとても好感を持てた。この人に指南役を頼んで本当に良かったと心の底から思える。

 

 「このまま怪我をしなくなれば私も楽で良いのですが」

 「あはは…ビスマルクはずいぶんと治療の腕が上がったね」

 「まったく殿下のおかげですな」

 

 ニンマリと笑うビスマルクを見て少し悲しくなる。こんな彼もいずれ討たれてしまうのかと思うと胸が苦しくなる。出来れば彼にギアスや皇帝の考えから身を引けと言いたいが説得するだけの力は無い。心の中でため息を吐くと何か言いたげにコーネリアが寂しげに見つめていた。

 

 「どうしたんだいコーネリア?」

 「…もう剣術の鍛錬はしないのですよね?」

 「そうだね。今日はお終いかな」

 「でしたら私と遊んでくれませんか」

 「えっ!?い、いやぁ…」

 

 かれこれ二時間近くも剣を振るっていたのだ。身体の疲労は限界に近付いていると言うのに元気いっぱいなコーネリアと遊ぶとなると身体が持たないと断言できる。

 

 「駄目なのですか?」

 「分かったよ」

 

 しょんぼりとする妹の視線に「NO」と言う事は出来ずに返事をしてしまう。視線でビスマルクに助けを求めるが苦笑いを返されるだけだった。

 

 「で、何をするんだい?それも二人で」

 「んー…クロヴィスも呼んできますね」

 

 トタタタ、と駆けて行く妹の背中を見送りながら巻き込まれたクロヴィスに心の中だけで謝っておく。クロヴィスも運動が苦手と言うわけではないんだがどちらかと言えば知的なタイプだ。

 

 「あにうえ、あにうえ」と訪ねてきて一日付き合った時は驚いた。チェスもしたが一日のほとんどが分厚い本に載せられた美術作品の数々を鑑賞して互いに評価したりするだけで過ごした。普通五歳の少年がやるかなぁと心底驚くと同時に感心したっけ。

 

 クロヴィスを巻き込んだコーネリアとの遊びは結局夕暮れ近くまで続くことに…、しかも、肉体が限界を超えて悲鳴を上げた頃にシュナイゼルにチェスをしましょうと誘われ、肉体どころか精神までも限界まで追い詰められる破目になったのだった。


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