コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第20話 「出発前」

 神聖ブリタニア帝国 帝都ペンドラゴン

 

 神聖ブリタニア帝国の中枢を担う帝都内には多くの主要機関が存在する。行政、軍部、医療、民間etc…。その中には帝都の守護騎士団や皇族専属騎士団の拠点も存在する。オデュッセウスの騎士団が所属する基地もまた帝都に存在した。ノネット・エニアグラム卿に選抜され、鍛え上げられた帝国内でも屈指の精鋭騎士団の『ユリシーズ騎士団』。忠誠心の高いナンバーズを集めた騎士団『トロイ騎士団』。まだ表には出されていないがセカンドブリタニア人制度を活用した後にブリタニア軍人となり、ナイトメア適性と性格を気に入った者を集めた『テーレマコス騎士団』も常駐している。

 

 三個大隊が配属されている基地ゆえに規模もかなりのものだ。現在トロイ騎士団は皇帝最強の十二騎士がひとりナイト・オブ・ナイン、ノネット・エニアグラム卿の援軍として出動しており、基地に居るのはユリシーズ騎士団とテーレマコス騎士団のみである。

 

 「総員、傾注」

 

 ユリシーズ騎士団のエリアにあるナイトメア格納庫に騎士と整備士を含めた240名が各所属ごとにわかれて整列する中、落ち着いていて冷たくも感じる声が響き渡る。声を出したのは騎士団に向かい合うように壇上に立っている試作強化歩兵スーツを着たロロ…ユリシーズ騎士団団長の白騎士。

 

 そして騎士団長である白騎士の斜め後ろ―壇上の中央には褐色金髪の白衣姿の痩せ型男性が立っていた。彼こそKMF技術主任兼将軍相当官のウィルバー・ミルビル博士である。人により科学者としての『博士』と呼ぶか、爵位を持つ貴族として『卿』と呼び方が変わる。彼は鷹のように鋭い目で全員の顔を見渡すと口を開けた。

 

 「諸君!我らが殿下より出撃命令が下った!」

 

 騎士のひとりひとりが感情を顔に出さないようにしているが、彼らの雰囲気は意気軒昂しているのが見て分かる。背後にある大型モニターに映像が映し出される。それはクロヴィス第三皇子が凶弾に倒れた地…エリア11。

 

 「すでに周知の事だと思うがクロヴィス第三皇子が凶弾に倒れられた。その事を含めてオデュッセウス殿下はエリア11に向かわれる」

 

 含めて…。

 

 ロロは別件で動いている筈のクララより極秘の命令書を預かっている。命令を下したのは皇帝陛下となっているが実際はギアス嚮団のV.V.であると推測される。命令の内容はV.V.と同じく『コード』を持つC.C.の保護、もしくは捕縛。確定情報ではないにしろエリア11に居る可能性が高いから確認して来いというものだった。

 

 「だがこれは総督として着任する事を意味する訳ではない。殿下はお忍びで入国する形となる。ゆえに護衛として出動するのはユリシーズ騎士団第一中隊のみとする」

 

 まだ公表はされてないがエリア11には18番目となるエリア制定に出ているコーネリア・リ・ブリタニアが総督として着任する事が決まっている。副総督として実の妹のユーフェミア・リ・ブリタニアも行くらしい。行動情報元であるオデュッセウス殿下は、いち早くエリア11の総督に名乗り出た妹君の邪魔はしたくないが、皇帝陛下の命令があるのなら仕方がないと建て前を言われていた。

 

 …が、妹君の――特にユーフェミア皇女殿下の晴れ舞台を見たいと言うのが本音だろう。何年の付き合いになると思っているのだろうか。クロヴィス殿下が描かれた絵が展示されると耳にしたら初日から並び、コーネリア殿下が初の出陣をする日にはギルフォード卿に無理を言って騎士団に紛れさせて間近で見たり、マリーベル殿下が士官学校を卒業する日には一般父兄を装って高性能ビデオカメラを回していたりといろんな事につき合わされてきたのだ。分からないとでも思っているのだろうか。

 

 ヘルメットで表情は見られる事はないロロは堂々と呆れ顔をしてため息をつく。だが、内心また殿下といろんな所に行けると嬉しくも感じている。正直に言ってロロはオデュッセウスに依存している。年齢が二桁に届かない前からギアスを用いて暗殺に狩り出されていた日常の中で変わった命令を受けた。とある皇族の監視と今までとは異なった任務。命じられたときは別に何の感情も疑問も抱かずただ多少毛色の変わった任務を行なうだけだと思っていた。だが、それまで変わることのない生活が180度ガラリと引っ繰り返った。殺伐とした泥沼に浸かったような生活から陽気なお日様の下へと引き上げられたのだ。そこからは毎日が楽しかった。自分のことを道具として扱う事はなく、優しく頭を撫でられたり、美味しい食べ物を食べに出かけたりといままで味わう事のなかった日常を心から満喫していた。今の日常は心地よく、手放したくないほど執着している。

 

 確かに執着してはいるが原作のR2でのルルーシュに対する執着心と比べたらまだまだ低いものだ。ルルーシュはナナリーだけを溺愛しており、記憶を改竄されたルルーシュからその全てを受けていた。対してオデュッセウスも確かに溺愛はしていた。けれどそれはロロ一人ではなく多くの者をだ。弟達に妹達、当時の日本で仲良くなった少年少女、ギアス嚮団の子供達とかなりの者達を溺愛している。だからロロとオデュッセウスがどれぐらいなのか例えると親しい親戚のおじさんぐらいに思ってくれたら正解だろう。敬うべき年上でありながら親しみ易いうえに優しく接してくれるそんな感じ。

 

 と、いらぬ事を考えていたら周りの者達が今度は意気消沈しているのを表情で表していた。ここに居る者たちは忠誠心がカンストしているから殿下の為に戦えると喜んでいたところを第一中隊以外の者は落とされたのだ。意気消沈するのは当たり前と言えよう。

 

 「そんな顔をするな諸君。第二中隊から第五中隊は別件で動いてもらう事となった。内容はユーロピア共和国連合に外交で向かう宰相のシュナイゼル殿下の護衛だ。無論、件の交渉の為である」

 

 件と言うのはオデュッセウスが前々からシュナイゼルに頼んでいた日本人の奪還交渉である。日本がブリタニアに侵略され、植民地での生活を拒んで何とか外国に逃げ込んだ者が結構な数いるのだ。中にはユーロピア共和国連合まで行った者も居るがその暮らしはエリア11のゲットー以下の生活を送らされている。狭い空間に押し込められ自治する事を認められず、ただただその日を過ごすのみ…。それはまるで粗悪な刑務所での暮らしと変わらない。だからまだ自由のあるゲットーに戻す為に『日本はエリア11として神聖ブリタニア帝国が管理している。ゆえに神聖ブリタニア帝国は日本人は我が民と認識し、即時返還を求めるものである』と大使館を通して伝えている。伝えているのだが中々返答を返してこないのでシュナイゼルに交渉してくれないかと頼んでいたのだ。

 

 ユリシーズ騎士団は純粋なるブリタニア人で構成されているが、この案件に異論を持つ者など居ない。彼らはあのノネット・エニアグラム卿が選んだ人間。忠誠心は高く、ブリタニア至上主義に囚われず、ナンバーズだからと隔てる事もない。逆に正しいと思う判断と主の願いを叶える為に沈んだ気持ちは高まっていた。

 

 「すでにユーロピア共和国連合とユーロ・ブリタニアは戦争状態に入っている。こんな時期に赴くのは何か考えがあると思われるが我らの任務は何者の蛮行も許さない事である。行くぞ諸君!我らが殿下の為に」

 

 ヤル気十分の騎士団を見渡し満足気にウィルバーは大きく頷いて壇上を降りる。本来なら総騎士団長であるオデュッセウスもこの場に居るはずなのだがとロロは思いつつ、二度目の大きなため息をつく。

 

 

 

 一方、オデュッセウスは…

 

 神聖ブリタニア帝国 帝都ペンドラゴン 中央病院

 

 怪我人が入院するよりは普通に生活できるほど広い部屋では面白い光景が広がっていた。病院着を着て上半身を起こしたクロヴィスに、切り分けられたりんごにフォークで刺して満面の笑みで「あ~ん、です。お兄様」と口元に差し出すライラ。そんなライラの反対側で溢れ出る涙をハンカチで拭き続けるオデュッセウス。そしてその光景を呆れ顔で眺めるカリーヌ。

 

 例えカリーヌでなくとも呆れるだろう。この病院にクロヴィスが入院して三日が過ぎたがオデュッセウスはそのほとんどをこの病室で同じように過ごしているのだから。しかも泣き続け…。

 

 「兄様いつまで泣いてるんですか」

 「…ぐずッ…本当に…クロヴィスが無事で本当に良かった…」

 「腹部に銃弾を三発受けていて無事と言えるのかはわかりませんが」

 

 シャリシャリとりんごを食べ、飲み込んだクロヴィスはオデュッセウスの一言に苦笑いを浮かべながら突っ込んだ。

 

 神聖ブリタニア帝国第三皇子でエリア11の総督として着任していたクロヴィス・ラ・ブリタニアは凶弾に倒れた。世界中にそのように報道されたが、ピンピンしてライラより差し出されているりんごを食べている。凶弾で倒れただけで別に命に別状もなく、傷口さえ塞がれば退院出来るらしい。

 

 三発も腹部を撃たれたのだが一発たりとも急所や内臓には当たっていなかったのだ。厳重な指揮用陸戦艇『G-1ベース』の作戦指揮を行うコンダクションフロアにまで侵入したテロリストは三発撃つとそのまま姿を消した。厳重な警備を誰一人見つかる事無く突破した犯人が、息のある総大将を殺さずに逃げた謎をいろんな所で議論されているようだ。

 

 何にしたってクロヴィスが死ななかった事は本当に喜ばしい事だ。原作では零距離で脳天を撃ち抜かれて即死だったのだから。悲しい想いを自分だけがするのならまだいい。クロヴィスを失った時のライラの悲しむ姿なんて見たくない。

 

 「ま、何にしたって命があったのは良かったわよね。止めを刺さなかったテロリストは間抜けとして発見が早くて」

 「確かに。バトレーは覚えていないと言っていたが、事実あの場には誰も居なかったからね」

 

 銃弾は急所を外れて即死は免れたが痛みのショックで気絶した後のほうがやばかった。原作通りコンダクションフロアにはバトレー将軍や参謀達が居らず、そのまま誰も気付かなければ出血多量で死亡もありえたのだから。エリア11のシンジュクゲットーへの攻撃命令を取り下げた事と毒ガスが蔓延していると聞いていたジェレミア・ゴッドバルト辺境伯が参謀の意見を聞こうと確認を取ったところ、コンダクションフロアにはクロヴィスしかいない事を知り、慌てて駆けつけると腹部を銃撃されたクロヴィスを発見。迅速かつ適切な応急処置とG-1ベース付近に救護班が配置されてあって多少血が流れる程度で済んだ。

 

 このときの事をクロヴィスは何も覚えていないそうだ。ブリタニア軍の歩兵スーツを装着した者に銃を付き付けられ、シンジュクゲットーに対する攻撃命令を止めさせるように指示されたところまでは記憶にあるらしいがその後の記憶が飛んでおり、目が覚めたら病院のベッドの上だったという。強化スーツは身体だけでなく頭を守る為のヘルメットと暗視機能のついたゴーグルも含まれ、犯人も着用していた為に顔がわからない。ただ、誰にも見られずG-1ベースに侵入した手際の良さと歩兵用の強化スーツを装備していた事から内部の人間…つまりブリタニア軍人が犯人ではないかという話は上がっている。

 

 「ところで兄上はそろそろ行かないで宜しいのですか?」

 「え!?私、邪魔だったかい?」

 「そうではなく、出立の時間が迫っているのではと」

 「もうそんな時間かい?あぁ、急がないと皆を待たせてしまうか」

 「あ~あ、私も付いていきたかったなぁ。オデュッセウスお兄様と」

 

 ロロから受け取った父上様の極秘命令書という大義名分を掲げて―掲げたら駄目だな。一応極秘でだし。ロロには『ユーフェミア皇女殿下の晴れ舞台が見たいのでしょう?』と言われたからそれを理由にして二人にはエリア11に向かう事を伝えてある。クロヴィスは怪我をして休養をしなければならないので、総督から降りたが担当していたエリアに行くのだから伝えておかないといけないだろうと思って伝えた。カリーヌは話をしようとした時に病室に居り、話をするだけで追い出すのもどうかなと言う事で秘密厳守の約束をした上で話した。

 

 総督は原作通りコーネリアがつく事になっている。騎士のギルフォードに将軍のダールトン、副総督就任でユフィも行くことに。少し違ったのはコーネリア以外にもエリア11の総督に手を挙げる者がいたということ。

 

 十歳の時に母と妹を亡くして皇位継承権を奪われた妹、マリーベル・メル・ブリタニアが是非ともと名乗りを挙げたのだ。七年前とは違って彼女は力を持ち皇族復帰を許された。特に彼女自身のスペックがありえないほど高い事が評価された。政治や統治者としての知識を理解し、戦術・戦略にも優れており、ナイトメアの成績はオールS。「天は二物を与えたというのか!?」とルルーシュは星刻を称したが、彼女は時間の余裕もありそれ以上の存在である。

 

 復帰したのはマリーベルの力だけでなく後ろ盾になっていたジヴォン家の口添えもあった。ブリタニアの貴族であるジヴォン家もまた七年間で大きく変化した。ジヴォン家当主であるオリヴィア・ジヴォンはブリタニア屈指の剣術の腕を持っており、それはナイトメア戦でも発揮した。その実力から皇帝十二騎士であるラウンズに招集された。オリヴィア・ジヴォンの弟であるオイアグロ・ジヴォンもまたオリヴィアに勝るとも劣らない実力を持ち、ブリタニア皇族と繋がりを持つ特殊部隊『プルートーン』の隊長を務めている。幼馴染であるオルドリン・ジヴォンはマリーベルと同じ士官学校で好成績を残しており、今から将来が楽しみである。マリーベルはオルドリンに依存してるし、オルドリンはマリーベルの騎士になると本人にも伝えているからマリーベルの騎士として活躍してくれることだろう。

 

 マリーベルはテロリストを心の底から憎んでおり、今回母違いの兄弟を殺されかけた事で怒りは頂点に上っていた。宰相のシュナイゼルや私のところにも総督として推薦してもらえないかと頼みにきたのだが断った。可愛い妹の頼みを断るのは辛かったが騎士団を持たず、怒りで我を忘れているマリーベルを向かわせるほど馬鹿ではない。

 

 「また様子を見に来るよ」

 「エリア11と本国を何往復する気ですか?」

 「連絡するぐらいで良いと思いますよ」

 「そうかな?じゃあ着いたら連絡するよ。カリーヌもクロヴィスも元気で。ライラはクロヴィスが動けぬ今のうちに兄妹の時間を満喫しておきなさい」

 「はい、わかりました」

 

 屈託のないライラの笑顔と微笑を向けるクロヴィスとカリーヌに手を振りながら病室を出る。短く息を吐き出して歩を進める。これからが大変だと気合を入れながら一歩ずつ進んで行く。


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