コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 前回21話を「ストーカー行為?いいえ、これは兄の愛です」として投稿したのですが無理に原作に関わらせようとした為に自分としても納得出来なかったので書き直し。内容を変更して投稿しました。

 最初の方は同じです。


第21話 「日本に来たから少し出歩いてみたら…」

 エリア11…。

 

 元日本国であり、ナイトメアフレームを実戦で初めて使用された国。そして終戦から七年が経った今でも小規模とはいえ争いの絶えない地。そのエリア11では大きく動かざるをえない状況に陥っていた。

 

 五日前にテロリストに毒ガスが詰まったカプセルを奪われた事から事態は始まった。奪われた毒ガスを奪還すべくブリタニア軍はナイトメアフレームを使用してまでの大規模作戦を実施。シンジュクゲットーは瞬く間に血の海に染まった。強行した奪還作戦の結末は焦ったテロリストが毒ガスを使用。ゲットーに拡散したと発表して幕を下ろす筈だった。G-1ベースに侵入したテロリストにより神聖ブリタニア帝国第三皇子で総督のクロヴィス・ラ・ブリタニアが負傷し、落ち着いて治療する為に本国に帰還。総督不在となり、その穴埋めをクロヴィス付きの将軍、バトレー・アスプリウスが行なっていたがそれも二日間のみだけだった。

 

 ジェレミア・ゴットバルト。大貴族の出身で辺境伯の地位を持ち、ブリタニア至上主義を掲げ、純血派を組織した人物。ナイトメアの騎乗技術だけでなく政治手腕も優れており、ラウンズにまで名が知られるほどである。彼が純血派を立ち上げたのは過去の辛い事件が原因だった。マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア皇妃が亡くなったテロ事件が起きた際、彼は初任務で警護の任についていた。敬愛するマリアンヌ皇妃を守れなかった事を強く後悔し、ご子息のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子とご息女のナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女が日本侵攻時に亡くなったと知り深い絶望を味わった。その時より皇族を守る為の力を欲し、皇族の傍近くで仕える地位を求めて純血派を発足したのだ。そんな彼が覚えていないと訳の分からぬ言い訳をしてクロヴィス殿下を一人にして危機を未然に防げなかったバトレーを許せる筈がなかった。軍部を掌握したジェレミアはバトレーを拘束、自身が代理執政官として次の総督着任までの指揮を執る事になった。

 

 あの『オレンジ事件』までは…。

 

 クロヴィス殿下暗殺未遂で逮捕した名誉ブリタニア人の枢木 スザクを護送中に現れた『ゼロ』と名乗る人物によってジェレミアは大きく信用を失う事になった。ブリタニア至上主義を掲げているジェレミアは、名誉ブリタニア人制度を快く思っていない事とクロヴィス殿下暗殺未遂犯がブリタニア軍から出る事を恐れて、濡れ衣でも名誉ブリタニア人に罪を着せて裁いてしまえば、名誉ブリタニア人制度を廃止できると考えたのだ。勿論、真犯人はなんとしても見つけ出して表沙汰にならないように罪をあがなって貰うつもりだったが。『ゼロ』が「良いのか?公表するぞ『オレンジ』を」と言い放ってからも記憶がなくなったジェレミアは、枢木 スザクを逃がし『ゼロ』の逃亡を手助けし、味方である純血派の邪魔をしたと言う事実を突きつけられた。身に覚えはなくともばっちりカメラに収められ、全国へ流された映像には偽りはなく、彼の大失態の記録映像となった。しかもクロヴィス殿下暗殺未遂の真犯人は自分だと『ゼロ』が名乗った事で枢木 スザクは純血派によって濡れ衣を着せられたという事が露見。代理執政官として指揮を執らねばならないが、行政との連携はとれずに疑惑の眼差しで仲間内から見られる羽目になった。

 

 ちょっと空いた小腹を満足させようと近くの売店で買ったホットドックを頬張りながら、オデュッセウスはビルに取り付けられた大画面モニターで一連のニュースを眺めていた。

 

 エリア11に向かう飛行機内で『オレンジ事件』を知ったオデュッセウスはジェレミアに罪悪感を感じながら、正直ホッと胸を撫で下ろした。原作ではG-1ベースに侵入したルルーシュにより即死させられたクロヴィスは生きている。最初は別人の犯行かと考えたが、将軍や参謀がコンダクションフロアから離れた事やその時の記憶がない事など原作通りの類似点があったが判断がつかなかったのだ。しかし、オレンジ事件で現れたゼロは間違いなくルルーシュであったことからクロヴィスを撃った犯人も原作通りルルーシュだったと推測できた。ただ、その確認の為にジェレミアを見捨ててしまったので心苦しかったのだ。

 

 「にしても、誰も気付かないね」

 「…ただ不審な人には近付かないだけでは?」

 

 人通りが多い訳ではないがそれなりに居る通りなのに、誰一人ここに第一皇子が居る事に気付いていないことを呟くと、同じく隣でホットドックを頬張るロロが素早く突っ込んだ。水色の長袖に青色の半袖のジャケット、緑黄色系の半ズボンなど『ロストカラーズ』で登場した衣服を着て、顔を隠すようにつば付きの帽子を深く被っている。そんな少年らしい格好をしたロロに対してオデュッセウスはというと、黒のニットセーターに黒に近い紺色のジーンズ、黒のサングラスに黒のニット帽とほとんど全身黒尽くめでまさに不審者と言うのは正しいだろう。顎には耳元まで届きそうなぐらい大きなマスクを付けていた。このマスクはホットドックを食べる為に顎へ移動させた訳ではなく、特徴である顎鬚を隠すのに使っている。

 

 言われてから辺りを見渡すと確かに数人だが目線を合わさないように歩いている人達を確認した。自身ではどこが悪かったのか分からないが自分の服装を一通り見直す。それでも分からずに首を傾げる様子にため息を吐いた。

 

 「ふむ…やはり服を選ぶのは難しいな。……ん、口元にケチャップついてるよ」

 「え、何処ですか?」

 「ここだよ」

 「――ッ!?」

 

 唇についたケチャップを人差し指でそっと取ると何の気なしに舐め取る。もうついてないか確認するとロロは目を見開いて口をパクパク動かしていた。しかも頬が妙に赤いのだがどうしたのだろうか?

 

 「頬が赤くなっているが大丈夫かい?風邪かな」

 「そ、そうじゃなくて!い、今…」

 「今、なにかな?」

 「ななな、何でもありません!それより何か用があって出てこられたんですよね?」

 

 そっぽを向きながら問うロロは何も聞かされずに付いて来たのだ。というか護衛をひとりも付けずに外に出ていたオデュッセウスを大慌てで追いかけて来たというのが正しい。ギアス嚮団からの監視の役目の為ではなく、騎士団長として護衛する為に。それに対してオデュッセウスは…。

 

 「いやぁ…―――きたくて」

 「すみません。上手く聞き取れませんでしたのでもう一度宜しいですか?」

 「久しぶりの日本だったから出歩きたくて…ごめんね。謝るからそんな目をしないで」

 「いえ、何かあると考えてた自分が馬鹿らしくなっただけなんで気にしないで下さい」

 「本当にごめんね。あ、あそこのたこ焼き奢るからさ」

 

 困ったような笑みを浮かべて歩いて行くオデュッセウスを追いかけながらロロはふっと笑みを浮かべる。向かった先である広場の一部にはイレブン達が出店を開いていた。見渡してみると居るのはほとんどがイレブンか名誉ブリタニア人でブリタニア人の姿のほうがちらほらだった。『たこやき』なる食べ物を買いに行ったオデュッセウスは出店のおじさんに注文して船の形をした入れ物を渡され戻ってくる。船の上には丸っこい塊が六つあり、ソースとマヨネーズがかけられ、さらにその上に木屑っぽいものと緑色の粉が振ってあった。

 

 「そこのベンチにでも座って食べようか」

 「敷物はどうしますか?」

 「要らないよ。買いに行くのも時間がかかるし、冷めちゃうからね」

 

 少し汚れている事など気にも止めず腰を降ろし、ひとセットを渡してくる。本来なら皇族が口にする前に毒味が必要なのだが、お構いなしにひとつを口の中に放り込む。熱かったのかハフハフと熱気と声を漏らしながら食べて頬を弛ませる。幸せそうな表情にロロもつられて頬が弛む。

 

 「美味しいね。久々に食べたよ」

 「殿下は本当においしそうに食べられますね」

 「本当に美味しいからね」

 

 二つ目を頬張るのを見て少し息で冷ましながらひとつを食べる。言われた通りに美味しかった。中に入っていた弾力のあるものが何なのか分からなかったがその触感を気に入った。一つ目を飲み込むと二つ目を食そうとするが隣が気になり手を止める。

 

 「何やってるんですか?」

 「ちょっとジノやアーニャに送ろうかとね」

 

 懐から取り出した携帯電話のカメラ部分を自分に向けて、空いている右手でたこ焼きを顔の近くに持って行き写真を撮っている。たまにこの人は本当に皇族なのかと疑いたくなる。

 

 先ほど名が出たジノとアーニャは勿論、ナイト・オブ・ラウンズのジノ・ヴァインベルグ卿にアーニャ・アールストレイム卿の事である。アーニャとは給仕を行なっていた時から付き合いがあったが、ジノとは結構最近の事だ。出会い自体は若い貴族の子達のナイトメア適性検査の時に遡るのだが交流が出来たのは別だった。それはラウンズ入りして皇族と会う機会が増えた事でも、名門貴族との会合などでもない。ブリタニア本国で大きなパレードが催された会場でだ。護衛の目を盗んで抜け出した殿下は会場で、そこまで高くない私服で『これが庶民の祭りか!』と興奮していたジノと出会い意気投合。二人でパレードを楽しんでいる所をロロに発見され、事情を聞くまで殿下と分からなかったらしい。ただのそっくりさんと思っていたらしいがそれが普通だと思う。なにせ神聖ブリタニア帝国第一皇子が護衛のひとりもつけずに一般人に混じってパレードを楽しんでいるのだからまずは本人とは思わない。何はともあれそれから交流を持っているのである。

 

 写真を撮って送ってから三つ目に手をつけようとして止まった。目を細めた先が気になり向いて見るとそこでは不良らしきブリタニアの若者たちがひとりの売店の店員を囲んでいた。遠目でだが殴ったり蹴ったりと暴力行為に及んでいるのに誰も止めようとはしていない。そればかりか出店を営んでいる彼らは何もないかのように振舞っている。冷たくも思うがそれが正しい判断だと理解はする。もし下手に助ければ明日からそこで出店を開けなくなる可能性がある。それだけの理不尽が通るほどブリタニアとイレブンの間には大きな格差がある。道徳や人間としては一般的に間違っている事なのだろうが明日の生活がある彼らにそれを強いる事は間違っている。ゆえにロロは責める事も助ける事もしない。ただ隣の人物は違っていた。

 

 「ロロ。これを」

 「え?殿下お待ちを!」

 

 食べていた途中のたこ焼きを渡して何の躊躇いもなく向かって行く。たこ焼きをベンチに置きつつ懐に隠している拳銃を確認しながら追いかけるが、追いつく前に輪の中に入ってしまっていた。

 

 「君達何をしているのかね」

 「なんだテメェ」

 

 楽しそうに暴行を加えていた者達は間に入ってきたオデュッセウスにガンを飛ばす。正直オデュッセウスの性格は勇猛かどうかと問われれば臆病な方であると答えよう。しかし臆病といってもそこらの不良相手に臆するわけではない。あの程度の睨みなど効きはしない。なぜなら父親であるシャルル・ジ・ブリタニア皇帝の威圧と睨みによって鍛えられているのだから。

 

 対象をボロボロになっている店員からオデュッセウスに変更したひとりがにたにたと笑いながら殴りかかってくる。大振りの一撃を一歩右に動く事で簡単に躱し、肘をがら空きとなっている鳩尾に打ち込む。怪我をしないように手加減を加え、相手が気絶する程度ですませた。短く息を吐いて白目を向いた若者は足で身体を支えられなくなり地に伏した。その際には頭を打たないようにぎりぎりで身体を支えてゆっくりと降ろしたが。

 

 完全に相手が悪過ぎた。帝国最強のビスマルクに剣術を習った経験値が段違いの相手に素人が挑んだのだから。

 

 「争い事は嫌いなんだけどね。どうしよっか」

 

 にこりと微笑む表情とあっけなく意識を刈り取られた仲間を見比べて若者達はゆっくりと後ずさり、その場を離れようとする。

 

 「待ちたまえ」

 「ヒィッ!?な、なんでしょうか…」

 「彼も持って行きなさい」

 

 気絶した者を示した事で急いで両肩を支えて走り去っていく。呆れ顔を浮かべながらやはり殿下はこうだよなと納得しながらロロは横につく。ボロボロにされた店員を心配して声をかけたが店員は痛みを感じていないかのように笑い『いらっしゃいませ』と口にした。これ以上何かを言っても何にもならないだろうとオデュッセウスは判断して彼から商品を買う事に。

 

 再びベンチに腰掛けて先ほど買ったたこ焼きと焼きそばを膝に乗せて悩んでいた。このような状況をなんとかしてやりたいのだが総督はコーネリアなので彼女のエリアに口出しするのも間違っている。しかし放置も出来ないと板ばさみにあう。

 

 「あまり悩んでも仕方ありませんよ」

 「でも…うーん…」

 「飲み物でもお持ちしましょうか?」

 「ん、あぁ、お願いしようか」

 

 ロロは何かあったときの為に腰より予備の銃を渡して離れる。護衛としては問題なのだが以前にも似たようなことがあって『ひとりでも大丈夫だよ。少しの間だし』と押し切られたのだ。最低限の譲歩として銃を携帯してもらう事で折れたのだ。相手が銃やナイトメアでも持ってない限り負ける事はないだろうが。

 

 「貴方、優しいのですね」

 

 ふいに声をかけられて振り向くとそこには薄っすらと微笑みを浮かべた儚げでお淑やかな―――猫を被った赤毛の少女が立っていた。服装からアッシュフォード学園高等部所属の女学生である事が分かる。いや、分かっていた…。日本であるから可能性はあったのだがまさか出会うとは露ほども考えておらず、感情が表情に出ないように堪えるのが唯一出来ることだった。

 

 紅月 カレン。シンジュク・ゲットーで活動しているレジスタンスのリーダーであった紅月 ナオトの妹で黒の騎士団のトップエース。身体能力はスザク君ほどではないから何かあっても対応できると思うがその手に持つ分厚いナイフが収納されたピンク色のポーチがすごく怖いです。拳銃を渡されているがロロは気付いているのだろうか?私はナイトメアでナイトメアを潰した事はあるが、人を直接殺した事はないことに。絶対に躊躇するか後悔をするだろうから使えない…使いたくても使えないだろう。

 

 「優しいですかね?」

 

 出会った感動と興奮にもしもの恐怖を隠しつつ困った笑みを浮かべて言葉を返す。一瞬キョトンとした顔をしてすぐに微笑み直した。

 

 「優しいですよ。普通の人なら助けたりしないもの」

 「そうかな…私はただ自分の我侭を行なっただけだよ」

 「我侭ですか?」

 「私は眼前での出来事を天秤にかけてやりたかったことをやっただけですから」

 

 眼前で…。第一皇子の地位や今まで築いてきたコネクションを使えば多くの人を救えると理解している。理解しているのだがどうしても自分の命を天秤にかけてしまう。勿論出来る事なら幾らか行なっている。ヨーロピアン連合でエリア11以上に不当に扱われている日本人の返還要求に自分が担当していたエリアでのナンバーズ緩和策、一部地域では食糧支援として炊き出しや怪我や病気の治療で医師団を派遣した事もある。しかしこれらはすべては自分の命に関わらないと確信してからのものばかりだ。大きな動きをすると伯父上様に何か勘ぐられたりしているらしく、大規模に自身で動けない。

 

 「何も全てを投げ打って行なえる人なんて少ないですよ」

 

 前々から抱いていた罪悪感を感じていると温かく諭すように語りかけてくる。

 

 「それに眼前の人を救う事がいけない事ではないでしょう?人間一人にすべての人間を救う事は不可能だと思います……目の前の人でさえ救うのは難しいですから」

 

 言葉が胸にスーと入ってきた。それは私に向けて言っているつもりなのだろうが彼女自身に言い聞かせている部分が多い。ブリタニアから日本を取り戻す、彼女らはその為に行動を起こしている。しかし、この前のシンジュク・ゲットーの戦闘では結果的にシンジュク・ゲットーに暮らす民間人をも巻き込み、目の前に居た多くの者を救えなかったのであるから言葉の重みは凄く重い。

 

 「そろそろ行きますね。お連れの方が睨んでいますので」

 「ええ、ありがとう。本当にありがとう」

 

 軽く会釈して去って行くカレンを見送り、隣に並ぶロロに視線を向ける。表情は無表情を貫こうとしているが不機嫌なのが雰囲気で分かる。だが、私は逆に少しばかりではあるが晴れやかな気分に包まれていた。ほんの数分の会話だったが得るものはあった。

 

 「少し頼みたい事があるのだけど良いかな?」

 「何なりと」

 

 頼みを聞く前に仕事モードに入ったロロはスッと表情を引き締めて頭を軽く下げる。と言っても仕事は数日後で今日じゃないので今日はめいっぱい遊ぶことに。クロヴィスランドや映画館、ショッピングも楽しかったが撒いてしまった護衛の第一中隊の面々から心配したと抗議を受けたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 長いようで短い時間を沈黙で満たされた車内でジェレミア・ゴットバルトは頭を抱えて延々とあの忌まわしい奴を思い返していた。

 

 ゼロ…。

 

 そう名乗った奴により、自分の出世への道は閉ざされた。クロヴィス殿下殺害未遂の容疑で逮捕した枢木 スザクを奪われ、『オレンジ』なる覚えのない言葉で疑惑を持たれ、純血派内部で粛清されそうになったりとこの数日のうちに今まで築いてきた物がすべて音を立てて崩れ去った。

 

 『一パイロットとしてやり直すか……オレンジ畑を耕すかだ』

 

 総督に着任成されたコーネリア・リ・ブリタニア皇女殿下の騎士であるギルバート・G・P・ギルフォード卿に留置所で突きつけられた選択肢が脳裏を過ぎる。勿論オレンジ畑など意味も分からぬ事は選択肢にはなく、一パイロットとしてやりなおす選択を取った。貴族としての爵位を失い、階級をふたつ落とされようとも自分なら這い上がれると思った。だが、冷静になって考えてもみたら不可能に近いだろう。一度疑惑という汚点が付いた自分が皇室のすぐ傍で仕える栄誉を賜る事はない…。

 

 留置所から釈放された際には純血派の誰も迎えには来なかった。キューエル卿は間違いなく来ないと思っていたがヴィレッタ卿まで来ないとは思わなかった。この事により自身の立場を理解させられた。そんな時だ、顔を隠すように帽子を被った男達についてきて欲しいと言われたのは。放心状態に近かった私は何の疑問も躊躇いも見せぬまま、誘導された車に腰を降ろした。自暴自棄というのもあったのだろう。昔の自分ではまったく考えられない行動だ。

 

 車体を揺らして車が停車し、廃墟と思われるビル前に降ろされる。そのまま促されるまま建物内へとついて行く。どうやら建物内には何人かの武装した者が警備に当たっている事からかなりの資金を持つ者が雇っているのが分かる。目に付いた者の動きでブリタニア軍人並かそれ以上の実力者だと判断したからだ。

 

 ジェレミアの予想は確かに当たっていたが予想を遥かに超えていた事に唖然とした。

 

 「久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 「こ、これはオデュッセウス殿下!?」

 

 突然の殿下に驚き、片膝をついて頭を垂れる。いつもの皇族としての衣装ではなく黒一色の服装に灰色のコートを着ている事と事前に情報がなかった事からお忍びでこられた事を察する。

 

 「元気だったかいと聞きたいけれどいろいろ大変だったろう」

 「――ッ!ち、違うんです殿下!私はオレンジなど知らないのです!!私は…私はァ!!」

 

 殿下の言葉で取り乱してしまった。今の私は見るに耐えないほど見苦しいほどの醜態をさらしてしまっている。しかしそれでも訴えなければならない。もし殿下にまで信用されなかったら私は!

 

 薄汚れた床に何の躊躇いもなく膝をついて焦燥の色濃く縋り付くジェレミアの肩に優しく手を置く。その表情はいつもと変わらず微笑を浮かべたままだった。

 

 「分かっているよ。分かっている」

 「で、殿下ッ…」

 「そこでなんだがうちに来ないかい?」

 「は?」

 「今度騎士団以外に部隊を作ろうと思っているのだがそこの隊長をやってみないかい?疑惑を持たれた純血派の隊員も働き辛いだろう」

 「純血派の隊員ごと引き抜くと!?」

 「あぁ、その通りだ」

 

 想いも寄らぬ言葉に涙が出そうなほど気持ちが感極まる。悲願でもある皇族の近くで仕えられる。実際涙ぐみながらその手を取ろうと手を伸ばすが、ギリギリで手を引っ込めてしまう。その行動にオデュッセウスは首を傾げている。

 

 「どうしたんだい?」

 「有難過ぎるお誘いでありますが今疑いを持たれた私が殿下の下へ行けば殿下にご迷惑がかかってしまいます」

 「そうか…分かった。すまなかったね」

 「い、いえ…」

 

 謝られた事に今度はジェレミアが首を傾げるが聞く事はしなかった。微笑みながら立ち上がったオデュッセウスはその場を去ろうとする。

 

 「お。お待ちください殿下!」

 「ん?何かな?」

 「殿下はわざわざ自分の為にお越し下さったのですか?」

 「今ここに居る理由はそうだよ。君の友人として手を貸したくてね」

 「友人……殿下にそのように想われているとは感激の至りです。ありがたいお誘いを断っておきながらひとつお願いがございます!」

 

 足を止めて振り返るオデュッセウスは静かにその願いを聞いた。そういう変化もあるものかと思いながら。


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