コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

25 / 150
 『コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~』を読んで下さっている皆々様、感想を書いてくださる読者様、真にありがとうございます。
 多くの誤字脱字を訂正してくださる方々には感謝すると同時にお手間を取らせて申し訳ありません。

 今回、久しぶりに前書きを書かせて頂いたのは、ある話に訂正をしたと報告させて頂く為であります。
 原作開始前の第14話 「突然の別れ…」にてありす様より千葉さんは学生で軍には入っていないとのご指摘があり、今まで直す時間が取れなかったのですが最近になってようやく直せたので投稿させ頂きました。内容の変化は四聖剣の登場がカットされて代わりに片瀬少将が登場した形になっております。

 長々と前書きを書いてしまいました。では本編をお楽しみください。


第25話 「ナリタ連山にハイキングへ行こう!…重装備で」

 ナイトメアに積まれたファクトスフィアと呼ばれる情報収集用カメラは大した物だと思う。頭部の装甲を開いてファクストフィアを使えば広域での索敵に使用でき、望遠はもちろん赤外線サーモグラフィに音響センサー、生物探知機能など各索敵系のシステムを扱えるのだ。

 

 このシステムは戦闘時のみならず災害救助や情報収集時にも使える。だからこそオデュッセウスはナリタ連山の麓でグロースターに騎乗して民間人の誘導を行なっていた。

 

 ナリタ連山。

 エリア11で最大の勢力を誇るテロリスト『日本解放戦線』の本拠地があると噂される場所。実際に日本解放戦線の本拠地があり、山そのものが要塞化されている。ブリタニア軍としては日本解放戦線の壊滅とエリア11のテロリストを支援している『キョウト』と呼ばれるグループの情報も欲しく、有効な空爆作戦は行なえずにナイトメアによる制圧を計画・実行していた。敵の本拠地であり、攻め手は守り手より戦力を必要とするので大規模なナイトメア部隊が導入されている。

 

 戦力にはコーネリアの親衛隊はもちろん予備戦力として後方に配置された純血派、シュナイゼルより戦闘には出来るだけ参加させて欲しいと頼まれた特派も含まれている。そしてナリタ連山の麓にもナイトメア部隊が配置されていた。

 

 ロロにブリタニア本国よりユリシーズ騎士団第一中隊のグロースター十二騎と、白騎士とオデュッセウス専用のグロースターの合計十四騎を空輸して貰い、コーネリアに掛け合って民間人の誘導を行なっているのは、ここで亡くなってしまう人物を助ける為だ。

 

 原作でシャーリーのお父さんがルルーシュの起こした土砂崩れで亡くなってしまうシーンがある。このシーンにより物語も大きく動いてしまう。身元確認で来たシャーリーの私物でヴィレッタにルルーシュへの疑いを持たれたり、マオによってシャーリーがルルーシュに銃を向けてしまう理由となってしまう。原作知識を活かしてこの先生き延びるのであれば無視をする所なのだが、やはりというかルルーシュが悲しむ顔をするのを知っていて無視は出来なかった。だからと言って面識のないシャーリーの父親個人に行くなという訳にもいかず、コーネリアに戦力の一部を割いてでも民間人の誘導に充ててくれと頼む事も出来ない。なので索敵能力を持っていて、ナリタ攻略戦力に数えられていない自身が行く事にしたのだ。

 

 『この区画の避難誘導は終了で宜しいのでは?』

 「うん?そうだね…センサーにも反応は無いか」

 

 灰色に染め上げられたオデュッセウス専用のグロースターの隣に並ぶ純白のグロースターに騎乗している白騎士(ロロ)からの通信に答える。すでにシャーリーのお父さんは退避させたし、言ったようにセンサーに生物反応が付近にない事から切り上げてもいいだろうと判断する。

 

 それにしても…。

 

 頭部モニターを動かしてナリタ連山へと向ける。モニターには大自然により形成された山々に多くのナイトメアが取り付いて、至る所で爆煙を上げていた。風情もへったくれも無い光景にため息が漏れる。出来れば大きなリュックサックにお弁当を詰め込んで皆でハイキングを楽しみたかった…。

 

 『コーネリア皇女殿下は地形ごと変えるつもりでしょうか?』

 「山ごと削るんだったら空爆や一点突破型のサザーランドを揃えなきゃね」

 『民間人の戦闘区域からの誘導は終了するとして、次はどのように?』

 「そうだね…とりあえずは補給も兼ねてG-1ベースのユフィの下へ行こうかな?」

 『了解しました。第一小隊より全ユリシーズ中隊各機へ。速やかに合流せよ』

 『『『『イエス・マイ・ロード!』』』』

 

 各員からの返事を聞いたロロは私を守るように付近に展開させていた第一小隊を索敵陣形から防御陣形へと移行させる。ユリシーズ騎士団第一中隊は合計で十二騎居て、部隊長を任せられる者を四人含んでいる。こういうときには四個小隊に分けて個別に動かせられるのは凄く良い。これもノネットやロロのおかげだな。

 

 全機損傷も無く合流するとオデュッセウスは急いで山を駆け上がり始めた。お父さんを土砂から助けて自分が埋もれてしまっては本末転倒だ。それにルルーシュがどう思っているか知らないけれど、自分を殺させた事で兄弟・姉妹間の争いに火は注ぎたくないし、重荷は背負わせられない。何より一番にまだ死にたくないから。

 

 

 

 

 

 

 ナリタ連山頂上ではナイトメアフレームの無頼数機と歩兵部隊が集まっていた。無頼とはブリタニア軍でサザーランドが正式採用される前に主力だったグラスゴーを多少改造した機体で、グラスゴーとの違いと言えば頭部の装甲強化と対人用の胸部機銃、ナックルガードが付いた所でそれ以外は変わらない。

 

 無頼はレジスタンスを支援している組織『キョウト』が支援組織に流している機体で、ここナリタ連山に本拠地を置く日本解放戦線の主力でもある。しかし頂上に居る部隊は日本解放戦線の機体とは違った。日本解放戦線の無頼は緑色系なのだが頂上に居る無頼は黒や黒に近い灰色で塗装されていた。歩兵達も旧日本軍服ではなく黒い制服に身を包んでいた。

 

 『黒の騎士団』

 シンジュクゲットーにサイタマゲットー、河口湖のホテルジャックなどで活躍し、今、エリア11にて最も注目を集めている組織。

 

 ブリタニア軍からは皇族に仇成す大罪人として、エリア11の反ブリタニア組織からは今は小さいが反旗の希望の種として、市民の中には悪を裁くヒーローと、様々な注目を浴びる黒の騎士団はこれより最大規模の作戦を実行しようとしていた。

 

 レジスタンス支援組織より届けられた純日本製ナイトメアフレーム『紅蓮弐式』。グラスゴーの改修機とは異なり、姿形からすべてが異なっている。胴体は逆三角で肩は広く尖り、頭部は大きなファクトスフィアではなく人の目のようなツインアイが採用されて小顔になっている。そして最大の相違点は大きく肥大化した右腕だ。右腕部内で高めた高出力電磁波を放ち、膨大な熱量を生み出す世界初の『輻射波動機構』を備える。

 

 この真紅に染め上げられた紅蓮弐式を使って山頂より土石流を発生させ、敵の包囲網の一角を崩壊させる。そうすればブリタニア軍は混乱の真っ只中に叩き落とされ、これを好機と見た日本解放戦線は攻勢に出るだろう。勝つ事を意識しないにしろ脱出の為に出るしかない。その混乱に乗じて黒の騎士団は総督であるコーネリアを捕縛する。もしそんな事が出来ればエリア11の反ブリタニア勢力は立ち上がり、指揮系統を失ったエリア11駐屯軍は統制を失う。もちろん本国から支援や増援は送ろうとするだろうが外国勢力にも反ブリタニア勢力はいる。そうそう大部隊での援軍は不可能だろう。

 

 急ぎ出撃準備に取り掛かっている団員を自身の無頼より見つめ、コクピット内に戻る。ゼロの仮面を外して一息つくルルーシュはにやりと笑う。

 

 ここまでは計画通り。黒の騎士団団員には事の内容は教えてない為にブリタニア軍に山ごと包囲された時にはかなりの動揺を見せていた。玉城が『お前にはリーダーは無理だ』と喚き散らしたりしたが、すかさず『この私抜きで勝てると思うのならば誰でもいい。私を撃て!』と言い返す。誰も撃つ事も無く事を終える。撃てるはずもない。皆も解っている。ここで私を撃てば生き残る確率もない事を。

 

 「ここまでは計画通りだな。後はコーネリアにチェックをかけるだけか」

 

 そう呟くとふと兄上の顔が過ぎった。

 

 不安要素の塊で昔からのイレギュラー。兄弟の中で最も敵に回したくない人物のひとりであるオデュッセウス・ウ・ブリタニア。ナイトメア戦ではコーネリア以上で知略も高かったと記憶している。河口湖のホテルジャックでこのエリア11に来ている事は分かっている。もしもあの男がこの戦いに参加するような事があればどうなるか分かったものじゃない。『白カブト』というイレギュラーをカレンの紅蓮が相手をしたとしたらオデュッセウスを止める手立てが無い。

 

 一瞬不安が過ぎるがすぐさま解消された。理由は敵の大将がコーネリアであるからだ。コーネリアもオデュッセウスも兄弟・姉妹に甘いところがある。死の可能性がある最前線に出す事はなく、居ても後方で指揮の補佐…いや、ユーフェミアが副総督として着任しているから総督補佐として政庁に二人で詰めている可能性のほうが高いか。

 

 レーダーに映るコーネリアの理にかなった布陣を見てほくそ笑む。理にかなうからこそ手の内が読み切れる。

 

 『ゼロ。発光信号が』

 「位置は?」

 『三番の方向から』

 「そうか」

 

 すでに山小屋から周囲の警戒を行なっていた日本解放戦線の者を無力化して、日本解放戦線の入り口は知っている。今放たれた発光信号はその入り口方向であることから入り口を発見してこれから突破を図るのだろう。付近の部隊を集結させて…。頃合と判断して外部スピーカーのスイッチをオンにする。

 

 「よし!すべての準備は整った!!黒の騎士団総員出撃準備。これより黒の騎士団は山頂よりブリタニア軍に対して奇襲を敢行する。私の指示に従い第三ポイントに向け一気に駆け下りよ。作戦目的はブリタニア第二皇女コーネリアの確保にある。突入ルートを切り開くのは紅蓮弐式だ。カレン、貫通電極は三番を使う。一撃で決められるな?」

 「はい」

 

 短く返ってきた返事。そして、地面に突き刺さった円柱型の装置を紅蓮の肥大化した右手が掴む。

 

 「出力確認。輻射波動機構、外債状態維持――――外周伝達!」

 

 紅蓮より放たれた高出力電磁波が三番の貫通電極を伝って地下の水まで届く。急激な温度変化を起こし水蒸気爆発が発生、地面が盛り上がって山頂から土砂が一気に駆け下りてゆく。これでコーネリアの主戦力は壊滅。後はコーネリアを捕縛して母さんが殺された真相を問うだけだ。

 

 

 

 

 

 

 ブリタニア軍は大混乱の真っ只中にあった。

 

 突如の山崩れによってアレックス将軍にダールトン将軍指揮の部隊が壊滅状態。しかも悪い事にその時はダールトン将軍が日本解放戦線の入り口を発見したと連絡があり、予備部隊も集結していた為に戦力のほとんどを失う結果に。

 

 G-1ベースに詰めていた参謀達は別の意味で絶望を感じていた。土砂の流れの外で助かったがコーネリア総督が現状動けない状態からして指揮をとるのは副総督であるユーフェミア第三皇女になる。どう見ても世間知らずの小娘に何が出来ると内心思いつつも指示は仰がなければならない。戦場のせの字も知らない少女に期待はしていないが、ここで勝手に指示を出して責任問題に発展したら後々大変だ。

 

 ……と、皆思っていた。戦闘前の部隊配置やこれからの侵攻ルートなどを説明していた時は真剣に聞いてはいたが何処か分からないような空気があった。土砂が起こった当初は歳相応の不安げな感情を表情に出していた。そのまま何も決められないまま気持ちだけが焦る。これが原作でのユーフェミアの流れであったがこの話ではイレギュラーが存在している。

 

 『焦った時こそ落ち着いて、状況を確認するんだよ』

 

 ユーフェミアは予期しない事態に困惑したが兄上の言葉を思い出して、大きく深呼吸を繰り返して気持ちを少しだけでも落ち着かせた。原作知識を知り、兄弟・姉妹想いのオデュッセウスがこうなる事をただ放置する事はなかった。シュナイゼルやギネヴィアなどに関わっていったようにユーフェミアには何度か個人授業を行なったのだ。

 

 「全部隊を警戒しつつ後退。敵が来た場合には撃破ではなく撃退や回避を優先させてください」

 

 指示を開始したユーフェミアは不安は残っていたがやるしかないと覚悟を決めて頭を働かせる。

 

 『欲張らず出来る事をやるんだ。これも出来たら良いなではなく、これは出来ると判断できる策を優先的にね。時には残酷な事もあるだろうけど…』

 

 悲しげながらも呟いた最後の言葉も思い出しつつ現状を把握しようとする。絶対的な経験不足に優しすぎる性格もあって戦場に不向きな事は十分理解している。でも、自分がやらねば多くの人が亡くなってしまう。

 

 「後方に展開している部隊を前線に出ている部隊の援護に向かわせてください。態勢を立て直しつつ後退の指示はそのままでお願いします」

 「は…はい、すぐに!」

 「コーネリア総督への救援はいかがなさいますか?」

 「姉様…総督への救援は―」

 「山頂より新たな部隊を確認。カリウス隊が迎撃に向かいました」

 「分かりました。では、ダールトン将軍には一度下がってもらって全軍の指揮を頼んでください」

 「カリウス隊より緊急連絡!敵は黒の騎士団と…」

 「黒の…騎士団…」

 

 クロヴィス兄様を負傷させ、河口湖で私やオデュッセウス兄様を捕らえず助けたゼロ。テロリストとも義賊とも称される彼らは間違いなく総督を狙って来ている。近くにはギルフォード卿が隊長を務める親衛隊が控えているといっても、姉様や兄様の話を聞いてから何の策もなく攻めて来たわけではない。

 

 焦りながら映し出される地図を見渡すと近くに見覚えのある部隊名を見つけた。昔、オデュッセウス兄様に友人として紹介されたジェレミア・ゴットバルト卿が隊長を務める純血派。親衛隊に及ばないが腕前はかなりのものと聞いている。

 

 「純血派の方々に黒の騎士団の足止めを」

 「しかし、総督の後ろの備えがなくなる事に。それにオレンジになぞ―」

 「今はそんな事を言っている場合ではありません。間違いなくゼロは何か策を持っているはずです。このまま総督と出会ってしまったらどうなるか…」

 「わ、分かりました。直ちに命令を下します」

 「今のうちに総督には後ろに下がって頂いて空軍の援護を―」

 「待って!総督の後ろから何かが近付いています」

 

 見つけたのは偶然だった。純血派が黒の騎士団へ向かって行くのを見つつ、他に部隊は居ないかと見ていたら後方から近付く点があったのだ。友軍とも敵とも判別が付かない所属不明の点は二つから五つに分かれて親衛隊の点と交わる。日本解放戦線の主力は旧式のグラスゴーを改修した無頼で、親衛隊は個人個人に合わせた現主力のサザーランドの改修機。勝つのは親衛隊であるのは参謀の誰も疑わなかった。

 

 しかし、消失したのは親衛隊のほうだった。一騎は奇襲と無理やり納得させようと考えたが次々と親衛隊の反応が消えていく。完全に押されている…。映像はないので実際はどういう風になっているか分からないが、モニターに映る地図には敵味方の識別信号の点だけでいうと劣勢に立たされている。背後には謎の五騎に正面は純血派が抑えているといえど黒の騎士団が迫ってきている。

 

 途中、コーネリア機がギルフォード卿より離れて移動を開始した。これにどういう意図があったかは分からないが全体が見えていたユフィ達には悪手にしか映らなかった。コーネリアが移動を開始してすぐに黒の騎士団が方向を変えて迫っているのだから。どうにかしないと姉様が死んでしまうと今まで以上に焦り、手に力が篭る。

 

 …誰か助けて…

 

 

 『どうもどうも、特別派遣嚮導技術部でございまーす』

 

 急にモニターに割り込んだ抜けた声の持ち主にキョトンとしてしまった。この場に似つかわしくないニンマリとした笑顔に妙に弾んだ声。軍服ではなく白衣を着ていることから研究者なのだろうか? 

 

 割り込んだ映像はナイトメアのコクピットより送られたものらしく、シートに座る枢木 スザクの左右にセシル・クルーミーとロイド・アスプルントが引っ付くように映っていた。急に連絡を送ってきた内容は総督救出の為に出撃命令を求める物だった。それは願っても見なかった事であり飛びつきたい一心、スザクが命を落としてしまう危険もあって躊躇ってしまう。周りの参謀達は『無礼者!』や『たった一騎で何が出来る?しかもナンバーズで』などと侮蔑的な言葉を投げかけて否定的な発言をするが、ロイドはにへらにへらと笑みを浮かべ気にした様子もなく言い返している。そんな中、スザクの口が動いた。

 

 ――ユフィ。

 

 声には出してないがあの口の動きはそう発していた。一度目を閉じて空気をゆっくり吸ってから私は決めた。彼を信じると。

 

 「分かりました。総督の救出を頼みます」

 『はい、必ずや』

 

 通信が切れて二人が生きて帰ってくることを願い、モニターを見つめる。こちらが混乱している好機を相手は見逃さずナリタ連山内部に温存していた戦力を前線に投入してきた。もう初期の作戦を完遂する事は不可能…。ならばと考えを変える。

 

 『状況はどうなっているかな?』

 「お、オデュッセウス兄様!?」

 

 またもモニターに割り込んだので今度は誰かと思ったら予想もしなかったオデュッセウス兄様だった。コーネリアは今回の作戦でオデュッセウスを前線に出す気がなく、本人が言った民間人の誘導だけだからとダールトンとギルフォード以外には教えなかったのだ。もし教えていればちょっとした事でユフィや参謀達が頼る可能性があったからだ。ユフィが頼めば二つ返事で前線にも飛び込んでくる。そう考えての事だったが今となってはありがたい事だ。帝国でも名の知れた猛者達を率いているのだから。

 

 「お兄様!土砂崩れが起こってブリタニアの主力が…黒の騎士団も現れて…お姉様が孤立して…」

 『落ち着きなさい。まずは戦場の位置情報データを送ってくれるかい?それと現在の指揮は誰が?』

 「は、はい。指揮は総督と通信が繋がらない為に私が…」

 『データ受信したよ。……距離的にコーネリアは遠いかな。ランスロットは向かわせたのだろう?』

 「その通りです」

 『彼ならば問題はないね。これからの行動方針は?』

 「………包囲網の一部を緩めて日本解放戦線をそこから逃がします」

 「それはなりません副総督!」

 「みすみす逃がすと!?奴らを逃がせば後々…」

 『ふむ、それがいいだろうな』

 

 現状では日本解放戦線に勝つ事は難しい。勝てたとしても多くの犠牲を払ってしまう。それならばわざと逃がしてひとりでも多くの味方の命を救おうと自らの考えからのものだ。否定的な言葉を放たれる覚悟もしていた。が、慌てふためく参謀を余所にひとり納得した笑みを見て安心する。

 

 『現状では無駄に被害を増やすだけだからね。よし、ユーフェミア副総督。私達はこれよりギルフォード卿と合流しようと思うのだけれど許可を頂けるかい?』

 「兄様が前線に!?」

 『君も放っては置けないだろう。すでに向かっているし―』

 「大丈夫なのですよね…」

 『大丈夫だよ。問題ない。だから頼むよユフィ』

 「―オデュッセウス兄様。御武運を」

 『イエス・ユア・ハイネス……なんてね』

 

 笑顔で答えて通信を切ったオデュッセウスは所持していたライフルを両手で持ち、山を駆け上がる。初の実戦に胃がズキズキと痛むのを耐え凌ぎながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェレミア・ゴットバルトは笑みを零さずにはいられなかった。『オレンジ』という不名誉で不誠実な濡れ衣を着せられ、皇室に仕えるどころか騎士としての生命まで絶たれそうだった自分が、参謀から伝えられたとはいえユーフェミア皇女殿下からのご指名を受け、皇族に仇なすゼロを仕留めるチャンスをお与えくださったのだ。感無量とはこの事だ。それに少なくなったとはいえ後ろには自身に従い、付き合ってくれている同志達が居る。

 

 自身を友と呼んでくださったオデュッセウス殿下と、自身をご指名くださったユーフェミア皇女殿下のご期待に応える為にもゼロだけはこの手で討たねばならない。

 

 純血派仕様にチューンされたサザーランドで森を駆け抜け、黒の騎士団が居るであろう予想進路へと到着した。モニターで付近を見渡すとそこには黒いグラスゴー…いいや、無頼が駆け下りている姿が映った。目に映った無頼に標準を付けてトリガーを引く。あっけなく直撃した二騎は脱出システムを起動させて脱出していたが気にすることなく外部スピーカーをオンにする。

 

 「ゼロは居るのか!?居るならばこの私と、ジェレミア・ゴットバルトと戦え!!」

 『ほう、久しぶりですね。まだ軍に居られたのですか?』

 

 忘れもしない…忘れる事など出来ない声を耳にして発生源である無頼を睨みつける。他の無頼と違って黒ではなくほとんどを焦げ茶色に塗装され、頭部は鮮やかな赤色と黄色い角を生やしていた。あれがゼロの乗る無頼なのだろう。

 

 『しかし、今貴方と関わっている時間はないんですよ。――オレンジ君』

 

 その言葉に一気に血が沸騰するが理性で抑える。

 

 「貴様のその言葉のせいで私は多くのものを失った…が、しかし!私は志までは失わぬ!!ユーフェミア殿下の命、果たさせて頂く!!」

 

 素早くケイオス爆雷を取り出しゼロに対して放り投げる。この時ゼロはジェレミアが激昂して突っ込んでくると予測していたのでこの行動は想定外だった。回避しようにも周りは木々で囲まれ、後ろには他の無頼が並んでいる。ライフルを構えて狙撃しようとするがすでにジェレミアはゼロの無頼に標準を定めていた。

 

 「皇室に仇なした罪!ここで償うが――っ!?」

 

 何かが上から降って来た。不意打ちに回避が遅れてライフルが弾き飛ばされ、スタントンファーを展開する。降ってきたのは今までに見たことのないタイプの真紅のナイトメアが一騎…。新手に視線を向けながら投げたケイオス爆雷を確認すると起動する事無く狙撃されたらしい。

 

 『ジェレミア卿!?』 

 「手を出すな!これは私の決闘だ!!」

 『しかしこれは初めて見るナイトメアです。まさかイレブンが―』

 「イレブン風情にそんな技術があるものか!!」

 

 降って来たナイトメアはその場で構えるが射撃武器は腕に取り付けられた砲のみでどうやら格闘戦をお望みらしい。ゼロを始めとした無頼達も手を出す気がないのかライフルの銃口を下げていた。

 

 舐められたものだ!!

 

 サザーランドを加速させスタントンファーを振るう。しかし見事なほどの回避を見せ付けられる。それから数回振るうがすべてを避けきった上で仕掛けてきた。左手の小型ナイフを両手で受け止めねばならないことから機動性のみならずパワーでも圧倒されてしまっている。認めなければならない。イレブン風情がこれほどのナイトメアを造った事実を。

 

 「こいつか…こいつがカリウスの部隊を…」

 『見たかブリタニア!やっと、やっと対等に戦える。この紅蓮弐式こそが私達の反撃の始まりだ!!』

 

 構えられた右手を見て脳内に警報が鳴る。左腕と異なって肥大化した右腕にはあからさまに何かがある。が―― 

 

 「間合いさえ取れば!!――何!?」

 

 実戦経験の差で勝っているジェレミアは経験と知識から後ろへと距離を取ったのだが、範囲から出たと思った瞬間腕が伸びたのだ。頭部から流されるモニターの映像には巨大な手が掴もうと迫ってくる。逃げ切れないと悟った時、モニターには下がる右手と目の前を通過する銃弾が映し出された。

 

 『無事かオレンジ!』

 「キューエルか!?これは私の決闘だ!決闘に手出し無用!!」

 『黙れオレンジ!決闘などと言っていられる立場か!!我らはここで汚名を雪がねばならないのだ!!それにテロリストに決闘など不要だ』

 「………すまぬ。私としたことが」

 『貸しだからな。後で返せ』

 「ふふ、良いだろう。その借りは後で全力を持って返そう。ヴィレッタ!指揮は任せる。私とキューエルでコイツを仕留める。お前達はゼロを」

 『了解!』

 「行くぞキューエル!」

 『命令をするなオレンジが!!』

 

 紅蓮にジェレミアが迫り、回避してからの反撃に出ようとするのだがキューエルの援護射撃によって手が出し辛くなる。二対一に持ち込まれたカレンを助けようとゼロ達が動こうとするがヴィレッタ指揮のサザーランドの攻撃に、援護が出来なくなった。

 

 『くっ!こんな…』

 

 今まで騎乗していたグラスゴーや無頼と比べてハイスペック過ぎる紅蓮が押されるとは思ってもいなかったカレンから言葉が漏れる。その反対にジェレミアとキューエルは冷静かつ有利に事を運んでいた。ジェレミアもキューエルもお互いに長い付き合いで、何度も手合わせをしてお互いの動きを知っている。阿吽の呼吸とまではいかないが見事な連携を見せている。

 

 ライフルの弾丸を避けた先に待ち構えたジェレミアの一撃を流して、左手で応戦すると、避けずに片手で受け止めた為にバランスを崩した。チャンスとばかりに右手を構えると左腕のスタントンファーを展開したキューエルの一撃を喰らってしまった。

 

 『貰った!!』

 「待てキューエル!不用意に前に出るな!!」

 

 やっと入った一撃に更なる攻撃を加えようと前に出るキューエルは制止を聞かずにスタントンファーを振るった。渾身の一撃は地面擦れ擦れまで身を屈めた紅蓮の上を通り過ぎた。自ら不用意に接近して隙を晒したキューエルへとあの右手が迫った。

 

 「キューエル!!」

 『ぐあっ!?――――何を…』

 「借りは返すと言った!!」

 『ジェレミア卿……ぐわぁ!?』

 

 側面からの衝撃を受けて倒れたサザーランドから何事かと顔を向けるとそこには左腕を右手で掴まれたジェレミアのサザーランドが居た。借りを返そうと動いたわけではなく勝手に身体がそうしてしまっただけの事。理由も何もない。倒れたキューエルのサザーランドにゼロが撃った弾が直撃し、行動不能になったサザーランドからコクピットが射出されキューエルは脱出した。

 

 脱出する前に『オレンジ』と呼ばずに『ジェレミア』と呼ばれた事に笑みを浮かべ、正面の敵を見つめる。パワーの差から逃げ出す事は不可能。だけどやられるつもりはない。掴まれたのは左腕のみ。右手のスタントンファーで関節部に攻撃を加えれれば相手の右手だけでも機能停止させられる。と考え操縦桿を動かすが右手はまったく反応しなかった。

 

 「なんだ!?…まさかさっき受け止めたときに…」

 『ごめん…』

 

 片腕で受け止めた時のダメージで動かなくなってしまっていた事に気付いたが、僅かな隙を見逃す事無く右手から何かを流し込まれる。『ごめん…』という言葉と共に流された何かは掴まれた左腕より全体に伝わり、内部から膨れ上がっていく。

 

 「な、なんだこれは…」

 

 体感した事のない衝撃に未知の武装を体感し、危険を警告する赤ランプに包まれてなおジェレミアは逃げる事はなかった。効かないと分かりつつも対人用機銃を撃ち抵抗する。その攻撃は紅蓮の装甲に僅かばかりの傷は付けたものの、ダメージとは言い難いものだった。遠退きつつある意識の中、モニターに脱出システムがオートで起動する文字が現れる。

 

 「クソォ!オートだと!?さらばはするな!!まだ…まだ私は…ゼロにぃ………ぽぺ」

 

 消えゆく意識の中でヴィレッタ達と交戦するゼロを睨みつけ、ジェレミアは意識を失うと同時に脱出システムが作動して戦場から遠ざかった。

 

 『負けない。私の紅蓮弐式なら』

 

 ジェレミアが去った戦場ではヤル気に満ちた黒の騎士団とジェレミアとキューエルを失った純血派だけが残った…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。