コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 すみません!ギリギリまで打っていて遅れました。


第26話 「奇跡の藤堂VS知識を持つ髭」

 『奇跡の藤堂』

 

 元日本軍所属の藤堂 鏡志朗がブリタニアの日本侵攻作戦中に唯一ブリタニアに痛手を負わせた事で付いた名。『厳島の奇跡』と呼ばれるが綿密な作戦と正確な情報によって得た戦果で奇跡と呼べるものではない。彼自身の実力そのもので得た結果だ。

 

 当時はナイトメアを持っていなかった彼だが、現在はブリタニアに植民地にされた日本を奪還すべく抗い続ける『日本解放戦線』所属となり、レジスタンス支援組織の『キョウト』より無頼の強化版である無頼改というナイトメアを手に入れた。

 

 無頼改は無頼を改修してグロースターと同等の性能へと昇華させたナイトメアで、新装備である刃がチェーンソーのように廻転する刀『廻転刃刀』を所持している。操縦桿を傾けコーネリアの親衛隊であろう大型ランスを装備するサザーランドの横へと滑り込ませ、一刀の下で斬り捨てる。頭部後方に付けられた二本の触覚型通信アンテナをなびかせながら次の獲物へと駆け抜ける。

 

 日本解放戦線の本拠地であるナリタ連山よりキョウトから無頼改を受け取りに出ていた為に遅れてしまったが戦況的には悪くない。当初は完全に包囲されて突破は不可能とされていたが、人為的な土砂崩れによってブリタニアの主力は壊滅状態。指揮系統は混乱を極め、総大将であるコーネリアは孤立状態。

 

 『藤堂中佐。敵の増援です』

 「数は?」

 『たった三機ですがサザーランドの改修機で中々腕も良いようです』

 「なら増援は仙波と卜部に任せる。朝比奈と千葉はそのまま斬撃包囲陣を継続せよ!」

 『『『『承知!』』』』

 

 すでに日本解放戦線の総指揮を執る片瀬少将にはナリタの兵力の全てを投入してもらえるように言ってある。これにより敵本隊を含む部隊が動くことが出来なくなり、目の前にいる親衛隊を抑えればこの戦いは勝てる。親衛隊はすでにグロースター五機ほどまでに減らした。こちらも五機だが日本解放戦線で一騎当千の兵である『仙波 崚河』、『朝比奈 省悟』、『卜部 巧雪』、『千葉 凪沙』の四聖剣が無頼改に騎乗しているのだ。それこそ負けることはない。

 

 親衛隊をここに残して去ったコーネリアには何か策があったのだろうが、あの土砂崩れが人為的なもので尚且つ黒の騎士団が起こしたものならばゼロが何かしら手を打っている。もし奴らが失敗してもすでにブリタニア軍には大き過ぎる損害が出ている。もはやナリタ連山に居る日本解放戦線本隊を殲滅する事は叶わず、撤退するほかなくなっている。

 

 すでに形勢は逆転している。

 

 親衛隊指揮官機のグロースターのランスと刃を交えつつ。相手を囲む事に成功した藤堂は慢心はしていないものの心に余裕を少し、ほんの少しだけ持ってしまった。ゆえに気付けなかった。一発の弾丸に…。

 

 『危ない藤堂さん!』

 

 グロースターから距離を取った瞬間、体当たりして庇った朝比奈機の左腕が吹き飛んだ。機体が受けたダメージから対人用ライフルではなく対ナイトメア用狙撃ライフルであることと、銃弾が直撃した衝撃で動いた角度から狙撃者の位置を割り出す。その地点には狙撃用のライフルを構えた灰色のグロースターが立っていた。

 

 「無事か朝比奈」 

 『はい。けれど片腕をやられました』

 

 増援はグロースター一機だけではなく一個中隊ほど迫っていた。敵の増援は来るだろうとは思っていたがこちらに中隊規模で来るとはさすがに想定外だった。本来ならば総大将であるコーネリアのほうに向けられるはず。……いや、中隊規模以上の者が向かったのか?

 

 『なぜここに貴方様が!?』

 

 疑問を浮かべながらも警戒しつつ距離を取る藤堂の耳に指揮官機の外部スピーカーより発せられた声が届いた。言葉の感じから自分より格上の相手。コーネリアを除外して親衛隊以上の者となると副総督か将軍だ。しかし副総督は武功に優れた話は一切なく、それほどの将軍ならば主力の指揮を執っている。もしや皇帝最強の十二騎士かとも考えたが彼らは設計体系の異なる専用機を持っていると聞く。ならば誰だ?

 

 『苦戦していると聞いてね。駆けつけたよ』

 『私のことはどうかお構いなく。コーネリア殿下を』

 『確かにそれが正しいと思うし、私もそうしたい。けれどコーネリアを護るのは騎士である君ではないのかな?ギルフォード卿』

 『しかし!』

 『行きたまえ。君には君の役目があるのだから。ここは私が引き受けよう。ナイトメアの操縦なら多少の自信がある』

 『…………』

 『行け!ギルバート・G・P・ギルフォード!!』

 『――――ッ!!お頼みします!!』

 

 コーネリアの下へと向かおうとする指揮官機を逃がすわけにもいかない。斬り込もうとするが灰色のグロースターの射撃にて足を止められてしまう。

 

 「くっ!朝比奈、千葉!新手に斬撃包囲陣を仕掛ける!!」

 『『承知!!』』

 『斬撃包囲陣!?第一、第二小隊は私に続け!!奴らに頭を取らせるな!!第三から第四は距離を取りつつ援護射撃。敵は接近戦を得意としている。近付くな!!第五は純血派の救援に』

 

 なんだこれは?

 

 今までいろんな戦場を体験してきた。絶対絶望的な戦場はもちろん、勝ち戦から負け戦になったものまで本当にいろいろ体験した。そこにはいろんな敵が存在してきたが目の前の敵には奇妙を通り越して背筋が凍るような感覚を覚える。

 

 斬撃包囲陣の対処は近付かなければ良い。こちらは斬ることに集中しながら相手を囲むように周囲を回るのだ。それにより相手を中心部に固まらせて足を止めさせる。機動力のないナイトメアなどただの砲台でしかない。ゆえに接近せずに周囲を旋回する頭を取るのは有効な戦法だ。これを親衛隊の指揮官機が今言っていれば優秀な指揮官だと判断した。が、今命令を下したのは来たばかりで初見の者。問題を言っただけで方程式を無視して答えを言ってきたのだ。優秀などの言葉で表せるものではない。

 

 こちらの頭を押さえようと向かって来る灰色のグロースターの懐へと飛び込む。躊躇う事無くここで決着を付けるべく三段突きの構えを取ろうとすると一気に距離を取った。

 

 『何者だ?』

 

 三段突きをやたらと警戒したことから私を知る人物だと思い問うた。それにこの先を読まれる感覚には覚えがあった。確かアレは枢木神社の道場で……。

 

 仙波や卜部の猛攻から脱した純血派を合流させた中隊は灰色のグロースターを先頭に足を止めた。

 

 『私の名かい?私は神聖ブリタニア帝国第一皇子のオデュッセウス・ウ・ブリタニアだよ』

 

 淡々と告げられた名に藤堂は驚きながらも納得した。未来を読んだような芸当を行なえる者が居るなら奴しかいない。初見で三段突きを見事に捌き切った男。最も敵に回したくないと評したオデュッセウス・ウ・ブリタニア。

 

 『第一皇子!?ならばその首―』

 「止せ!!」

 

 ブリタニアの皇子を目の前に千葉が廻転刃刀を上段で構えて前に出た。嫌な予感が脳内で響き渡り制止をかけるが止まる事はなかった。オデュッセウスは狙撃ライフルを近くのグロースターに預けて武器を持たずにただ待っていた。

 

 『貰ったぁ!!』

 『なんの!!』

 『馬鹿な!?』

 「受け止めた…だと…」

 

 上段から振り下ろされた一撃を正面から受け止めたのだ。見た目は刃を両手で挟んで受け止める真剣白刃取りだが、先も書いたように廻転刃刀は刃がチェーンソーのように廻転している。刃に指先が触れようものなら一瞬で千切れ飛ぶ。だが、奴はその事を理解して指先を触れないようにして手の甲で刃以外を挟み込んだのだ。驚く皆を余所に廻転刃刀を捻り、千葉機の体勢を崩して横転させる。一連の動作に無駄がなく、対処しきれずに転がった無頼改の頭部に背に装備していた軽ランスが突き立てられた。

 

 『ち、千葉!!』

 「落ち着け!」

 『でも、藤堂さん』

 「コクピットは貫かれてはいない」

 

 そうだ。奴はコクピットを狙えたにも関わらず頭部を狙った。人を殺す事に躊躇いがあるのか我らを捕縛する事が目的なのか。意図はつかめないが刺したランスを抜いて構える奴をどうにかしない事には先には進めない。ゴクリと唾を飲み込み操縦桿を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 ルルーシュは乱戦となりつつあるナリタ連山で無頼のコクピットから戦いを見物していた。ちょっとした谷間のしたでは母違いの姉であるコーネリア・リ・ブリタニア用に改修されたグロースターとキョウトより贈られた純日本製の紅蓮弐式を操る紅月 カレンが激しいバトルを繰り広げていた。

 

 ゼロの狙いを読んだ日本解放戦線の部隊により親衛隊を足止めされ、ここへはその部隊を誘いこむ気だったが先に待ち伏せていた黒の騎士団により囲まれたコーネリアは突破しようと紅蓮に戦いを挑んで苦戦していた。

 

 確かに高低差をとった無頼三機を相手にするより前方の一機を倒して突破するのは理にかなっている。数の話であればだが…。 

 

 コーネリアの攻撃は紅蓮には届かなかった。ライフルのフルオートを何度も飛び跳ねて回避され、射出させたスラッシュハーケンは左手の短刀で弾かれ絡め取られる。接近戦主武装の大型ランスで突撃しても輻射波動によって右手ごと吹き飛ばされた。

 

 援軍もない。

 

 退路もない。

 

 後方の無頼三機を突破するのは困難で、前方の紅蓮に勝つ事は不可能。

 

 この圧倒的な状況に追い討ちをかけるべく後ろからライフルを撃ち抜き、左手ごと破損させて装備品の武器と両腕を使用不能にした。これで攻撃らしい攻撃はスラッシュハーケンのみだ。

 

 『卑怯者!後ろから撃つとは』

 「ほお…ならお前達の作戦は卑怯ではないと?」

 

 声は相当焦りを含んでいたが思考までは乱してはいないとみる。使い物にならなくなった左手をさっさとパージしている。

 

 『ギルフォード…我が騎士ギルフォードよ。ダールトンと共にユフィを補佐して欲しい。私は投降はせぬ』

 

 『皇女として最後まで戦う!』

 『コーネリア様!!』

 「ふん…つまらん選択を」

 

 コーネリアの言葉に反応する男の声がナリタ連山に響き渡る中、ルルーシュは冷たく呟いた。しかし、このままカレンに討ち取らせるわけにはいかない。ここでコーネリアが死んでしまえば母が亡くなった原因を聞き出せなくなる。コーネリアはマリアンヌの事を尊敬していた事とあの日の警護担当だったことから何かしら知っている筈。情報もそうだがここで死なれたらオデュッセウスがどう動くかは明らかだ。

 

 ナナリーの時みたく皇族の兄弟・姉妹と連携を取って、未だかつてない大軍勢でエリア11に攻め込んでくる。しかもナナリーの時とは違って脅しではなく本気で。それだけは避けなくてはならない。

 

 「カレン、コーネリアを討つな!!機体だけを無力化しr―」

 『何事ッ!?』

 

 指示を出すと同時に谷間の壁から大量の土埃が発生した。それもスモークでも張られたように視界が利かないほどに。ただ自然的なものではなく、爆発が起きた事ぐらいしか理解できなかったルルーシュはファクトスフィアを展開して煙の中を調べる。居たのは新宿に居た白いナイトメア…。

 

 『総督ご無事ですか!?救援に参りました』

 『特派の!誰の許しで…』

 

 壁を爆破した衝撃で膝をついたコーネリア機を守るように立った白いナイトメアを睨みつける。シンジュクゲットーではクロヴィスの主力部隊を壊滅させて、チェックメイトは目前だったというのにたった一機でこちらの駒を倒しきった。奴にはサザーランドや無頼は勿論、グロースター程度の機体では抑えられない。そもそも上から無数に降ってくる瓦礫の中を滑るように突き進める化け物は並みの者ではどうにも出来ない。

 

 『おい、まさかあのナイトメア…』

 『ああ…新宿や河口湖に居た奴だ』

 「またか!またあいつが」

 

 奴は無理でもコーネリアの無力化は可能だ。膝をついて機動力のない今なら足を確実に撃ち抜ける。そう思って撃った弾丸は素早く動いた白いナイトメアによって防がれた。目撃情報通りにあの腕からは見えないバリアのような物が展開されているらしい。

 

 「紅蓮弐式は白カブトを破壊しろ!こいつの突破力は邪魔だ!!」

 『はい!』

 

 今ここにいる戦力で対抗できる機体と腕を持つのは紅蓮弐式のカレンしか居ない。紅蓮弐式が白カブトに突っ込むとコーネリアは立ち上がりこちらに向けて突っ込んでくる。

 

 『そちらは任せた。私はゼロを叩く!』

 

 残ったスラッシュハーケンを放ってきたので身体を少しだけ横に動かして避けたが、斜め後ろに居た玉城は避けきれずに左肩に喰らってしまっていた。

 

 「ライフルを貰うぞ!」

 『お、おい!』

 

 すかさず玉城からライフルを奪い取ると両手に一丁ずつ構えて射撃する。撃ちながら移動する事は照準をぶらして命中精度を下げてしまうがここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 (いいかいルルーシュ。ナイトメアの最大の武器は縦横無尽に駆けられる機動力にあると思うんだ。確かにルルーシュの精密射撃はかなりのものだよ。だけど立ち止まってしまってはただの砲台と変わらない。下手な鉄砲数撃ちゃ当たると言うけど君の場合は腕が良いから動きながらでもかなり当たると思うよ)

 

 地獄と称するに値する母上やビスマルク、姉上と倒れるまで続けた事もあるナイトメアの騎乗演習でオデュッセウス兄上に言われた言葉を思い出す。そういえばコーネリア戦のときはいくらか損傷させる事は出来ても一度も勝ち星を挙げられなかった。

 

 「今日は勝ち星を頂きましょうか」

 

 回避するも避けきれないと判断したコーネリアは再びスラッシュハーケンを放つ。が、方向が明後日の方向だ。特に気にする事無く射撃を続けるとグロースターの速度が上昇した。よく見ると放った左右のスラッシュハーケンの巻き取り速度を利用して加速している。しかも加速するだけではなく左右の速度を変えて左右に回避運動も行なっている。

 

 だが、種さえ分かってしまえれば簡単なものだ。加速して左右に回避するもそれはスラッシュハーケンで動ける範囲内。ならば予測する事は容易い。

 

 右手のライフルで回避が出来ない左胸のスラッシュハーケンのワイヤーを。左手のライフルで右足を撃ち抜いた。身体を支える片足と片方のハーケンを失い、速度を殺すことが出来なくなったコーネリア機はそのまま地面に激突し、転げまわった。

 

 「器用な事を……だがこれで」

 『クッ!やられたか…』

 

 モニターの端では紅蓮と白カブトが互角の戦いを繰り広げていた。両者とも人間の反応速度を超えているとしか思えない動きに目が付いていかない。跳んで跳ねては当然の事で白カブトに至ってはカポエラのような動きもしている。勝てないとしても足止めはしてくれている。これならコーネリアを引き摺り降ろす事は可能だろう。

 

 ゆっくりと近付こうとしたときアラームが鳴り響く。モニターに飛翔物が映った時には遅かった。コクピットは何とか避けたが右腕が持っていかれた。飛翔物はナイトメアの接近武器であるランスだった。

 

 『コーネリア殿下ご無事ですか!』

 『ギルフォードまで!?どうしてここに…』

 『私は姫様をお守りする騎士なれば!!』 

 

 ランスを投げたのは今現れた親衛隊のグロースターなのだろう。ライフルを構えながらコーネリアの前に立ってこちらに狙いを定める。戦闘に集中したあまりに周りへの警戒が疎かになってしまった。レーダーにはまだ距離があるがブリタニア軍のナイトメアらしき四機が接近してきている。

 

 状況が一転していくなかで紅蓮弐式が白カブトの射撃を輻射波動で受け止めると足場がもたずに崩落した。急いで玉城と扇の無頼が向かい、ルルーシュは親衛隊機の目を向けさせる為に撃ちまくる。

 

 「扇、紅蓮は?」

 『右手が駄目だ。修理しないと』

 「くっ……引くぞ!全軍脱出地点まで移動させろ!!これ以上は消耗戦になる。それに援軍が来たようだしな」

 

 紅蓮が万全で無い状態で白カブトの相手は無理だし、親衛隊の五機のグロースターを破損した二機を含めた無頼三機で勝つ事はは不可能。ここまで追い詰めたのにとは思うが引き際を間違うと全滅してしまう。

 

 ルルーシュは忌々しく思いながらも撤退する。背後からランスロットに追われながら……。

 

 

 

 

 

 

 名を名乗る行為は昔から存在した。

 

 アニメや漫画でも見た事があるだろう。戦場で騎士や武将が名乗りを挙げ、それに応えるように名乗りを挙げた相手と決闘を行なう場面を。それ以外にも名乗りを挙げる者も居る。

 

 奥州伊達家の武将に片倉 小十郎と言う人物が居た。この人物は主君である伊達 政宗を助ける為に敵軍の前で自分が伊達 政宗であると名乗りを挙げて敵兵を一手に引きつけて窮地を救ったという逸話がある。

 

 さて、何が言いたいかというと戦場で名乗りを挙げる行為を軽く考えていては窮地に落ちるという事だ。この物語の主人公のように…。

 

 『第一皇子はどこだ!?』

 『敵の皇族だ。討ち取って名を挙げろ!!』

 『殿下をお守りしろ!』

 

 藤堂と接近戦を行なっているオデュッセウスは自分が素直に名乗った事に深い後悔をしていた。敵地の一角で『ブリタニア皇族です』なんて宣言してしまったのだ。近くにいた日本解放戦線の部隊がオデュッセウスを討ち取ろうと集まってきたのだ。おかげで他のブリタニア部隊が立て直しの時間を得たわけだから良しとしたいが…。それを必死に第二から第五小隊が抑えている。純血派は後方からの援護に移ってもらっている。第一小隊は卜部と仙波の相手を、ロロこと白騎士は朝比奈の相手をしている。

 

 ロロはギアスを使わなくともかなりの技量を持っている。『今の』ロロは藤堂やカレンには及ばないが四聖剣クラスに匹敵する事は証明された。『今の』というのはロロもオデュッセウスもズルをしているのだ。確かにオデュッセウスはビスマルクの鍛錬で藤堂以上の実力を得る事は出来た。だからと言って多少格下の四聖剣の千葉を瞬殺出来るほど差はない。仕掛けは二人が着ている…二人の分しか存在しないスーツにあった。

 

 運動能力を飛躍的に向上させられるシステムが組み込まれている試作強化歩兵スーツ。二人はそれを着て自身の身体能力を高めていた。ただオデュッセウスのスーツは専用に調整されたものではなくて、サイズの合う試作品を急遽送ってもらったので調整が完璧でなく粗が多い。

 

 『まさか剣を交えることになろうとはな!!』

 「出来れば縁側でお茶でも一緒にと誘いたい所ですがね」

 『ここが戦場でなかったらそれも良かったのだがな』

 

 振り下ろされる廻転刃刀をランスで捌きながら反撃を行なう。そのやり取りがもう十分ほど続いているのだが藤堂は止める気はないらしい。ぶつかり合い撒き散らす火花を見る度に冷や汗を掻いているオデュッセウスは兎も角早く帰りたかった。何かをするとかいう理由ではなくて命の危険があるここから離れたい理由で。

 

 「そろそろ撤退しないんですか?」

 『大将首に匹敵する敵を前に背は見せられんよ。それに陣形を一瞬で見抜き対抗する智謀。千葉をあっさりと倒した技量。ラウンズに匹敵するほどの敵を逃がす手はあるまい!!』

 

 高評価されすぎなんですが…。

 

 原作を見た知識に運動能力向上のスーツなどズルした力を自分の力みたく評価されるのはとてもむず痒く感じる。

 

 「過大評価だと言いたいのだが…」

 『これの何処が!!』

 「はぁ…―――左腕貰います!」

 

 再び振り下ろされた上段からの一撃をランスで受け流しながら回し、左肩目掛けて突き刺した。寸前で気付いて距離を取ろうとはしていたけど間に合わず肩の装甲が貫かれる。止めに腰に付けていたライフルを構えて足を撃ち抜こうとした時、無線から短い悲鳴が聞こえた。

 

 『後ろです殿下!』

 

 ロロのとっさの叫びに背後を振り向くと一機の無頼が純血派を大破させて突っ込んで来た。左手で持ったランスで藤堂を牽制しつつ、ライフルを連射する。が、無頼は当たる弾だけを掠るかどうかのギリギリで回避して行く。凄いとかを超えて怖い。まるで人工知能が騎乗しているかのような精密さがアレにはあった。無頼は直線状に藤堂が居る事によりライフルが使えず、スタントンファーを展開して格闘戦を仕掛ける気のようだ。

 

 「――って、黒の騎士団!?」

 

 日本解放戦線にまだあれほどの騎士が居たかと思っていたが機体カラーが黒色だった事に気付いて余計に混乱した。黒の騎士団で腕が良いと言ったら紅月 カレンぐらいなものだ。しかしカレンは紅蓮に乗っている筈だし、コイツは誰だと必死に考え込む。

 

 『ウォオオオオオオオ!!』

 「え!?ちょっと…勇ましすぎるでしょ貴方!!」

 

 雄叫びを上げたのは頭部を破壊された千葉だった。ナイトメアというのはカメラを頭部に集中させているから頭部をやられたらモニターに外の映像は映らない。だからと言って動けないということはない。目が潰されただけで機体は動くのだから代わりの目を用意すれば良い。コクピットからシートごと生身を外に露出させ、目視で操縦すれば良いのだ。ただしかなりの危険性が伴うが。

 

 …に、しても正面から藤堂。右斜め後ろから腕利きの無頼。背後から勇ましすぎる紅一点。勇ましすぎる叫びに驚き素の声を挙げてしまいながら状況把握に余念はない。

 

 『オデュッセウス殿下ァ!!』

 

 ああ、ロロも心配してくれてるな。ズルついでにもう一つのズルも使っておこうか。

 

 左手のランスを藤堂の行く手に、ライフルを無頼の行く手に投げ付ける。ライフルは簡単に越えられるが地面に刺さって立ったランスが邪魔で藤堂は一瞬だが動きが遅れた。一斉に襲ってくる相手のタイミングをずらせれば対処は出来る。先とは格段に気迫が違う下段からの一撃を放とうとした直後に『癒しのギアス』を発動させる。効果範囲に入った千葉の感情が癒される。目の前の相手を一撃を以って屠る感情がいきなり緩まった事で感情を処理しきれず動きに不調が出た。その隙を逃さぬように振り上げようとした手を左手で掴んで、右手で肘の関節部分に掌底を打ち込んで動かない方向へと砕く。

 

 『千葉、下がれ!』

 

 まだ無頼と藤堂が迫る中、癒しのギアスによって落ち着いたまま千葉機の手から離れた廻転刃刀を左手で無理やり掴み、機体ごと回転させながら振るう。とっさの事にガードした無頼の左腕を刈り取り、藤堂は廻転刃刀で受け止める。

 

 『クッ!捌かれるとは―――そうか…引くぞ』

 

 日本解放戦線は一点突破を成功させて脱出を開始したのだろう。連絡を受けた藤堂は四聖剣以外に周りの部隊にも命じてこの場を去る。ユリシーズ騎士団の面々は自分を守る為の陣形に移行するがロロは追撃を行なおうとしていた。

 

 「ロ――白騎士。追撃は無しだよ」

 『何故ですか?』

 「すでにブリタニア軍から攻勢から現状維持を命じられている。私達は総督ほどの権限はないんだよ」

 『だからと言って逃がすのは…』

 「それに機体状況も芳しくない。無理な追撃をして皆を失う事はしたくないんだ。分かってくれるね?」

 『………イエス・ユア・ハイネス』

 

 白騎士のグロースターは飛び跳ねたりと駆動系を痛める程度ですんだが、オデュッセウスのグロースターは千葉機の腕をへし折った衝撃を受けて右手のマニピュレーターがまったく動かず、無理な体勢で振るった左腕は動かすたびに異様な音を発している。エナジーフィラーも心許ないし、何より汗だくで気持ち悪い。ナリタに来た目的のシャーリーのお父さんも助けた。やるべき事は出来たと思う……。

 

 さて、前線に出た事をどうコーネリアに話したものか…。藤堂達を相手にしていたほうが楽な気がするのは気のせいであろうか?


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