コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 本当にすみません…。こうも書く日に限って用事が入って忙しくなるなんて。
 遅くなりましたが投稿いたします。


第28話 「捕縛された先で」

 アッシュフォード学園生徒会室では書類の束が並んでいた。それを処理しているのは会長のミレイ・アッシュフォードに水泳部と生徒会を掛け持ちしているシャーリー・フェネット、同じく生徒会役員のニーナ・アインシュタインの三名のみ。生徒会副会長のルルーシュは妹のナナリーが熱を出して看病に行っててここには居ないし、リヴァルを含めた三名はまだ来ていない。

 

 少し疲れを感じ息を吐きながら書類を少しずつ片付けていく中で、違う意味合いで息を吐くシャーリーに視線が移る。生徒会室に入ってからだがすでに十回以上同じ光景を見ている。手に持った封筒を見つめながら唸っては大きく息を吐く。彼女が何に悩んでいるのかは明白だった。もし分からない人がいるならばあの朴念仁ズだけだろう。

 

 「どうしたのシャーリー。ルルが居なくて寂しいとか?」

 「え?ち、違いますよ。っていうかカレンも一緒に欠席なんですよ……また」

 「呑気だねぇ。世界じゃあ先日のナリタ騒ぎで持ちきりだって言うのに。スザクだってそのせいで休みだって言うのに」

 「分かってます。分かってますけど私にはルルとカレンのほうが問題なんですよ」

 

 見ていて初々しく、可愛らしく思える。

 

 ナリタでの騒ぎはすべての国で大きく報道されている。ブリタニアの勢力圏では忌まわしい戦闘として。反ブリタニア各国では喜ばしい事として。エリア11の報道では忌まわしい事として報道しているがシャーリー個人にしては関係のないものだ。関係ないと言ったら嘘になるか。ナリタでの戦闘があった日に父親から連絡があり、ブリタニア軍によって誘導されなければ巻き込まれていたと九死に一生を得たと伝えられたのだ。

 

 「良いねぇシャーリーは。そういうとこ好きよ」

 「茶化さないで下さい!」

 「だったら言っちゃえば良いのに。好きですって」

 「そ、そんなの駄目ですよ。だってもし…」

 「断られたらどうしよう。友達でもいられなくなっちゃうかも。あははははは」

 「そんなに笑わなくたって…」

 「ごめんごめん。まぁ、そんなに気になるんだったら本人に聞いてみたら。ねぇ、そのへんどうなの?」

 

 学生服ではなくて私服姿で入り口から入ってきたばかりのルルーシュに声をかける。何のことだ?と疑問符を浮かべるルルーシュにシャーリーは驚きながら顔を真っ赤に染める。

 

 「ル、ルル!今日は休みじゃあ…」

 「ナナリーが熱を出してね。咲世子さんも昼まで用事だっていうから」

 「そうなんだ。ナナちゃんの具合は良いの?」

 「まぁね。会長。例の書類は?」

 「それ。各学年、クラスごとに仕分けして」

 「はいはい。相変わらず人使いが荒いですね」

 「出来る部下を持って幸せ」

 「部下?そうか。そうなるんですよね」

 

 聞かれてなかったと安心したのかあからさまに安堵の息を吐いた。部下の二文字に反応したルルーシュは不満げな感情を声色に乗せながら出て行こうとすると勢い良く扉を開けられて足を止める。

 

 「会長!不審者を捕まえました!!」

 

 入り口から勢い良く入ってきた生徒会書記のリヴァル・カルデモンドを先頭に二人の生徒会役員が入ってきた。ひとりは白銀の髪が特徴的な整った顔立ちのライだ。彼は身分を証明する物も自身が何者なのかという記憶もなく、アッシュフォード学園内に倒れていたところを保護したのだ。何者かは分からないままだが少し接しただけで彼が悪い人ではない事は分かった。ゆえに身元引受人を請け負って、彼をここに置いている。記憶探しや用事とやらで学園で見かける事が少なくなり、女生徒からは『幻の美形』なんて呼ばれている。

 

 もうひとりは生徒会役員と言うよりは準会員である。ルルーシュの妹であるナナリーと同年代のアリスである。アリスは以前にナナリーが苛められていたところを助けた事がきっかけで仲良くなり、今では友人だけでなくナナリーと同じ準会員として生徒会室に来る事が多い。彼女は河口湖のホテルジャック事件で唯一屋上より突き落とされ、無傷で生還したという奇跡の少女でもある。

 

 そんな三人に連れられて入ってきた全身黒尽くめの男性と目線を合わせたところで思考が停止した。何故この人がここにいるんだろう?ルルーシュも驚きのあまりに手に持っていた書類を地面に撒いてしまっていた。

 

 まだ幼かった頃に何度かお越しになられた方。オデュッセウス・ウ・ブリタニア皇子様だった…。

 

 

 

 

 

 

 まさか『ナイト・オブ・ナナリー』に登場した『ザ・スピード』のギアスユーザーであるアリスと『ロストカラーズ』の主人公であるライがこの世界に居るとは思わなかった。でも『反攻のスザク』に登場したラビエ親子が居るのだからおかしなことでもない。ただ考えが至らなかっただけだ。

 

 簡単な縄でひと巻きされてライとアリスに前後を囲まれ、リヴァルに先導されるまま生徒会室へと来たら河口湖のホテル以来のミレイ達と顔を合わせた。元気そうなのが確認できて嬉しくはあるのだけどルルーシュとも顔を合わせた事は嬉しいよりも恐ろしいという感情がデカイ。ギアス対策をまったく用意してないんですけど…。

 

 「大きな声が聞こえてきたんですけど何かあったんですか?―――あれ?貴方はあの時の」

 「や、やぁ。公園で会って以来だね」

 

 リヴァルの大声が聞こえて不思議そうな表情をしたカレンが入ってきたことで警戒を露にしていたアリスから少しだけ警戒の色が薄れた。同時にライはカレンと視線を合わせると何処か気まずそうな表情を浮かべた。

 

 「知り合いなのか?」

 「ええ、以前公園で日h…イレブンを助けていたのを見たことがあって……それより何をしてるの?」

 「校門前にずっと居たから捕まえてみた」

 「ちょ、リヴァル!早く縄を解いて!!」

 「え!?いいんですか?」

 「良いも何もその人は――」

 「こんにちは。仕事が終わったので――殿下!?」

 「へ?殿下?」

 「オデュッセウス殿下よ!!」

 

 抜けた声が所々聞こえる中で今日出会った初対面の面子も、河口湖で顔を合わせたシャーリーとニーナも本物と気付いて徐々に目が見開いていく。特に縛ってしまったアリスとライ、リヴァルは見開くどころか顔色が真っ青になっていった。

 

 「ほ、本物……」

 「本物だよ。うん…一応」

 

 中身は憑依転生者ですが。とは言えずに一応と付け足してしまった。不審者から脱却したし、もう捕まっていなくていいだろう。そう判断して速攻で縄から抜ける。役には立たないだろうと思っていたんだけど役に立つんだな。マリアンヌ様に感謝感謝と。

 

 「「「も、申し訳ありませんでした」」」

 「そこまで頭を下げなくても…私は気にしてないから頭を上げてくれないかな」

 

 直角に頭を下げる三名に微笑を向けながら言うが、三名とも必死である。焦りに焦っているから今は話しても耳に入っていない。落ち着くまで他の誰かに話を振ろうと見渡すが…。

 

 驚きながらも敵の皇族だと知り多少の敵意を覗かせる紅月 カレン。

 

 原作では見たことないぐらい動揺を見せているミレイ・アッシュフォード。

 

 自身の存在を知られてどうしようか悩んでいるルルーシュ・ランペルージ。

 

 どうすれば良いのか分からず戸惑っている枢木 スザク。

 

 突如現れた神聖ブリタニア皇族の肩書きを持つ相手にそれぞれ違った反応を見せて声をかけられる状況ではなかった。

 

 「あ、あの…」

 

 この状況下で声をかけたのはオデュッセウスではなくて、パソコンの前に座っていたニーナ・アインシュタインだった。アニメで見た彼女の性格では声をかけ辛い場面では口を開けないと思っていたんだけどなぁ。

 

 「こ、この間は…ありがとうございました」

 「い、いや、君こそ大丈夫だったかい?」

 「は、はい」

 「それは何よりだ」

 

 おどおどしながら向かい合って立つニーナに違和感を感じる。この場面で声をかけてきた事もそうだが、なんかそわそわしている。それだけじゃなく頬は赤く、照れているように見える。

 

 私はニーナに何をした?

 

 河口湖でユフィが名乗らないように自分が名乗りを挙げた。結果、隣の部屋へ無理やり連れて行かれそうになったニーナを助けた。原作ではユフィに助けられて恩義と思慕を抱くようになった。

 

 ……………フラグ建ってない?

 

 ユフィに向けられるはずだったフラグが私に建っているんだがどうすれば宜しいでしょうか?前世も恋愛経験ゼロの私には判断が付き難いのですが…。でも、良く考えればこれは良いことなのでは。私が手を出そうとも出さなくとも彼女はフレイヤの基礎理論を完成させてしまう。なら恩義と思慕を抱かれている私の言葉には幾分か乗ってくれるのではと。フレイヤを製作出来るのなら対抗手段と別の…エネルギーとしての利用などに力を入れて貰えば社会に大きな貢献になる。

 

 悪い事ではないな。

 

 「お久しぶりです殿下」

 「ああ、本当に久しぶりだね。あんなに小さかった君が立派になったものだ」

 「あの時はいろいろお世話になりました」

 「いえいえ、こちらこそ。おっと君。書類が落ちてしまっているよ」

 「え、あ、あぁ…すみません」

 「おや?チケットが紛れてますね」

 

 ニーナの後にミレイと軽く言葉を交わして落ち着き、書類が散らばっている事に気付いた振りをして数枚を拾い上げる。その中の封筒の中を開けて中身を確認する。書類に紛れていた事に気付いたシャーリーが小さく声を漏らした。

 

 「もしかして君のでしたか?これは失礼」

 「す、すみません」

 

 チケットを渡しながら日にちを確認できた。確かこのチケットにあったコンサートを観に行く日にキョウトとの会合日が重なってルルーシュは来られなかった筈だ。少し手を加えるとしよう。

 

 「すまないね。連絡してから来てしまったらいろいろと気を使わせてしまうと思ってね。とは言え、いきなり来られたら迷惑だったかな」

 「いえ、そんな事は―」

 「そうかい。なら少しこのクラブハウスを歩き回ってもいいだろうか。中々素敵な建物だったので見て回りたいんだが」

 「はい。案内は…」

 「俺がしましょうか会長」

 

 名乗りを挙げたルルーシュに視線が向かう。スザクは二人の立場を知っているが為に表情を曇らせるが他の皆はどういう表情をしていいか困惑したままだった。

 

 「それじゃあお願いしようかな」

 

 本当はこの生徒会室から離れたかったなんて言えない。だってここカオスの権化ですよ!ブリタニア皇族の自分を置いておいてもシュナイゼル直轄の特派のパイロットであるスザクに黒の騎士団のエースパイロットのカレン、ギアス嚮団と繋がりのある外人部隊所属のアリス、カレンを見た時の反応から日本解放戦線に所属しているだろうライ。ブリタニア皇族であり黒の騎士団リーダーのルルーシュ。エリア11の代表的な武装勢力が集まっている。

 

 ルルーシュが自ら名乗り出た事に嬉しく感じたが最もここから離れたい理由の人物であるから困りものである。下手にふたりっきりなどになればギアスを使われる可能性があるというものだ。

 

 危機感を募らせながらルルーシュについていく。生徒会室には嵐が過ぎ去ったような静けさだけが残るのであった。……オデュッセウスが危機感を募らせたとおりルルーシュの自室にて二人っきりになるのだが…。

 

 

 

 

 

 

 ルルーシュはクラブハウスを案内するといって上手く自室に連れ込めたと思う。ただ相手が相手なだけにわざと連れてきたことに気付いている可能性は否定できない。

 

 オデュッセウス・ウ・ブリタニア。

 

 自分がチェスで勝てなかったシュナイゼル兄様にも勝ち星を挙げていた男。戦略や戦術に優れている事は明らかで、ナイトメアの腕前や白兵戦でもかなりの腕を持つ。昔から人に慕われやすく人望も厚い。現在ではブリタニア臣民からナンバーズまで幅広い支持を集めている。なんと言ってもブリタニア人のみの騎士団にナンバーズで構成された騎士団など三つもの大隊を保有している事からかなりの脅威である。

 

 そんな男が突如として自分の前に現れたのだ。何かあると疑ってかかって当たり前だろう。それにこれは好機だ。オデュッセウスは父上からも信頼が厚かったと記憶している。母の死の原因を知っている可能性が高いと判断していいだろう。なにかしら関わっているか、慕っていたこともあり調べている事だろう。

 

 部屋に入って外の景色を眺めるオデュッセウスは無言だった。こちらの出方を窺っているのか。それとも……。

 

 「元気そうで良かったよ」

 

 沈黙を破ったのは河口湖同様オデュッセウスだった。やはりというかこちらの事は知っていたようだ。そこに驚く余地はない。何せ自分達を匿っているのはオデュッセウスと強い関わりを持っていたアッシュフォード家なのだから。

 

 「お久しぶりですね兄上。やはり私達のことは知っていたのですね」

 「まぁね」

 

 呟くような返事に違和感を感じながら思考を働かす。自分のギアスは絶対遵守の力を持ち同じ相手には一度しか効かない。ここでどう命令したら良いのだろうか?そこらの兵士に言うような死ぬような命令は目的が果たせなくなるから却下。自分の奴隷になるように命じる。何故か解らないが悪手のような気がする。というか気が乗らない。なら質問に答えるように命令する。これが一番最良だと判断する。

 

 ルルーシュは思考を働かせるも気付いていなかった。自分の考えの中で相手を殺したり、害をなしたり、無理やり自由を奪う行為に感情が、心が、魂が拒否反応を示していた事に。これは以前に受けた恩があるという事も大きいがオデュッセウスが顔を合わせない理由が一番だろう。今現在自身の保身の為に癒しのギアスを使っているのである。

 

 それはそうとルルーシュは質問に答えてもらう程度なら問題ないと判断して振り向かせようとする。兄上の性格が変わっていなければ一言で振り向いてくれるはずだ。

 

 「兄上。ナナリーに会っていかれませんか?実は熱を出していて―」

 「それは大変だ!急いで医者を呼ばないと」

 

 思ったとおり瞬間的に振り返った。ナナリーのことでギアス操作が弛んで瞳に浮かぶギアスの紋章が消えていた事は幸運だっただろう。そしてルルーシュはある考えに今更ながら気付いた。

 

 もしかして兄上はギアスの事を知っているのではないだろうかと。

 

 兄上はC.C.を研究していたクロヴィスとも仲が良かった。もしかしたらどころか一番可能性が高い。スザクから友人として接してもらったと聞いた事から仲は良く信頼している事も解っている。シンジュクでC.C.と一緒に居た事を話している可能性だってゼロじゃない。数回ギアスを使った事は使われた相手の記憶の欠如を辿れば気付かれるかもしれない。となればここに来るにはそれなりの対策を行なっていると考えて間違いない。特殊なコンタクトを使用しているか自分が何かされても問題ないような手を打っているか。だとしたらここでギアスを使うのは危険すぎる。

 

 「落ち着いてください兄上。もうかなり下がってきてますから」

 「良かった。いきなり言われたからかなり焦ったよ」

 「すみません」

 「でも、会えるなら会っていきたいな」

 「…兄上。お願いがあるのですが俺達のことは―」

 「誰にも伝える気はないよ。勿論父上にもね」

 

 感謝すると同時に警戒したままナナリーと会ったオデュッセウスは会話に華を咲かす。会話が弾んでいく中でルルーシュの警戒心も弛んできて自らも会話に参加していた。気になったスザクを始めとして次々と生徒会メンバーが集まった。勿論ルルーシュとナナリーが皇族である話は一切せずに。スザク以外は最初は余所余所しかったが徐々になれていろんな話をするようになった。

 

 

 

 ……日も暮れ始め、クラブハウスに住んでいるルルーシュとナナリー以外は帰り、オデュッセウスも帰ろうとした時に携帯が鳴り響いた。あのアーサーが騒ぎを起こした日にボイスレコーダーを持って録音したナナリーの『にゃあ~』の声が連呼されたのだ。

 

 ナナリーは驚きつつ恥ずかしかったのか顔を赤らめた。正直に可愛かったです。逆にルルーシュは今まで見たことない笑顔を向けて「兄上、少し話があります」と言って、あの日の不審者と特定されたオデュッセウスは1時間ほど説教されたのであった。

 

 ちなみに帰る時間を大幅に過ぎた事で白騎士に淡々と怒られ、護衛を付けていない事は知られていなかったが長時間政庁から離れていた事でコーネリアに怒られるなど散々な一日になってしまった。でもまぁ、アッシュフォード学園の皆と会えたことは良かった。仕事が増えたけれど。まずはキョウトの会合日をずらすか。


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