コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第29話 「会合のち仕事を頂きます」

 「ふぅ…」

 「・・・殿下」

 「ん、何かな?」

 「・・・本当に宜しいのですか」

 

 オデュッセウスは白騎士の問いに小首を傾げる。本当に理解していないのでため息が出そうになるがそこはぐっと堪える。二人っきりの場であるならいざ知らず、今は公式の場である。ならば下の者として行動せねばならない。

 

 正座をしてのんびりとお茶を啜っているオデュッセウスが居るのは和風建築の大きな屋敷『龍の宮』。今では数少ない高級日本料理を出す料亭が管理している屋敷で、エリア11で大きな力を持つイレブンの代表者やエリア11のブリタニア政治家が使ったりする場所である。

 

 龍の宮に黒一色の私服姿のオデュではなく、神聖ブリタニア第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアとして居るのは単に日本料理が食べたいからではない。それもあるのだが一番の理由はそれではない。

 

 入り口で控えている警備が襖の向こう側より声をかけられ確認し、「お越しになりました」と告げてくる。頷いてお茶をおぼんの上に置くと襖が開き、独特な桃色の巫女服に胸元辺りで床まで届きそうなリボンで結んだ肩掛けを着た少女がゆっくりと姿を現した。

 

 「お待たせして申し訳ありません」

 「いえ、レディを待つのも男の甲斐性だと思いますので」

 

 微笑みながら頭を下げながらの謝辞を受け、返した言葉に笑う。久しぶりに見た彼女の笑顔にホッと安心感を覚える。

 

 『皇 神楽耶』

 オデュッセウスが日本へ外交官として赴いた際に友人となった少女で、今は皇コンツェルン代表としてエリア11の日本人達の経済圏を支える一角である。実際は資金のほとんどを反ブリタニア組織に流しているキョウト六家のひとり。

 

 「本日はお招きありがとうございます。オデュッセウス殿下」

 

 その一言に寂しく感じて表情を曇らせてしまう。スザク君もそうなのだが時が経ち、成長すると相手の立場と自分の立場を理解した対応をする。正しい事なのだろうが線を引かれたみたいで…。

 

 「昔のように髭のおじ様でも良いんだよ?」

 「良いのですか?」

 「うん。そのほうがしっくりくるかな」

 「ええ、分かりましたわ。髭のおじ様」

 

 懐かしい響きに頬を弛ませる。弛ませるあまりに本来の目的を忘れかけて我に返る。表上は神楽耶を誘ってのただの会食…のはずだが神楽耶がキョウト六家の一角と知っている人間からしてみればそうは見えない。事実、桐原などの他のキョウト六家は姿を晦ます事も視野に入れて注視している。あの第一皇子がただの会食の為だけであるはずがないと確信しているのだ。その考えだけは当たっている。

 

 …ルルーシュと桐原の会合の日を先延ばしにする事である。理由はシャーリーとルルーシュのコンサートの邪魔をさせない事の一点。それだけである。

 

 キョウト六家にこちらに注目させる為に皇コンツェルンに直に話を通すのでなく、同じキョウト六家である桐原を仲介させてこの日で約束をとって貰ったのだ。しかも部隊の軍備を整えていつでも出撃できる準備をしていると尚更効果はあっただろう。

 

 軽く手を二回叩くと再び襖が開いて料理が運ばれてくる。魚をメインとしたこの季節の料理が膳と共に置かれ、向かい合って座った二人の前に並べられていく。ただ違うのはオデュッセウスの下には日本酒があることだろう。いただきますと言ってから白騎士が注いでくれたお猪口を手にとって酒を喉から胃へと流し込む。

 

 「やはり日本のお酒は美味しいね」

 「それは良かったです。私はまだ飲んだ事ありませんけれど」

 「では二十歳になったときには美味しいお酒を持参してくる事にしよう」

 「楽しみにしてますね。――ところでお髭のおじ様は何を考えていらっしゃるのでしょう?」

 「ん?」

 「私としては久しぶりの再会にご一緒に食事出来る事はとても嬉しいです。けれど神聖ブリタニア帝国第一皇子様がただそれだけで来られたとは思えませんので」

 

 この子本当に十五歳の少女なのだろうか?しっかりし過ぎじゃありません?しかも嫌味的に言っているのではなく嬉しそうに、そして真剣な眼差しを向けてくる。こちらの真意を見定めようとしている。しているが、弟がコンサートに行ける様になんて言える訳はないので別の用件を伝えるしかない。嘘をつくわけではないし良いでしょう…。

 

 「えーと…食事中ですがこれを」

 

 懐から資料を取り出し手渡す。受け取った資料に目を通して一瞬目を見開いて驚くが、すぐに「ああ」と呟きながら納得されてしまった。

  

 「私が知っているブリタニアらしくないですけれどおじ様らしいですわ」

 「ブリタニアらしくないって………まぁ、そうだよね。うん。確かにそうだ」

 

 資料にはエリア11で孤児となった子供をゲットーよりにつくるオデュッセウスが管理する施設で保護する内容のものと、ゲットーの人々に行なう炊き出しや一部ゲットーでの管理運営所の設立などが書かれている。管理運営のノウハウはブリタニアから指示されるが職員となった日本人が慣れたら任せるつもりだ。報告はしてもらうがそれ以外は自由にやってくれて良い。

 

 確かにブリタニアらしくない。こんな事をするのはユーフェミアやナナリーぐらいかな?コーネリアは監視体制を強化してもこういう事はしないだろうし。

 

 「何を言われるか思案してましたのに。やはりおじ様はいつまでもお変わりないですね」

 「ははは、よく言われるよ。昔のままだって」

 「いつまでも優しいおじ様で居てくださいね」

 「勿論だよ。にしても神楽耶さんはこんなに立派になってたんだね」

 「はい。もう十五ですもの」

 「これからも宜しく」

 「こちらこそ」

 

 お互いに微笑みあいながら料理に舌鼓を打つ。やはり日本食が一番口に合う。今度はコーネリアやユーフェミアも誘ってみようかな?もしくはスザク君を――。

 

 「あ!そういえばスザク君に会ったよ。彼は昔とだいぶん変わっていたけどね」

 「…会ったんですね」

 「うん。昔と違ってかなり落ち着いて一人称が俺から僕になっていたよ」

 「長い間会っていませんでしたので想像出来ないです」

 「後…髭のおっさんって呼んでくれなかった…」

 「さすがにその呼び方をする勇気はないでしょう」

 

 落ち込んだ様子のオデュッセウスに笑みを零しながら神楽耶とオデュッセウスは他愛ない会話をしながら食事を続け、食事が終わるとまた次の約束をして別れた。防弾仕様の車内に戻ると携帯電話を取り出し連絡を付けようとある番号をコールする。

 

 

 

 

 

 

 「んー。面白かったねルル」

 「ああ、そうだな」

 

 人が溢れる劇場出入り口から出てきたシャーリーは、背を伸ばして長い事座って固まっていた背の筋肉をほぐしながら振り向く。対してルルーシュはそんな仕草を見せる事無くいつもの軽い笑みで返す。

 

 ルルーシュはシャーリーに誘われたコンサートの感想よりも今日の予定だったキョウトとの会見の事を考えていた。本来ならエリア11の反ブリタニア組織に支援を行なっているキョウトのひとりと会う予定だった。それが今日になって会見を延期したいと連絡を受けた。何があったとかいつに変更したなどの説明はなかったが、キョウトにとって予想外な事が起きたと見ている。ならばなんだ?

 

 ブリタニア軍に動きがあった?否、絶対の諜報網を持っているわけでは無いがそんな報告は聞いてないし、動いた報告も報道もない。

 

 日本解放戦線に動きがあった?否、現在の日本解放戦線はほぼ崩壊状態にある。自分が指揮を執っていたとしても建て直しに時間が掛かる。動きがあったというよりは何かあったほうが納得する。

 

 では、何か?考えても解らない。一瞬オデュッセウスの顔が浮かんだがまさかな…。

 

 「――ルル?ルル!」

 「ん、どうした?」

 「もう!話聞いてなかったでしょ?」

 「すまない。少し考え事してて…それで何の話だったんだ」

 「もういいよ」

 

 頬を膨らまして不服なのを表すシャーリーに困ったように笑みを浮かべながら言うが機嫌は悪いままだ。前へ向き直って歩き出すとぽつぽつと雨が降り出す。雨が降ってきたことに気付いたシャーリーは足を止めながら空を見上げる。

 

 「雨降って来た。傘持って来てないよ。どうしよう…」

 「まったく、天気予報で雨って言ってただろ」

 「チェックしてなかった…」

 「――ほら」

 「え?」

 

 持ってきていた傘を差してシャーリーも入るように掲げる。シャーリーは驚きの声を漏らしつつ照れて頬を朱に染めていた。さも当然のように振舞うルルーシュは気にせずに横に並んで歩き出そうとして、慌ててシャーリーも歩き出す。

 

 「こ、これって相合傘って言うやつだよね」

 「何か言ったか?」

 「う、ううん。なんでもないの。なんでも」

 「そうか」

 

 何か言ったように聞こえたが本人がなんでもないというのだからなんでもなかったのだろう。最近は黒の騎士団関係で忙しかったし、たまにはこうやってのんびりする日もあっても良いかと考えながら歩いていく。二人寄り添いながら、まるでカップルのように…。

 

 ちなみに街に出ていたリヴァルに見られてしまい、後日シャーリーはミレイ会長より弄られるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 中華連邦領内 ギアス嚮団地下本部施設

 

 中華連邦内にある地下施設だがこれはブリタニアの…厳密に言えばブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの兄であるV.V.の個人施設である。資金はブリタニア皇族が自由に出せる資金から引き出されているが『引き出す』というよりはばれないように『掠め取っている』のほうが正しいか。なにせブリタニア皇帝には表向きには兄は『存在しない』のだから。

 

 土地や電力供給は中華連邦からだがこの事実を知るものは居ない。大宦官によるずさんな管理体制や広大すぎて人の目が届かないこの地ではいくらでも誤魔化しが利く。しかもギアス嚮団に所属しているギアスユーザーの中には『絶対遵守』ほどではないが人を操る能力も存在する。それに『記憶改竄』の能力も。

 

 ゆえにこの巨大な地下施設は他国であるが防衛設備のひとつも備えずに存在している。ギアス伝達回路を仕込んだナイトメアを開発中だが改造中のパイロット候補生も試作機もエリア11に居るから結局無い訳だ。そのギアス嚮団の神殿前でひとりの少年がころころと転がっていた。

 

 この世界で二人しか居ない『生きているコード保持者』で、ギアス嚮団の嚮主、第98代ブリタニア皇帝の双子の兄であるV.V.だ。

 

 彼は正直暇なのである。ギアスの研究にもシャルルと計画している『神殺し』にも積極的に活動しているが進展がないのである。ギアス研究は続けているが指示するだけで研究員が勝手にやって資料を持ってくるだけ。計画には同じく『コード』を持ったC.C.が必要なのだが確保の報告は未だにない。

 

 「はぁ~…任せたのは間違いだったのかな?」

 

 こちらからギアスユーザーを送り込んでも良かったが、推測される場所にこちらの事を知るオデュッセウスが居るのならばと任せた。しかし待てども待てども痕跡を見つけた報告すらない。

 

 「いや、場所が悪いというべきか…」

 

 エリア11はブリタニアの植民地エリアでも一番複雑で危険なエリアとなっている。侵攻作戦が終わって七年が経とうが抵抗活動を続ける元日本軍に各地で必死に抵抗するテロリスト達。それにリフレインなどという麻薬を使ってエリアの生産力を落とし、虎視眈々と狙っている中華連邦。内部だけでなく外部にまで敵に囲まれたエリアで如何に強固な力を持つブリタニアの皇子だからとて動き難い。

 

 それに彼に頼まずにギアスユーザーを差し向けるほうが手間がかかる。基本的にギアス嚮団のギアスユーザー達は施設から出た事がない。出た者はほんの僅かだけだ。世間や一般的な日常を知らない箱入りの彼ら・彼女らには探索任務なんて務まるはずがない。表に出る者のほとんどがターゲットを調べ上げていざ暗殺する段階になってようやく動けるのだ。監視や案内役を付けて…。

 

 自由に動ける者はロロとクララ、そしてトトの三人のみ。全員が別々の任についている上に、捜索にまわしても探知系能力ではないが為にあまり役に立たない。現状を強く認識すると大きなため息を吐いてしまう。本来ならエリア11に居ないと判断して捜索を中止するのだが、他のエリアよりある人物を発見した報告が入ってからエリア11に居る事は確かなのだ。

 

 「……ん?誰から――噂をすればってとこかな」

 

 持っていた携帯電話が鳴り響いて大方クララだろうと当たりをつけたのだが、画面にはオデュッセウスの名が。驚きもしたがすぐに笑みを浮かべて通話ボタンを押す。

 

 『お久しぶりです伯父上様』

 「やぁやぁ、久しぶりだね。君が文章ではなく直に電話してくるなんて何かあったのかい?もしかして見付かった?」

 『え、あー…いえ、すみません』

 「良いよ。簡単に見付かるとは思ってないから。でも今の反応からして手がかりもまだのようだね」

 『誠にすみません』

 

 電話の向こうで頭を下げている様子がよく分かる。想像すると自然に笑みがこぼれていた。あまり苛めるように言ったらさすがに可愛そうかな。

 

 「意地の悪い言い方だったね。で、何の用事かな?」

 『実は伯父上様に頼みたい事が』

 「僕に?なにかな?」

 『イレギュラーと言う外人部隊はご存知ですよね?』

 「少し待って。えーと…」

 

 立ち上がって近くの端末を操作して調べる。名を聞いて思い出せなかったが画面に並べられた詳細を見て多少思い出した。確かコードを持つ者の細胞を取り入れる実験の名目で設立したんだった。担当の研究員はそのまま『C.C.細胞』と呼んでいるC.C.の細胞を使用した。結果は半々といったところだ。C.C.細胞を得た人間は契約しなくともギアスユーザーになれ、より多くのC.C.細胞を摂取する事で短時間だが能力を強化することだって判明した。それ以上にメリットよりもデメリットのほうが大きい事も判明したが…。C.C.細胞を摂取すれば摂取するほど自身の細胞がC.C.細胞に耐え切れず、初期症状として発疹が起こり、次第に肥大化しながら発疹の範囲が広がる。最終的には6センチ以上まで膨らみ全身に広がって破裂する。発疹がではなくて人間そのものが破裂するのだ。その残骸は生き物の死骸というよりは鉱物の破片に近い。

 

 嚮団内での実験体はそうして死んでいった。そのこと自体に感情を抱く事はなかったが実戦でも使えるように訓練してそれではあまりに非効率だ。だから残りの実験体はマッドとかいう大佐に渡して部隊を結成したんだっけ…。C.C.細胞による細胞侵食を抑える抗体を作った報告書がモニターに映し出された事から今でも活動しているのだろう。

 

 「うん。確認したけどこれがどうかしたのかい?」

 『出来ればですが欲しいのです』

 「別に―――」

 

 別に構わないと言おうとしたところで口を止めた。惜しいと思わないからただであげてもいいのだが、C.C.の件に繋がるあの奴の確保を任せて報酬としたほうが良いと判断した。元々日本好きだったから捜索より観光を優先している可能性があるだろう。それに弟や妹には特に甘かったようだからコーネリアとユーフェミアに構うことを優先しているかもしれない。

 

 「だったら一つ仕事を頼もうかな」

 『仕事ですか?』

 「簡単な仕事だよ。とある人物の確保、もしくは対処を頼みたい」

 『対処というのは……殺害でしょうか?』

 「方法は任せるよ。成功したらイレギュラーズは君の自由にしてくれて良い」

 『はぁ…。分かりましたがその人物は?』

 「後で詳細をロロの方に送るけど―――名前はマオ。C.C.を捜し求めるギアスユーザーだ」


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