コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第03話 「イタズラ好きの女騎士」

 鍛錬を始めて一年が経ち、12歳から13歳へと上がった私は鍛錬を辞めた。辞めたと言っても毎朝のランニングと回数は減らしたがビスマルクの剣術指南だけは行なっている。

 

 理由はアレが来たからだ。コードギアスの世界を語るには外せない兵器。ナイトメアフレームがやっとの事で届いたのだ♪やはり男児として生を受けたからにはロボットに興味を持ってしまう。ナイトメアフレームと言ってもアッシュフォード学園の奥底で眠っていたのと同系のガニメデだけどね。

 

 平和に生きるも戦場で生きるも皇族という立場上関わる事必至なので基本理論を習っては運用方法を試行錯誤している。日本占領時にナイトメアを戦場で使用する為に機動力から攻撃力、制圧速度も異常な兵器をどのように扱うかのマニュアルが存在しない。基本論理を習っているという事を何処から耳にしたのか父上様が「オデュッセウスに任せる」と仰られたのだ。中学一年生に最新兵器の軍事マニュアル作らせるなんてネジが外れているんじゃないかと嘆くべきか信頼されていると喜ぶべきか。まぁ、どうせガニメデ基本で考えられた運用マニュアルなんてグラスゴーが出来た瞬間消えてなくなるだろうけど。

 

 ガニメデのマニュアルを作るに当たってアッシュフォード家が挨拶しに来たのだけど残念ながらミレイ会長には会えなかったよ。会った所でまだ産まれたばかりだろうから会話も何も出来ないのだが。

 

 ナイトメアの基礎学力が増えていくのは嬉しい限りなのだが最近シュナイゼルやコーネリアと遊んでやれないのが辛い。二人はまだ言う事を聞いてくれているが六歳のクロヴィスはそうはいかない。シュナイゼルが相手を引き受けてくれたりしているが三日に一度は私に遊んでとせがんで来る。

 

 大きくため息を吐き弟達と妹に申し訳ない気持ちを落ち着かせて目の前の事に集中する。

 

 私は今、ガニメデ用に作られた闘技場の観客席に座っていた。中央は十分な稼動スペースを確保して周りを防弾防護の特殊素材の壁やガラスで覆った円形闘技場ではガニメデの駆動調整が行なわれていた。一応機密の為に上部は元より塞がっており円形闘技場にしては大空が見えないのが寂しく感じる。

 

 手元にあるデータを受信しているノートパソコンから目を離して照明が無数に取り付けられた天井を見上げる。

 

 「だ~れだ?」

 「え…あ…」

 

 両目を温かい両手で覆われて視界は暗闇に襲われる。同時に女性特有の甘い香りに首元にとても柔らかい感触が伝わって来た。鼻の下が伸びそうになるのをぐっと堪える。何度も体験した事なので誰なのかは分かりきっている。が、ここですぐに答えては相手はつまらなそうにするし、答えを長い時間はぐらかすと頬を膨らまして不機嫌だと象徴しながら数十分に渡りじゃれて作業を中断しないといけないと言うどっちにしても困った人なのだ。

 

 少し考える素振りをしつつ間を開けてから答えを口にする。

 

 「…マリアンヌ様ですね」

 「正解よ」

 

 開放された視界には微笑むマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国皇妃の一人だ。その出は庶民だがガニメデのテストパイロットを勤めてナイトメア開発に貢献したことから騎士候を与えられ父上様に嫁いだ女性。

 

 「またシャルルに言われたお仕事?まだ十三歳なのに大変ね」

 「いえ、これもいい勉強になりますよ。こうやっていろんな事を体験するのが後に役立ちそうですし」

 「それにしてももう少し子供らしくしても良いのに」

 

 微笑み返した私の頬をぐにぐにと摘んで弄っているマリアンヌ様を見ていると本当に年上なのか解らない。見た目は20歳のお姉さんなのだが中身はまだ子供っぽいところが多い。

 

 満足したのか頬から手を離して隣に腰掛けて息を吐いた。 

 

 「最近ビスマルクが寂しがってたわよ。鍛錬の機会が減ったって」

 「ははは、あのビスマルクが?それは少し見てみたいですね」

 「貴方も少しは言うようになったわね。まったく誰に似たのでしょうね?」

 

 貴方ですとは当然言えずに微笑むだけで返す。当然察しの良い彼女は少し唸りながら頬を膨らませる。

 

 頬を膨らます横顔は本当に美しかった。

 

 くせのある艶やかな黒髪がたまに流れる風で揺れる。回想シーンでよく見たロングヘアーではなく後ろで束ねて肩の辺りから下へとかからないようにしている。

 

 視線に気付いたのか面白がって笑みを向けてくる。内心を吐露する訳にもいかずに自然な感じでノートパソコンに目を向ける。耳にクスクスと笑う声が入ったが気にしない。多分私の顔は真っ赤に染まっているだろうが。

 

 「それじゃあ仕事頑張ってね。私は少し遊んでこようかしら」

 「程々にしてあげてくださいね。対戦相手がかわいそうですから」

 「だったらビスマルクを呼ぼうかしらね」

 

 さらっと帝国内最強の二人が戦う事を口にするところこの人は凄いと思う。あとで整備士の人はオーバーホールする事になるだろうから心の中では良い顔しないだろうけど。私にとっては良いデータが手に入ることになるんだけどね。

 

 席を立って扉から出て行くマリアンヌ様を見送り、取り付けられたデータ収集用のカメラを動かして各ポイントを押さえる。このまま生で見ても良いのだが正直眼が追いつかない。

 

 帝国最強のナイトオブワンとナイトオブシックス『閃光のマリアンヌ』の模擬戦なんて超スローでなければ見れる訳がない。

 

 「今回は駆動系が壊れるのかな?いや、両方大破が妥当かぁ」

 

 本当に整備士の人には災難だなと思いつつ手は休めない。30分もしない内に呼ばれたビスマルクがガニメデのコクピットに座って中央に現れた。その表情は半分呆れたようだったが気のせいだ。何となくだがこちらをチラッと睨んだ気がしたがそれも気のせいだ。

 

 私は悪くない。うん、悪くないはずだ。視線は逸らすが…。

 

 二人の激戦が繰り広げられる中で私は瞼を閉じかけていた。

 

 朝早くに起きてランニングをこなして学校に向かい午後には帰宅後王宮内での特別授業、授業終了してからナイトメア関連で休む暇がなく働き続けた十三歳の身体は限界がきていたのだ。

 

 私は逆らえない睡魔に身を委ねて瞼を閉じる。

 

 

 

 模擬戦を終えたマリアンヌはまだ居るであろうオデュッセウスの下へと向かう。

 

 騎士候となって皇族や貴族と会う機会が増えた私は正直つまらなかった。出会った者すべてが他者を貶し蹴落とす事しか頭にない人ばかりだった。

 

 その中で彼は異質だった。

 

 十歳にも満たない彼は子供なのに無邪気さや誰かの色に染まる事もなかった。子供らしくない落ち着きにも驚いたが幼い筈なのに自身の色をすでに強く放ち、内から出る優しさや雰囲気が周りの人を和ませる。

 

 幼きながら優秀なシャルルの子供の中でも彼の才覚は目を見張るものがあった。確かに第二王子であるシュナイゼルも歳に似合わないほどの知性を持っていたが彼ほどではない。小学生にして高校生までの学を獲得し、難しい法や戦術・戦略までも知識を習得して今や知識だけは各総督並みである。

 

 そんな化け物みたいな子だけれども少し関わってみるととても可愛らしい子だと感じた。抱きついてみたりからかってみたりとちょっとしたことですぐに顔を赤面して照れる。イタズラしてみたらギャップが激しくて中々楽しい。

 

 扉の前から忍び足で近付く。

 

 今回はビスマルクと模擬戦を行なったが本当はこの子と行なってみたいものだ。ビスマルクの教えが良いのか剣の腕がかなり良い。ガニメデに乗ってもかなりの実力を発揮しそうで先が楽しみである。そうでなくとも知識だけで経験がない為にいろいろさせたいのだがあまり乗り気ではないようなのだ。

 

 気付かれること無く真後ろに立つと彼から規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

 正面に回って子供らしい寝顔を堪能しながら懐から油性マジックを取り出したのだった…。

 

 

 

 「ふぁ~」

 

 大きなあくびをしながら背筋を伸ばす。何十分寝ていたのだろうか?腕時計で時刻を確認したところガラスに何かが映った。慌てて手鏡を懐から取り出して顔を確認すると見事な顎鬚が描かれていた。

 

 あのマリアンヌ様の前で無防備な姿を見せるなんて失態だ。以前にも何度もイタズラにはあっていたと言うのに…。

 

 「ふぅむ、しかしこれはこれで」

 

 描かれた髭を見て原作通りに伸ばしてみるかと心に決めたのであった。


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