コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 すみません。予約投稿するのを忘れてました…。


第31話 「銃口とマオ」

 コーネリアは普段羽織っているマントを着けずに総督の椅子に座った。この場には騎士のギルバート・G・P・ギルフォードとアレックス・ダールトン将軍。副総督のユーフェミア・リ・ブリタニアと副総督補佐のクロヴィス・ラ・ブリタニア、クロヴィスの騎士に就任したキューエル・ソレイシィの六名しか居らず、公的な場ではない事から着用しなくてもいいだろうと判断した。それ以上に精神的に疲れているというのもある。

 

 日本解放戦線の総指揮を執っている片瀬の捕縛作戦。部隊の配置に相手を圧倒するナイトメアの差、綿密な作戦計画により後一歩で完遂するはずの作戦だった。黒の騎士団の参戦と海上での爆発さえなければ…。

 

 大きくため息を吐いてしまう。ナリタで投入できなかった海兵騎士団の損害率も酷いものながら、主力部隊のナイトメアを海に沈められたゆえの回収作業。日本解放戦線の片瀬はタンカーごと取り逃がし、黒の騎士団には手酷くやられて反撃らしい反撃も出来なかった。何とも良いとこなしの戦闘だ。むしろ素早い建て直しの為に政庁より指揮を執っていたオデュッセウス兄上のほうが活躍出来ていた。

 

 「どうなされましたか?」

 「…いや、少し考え事をしていただけだ。気にするな」

 

 心配そうに見つめていたギルフォードは返ってきた返事通り、気にしていないように振る舞い話を続ける。この場に集まっているのは今までの情報からゼロという男を、行動を、目的を推測しようというのだ。

 

 「これまでの行動はすべてコーネリア殿下の推測通りの結果でした」

 「劇場型の犯罪者。サイタマや河口湖の件がまさしくそうでした」

 「加えて戦術・戦略に長け、自身の保身には余念がない」

 「ゼロがテロリストではなくブリタニアに仕える者だったらどれほどの人材になっていたか…」

 

 クロヴィスがため息交じりに呟いた言葉に内心納得してしまう。戦術・戦略が巧みな事は何度も渡り合った自分がよく分かっている。自身の戦術・戦略の弱点をいとも容易く突いてくる。確実に自身より上で、オデュッセウス兄上やシュナイゼル兄上に近い……もしかしたら同列かもしれない。以前なら烏合の衆であったテロリストを指揮していただけだったが、今では正規軍と遜色ないほどの実力を持った組織を作り上げて、危険度は以前の倍以上に跳ね上がった。

 

 「もしなど話しても仕方がない。奴は敵だ。ブリタニア帝国の、我々の敵だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 「ええ、勿論です姉上」

 「それにしても今回とナリタでは明らかに姫様を狙った行動を取っております」

 「頭を叩くのは戦の常道だ」

 「クロヴィス殿下の事もあります。ゼロはブリタニアの体制ではなく、ブリタニア皇族に恨みを持った人物という可能性も」

 「恨み…ですか」

 「もしそうであれば身辺の警護を強化したほうがいいでしょう。キューエル卿。ライラの周りにも親衛隊をばれないようにこっそりと配置してくれ」

 「イエス・ユア・ハイネス」

 

 人の事は言えないが自身の妹の事となると過保護になる。しかしライラは公式に発表してないし、メディアにも顔を出していない以上は知られてはいない筈。そもそもコーネリアがライラの存在を知ったのだって最近の事なのだから、一部の皇族以外は知り得ない。

 

 「ユフィも気をつけるのだぞ。河口湖のような事があっては私が持たない」

 「はい。お姉様」

 「ユーフェミア様も騎士を持たれては?」

 「騎士?」

 「騎士を任命すれば親衛隊を構築できます」

 「確かにユフィも騎士を持ったほうが良いな」

 

 と、決まれば騎士の候補者を選ばねばなるまい。家柄は勿論、性格からナイトメアの技量、白兵戦に学力からも吟味してユフィに相応しい者を探さなければ安心できない。やはり私も過保護なのだろうな。兄上も同じ気持ちだったのだろうか…。

 

 「ところで姉上。一番心配なオデュッセウス兄上の姿が無いのは何故です?」

 

 クロヴィスが兄上の名を出すのは当たり前だ。戦場でも自由気ままな兄上が普段だけ大人しいなんてありえない。知っているだけでも10件近くも何の報告もなく出歩いている。護衛は付けているらしいが無用心に出かけるのは止めてほしい。兄上には一番に参加して長々と言い聞かせたい所だったのだが…。

 

 「オデュッセウス兄上は皇帝陛下の勅命で動いている」

 

 皇帝陛下の勅命なのだから教えてくれるはずはないのだが、兄上が極秘に行なっている勅命とはいかなるものか気にはなる。そもそもこのエリアに父上が気にされる何かがあるという事だが見当もつかない。

 

 気にしても仕方がないと頭の片隅に追いやって話し合いを続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 オデュッセウスはマオ捜索の為にナリタ連山にロロと二人っきりで訪れていた。戦いの爪あとは大きく残っているものの、危険性がない地域では以前と同じように施設が稼動していた。慰霊碑が設けられた場所に、慰霊碑まで続くモノレールの乗り場もある。

 

 モノレールが止まる山の中間駅が望める向かいの山で半日近く転がっていたオデュッセウスは大きく息を吐く。

 

 父上様の勅命になっている伯父上様の頼みであるマオを対処する為に二人で内密に行動している。と言っても見つけるなんて至難の業だ。何処に潜伏しているのかどんな所に出没しそうなのかなんて原作ではほとんど触れられなかったはずだ。あってもナリタ連山にある慰霊碑の所に姿を現した事ぐらいだ。ならば餌をぶら下げてやることにした。ナリタ連山での事を報道する回数は日に日に減ってきてはいるが完全になくなった訳ではない。特に今日の早朝には慰霊碑でなくなった者への供養を捧げる大きな行事を入れたから報道陣は数社に渡って来ていた。報道された映像に後姿だとはいえC.C.らしき人物が映っていたら奴はどうする?必ずここに来るだろう。

 

 だからここで待っているのだが中々来ない。何時間に渡り転がっていたから身体の節々が痛い。うつ伏せに転がったオデュッセウスの腰にロロが跨って背中などをマッサージしてくれているからかなり楽になった。ロロは指先が細い為に結構つぼを直で押してくれるのですごく気持ち良い。むろん、地面に転がって圧されたら下が痛い為に、低反発のマットを敷いている。

 

 「ああぁ…良い加減だよ」

 「本当に宜しかったのですか?殿下が申された事とは言えど、背に乗る形になってしまいましたが」

 「構わないよ。そのほうがやりやすいだろ?」

 「そうですが…」

 

 微笑みながら会話は続けるが視線は駅の辺りを見つめたままだ。

 

 オデュッセウスは悩んでいる。マオという存在が危険な事は重々承知している。人間社会のモラルを持ち合わさず、精神が幼いゆえに純粋無垢に残虐で、人の心を読めるギアスにより人間の生々しい感情を耳にし続けて歪んでしまった。だからこそ他人を残虐に殺せる。シャーリーがルルーシュを好いている事を知ってなお殺させようとした。目的の為には足も目も不自由なナナリーを縛りつけ、生き残る可能性を限りなくゼロにした爆弾を設置し、人質にした。

 

 許せない。彼を放置してしまえばナナリーが!大事な大事な妹のナナリーがそんな目に合わされるなど考えるだけで怒りでどうにかなりそうだ。例えルルーシュとスザクの活躍で助かるとしてもだ。

 

 危険性を理解しつつも彼自身に同情している節もある。唯一心を読むことが出来ないC.C.に育てられた幼子が、捨てられても一途に想い、遥々中華連邦よりこの日本まで来たのだ。海を渡る術も聞こえてしまう人々の心の声を防ぐ術も知らなかった彼がだ。

 

 両立しない考えを抱きながらギターケースに入れてここまで運んできた狙撃銃を動かして辺りを見渡す。モノレールの駅には人っ子一人居りはせず、ゆっくりと誰一人乗せてないモノレールが進んでいる。

 

 ………訂正しよう。人は乗っていた。最悪の状況がやってきた。

 

 一人は白髪の前髪を垂らし、ヘッドホンで耳を覆い、ゴーグルっぽいサングラスで瞳のギアスを隠しているマオ。そしてマオを睨みつけているルルーシュ・ランペルージだ。

 

 原作ではシャーリーに正体を知られた疑いを確かめるべく、部屋をあさった際にナリタ関連の何かを発見してナリタまでシャーリーを探しに来る。そこでマオと出合ったと記憶していたのだがどうしてああなっている?シャーリーのお父さんを助けたからシャーリーがナリタに来る理由も、ヴィレッタにルルーシュが黒の騎士団関係者と言われてゼロの正体を知る現場に向かう事もなかった。

 

 ルルーシュがこの場に居たのはオデュッセウスがマオをおびき寄せる為に用意した餌が原因であった。たまたまニュースで見たC.C.そっくりの後姿の少女を見て奇声を挙げ、いろいろと推測してから確認すべく足を運んだのだ。ナリタ周辺の情報を集め、ギアスも含めて仕込みを済ませてだ。一応C.C.も別行動で動いている。

 

 「目標を確認。しかしあの少年は…」

 「一般人…だと思うよ」

 「そうでしょうか?」

 

 冷や汗たらたらでスコープを覗き続ける。マオとルルーシュが二人っきりという状況ですら焦っているのに、ロロにルルーシュを見られた事でさらに焦りが増大されている。もしC.C.まで現れたら手のつけようがない。報告されたら厄介だけどどうする事も出来ないだろうし。

 

 駅で止まったモノレールよりルルーシュとマオが降り、少し距離をとって向かい合う。ルルーシュのギアスもサングラス越しでは効果は無く、用意した仕掛けはその場にはない。オデュッセウスは照準をマオの頭へと向ける。

 

 忌々しげに睨み付けるルルーシュにニタリとした笑みが向けられている。二人の表情だけでどんな状況なのか容易に想像出来る。今ルルーシュを助けられるのは自分だけだ。トリガーに指をかけて肩に力を入れる。

 

 嫌に心臓の音が大きく木霊する。トリガーに指をかけただけで緊張で喉が渇く。このトリガーを引けばルルーシュを救う事が出来る。なのに指が動かない。それどころか手が震えてスコープが揺れて、狙いが定まらない。

 

 ……これが人を殺す行為。

 

 焦りとも恐怖とも言い難い感情が脳を這い、心を掻き乱す。息も荒くなり、大粒の汗が垂れる。

 

 撃てない…。

 

 尋常ではない様子にロロが心配そうに見つめるがオデュッセウスはそれすらも気付けなかった。ただただスコープを覗き込むだけで。

 

 スコープの向こうではマオが懐から拳銃を取り出しルルーシュへ向けようとしていた。石化したかのように硬かった指が動き、銃声がナリタ連山に響いた。

 

 放たれた銃弾は狙っていた頭部に向かって―――行くことはなく、マオが握り締めていた拳銃を弾き飛ばした。痛みにニタリと笑っていた表情が苦悶に歪む。オデュッセウスは銃口を動かして右肩を撃ち抜いた。銃声にいち早く反応したルルーシュはこちらの位置を把握して身を隠した。マオも姿を隠しつつその場を離れていった。

 

 「はぁ…はぁ…はぁ……ふぅ」

 「お見事です」

 「すまないロロ。マオの捕縛を任せても良いかな?」

 「今の殿下をひとりにする事は…」

 「ここでマオを逃すわけにいかない。それに少しひとりになりたいんだ」

 「殿下…」

 「頼むよ」

 

 今のオデュッセウスの様子がおかしいのはロロも分かっている。こんな状況で放置する事など監視の役目からも騎士の役目としても間違っている。けれどもロロは渋々了解してしまう。これはオデュッセウスの癒しのギアスの効果ではなく、無意識に出来るだけこの人の想いに答えてあげたいという感情を優先してしまっている。

 

 『すぐに戻ります』と一言呟くとマオ確保の為に走っていった。見送りながらオデュッセウスは考える。自分は死にたくない。だからこそ何としても生き延びる為にいろんな事を学び、考え、実行した。だが自分の行動は他者を傷つけてはいないだろうか?良かれと思って行動した結果、バタフライ効果となって誰かが被害にあっている可能性だってある。自分が助かる為に誰かが死ぬかもしれない。今までは考えた事もなかったが銃で人を殺めようとした今は考えてしまう。   

 

 「止めよう…うん、止めよう」

 

 考えを放棄すると同時に大きく空気を吸い、体内に溜まった空気を吐き出すと狙撃銃をギターケースに仕舞って立ち上がる。薬莢もマットも回収して後はロロと合流するだけであった。振り返った際に見知らぬ少女と目が合わなければ。

 

 真っ白のショートカットの少女は変わった服装をしていた。ミニスカートの女性用強化歩兵スーツを着ているのだ。しかし歩兵スーツにしては足はむき出しだし、顔を守るヘルメットもかぶってない。胸元からミニスカートまでは防護用の素材だが、それ以外の上半身はラバー製のスーツで防御力は薄い。左目にはメカチックな眼帯を装着していた。服装もそうだがこんな所で少女が何をしているのか疑問を浮かべたりしたが疑問はすぐに吹き飛んだ。なぜなら首元にギアス饗団の紋章が入っていたからだ。

 

 「見てたのかい?いやぁ、まさか見られているとは思わなかったよ」

 

 後頭部を掻きながら微笑むと少女も微笑む。その笑みに悪意が込められている事をまったく気付かずに。オデュッセウスは完全に誤認していた。ギアス饗団の紋章が付いている服を着ている事で、V.V.からの使いか監視要員だと判断したのだ。

 

 「お見事です」

 「ははは…あまり使いたくない技能だけどね。撃つのも撃たれるのも辛いから」

 「やっぱりこの世界は悲劇と苦痛で満ちている」

 「んん……確かに悲劇は多い時代だ」

 「だからボクが幸福にしてあげるよ」

 

 何かがおかしい。この少女は伯父上様や父上様のように嘘のない世界を推奨しているのかと思ったがどうやら違うらしい。あの二人は他人の幸せなど願うはずも無い。願いも異なることながら何処かで見た覚えがある。アニメには居なかった。となればコミックスかゲーム…ロストカラーズにはオリキャラは主人公とノネットだけだからコミックスの方だと思うのだが思い出せない。

 

 少女は左目の眼帯を外して赤く輝きを放つ瞳でオデュッセウスの瞳を見つめる。

 

 「―ッ!?君は…」

 「自己紹介がまだだったね。ボクはマオ。発現したギアスは『ザ・リフレイン』。さぁ、幸福な過去の記憶の中で永遠に過ごすがいい。ボクの作った幸福の監獄で」

 

 オデュッセウスはマオと名乗った少女のギアスを見つめ、意識を失った……。

 


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