コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第40話 「キュウシュウ戦役 其の弐」

 エリア11総督であるコーネリア・リ・ブリタニアは騎士ギルフォードと共にキュウシュウブロック フクオカ基地警戒海域外に多数の艦艇を引き連れて待機していた。すでに昼間に上陸艇を上陸させようと軍を進めたのだが暴風と大雨の影響で海が荒れに荒れ、上陸もままならずフクオカ基地の射程圏内より離脱したのだ。

 

 「コーネリア殿下。昼間の被害報告書です」

 「あぁ、すまない」

 

 艦隊旗艦の艦橋は雲ひとつ無い夜空から月明かりで照らされていた。コーヒーを片手にキュウシュウブロックの地図を見ていたコーネリアは穏かな表情で報告書を受け取った。その表情から敗軍の将にはまったくもって見えない。むしろ余裕さえ感じるほどだ。

 

 「上陸艇第一波が60%の被害か」

 「かなりやられましたが海兵騎士団の被害は5%もいっておりません」

 「本来ならどう見る我が騎士ギルフォードよ」

 「ハッ!僭越ながら申し上げると大敗もいい所かと。海上戦力の排除は海兵騎士団で可能ですが制圧の要である上陸部隊を半数以上失っては奪還作戦は不可能としか申し上げられません」

 「だろうな。私もそう思うよ」

 

 信頼厚き騎士に敗北したと告げられても激昂するどころか冗談でも言っているような笑みと余裕が窺える。艦橋内のクルーも同じように笑っていた。

 なにせ失った海兵騎士団のポートマンを除き、戦死者はゼロなのだから。

 撃破された上陸艇は人が乗っているように見せたダミーで、相手の攻撃能力や少しでも弾薬を減らす目的で自動で突撃させたのだ。と言っても一番の目的はコーネリア軍が敗北したように見せる為なのだが。

 

 「それで【トロイ】と【イカロス】の進捗状況はどうなっている?」

 「先ほどの連絡では【トロイ】のほうは準備完了。【イカロス】はもう少し掛かるとの事です。何でも【プリドゥエン】の積み込みに手間取ったようで」

 「まったく兄上には困ったものだな。検証も済んでいない兵器を実戦投入とは」

 「しかし最終的な確認だけで問題ないのでは?」

 「問題はない。なさ過ぎて問題なのだがな」

 「と、申されますと?」

 「一体兄上はいつから気付いていたのだろうか。いや、知っていたのだろうか?片瀬が日本を脱出して亡命先が判明した時か?ナリタで日本解放戦線の趨勢が決した時か?中華連邦に居た時か?それともシュナイゼル兄様が特派を設立した時か?」

 

 あまりの準備の良さに不気味に感じるコーネリアはその考えを捨て、聡い兄上だからと考えるようにした。

 ギルフォードの元に通信士が一枚の紙を持って近付き渡す。チラッと目を通すとニヤッと頬を弛ます。

 

 「殿下。間もなく【ペーネロペー】が所定の位置に到着するそうです」

 「分かった。これより第二次上陸作戦を発動する。各艦隊は移動を開始せよ!」

 

 随分と悪い顔で笑うコーネリアにギルフォードは困った笑みを浮かべる。

 

 「どうした?」

 「いえ、随分と嬉しそうだったので。初のオデュッセウス殿下の作戦を目の当たりにするのですものね」

 「な!?ああああ、兄上の作戦だからと言うわけではないぞ!!」

 「学ぶ事も多くありますでしょうし」

 「そ、そうだ。これは将として見習う為に――」

 「それにしては頬が朱に染まっておりますが?」

 「――ッ!?」

 「これは失言が過ぎました」

 「フン!その責はこの戦いで晴らせ」

 「イエス・ユア・ハイネス!」

 

 ギルフォードの堂々とした言葉を聞いて、コーネリアは腰を下ろして先を見つめる。これから戦場となる地を。自身の敬愛する兄が知略と軍略で蹂躙する戦場を…。

 

  

 

 

 

 

 枢木 スザクはエリア11に赴いたシュナイゼルが乗って来た浮遊戦艦【アヴァロン】でキュウシュウブロック上空へと向かっていた。目的は単純明解。中華連邦によって担ぎ出された旗印である澤崎 敦の捕縛。たった一機のナイトメアでは不可能だがランスロットの新装備を使えば成功率は格段に上がった。

 

 ランスロット・エアキャヴァルリー

 

 ガウェインやアヴァロンで実証済みのフロートシステムを外部パーツと結合させる事でランスロットに飛行能力を与えた。これにより空中からの敵本拠地であるフクオカ基地へ直接強襲することが可能となった。ランスロットの今までの活躍を考えれば成功率は50%近くまで上がるのだが、良すぎるメリットにはデメリットもつきもので、エアキャヴァルリーはエナジー消費が激しくて稼働時間がかなり制限されている。 普段の20%もない。

 

 「でも、俺は……やるんだ」

 

 軽いブリーフィングではランスロットがフクオカ基地に強襲を仕掛けて混乱している隙に、別働隊が上陸部隊の援護を行い沿岸部を掌握。内陸部へ進軍する予定となっている。つまりはランスロットが相手の混乱を誘えば誘うだけ味方を助ける事が出来る。自分の父を殺した責を背負い続けたスザクは大勢の命を少しでも助けようと己を捨ててでも動く。今回の作戦はまさにその思いで覚悟を決めている。

 コクピット内で待機していたスザクの元にアラームが鳴り響く。レーダー索敵圏内に入ったアヴァロンがロックオンされ、数十発ものミサイルが接近しているらしい。

 

 「弾幕を張りますか?」

 「この位置なら大丈夫よ」

 

 格納庫正面ゲートを開けながら艦橋の通信端末前に居るセシルに提案するが即座に否定された。望遠にせずともモニターに映ったミサイルはアヴァロン前方に張られたブレイズルミナスが防ぎ、ダメージは消費したエネルギーを除いてゼロだった。

 ミサイルを全弾防ぎきるとセシルより作戦概要が確認も兼ねて説明される。しっかりと聞きながら手は出撃準備を確実にこなす。ハッチが完全に開ききり、拘束していたアームが外れて出撃態勢は整った。操縦桿を握り締め大きく空気を吸い込む。

 

 「ランスロット――発艦!」

 「発艦!」

 

 吸い込んだ空気を吐き出しながら叫び、ハッチより伸びたカタパルトを最高速度で突き進む。アヴァロンより飛び出すと同時にコクピット上部に取り付けた折り畳み式の翼を左右に伸ばし、フロートシステムを起動させる。感じたことのない浮遊感に想いをはせる事無くスラスターを吹かして加速させる。戦闘機以上の速度で夜空を駆ける。

 ただ駆ける時間はそう長くは続かず、迎撃に戦闘ヘリが編隊を組んで接近してきた。小型ミサイルや機銃を回避しつつ、エナジー消費を抑える為にヴァリスではなくスラッシュハーケンでコクピット以外を破損させて出来るだけ殺さないように無力化していった。

 現状予定範囲内に作戦が進んでいる事に安堵しつつ、手は決して緩めない。そんな最中、アヴァロンからの通信ではなく、オープンチャンネルで通信が入った。通信用の小さなモニターに映し出されたのはスーツ姿の澤崎本人だった。

 

 

 『私は澤崎だ。こちらに向かって来る君は枢木の息子か?』

 

 父の名を出されて驚きつつ沈黙してしまったのを肯定と取り、澤崎は笑みを浮かべた。

 

 『そうか。こんな子供が居たとはな』

 「父は関係ありません。自分は戦いを終わらせる為に来ました。降伏さえしていただければ命まで奪いません」

 『君は日本独立の夢を奪う気か?日本が蹂躙されたままで良いと言うのかね?』

 「それは――けれどこんな手段は間違っています!」

 

 戦闘ヘリを全機無力化してフクオカ基地の滑走路に降り立つ。スラスターを反転させ逆噴射にて速度を落とし、無理なく着陸したランスロットはそのままフクオカ基地司令部に向けて突き進む。会話に気を取られて建物の影にガン・ルゥが潜んでいる事に気付かずに。

 

 「正しい手段で叶えるべきです」

 『君は自分の我侭に虐げられている日本人を巻き込むのか?』

 「違います!それは――しまったヴァリスが!」

 

 会話に集中しすぎて周辺警戒が疎かとなり、潜んでいたガン・ルゥの攻撃を避けきれなかった。ランスロットへの直撃はしなかったもののヴァリスが弾かれ破壊されてしまった。自分の迂闊さを悔やみながらMVSを手にとって戦闘を続ける。が、射撃兵装を失った状態でこの状態はかなり不味い。ナイトメアに劣る機体といえども接近戦しか出来なくなったランスロットに射撃特化のガン・ルゥは相性が悪すぎた。エナジーもいつもより少なく、数で押されて攻勢に出ることさえままならない。

 左腕のブレイズルミナスで何とか射撃を防ぐが腕が隠れる程度では全体は守れずに、フロートに直撃してしまった。直撃した箇所から火花と電流が見え隠れし、このままだと爆発すると判断したスザクはパーツをパージして建物の間に身を隠す。外した事でフロートに付けられていたエナジーをも失い、一気にエネルギーが減った。

 

 「スザク君。エナジーを戦闘と通信に絞り込んで」

 「了解です」

 

 コクピット内の灯りが薄暗くなり、索敵が行なえなくなった。すでに生還どころか勝機も彼方へと消え失せた。

 

 『投降したまえ。枢木 ゲンブ首相の遺児として丁重に扱うことをお約束するよ』

 「お断りします。ここで父の名を使ったらもう自分を許す事が出来ない」

 『ハハハ、似ているなぁ君は。強情なところが父親そっくりだ』

 『枢木 スザク!』

 「え…ユーフェミア様?」

 

 澤崎の通信に割り込んだのはユーフェミア皇女殿下だった。予想外の相手に驚きつつ、何かを決心したような凛とした表情に魅入ってしまった。しかしその表情は30秒も持たずに困惑した表情に変化した。

 

 『スザク!私は貴方を…えーと…』

 「あの今は―」

 『えーと―――私を好きになりなさい!』

 「はい!―――え?」

 

 困惑したユフィの言葉を遮りながら徐々に敵が包囲を完成させようと集まってくる事に危機感を募らせ、左腕のブレイズルミナスを展開しつつ、MVSで一本で接近戦に持ち込む。最初は動きに対応できずに斬られるだけだったのだがすぐ距離を開けられて集中砲火を浴びせられる。それをブレイズルミナスで強引に突破する。

 ユフィの強い想いの篭った言葉に無意識に返事をしてしまってから操縦桿を離しそうになるほど驚かされた。正直に言って耳を疑った。が、真剣な彼女の表情から聞き違いではないと分かる。

 

 『その代り私が貴方を大好きになります。スザク。貴方の頑ななところも優しいところも悲しそうな瞳も不器用なところも猫に噛まれちゃうところも全部!だから自分を嫌いにならないで!!』

 「そうか。かえって心配させちゃったんですね」

 

 騎士の証を返還したことを思い出しながらふっと笑ってしまった。

 

 「貴方はいつもいきなりです!」

 

 叫びながらこれまでの事を思い出す。初めて出合ったビルから跳び下りてきた時、皇女と名乗ってナイトメア同士の戦いの場に飛び出して行った事、ナンバーズの自分にも学校に行くべきと通う学校を決めた時、自分を騎士にすると決めた時。

 

 『そうです!いきなりです!いきなり…気付いちゃったんですから』

 「でも、そのいきなりに僕は扉を開けられた気がする」

 

 すべては突然で無意識で純粋で周りを巻き込んで…そんな彼女に何度も何度も救われたんだ。今まで塞ぎきっていた扉を開け放ち思い描く事もなかった光景の元に僕を連れて行ってくれる。

 心の底から感謝しつつ悲しい表情を浮かべる。

 僕はこれからそんな彼女を悲しませてしまうんだと容易に想像してしまったからだ。

 

 「最後にお願いがあります」

 『最後って…』

 

 司令部までかなり距離があるというのにガン・ルゥの数は増え続ける。エナジーフィラーが尽きてブレイズルミナスが消失し、高周波振動をしていたMVSは停止してただの剣となった。さらに日本解放戦線の無頼までもやってきて突破は不可能。覚悟を決めつつ今にも泣きそうなユフィに笑みを向ける。

 

 「僕に何かあっても自分を嫌いにならないで下さい。あと、その時は友達には迷惑をかけたくないから転校した事にして下さい」

 『スザク…まさか!』

 「ありがとうユフィ――僕は君のおかげで―」

 『スザク死なないで!!生きていてぇ!!』

 

 『生きて』と聴いた瞬間、頭がボーとして視界がぼやける。違和感を感じたスザクはモニターを覆った赤い光で意識を取り戻した。赤い閃光に包まれた周囲のガン・ルゥは閃光から真っ赤に熔解した姿を現して爆散した。無頼だけは少し離れていて被害は出なかったが急にライフルが吹き飛んだ。ライフルだけではなく、機体によって頭部に脚部など無頼を撃破せずに行動不能にするかのように撃ち抜かれていった。

 

 「今の狙撃は…」

 『枢木よ。ランスロットはまだ動くか?』

 「ゼロか!?」

 

 狙撃と判断して辺りを見渡す前にオープンチャンネルでかけられた声に反応して上空を睨む。夜空をバックにして盗まれたガウェインが目の前に降りてきた。声からゼロだと分かったが目的が分からずに困惑する。どう考えても先の赤い閃光はロイドさんに見せてもらったハドロン砲。実装した機体はガウェイン以外になく、少なくともガン・ルゥから救ってくれたのはゼロだ。

 

 『私は今から敵の司令部を叩く。君はどうする?』

 

 降り立ったガウェインは片膝をついて目線を合わせながら片手に乗せたエナジーフィラーを差し出してきた。困惑は消え失せ笑みを浮かべながら力強い意思を宿した瞳で見つめながら答える。

 

 「残念だけどゼロ。お前の願いは叶わない。自分が先に叩かせて貰うよ」

 『二人だけじゃないからね。私も居るからね』

 「まさかその声――オデュッセウス殿下!?」

 『私の可愛い可愛い妹に告白されといて即座に死に別れなんて許さないからね。あと悲しませたらスザク君だろうと本気でぶん殴るから――分かった?』

 「い、イエス・ユア・ハイネス!」

 

 エナジーフィラーを交換しているとオデュッセウス専用の灰色のグロースターが隣に立った。慌てながらゼロを見るがゼロは気にせずに司令部へと向いていた。それはオデュッセウスも同じだったが普段では考えられないドスの利いた言葉に背筋を伸ばす。

 

 「しかし、三機だけでは…」

 『大丈夫だよスザク君。我が騎士達よ!今こそ騎士たる力を示せ!!』

 『黒の騎士団総員出撃!目指すはフクオカ基地司令部!!』

 

 オデュッセウスとゼロが叫ぶと共にフクオカ基地に紅蓮弐式や月下を先頭に黒の騎士団が。タワーシールドを携えたカスタムされたグロースターを先頭にオデュッセウスの騎士達が突入する。

 

 

 

 

 

 

 フクオカ基地司令部は騒然としていた。

 犠牲を払いつつランスロットの排除に成功した矢先に上空から現れた漆黒のナイトメアに。

 

 「オープンチャンネルだな!音を拾え!」

 

 苛立ちながら怒声を上げる澤崎の指示の元、司令部のスザクと漆黒のナイトメアのパイロットの声が響く。スザクがゼロと呼んだことでさらに状況がつかめなくなった。ゼロ率いる黒の騎士団は反ブリタニア組織のひとつと考えていただけに、こちらに攻撃を仕掛けた意味が分からない。

 

 『私は今から敵の司令部を叩く。君はどうする?』

 『残念だけどゼロ。お前の願いは叶わない。自分が先に叩かせて貰うよ』

 『二人だけじゃないからね。私も居るからね』

 『まさかその声――オデュッセウス殿下!?』

 

 ゼロが敵意を示した事よりも澤崎はオデュッセウスの存在に悪寒を感じた。

 官房長官を務めていた澤崎があの事を知らない筈はなかった。ブリタニア皇族の兄弟・姉妹を動かし日本最大の危機を演出したあの事件を。

 それを知らない曹将軍は余裕の笑みを浮かべる。

 

 「まさかブリタニアの皇子が出てくるとは。これで捕縛できれば俄然優位に立てますな」

 「何を言っているんだ!奴が…奴が来ているなんて私は知らないぞ!」

 「どうされましたか?たった少数増えたところで我らの勝ちは変わりませんよ。基地内に突入したナイトメアは20機にも満たない。ならばここの守備隊の数で押し切れますよ。それに敵地の真ん中に出てきた幸運を喜び――」

 「喜べるか!!曹将軍は知らないから言えるのだ……」

 

 青ざめる澤崎に不安を覚えながら自分達の勝利を疑ってない曹将軍はモニターへと視線を戻す。が、その視線は慌てた通信兵の言葉で戻される。

 

 「大変です!ナガサキエリアがブリタニアの上陸を許したとの報告が!」

 「なに?守備隊はなにをしていたか!」

 「将軍!」

 「今度は何か!」

 「クマモトにナガサキ、オオイタで通信途絶した部隊が多数。敵の攻撃と考えられますが…」

 「上陸されたのか!?」

 「いえ、三つのエリアからはそんな情報はありません」

 「クソッ、どうなっているのだ!カゴシマエリアに進行した片瀬少将の本隊を戻せ。対応に向かわせろ」

 「そ、それが……片瀬少将と連絡が取れません。未確認ですが敵の挟撃にあっているという情報が」

 「……いったい何が起こっているんだ?」

 

 あまりの事態の急変に呆然となり、足元がふら付いた曹将軍はモニターを見つめた。モニターには灰色のグロースターが映し出されていた。


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